兜甲児も勇者である   作:ほろろぎ

10 / 10
最終回 地球解放編

 兜甲児はマジンガーへの変身を解いた隙をつかれ、未知の攻撃を受け意識を失い倒れ伏した。

 バーテックスの狙いは残存人類の殲滅。それを邪魔する大きな要因である甲児の排除を完了したバーテックスの残骸は結界の外に逃れ、甲児に致命傷を与えた謎の存在も姿を隠した。

 敵は去り樹海化も解除されたことで、少女たちは大慌てで安芸に連絡を取り、大赦を通して救急車を要請した。

 

「兜さん! 兜甲児さん! 聞こえますか!」

 

 甲児はストレッチャーに乗せられ救急治療室へと運び込まれる。

 須美たち3人もまた同様に、怪我の治療のためそれぞれの病室に運ばれて行った。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 数時間後、治療を終え戻ってきたのは少女たち3人だけだった。

 彼女たちの怪我は裂傷や打撲、骨の幾ヵ所かにヒビが入っていたりと重症ではあるが命に別状はない。勇者の回復力の高さで、すでに通常通りに動き回れるほどだ。

 3人は安芸と対面すると、状況を聞くため院内の一室に設けられた待合所でイスに腰を下した。

 

「まずは、よく9体ものバーテックスを撃退してくれたわ。本当にお疲れ様。そして、ありがとう」

「まあ、ほとんどは甲児さんがやっつけちゃったんですけどね」

 

 あはは、と笑って銀が応えた。

 

「彼があそこまで戦えたのも、貴方たちという仲間がいてくれたからこそだと私は思うわ」

「先生がそう言ってくれるなら、私たちも頑張った甲斐があるね~」

 

 そこで、それまで黙っていた須美が口を開く。

 

「それで、先生……甲児さんの容体は……」

 

 笑顔を浮かべていた安芸の顔が暗く沈む。その表情を見た少女たちの間に緊張が走った。

 

「その前に、先に説明しておかなければならないことがあるわ。3人とも、結界の外の様子を見た……のよね?」

「はい。結界の外は滅びた街が広がっている訳じゃなかった。あの炎に包まれた異様な光景は一体……」

 

 安芸は、大赦が長い年月をかけて隠蔽してきた真実を少女たちに話した。

 四国以外の世界が滅んでしまった原因はウイルスなどではなくバーテックスにあり、そのバーテックスを生みだしたのは言葉通りの『神』であると。

 天の神が世界を造り替えてしまったことで、四国の結界以外は一切の生命が住めない世界になってしまったのだ。

 そしてバーテックスは倒しても無限に再生されるため、一時的に追い返しただけでは無意味であり、時が経てば再び攻めてくるとも。

 終わりのない戦い、その事実に須美たちは酷く衝撃を受けた。

 それは、自分たちはこれからも戦い続けなければならないのかということよりも、四国に住む人々は永遠に怪物の脅威から逃れられないのかという思いが強かったからだ。

 

「そして今の兜さんは、天の神の『呪い』とでも言うべきものを、その身に受けているの」

「神様の呪いって、すごくヤバそうなんですけど……」

「ええ、彼の心臓は今にも止まりそうになっている。お医者様は必死に延命処置をしているけど、それも時間の問題でしょう」

「そ、そんな……」

 

 安芸の言葉に3人はさらなるショックを受ける。

 これまで共に戦ってきた仲間が死ぬ……まだ12歳の少女には受け入れがたい事実であった。

 悪い話はこれだけに留まらない。

 結界の外ではこれまで倒してきた12体のバーテックスが、今までにない急速な勢いで修復されつつあるというのだ。

 

「天の神はZを無力化した今、全戦力を上げて残存人類を殲滅する気でしょうね」

 

 しかし、人間もただ黙って滅びの時を待つわけにはいかない。

 大赦は得られたマジンガーの戦闘データから、勇者たちの装備へのフィードバックを始めている。

 超精神物質の解明には至らないが、能力の簡単な模倣くらいならできるはずだ。付け焼き刃だろうがやるしかない。

 さらに、先の戦闘でバーテックスには御霊と呼ばれる本体が体内にあることも発覚した。

 これを壊せるようになれば、その驚異的な再生能力もいくらか抑えられるはずである。

 バーテックスの再侵攻までの猶予は一週間。

 その間に少女たちは休息をとり、できる限り傷を癒し万全な状態を作らなければならない。

 

