新世代と島村兄   作:凧山葵

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第8話

今日も今日とで、俺の店に集まった仲良し3人組。

卯月が入った事務所は、プロジェクトが始動してないから、まだ暇らしい。

本田と渋谷は、帰宅部だから普通に暇人。

そんな3人は、何をするでもなく、いつもだらだらと会話をしている。

その姿に、お前らは依頼のないスケット団かとつっこみたい。勉強ぐらいしなさいといつも思っている。

だが、今日はいつもと空気が違うようだが……?

 

「「えええええぇぇぇぇ!!!? アイドルにスカウトされたあああ!?」」

「う、うん」

 

裏の倉庫にいた俺にまで、二人のつんざくような悲鳴が響いてきた。

何があったんだよと、耳の調子を確かめながらホールに出てくると、卯月と本田が俺を目でロックオンしてきた。鬼気迫る形相に、一瞬怯んだが、二人はお構いなしに近づいてくる。

俺は戸惑いながら。

 

「お、おい。どうしたんだよお前ら、そんな顔して」

「だって、とはるん! しぶりんがスカウトされたんだよ!」

「はぁ、スカウト? 何に……?」

「アイドルです! 凛ちゃんがアイドルにスカウトされたんですよ!」

 

アイドルにスカウト?

それってあれか。スカウトと言って契約させて、如何わしいビデオに無理矢理出演させるっていうやつ。

 

「言っておくけど、本物だよ。お母さんが事務所に確認したから」

「……あ、さいで」

 

あっさりと渋谷に訂正された。

え? 何でわかったの? あなたエスパーですか?

 

「違う。寅晴が顔に出やすいだけ」

「ええい! 表情から俺の心情を読み取るな!」

 

しかも的中率は、無駄に高いし!

 

「何で二人ともそんなに普通にしてられるの!? スカウトだよ! しぶりんがアイドルになるんだよ!」

 

恒例のやり取りをしていたら、本田がつっこんできた。

まったく……。

「本田うるさい。もう少しトーンを落とさんと、店から追い出すぞ」

「どうしたの未央? そんなに騒いで?」

「しまむー……。これって私がおかしいの? 騒ぎすぎなのかな?」

「いいえ。私もすごいことだと思いますけどぉ……」

 

自分の反応に自信が持てなくなったのか、卯月は弱々しく同意した。その姿に本田も、更に戸惑いを強くしたようだった。

まぁ、すごいことなのは、俺もわかってる。

何年もアイドルになれなかった卯月を見てる分、スカウトされたという価値はかなり高く見える。

だが、俺はさほど驚愕しなかった。なぜなら。

「別に渋谷がアイドルにスカウトされても、そんなに意外じゃないだろ。容姿も整ってるし、歌も上手いし、実はノリもいい。まぁ、どちらかというとモデルっぽい顔立ちだが、アイドルでも十分通じそうだしな」

「んなっ……!?」

 

褒められて照れたのか、渋谷は顔を真っ赤にして口をパクパクさせていた。

その傍らで。

「どう思いますか、しまむー先生。あれが、彼女でもない相手にかける言葉ですよ」

「すいません。うちのお兄ちゃんが、鈍感ですいません」

 

そんなことを言っていた。

失礼だな。俺は素直に思ったことを言っただけだろうが。別に貶したわけでもないのに、どこに謝る要素があるんだ。

釈然としなかったが、仕方ない。世間は俺に冷たいのだ。

話を進めるために、まだ顔を赤くしている渋谷に声をかける。

「んで、渋谷は受けるのか? そのスカウトの話」

 

まぁ、俺らに話したってことは大体決まってるんだろうけど。

俺の声にハッと我に返った渋谷は、顔色を戻した。そして、決心の顔を作った。

 

「うん。私は、この話受けてみようと思う」

「……そうか。それならがんばれよ」

 

理由なんて野暮なことは聞かない。

やると自分で選んだのなら、それは自らが切り開いた道だ。そこに他人の考えを入れるべきじゃない。

切っ掛けは自分、決めたのも自分。それでいい、それだけでいい。

俺の応援を皮切りに、二人も続いた。

「がんばってねしぶりん! 私も応援するよ!」

「私も応援します!」

「いや、卯月。お前は自分のことあるんだから、応援してる余裕ないだろ」

「大丈夫。凛ちゃんの応援もがんばって、私自身もアイドルがんばる! うん。もう全部がんばるの!」

「う、卯月。ほどほどにね」

「はい! ほどほどになるようにがんばります!

