新世代と島村兄   作:凧山葵

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この小説では展開的な問題で恋愛をOKしてます。
嫌いな方は注意してください。



第9話

3人がアイドルになり、シンデレラプロジェクトが始動して、約半月が経過した。

ようやく本格的なアイドル生活のスタートに、さぞや目を輝かせているだろうと思っていたが……。

 

「うーん……うーん……ぐすっ、お兄ちゃん~」

 

日課の早朝コーヒーレッスンをやっていると、2階から、生まれたての小鹿のように足をプルプルさせた卯月が降りてきた。

涙目で助けを求めてくる姿に、不覚にも可愛いと思ってしまったのは内緒だ。

だが、可愛い。写真を撮って、コレクションしたいくらいに愛しい。

はっ、いかんいかん。俺は、シスコンではない。ただ家族を愛しているだけだ。

結局同じ? はて、何を言っているのやら(すっとぼけ)。

そんなわけで家族を大事にする俺は、卯月の手を取って、リビングの椅子まで連れていった。

やっとの思いで席に着いた卯月は、ホッとした顔を見せた。

 

「ありがとうお兄ちゃん」

「おう。気にすんな。それにしても、ひどい筋肉痛だな。アイドルのレッスンって、そんなにキツいのか?」

 

養成所とはいえ、何年もレッスンを続けた卯月でこれだ。他の二人はどうなっていることやら。

 

「ううん。私たちは、今別メニューなんだ。来月の346プロのライブで、城ヶ崎美嘉さんのバックダンサーをやることになったから」

「城ヶ崎美嘉って……たしか、カリスマJKアイドルだったか」

 

クラスの女子たちが、女性誌を見ながら可愛いって連呼していたのを思い出す。俺からすると化粧しすぎでは? と思ってしまうが、そこがいいらしい。

しかし、知名度で言えば346でもトップクラスのアイドルだ。

なるほど、それはまたすごい話だ。

バックダンサーとはいえ、デビューのチャンスであることは変わりないだろう。

冷静に分析しているが、ぶっちゃけ話が急すぎて飲み込めないだけである。

 

「まだ企画開始して日も経ってないのに、よくプロデューサーさんも受けたもんだ」

「最初は否定的だったけど、美嘉さんがお願いしたみたい。私たち3人がライブのイメージに合ってたんだって」

「ほう。そりゃまた、ラッキーだったな。こんなに早く仕事が来るなんて、同期でも出世頭だろ」

「うん。……でも、他の子達は納得していないと言うか。毎日のようにバックダンサーの仕事をかけて勝負にゃーって、言ってくるんだ」

「別に陰口言うわけでもなく、正面から勝負仕掛けてくるんだろ? それなら、可愛いもんじゃないか」

 

それよりも、語尾ににゃーつける方が気になる。

 

「まぁ、お前と違って渋谷と本田は新参だからな。散々待たされたのに、先を越されたとなれば納得しづらい気持ちもあるだろうさ」

「どうすればいいかな?」

「それを俺に聞くのか? そこはプロデューサーさんに相談しておけよ。俺の素人意見より、プロの意見の方が参考になるだろ」

「う、うん。そうだね……」

 

卯月は、なぜか歯切れが悪い返事をした。

多少人を疑うことを覚えさせたとはいえ、基本純粋な卯月がこんな態度を取るとは。プロデューサーさんに、何か心配なことがあるのか?

契約の時も母さんが行ったから、俺プロデューサーさんの顔を見たことないんだよな。

でも、母さんの話だと、真面目で誠実そうな人だって言っていたから問題ない気もするが。

まぁ、俺が口を挟むことでもないか。

 

 

「せっかくのチャンスなんだ。当たって砕けろぐらいの気持ちで、悔いを残さんようにな」

「うん。私がんばる! ……はうぁ!?」

 

両拳握って全身に力を入れたせいで、卯月は筋肉痛に悶えた。

……色んな意味で大丈夫か?

 

 

 

 

 

 

「寅晴。ちょっといいかな?」

 

昼休みに友達と教室で囲んで昼ご飯を食っていると、優樹が話しかけてきた。

昼休みは生徒会のミーティングがあるからと、いつも教室にはいないのにどういうことだろうか。

生徒会の仕事より優先することがあるのか?