「本当なら貴女たちのお役目は終わっているはずだったのに、また戦いに向かわせなければならないなんて、大人として不甲斐なさを感じるわ。でもお願いします。どうか世界を、みんなを救ってちょうだい」

 

 安芸は席を立ち、3人の生徒に頭を下げた。

 

「先生、頭を上げてください。先生の辛い気持ちは、私たちにも伝わっています」

「ここまできたら最後までやり遂げよう。やりかけのことを途中で投げ出すってのも、性にあわないしな」

「おぉ~、ミノさんやる気だね~。私も負けないよ~」

 

 少女たちは弱音を吐かなかった。絶望的な状況でも、やれることを精一杯やる。それは彼女達が勇者だからなのではなく、生まれ持っての性質だからだ。

 

「それに天の神を倒せば、甲児さんの命も助かる」

 

 カプリコーンの毒のように、呪いの根源を絶てば何とかなるはずだ。

 須美は信じていた。共に死線をくぐって来た、頼れる大人である甲児がこんな簡単に死ぬ訳がないと。

 

 かくして1週間の猶予は、あっという間に過ぎて行った。

 広がる樹海。結界の外から侵入してきたのは12体の全星座型バーテックス。

 対する勇者は三ノ輪銀と乃木園子、その2名だけであった。

 

「まさか、この土壇場で須美まで意識を失うとは思わなかったなぁ……」

 

 銀は呟いた。

 決戦の前日、夜普段通りに眠りについた須美はどういう訳か、翌日の朝になっても目を覚まさないのだ。

 一同は慌てふためいたが、いくら声をかけても体を揺すっても目覚める気配が無い。しかし甲児のように呪いを受けたということでも無いようだ。

 やむなく須美を甲児と同じ病室に収容し、残る銀と園子の2人だけでバーテックスに対処することとなった。

 

 2人の勇者装束は、これまでの服装の上から防御のための鎧が、肩や胸など体の各部に付加されている。

 大赦による勇者システムのアップデートの結果だ。

 これは防御面の強化だけにとどまらず、マジンガーが先の戦闘で見せた敵の攻撃の吸収能力も備わっている。

 

 本来大赦は、アップデートの際に『満開』と呼ばれるシステムを採用するはずであった。

 しかしこれには、一度使用するごとに身体機能や精神が欠落を起こすという非常に重大な、欠陥とも言える反動を伴っていた。

 また、満開は強大な力を行使できる代わりに持続時間が少ないこともあり、短期決戦用のシステムという側面もある。

 今度の戦いでは早期に決着がつくとは限らないため、敵から奪ったエネルギーで長時間でも戦い続けられると判断した今の使用に変更されたのだ。

 

「園子、平気か?」

「大丈夫~。……やっぱり、ちょっと怖いかも」

「お前のことはこの銀様が守ってやるから、安心しろ」

「うん。ありがと、ミノさん。ミノさんのことも私が守るから」

「……絶対、生きて帰ろうな」

「約束。甲児さんとワッシーが悲しむ顔は、見たくないからね~」

 

 2人は指切りをする。

 バーテックスを倒して、ついでに天の神もやっつけて、そして甲児と須美が起きたら4人で夏祭りに行くのだ。

 楽しい未来を現実にするため、2人は神の尖兵に向けて勇敢に立ち向かっていった。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「ここは……」

 

 鷲尾須美は、出し抜けに大都会のど真ん中で立ちすくんでいた。

 四国には存在しない超高層ビルが立ち並び人の往来も激しいここは、かつて西暦の時代にバーテックスによって滅ぼされた首都、東京である。

 

 決戦前夜の眠りから目覚めない須美の体は、甲児が眠る病室と同じ部屋に収容された。

 同じ時、大赦の研究所に保管されていたマジンガーマスクが、通常のブルーからアルファー波を放射するグリーンに輝きだす。

 今の須美は、マジンガーマスクを通して甲児の意識と接触しているのだ。

 つまり須美が今見ている光景は、兜甲児がかつて体験した光景でもある。

 