「がんばるのゲシュタルト崩壊してるぞ……」

 

うちの妹が、がんばりすぎて心配だ。

ちなみにその後、渋谷のスカウトされた会社が卯月の所属と同じで、しかもプロジェクトまで同じということが判明した。それには、さすがに驚いた。

世間は狭いな……。

「よぉーし! それじゃあ、今日は二人のアイドルになっちゃった記念のパーティーといこうー! 今日はとはるんの奢りだ!」

「お前勝手に……。まぁ、今日ぐらいいいか。よし、特別に無料で飲み物淹れてやるよ」

「おおー! とはるん太ももだね~!」

「太ももじゃなくて、太っ腹な。……って、誰が太っ腹だこら!」

「いいね! ノリつっこみ!」

 

俺と本田の三流漫才を尻目に。

 

「何やってんだか……」

「あはは……。でも、あんなにはしゃぐお兄ちゃんは久しぶりに見ました。凛ちゃんのこと、とっても嬉しかったんでしょうね」

「……もう、馬鹿」

渋谷と卯月はアイドルという未知の世界に飛び込んだ。

だが、新たな世界に飛び立とうとする者がいれば、相対的に置いていかれる者もいる。

そのことを知ったのは、慎ましいパーティーが終わった後だった。

遅くなっては危険だからと、先に三人を家に帰し、一人で後片付けをしていたときだった。

俺の携帯がバイブした。

画面を見ると、LINEのメッセージが入っていた。

 

本田『まだ、店にいるかな?』

 

本田『もしいたらでいいんだけど……』

 

本田『この後話したいことがあるんだ』

 

俺はため息をついて、カップを濯ぎ始めた。

 

 

 

 

 

時間も時間なので、俺が本田の指定された場所に行くことにした。

本田が選んだのは、駅前のファストフード店○ック。

俺は、ささっと後片付けを済ませ、早足で指定場所へと向かった。

途中呼び出された理由を考えてみたが、特に考え付かなかった。なぜなら、そうでもない案件なら、同姓の卯月や渋谷に話せばいいし、重大な問題なら親でいい。

男で本田に詳しくもない俺を、なんで選んだのか。意味が分からなかった。

マッ○には、10分ほどで到着した。

適当にドリンクを注文して、俺は上階に上がった。

静かなフロアを見回すと、本田が先に気がついて手を振っていた。

「悪い。待ったか?」

「ううん。私が急に呼び出したんだから、しょうがないよ」

「まぁ、たしかにそうだな。……なんだ謝り損じゃねえか。謝って、俺に謝って!」

「う、うん。ごめん」

「謝んなよ! そこは『なんでやねーん! とはるんが勝手に謝ったんでしょうが!』ってつっこめよ!」

 

これじゃあ、俺は女の子に難癖つける、ただのくず野郎じゃないか。

どうしたわけか本田は、いつもの元気が鳴りを潜めてしまっていた。

なんか調子が狂うな……。

まぁ、何かあったから、わざわざ俺を呼び出したんだろうけど。

 

「それで、どうしたんだ? 俺に何か用があるんだろ?」

「……うん。そのさ、しぶりんがアイドルになるじゃん」

「ああ。話を受けるって、俺らの前で宣言しただろ」

「それでしまむーも、アイドルになったじゃん」

「ああ、そうだな」

「二人がアイドルになったらさ……今日みたいに集まることもなくなっちゃうのかなぁって」

 