 

「どうした優樹? いつもみたいに、生徒会室でハーレム囲まなくていいのか?」

「その言い方やめって、いつも言ってるたい! ……じゃなくて! 僕たちは高校生だぞ! 異性と付き合うなどまだ早いし、そのうえ複数の女性を囲むなどもっての他だ! 人としての倫理に反する!」

「相変わらず頭固いねぇ……」

 

ハーレムがよくないってのは、賛成だが。

小学生でもカップルになることもある時代に、高校生が早いって何を今更だろ。

うちの生徒会長は一昔前の恋愛観を持っていて、成人するまでは、恋愛する気はないんだと。昭和か。もうすぐ平成も終わるぞ。

なのに役員は全員女で、しかも優樹べったり。毎日のように修羅場って仕事が進まないのは、学校では有名な話だ。

だが、肝心の優樹が異性に興味を持たないから、生徒会の顧問先生(35歳独身男)の胃が無駄に攻撃されるだけである。

さすがは、陰でラノベ主人公と呼ばれるだけあるな。

行事で人手足らないの、こいつのせいじゃね?

「まあいいや。それで、何のようだ?」

「美穂が今度346の合同ライブに出るんだ。それで僕とお前に関係者席のチケットを取ってくれだから、渡しに来たんだよ」

「おお! マジで!? いやー、このチケット欲しいと思ってたんだけど、すぐに完売して買えなかったんだよ。だから、めっちゃ助かるわ」

「おい、何でお前がライブチケットなんて欲しがる? まさか美穂を……」

 

おい生徒会長。人としての倫理に反する顔になってんぞ。

周りのやつら、怯えて逃げ出してるじゃねえか。

たしかに最初は、小日向を応援するつもりだったがな。

「違えよ。このライブに、卯月もバックダンサーとして出るんだよ」

「卯月ちゃんが? ……ああそうか。卯月ちゃんも美穂と同じ事務所に入ったんだったね。遅れながらおめでとうと伝えておいてくれ」

「今思い出したくせに、何をぬけぬけと……」

 

こいつ、妹以外のアイドルは眼中にないからな。

 

「でも運命は皮肉なものだ。あんなことがあった二人が、同じ事務所になるなんて」

「ははっ、運命なんて大袈裟な。ただ、同期だった二人のうち、卯月がオーディションに落ちて、小日向が受かった。それだけだ。今となれば大した事じゃないさ」

「まあね。しかし、これで寅晴も荷が下りたんじゃないか? 卯月ちゃんはアイドルになれたんだし。お祖父さんの話受けてもいいんじゃない?」

「……そうかもな。だけど今は考えてない。卯月もまだ放っておけないし、他にも放っておけないやつが出来たからな」

「渋谷さんだろ?」

「……なぜわかった」

 

他にも、本田という人間拡声器みたいなやつもいるがな。

表情訝しく聞くと、優樹はあっけらかんと答えてきた。

「だって、毎日のように二人で下校しているじゃないか。僕は違うと思っているが、学校では二人が付き合ってるという認識が大多数だよ」

「はぁ!? なんだそりゃ!?」

 

どうしたら、俺と渋谷が、そんな甘い関係になるってんだ。

そもそも俺は、現在まで彼女も出来たことないんだぞ。なのにそんな話になってるとか、遠回しの嫌味にも思えてくる。

つうか……。

 

「お前は違うって分かってるなら訂正しろよ!」

「無理だ。噂は1年生を中心に広まってたんだ。僕が聞いたときには、修正不可能な範囲にまで広まってた」

「マジか……」

 

というか、そこまで広まってて、当事者がまったく知らない件について。

いくら俺が、噂話に疎いとはいえ、渋谷も気がつ……かないか。あいつもそういうの興味なさそうだからな。くそっ、変なところで同調してるよ。

 

「そんなに深刻に考えなくてもいいんじゃないか? 真実ではないんだし。あくまで噂話だ」

「だがなぁ……。これからアイドルやろうってやつが、そんな噂たてられるとなると、色々まずいだろ」

「一応言っておくけど、346プロでは、恋愛は禁止ではない。だからそんな関係の相手がいても、契約上問題はないよ。ただ推奨もしてないから、ダメージがないことはないだろうね」