 須美の目に、手を振ってこちらに駆けてくる甲児の姿が映った。

 正確には須美の横に立っている女性、島さやかとの待ち合わせにやって来たのだ。

 甲児とさやかは腕を組み、連れ立って歩く。

 2人は喫茶店に入り、ドリンクを飲みながら談笑していた。

 甲児はこれまで女性と2人で街を歩くなどといた経験は無く、それはさやかも同様であること。

 似たような境遇の2人だからこそ、これから楽しいことを見つけようと笑い合う。

 そうして映画を見たり夕食を一緒に食べに行ったりと、2人はとても穏やかで楽しい時を過ごした。

 大人のデートとは程遠い、まるで子供同士のお出かけのようなものではあるが、だからこそ初々しい2人には相性が良かったのだろう。

 

 悪夢はこの直後にやってきた。

 さやかは他の男に奪われてしまったのだ。

 だがそれは、決してさやかが心変わりを起こしたわけではない。彼女の心は甲児にだけ向けられていた。

 さやかは部屋に押し入ってきた男たちにクスリを飲まされ、無理やり乱暴されたのだ。

 その事実を知らなかった当時の甲児は、男と繋がっている様を見せられ、ショックの余りさやかの前から去って行った。

 その後さやかは拉致同然に連れ去られ、さらなる地獄を見ることになる。

 一方の甲児は唯一の肉親であった父が死に、その父からマジンガーZを託される。

 初めてZになった時、甲児は潜在意識にあったさやかを奪われたことに対する怒りでマジンガーを暴走させてしまう。

 暴走したマジンガーは、甲児の意志とは無関係に都市を破壊しはじめる。これはかつて須美が夢に見た光景でもある。

 Zは連れ去られたさやかの下へ向かうと、彼女を襲った暴漢たちを次々と殺害していった。

 さらにその手はさやかにもかけられる。

 

「ダメよ甲児さん! その人を殺してはいけない!!」

 

 今見ているのは過去の光景であり、その行為に意味はない。しかし須美はとっさに叫んでしまった。

 声が届いた訳では無い。しかしZはさやかを離した。

 だが、行き場のない怒りと何人もの人を殺してしまったという罪悪感がさらなる力の暴走を招き、マジンガーは東京の一角を巨大な爆発で吹き飛ばしてしまう。

 自分の犯した罪の意識から逃れたいという思いから、Zは時を越え1999年の第3次世界大戦の場へと跳んだ。

 そこでも甲児は、滅びると分かっていながら争いを止められない人間の性を嘆き、無意識のうちに戦争をしていた2つの軍を壊滅状態に追いやってしまう。

 甲児のこの行為が原因で戦争は地球規模に拡大、乱れ飛ぶ核ミサイルによって地球は生命の生きられない死の星へと化してしまうのだった。

 

 須美の目の前に、膝を抱えうずくまる甲児の姿が浮かんだ。その様はまるで、親とはぐれ泣き出してしまった子供のようである。

 

「甲児さん……」

 

 須美は声をかけた。目の前の甲児は夢の産物ではなく、現在の意識体としての存在だ。

 

「君も見たんだね、俺の過去を」

「……はい」

「俺はとんでもない過ちを犯してしまった。大切な人さえ守れず、挙句に一時の怒りから全人類を滅亡の瀬戸際に追い込むような真似まで……」

 

 あまりにも大きな罪、それに対して須美はかける言葉が見つからない。

 

「俺は……マジンガーは、この世界の人々を救うことで自分の罪も許されるんじゃないかと思っていた。だけど、結局俺は何もできなかった」

 

 甲児の瞳から涙がこぼれた。

 

「結界の外で、バーテックスが再び生まれようとしているのが分かるんだ。この世界はまだ救われちゃいない。なのに俺は、こんな中途半端な所で死んでしまった」

 

 須美は甲児の隣に腰を降ろし、じっと彼の話に耳を傾けている。

 

「俺には何もできなかった……! 誰も救えなかった……! いや……むしろ、こうやって俺が死ぬことが償いになるのかも……」

 

 その言葉を聞いた須美は、甲児の頬を思いっきり平手打ちした。甲児は唖然とした表情で須美を見つめ返す。

 

「甲児さんのバカッ!! 本気でそう思っているんですか!?」

 

 見れば須美も涙を浮かべていた。

 

「確かに貴方はとても大きな過ちを犯してしまった。だからこそ未来の人々を、私たちの世界を助けようとこれまで頑張ってきたのでしょう!? それを途中で投げ出すなんて、日本男児のやることですか!?」