寂しげな声は、置いていかれる捨て犬を連想させた。

その言葉に俺は、その通りとしか言えない。小日向を見ればわかるようにアイドルは激務だ。

彼女は人気アイドルなので特別だが、それでもレッスンに下積みにとやることは山のようにある上にライバルは群雄割拠。

ゆっくりする時間など中々とれないだろう。そして、3人が集まる時間が減るのは目に見えていた。

本田もそれは理解して、言葉にしたのだろう。

 

「嫌か? 二人がアイドルになるのは」

「とはるんってさ、けっこう意地悪だよね……」

「何を言う。生徒会長を裏から操り、学校を牛耳っていて、教師からも恐れられる、聖人寅晴さんだぞ」

「とんだ黒幕だ!?」

「冗談だ。本当は生徒会長の女装姿を、いまだに弄って楽しんでるだけだ」

「ただの意地悪な人だ!?」

 

うわぁと身体も一緒にドン引く本田。

その姿に、やれやれと俺は首を振った。

 

「ようやく、元気が出てきたか」

「……え?」

「騒ぎ立てろと言うつもりはないが、お前がしょぼくれてると違和感があるんだ」

 

一口炭酸を口に含み、言葉を繋ぐ。

 

「今ここで聞いた言葉は、誰にも言わない。だから、言いたいこと言ってみな。俺は、黙って聞いておくからよ」

「……ありがとう、とはるん」

 

ここでそのあだ名やめない? いいシーンが台無し。

……本田は、ポツリポツリと話始めた。まとめれば『なんか寂しい』だろうな。

そして……。

「だからさ。私もアイドルやろうと思うんだ」

 

何でも卯月のプロダクションは、まだ1人足りないらしく、その補充者を選ぶオーディションを今度行うらしい。

それを本田は受けると言うのだった。

 

「実は受けようか迷ってたんだけど……。とはるんに悩みを話したら、決心ついたんだ」

 

俺は、何も答えていないが、何かしら本田の役にたったらしい。

「本田」

 

しかし……。

 

「もしも、二人と一緒にいたいなんて気持ちで、アイドルをやろうっていうならやめておけ」

 

俺は、否定の言葉を述べた。

その言葉に本田は、一瞬目を剥いたが、すぐに顔を引き締める。そして俺の目をじっと見据えて、次の言葉を待っていた。

「知っての通りアイドルは、生半可な気持ちじゃ出来ないものだ。俺は、知り合いにそういうやつがいるから言うが、仕事は楽しいものばかりじゃない。自分の意にそぐわないこともあれば、プライベートでも行動が制限される。何をしようにも好奇の目に晒される。良いことばかりじゃないんだ」

 

俺が睨むと、本田は怯んだように顔をひきつらせた。

 

「だからもう一度言っておく。軽い気持ちなら、アイドルになるなんてやめておけ。後悔するだけだ」

 

しんと水をうったような静けさが、俺たちの間に生まれる。

その時間は、何十秒、何百秒、いや何時間にも感じられるような空気だった。

俺は、その間本田の顔を見つめ続けていた。百面相する彼女には、葛藤が滲み出ていた。

ついに答えを出した時の顔も、不安げだった。

 

「や、やる……。たしかに理由は不純だと思う。友達と一緒にいたいからアイドルになるなんて、他のアイドルに失礼だとも思う。でも、私は今やらなきゃ、後で絶対後悔する! 後悔するぐらいなら、1度飛び込んでみたい!……どうかな?」

「ははっ。最後のがなければ100点だったな」

 

俺の言葉に、本田は、顔を明るくした。

 

「……じゃあ!」

「じゃあもなにも、俺に受けるななんて言う権限ないぜ。あくまで決めたのはお前。俺は、忠告しただけだ」

「もうー、とはるんは素直じゃないな~! ……本当にありがとう。とはるん!」

「おう」

 

その後、本田は、オーディションに応募した。

 

結果? ふっ、聞くまでもないだろう。

 

合格だ。

 

 





ようやく原作が始まる(卯月メンタル強化。ちゃんみおさん覚悟決まる。)
おや? 原作の様子が……?(といいつつイベントは変わらんけど)
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