 

346って恋愛OKなんだ。

まぁ、いい歳のアイドルも多いから、禁止は難しいんだろうな。

しかし、人気にダメージがあるのも事実か。

「まぁ、お前が悩みたいなら、納得するまで悩めばいいさ」

「……ああ。そうするよ」

 

俺は紙パックのストローに口を付け、優樹は生徒会室に戻っていった。

 

 

 

 

 

それでいつも通りと言うと、あんな話を聞いたせいで照れ臭いが、渋谷と下校中。

帰り道が一緒だから、流れでやっていたが、それがまさか噂になるなんてな。まぁ、渋谷のような容姿が整ってるやつは、何をしても話題になってしまうのだろう。

そういや新学期の始めに、新入生に黒髪の可愛い子がいると、クラスの男衆が騒いでいたな。今考えると、あれって渋谷のことだったのか。

たしかに、黒い髪はしっかりと手入れされているのか綺麗だし、肌も目に見えて荒れたところはない。スタイルもスラッとしてていい。顔は言わずともがな。

……まぁ、可愛いよな。

 

「……さっきから何? じろじろと人を観察するみたいに見て」

「ん? いや、渋谷は筋肉痛になってないんだなと思ってな」

「ああうん。私、あまり筋肉痛出ない体質だから。でも、手を抜いてるわけじゃないからね」

「知ってるよ。お前の全力主義は。トランプ遊びすら、常にガチだもんな」

「そ、それはもう忘れて!」

 

前に客が来なくて暇だからトランプやろうと、軽い気持ちで誘ったことがある。

その時やったのは、人数的な問題でスピードだった。

俺は、昔から卯月とよくやっていたので、このゲームが得意だった。対する渋谷は、ルールを知っているくらいでやったことがなかった。

その時点で勝負は見えていた。そして結果は予想通りだった。

だが、渋谷は「もう一回」と悔しそうに言い。その日に何十回もやらされた。しかも次の日も、また次の日も。

もうあれだね。二度と渋谷と勝負事はしないと誓った。

リアルに勝つまでやる奴がいるとは思わなかった。

渋谷もばつが悪いのか、顔を赤くしながらそっぽ向いている。

 

「なぁ、渋谷」

「何?」

「俺とお前が付き合ってるっていう噂知ってるか?」

「……う、うん。まぁ」

 

顔はそらしたまま、渋谷は肯定した。

「お前知ってたのか?」

「うん。前に友達が聞いてきたから、その時に知った」

「俺は、今日初めて聞いたぞ。……そんで、勿論否定したんだよな?」

「ま、まぁ……一応……」

「何でそんな曖昧なんだよ……」

ハッキリ言わんと、誤解を生むだけだぞ。

それにしても、本当にあるんだなその噂。間違えであってほしかったんだが。

ついつい、やりきれないため息が出てしまう。

 

「はぁー。こりゃ、一緒に帰るのやめた方がいいかもな」

「……それ本気で言ってるの?」

「あ? 当たり前だろ。お前はアイドルだし、今度大きな仕事があるんだろ? それをそんな噂のせいで潰したら、勿体無いないしな」

「ふーん。あっそ」

 

なんか声がとても不機嫌なんだが。俺、今おかしなこと言ったか?

 

「何かキレてるか?」

「別にキレてないんだけど」

 

嘘つけ。見るからに怒ってるじゃねえか。

こいつ本当に感情が顔に出やすいな。

俺が半分呆れていると、渋谷は早足で前に出た。

 

「どうした?」

「一緒にならない方がいいんでしょ? なら、私先に帰るから。じゃあね、先輩」

 

トゲトゲとした声色で不機嫌をアピールした渋谷は、早々と俺を置いて歩いていった。

ポツンと1人残された俺は、春の暖かな風が吹くなか。

 

「俺……なんかやらかしたか?」

 

さっそく助けを求めるために、優樹に連絡するのだった。

 

 




島村寅晴の噂

猫好きだけど、猫アレルギーらしい。
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