 

 須美は甲児の頬に両手を添え、真っ直ぐにその瞳を見つめる。

 

「私は諦めません。すでに銀もそのっちも戦い始めているのが分かります。私も一緒に戦って、天の神も倒して、甲児さんもみんなのことも救って見せる! 諦めないのが勇者の務めですから」

 

 そう言って立ち上がる。

 

「そして、貴方も勇者の一員なんですよ」

 

 須美は最後にそう告げると甲児に背を向けた。

 その背後で、甲児は彼女の言葉をゆっくり噛み砕く。

 そうして甲児が立ち上がったのを感じた須美は振り返った。

 

「俺も、諦められない。父さんの遺してくれたマジンガーを、悪魔のままで終わらせたくはない。人間の未来を守ることだけが、マジンガーが地獄から救われる道なんだ」

 

 すでに甲児の瞳に涙は無い。強い決意を感じさせる表情を浮かべている。

 

「俺も一緒に、最後まで戦うよ。銀ちゃんと園子ちゃんのことも心配だ」

「呪いは大丈夫なんですか?」

「Zになれば、いくらかは余裕ができる。その間に敵を一掃すれば」

「わかりました、行きましょう」

 

 樹海に取り込まれ時間の停止した現実の世界で、マジンガーマスクが輝き始める。

 強い閃光と共にマスクと、病室にいた甲児と須美の体が消え、次の瞬間に彼らは樹海の中にいた。

 すでに須美は勇者服を着込み、甲児もZの鎧を身にまとっている。

 Zは須美を抱き上げると、超能力でバーテックスと闘い続けている銀たちの下へ瞬間移動した。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「ダブルトマホークブーメラン!!」

 

 銀は雄叫びと共に、武器である斧をスコーピオンバーテックスに投げつけた。

 強化され両刃となった大斧の一撃を受け、スコーピオンはあっけなく倒される。

 

「とりゃ~!」

 

 さらに露出した御霊を、園子が同じく強化された武器である三叉の矛で突き破壊した。

 しかし倒されたバーテックスは、天の神の力によって開きっぱなしとなっている結界の外から侵入してくる星屑が集まり、即座に再生を始めてしまう。

 倒しては復活し、それをまた倒す。銀と園子はずっとそのイタチごっこを演じるハメになっていた。

 

「あーもう、しつこいっての!」

「女の子からは嫌われるタイプだね~」

 

 銀と園子が戦い始めてから数時間が経過したが、勇者システムのエネルギー吸収機能によって2人に疲労の色は無い。

 かといって数と力の差で攻めきることもできず、一進一退なのが現状だ。

 そこに、戦況のバランスを覆す存在が現れる。マジンガーZと鷲尾須美だ。

 

「2人とも、目が覚めたのか!」

 

 銀と園子は喜びの声を上げ甲児たちに駆け寄る。

 

「心配させたみたいだね。もう大丈夫だ!」

「2人にまかせっきりでごめんなさい。これが本当に最後だから、4人で頑張りましょう」

 

 頷きあう一同。そこにレオが火球を撃ち込もうとしている。

 だが、それより早くZが胸部のプレートにチャクラエネルギーを集め

 

「ブレストファイヤー!!」

 

 必殺の一撃を放った。レオは火球もろとも消し飛ばされる。

 横から向ってきたアリエスも、須美が弓に代わる新装備の銃で、分裂する間も与えず御霊を撃ち抜いた。

 しかしレオもアリエスも、倒した傍から星屑が寄り集まって再生を始めてしまう。

 

「こいつはキリが無いな」

 

 甲児はつぶやいた。いくらバーテックスを倒しても、天の神をどうにかしないことには事態は解決しない。

 

「結界の外に出ましょう。このまま樹海で戦っていては、神樹様も街の人たちも危険だわ」

 

 須美は銃の狙いをバーテックスに定め、銀、園子、Zもそれぞれ武器を構える。

 

「突撃~!」

 

 園子の掛け声と共に4人は飛び出した。銃で、斧で、槍で、剣で、せまる怪物を打ち倒していく。

 4人揃った勇者の前ではバーテックスたちはものの数ではなく、あっという間に12体は切り伏せられていった。

 

「ルストハリケーン!」

 

 大橋の外から侵入して来ようとする星屑はマジンガーの竜巻で一掃され、その隙に4人は結界の外へと出ていく。

 背後では、神樹が外敵の侵入を防ぐため結界を完全に閉じたのが認識できた。

 4人は改めて目の前の、世界の本当の姿を見て息を呑む。

 炎に包まれた星と、宇宙を白く塗りつぶす大量の星屑。

 その向こうに、全ての元凶である天の神が姿を見せる。

 宇宙を切り裂いて現われた天の神は、脳が剥きだしの巨大な人間の赤ん坊の姿をしていた。その身の丈は数100メートルはあるだろう。

 

「うへぇ、気持ち悪い……」

 

 神の醜悪な出で立ちに4人は吐き気を覚え、口元を抑える。

 天の神が動いた。レオバーテックスが放ったのと同等の火球を4人に向かって撃ち込んでくる。

 4人は別方向に飛び上がり避けるが、天の神は今度はサジタリアスが使っていた矢を広範囲に向かって射出した。どうやら全てのバーテックスの能力が使えるようだ。

 それぞれの武器を駆使して攻撃を弾く。防ぎきれなかった攻撃は、勇者服がその力を吸収していく。しかし

 

「痛っ……!」

 

 勇者服に亀裂が走り、少女たちの肌にも傷がついていく。

 天の神の力が強すぎるため、新装備のエネルギー吸収システムでは対応が追いつかないのだ。

 マジンガーがマントで全員を包み込むが、それも複数のスコーピオンの尾で突かれ溶かされてしまう。

 無防備になった所に再びレオの火炎弾を撃ち込まれ、今度は防ぐことかなわず4人は吹き飛ばされ地球に叩きつけられる。

 間髪入れず、天の神はヴァルゴの爆弾をミサイル状に撃ち込んできた。地表で爆発の炎が上がる。

 さらに爆弾、光の矢、毒の尾、火炎弾が立て続けに襲い来るが、4人は炎の中から飛び出て間一髪これを避けた。

 

「これじゃ近づけないよ~!」

 

 激しい連続攻撃に園子が声を漏らす。

 

「向こうが総力を挙げてくるなら、こっちも力を合わせるんだ! 3人とも、協力してくれ」

 

 甲児はそう言うと右手を差し出す。少女たちも言われるままにその手に自信の手の平を重ねあわせた。

 そして、マジンガーの正中線上にある7つの宝玉全てに光が灯る。これまで禁じていたチャクラエネルギーを100%解放したのだ。

 4人はまばゆい光に包み込まれる。4人を飲み込んだ光は、爆発したかのようなより激しい輝きを放った。

 閃光の消えた中にあったのは1体の巨人の姿だった。身長はバーテックスを越え、ゆうに100メートルはあるだろうか。

 シルエットはマジンガーに酷似しているが、その全体像はエネルギーの塊であり実態を伴っていないためハッキリとしない。

 この現象こそ甲児が自分の(sin)を認め、勇者たちと協力することで力の暴走を制御することに成功した『sin.マジンガー』の姿だった。

 

 真なるマジンガーの姿を脅威と見た天の神は、先ほどまでよりも強力な攻撃を見舞ってくるが、それらの攻撃は全てsin.マジンガーの体内に飲み込まれてしまった。

 無数の星屑が雪崩のように寄り集まって、マジンガーを包み込んでしまう。

 そんな星屑たちですら、sin.マジンガーは自身のエネルギーとして吸収し、融合していく。

 

『うおぉ、マジンガーがバーテックスを喰っちまってるー!?』

 

 sin.マジンガーと精神的に1つとなっている銀が、その内で叫んだ。

 その声は天の神の恐怖を代弁しているかのようだった。

 無数の星屑を取り込んだマジンガーの体は急速に巨大化し、その身は天の神をも上回る大きさになっている。

 マジンガーが手を伸ばし、天の神の体を掴んだ。神の使いを吸収し、ついには神そのものすらその身に取り込もうというのだ。

 天の神に触れた手を通して、神の意識と勇者たちの意識が繋がる。そこで4人は神との戦いの起こりを知った。

 神は自らの子供として人間を生み出したが、人は進化を武器として成長し、親である神を越えようとしたことでその逆鱗に触れたのだ。

 

『何という傲慢さ……私たちはあなたの所有物じゃない!』

『アタシたちは自分の意志で生きてるんだ!』

『私たちの未来は誰にも邪魔させないよ!』

『子供を愛さない()なら、そんなもの俺たちには必要ない!』

 

 須美が、銀が、園子が、甲児が叫ぶ。マジンガーの体が、神の光を塗りつぶす漆黒に光(シャイニングダークネスに)輝く。

 口を開け牙をむき、悪魔の如き形相で天の神に食らいつこうとするsin.マジンガー。

 

『オギャアアアアア!!』

 

 その時、天の神は赤ん坊の姿のまま叫び声を上げた。それはまさに死への恐怖による絶叫だった。

 天の神はあらん限りの力を振り絞ってマジンガーの手中から逃れると、現れた時のように空間を切り裂き、その中に飛び込むようにして身を隠した。

 

『追わないと!』

『……いや、その必要はないよ』

 

 追撃を口にする須美を甲児は止めた。

 甲児の超感覚に、天の神がこの世界からまったく気配を消したのが感じられたからだ。つまり……

 

『天の神は撤退した。この世界から手を引いたんだ』

 

 その証拠に、周囲に溢れかえっていた星屑も姿を消し、地球を覆い尽くしていた紅蓮の炎も嘘のように消え去っている。地球はかつての青い姿を取り戻していた。

 甲児の体を蝕んでいた神の呪いも完全に消滅したようだ。

 

 地球の表面に光り輝いている巨木──神樹の姿が見える。しかしその光は弱々しい。

 天の神との長きに渡る戦いの影響で、神樹の生命力が衰えているのだろうと甲児は理解した。

 ここで決着がついていなければ、神樹は消滅し四国も共に滅んでいたかもしれない。

 四国の地表に降下するマジンガー。その際甲児は、バーテックスから取り込んだ全てのエネルギーを神樹に受け渡した。これでもうしばらくは神樹の生命力も持つだろう。

 地面に到着すると同時に、sin.マジンガーの姿も元の等身大のコバルトブルーの鎧に戻り、さらに3人の少女たちも肉体から分離した。

 少女たちは変身を解き、戦いに勝利したことを抱き合って喜んでいる。しかし甲児は未だZの姿のままだ。

 

「……甲児さん? どうしたんですか?」

 

 変身したままの甲児を訝しんだ須美が尋ねる。

 

「さっき天の神が異次元に消えた時、余波で空間に歪みができた。そこから声が聞こえてきたんだ」

 

 それはかつて未来の火星から、テレパシーで甲児に助けを求めてきた者の声だった。

 

「俺は行くよ。ここで君たちともお別れだ」

 

 天の神を追い返し四国の安全を取り戻した今、甲児は本来の目的を果たそうというのだ。

 

「えぇ~、こんな急にさよならなの~?」

「そんなぁ……、夏祭り一緒に行こうって約束したじゃないか!」

 

 園子と銀は甲児を引きとめようとするが、須美はそんな2人を押しとどめた。

 

「ダメよ2人とも。甲児さんには甲児さんの、やらなければならない勤めがあるのだから」

 

 図らずも人類を滅亡の淵に追い込んでしまったマジンガーZ、その罪をそそぐための新たな旅立ち。

 だが本来ならば火星への旅こそが甲児の元々の進むべき道であり、この四国世界での少女たちとの邂逅はほんの寄り道だったのだ。

 だから須美は甲児を止めることはしなかった。

 無論共に戦った仲間と離れることの寂しさはあったが、過去の甲児の経緯を知ってしまった須美は、彼の心が真に救われることを望んだのだ。

 甲児は別れの挨拶として、少女たち1人1人と固く握手を交わした。

 

「みんなとこの世界を守るために戦えたことは俺の誇りだ。君たちのことは忘れない。別の宇宙から、君たちの幸せを祈っているよ」

 

 さようなら、そう言い残し兜甲児は本来の世界へと旅立っていった。

 宇宙へ向かって飛び立つ甲児の姿が消えるまで、少女たちはその背中を見送った。

 仲間との別離という寂しさから、使命を終えたという安堵感に気持ちが徐々に切り替わっていく。

 平和になった世界でこれから少女たちに何が待っているのだろう。きっと素晴らしい明日に違いない。

 3人は手を繋いで、笑顔を浮かべながら帰路につくのだった。




スランプで思うように書けず、巻きで終わらせてしまいました ごめんなさい
読んでくださりありがとうございました

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。