兜甲児も勇者である   作:ほろろぎ

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第6話 勇者特訓編-1

 第2のバーテックス、リブラはその名の通り天秤を模したフォルムをしていた。

 その細く華奢に思える体は、攻撃を当てることができれば容易に破壊できそうな印象がある。

 

「まずは俺が攻撃をしかけてみる」

 

 ゆっくりと進行して来るリブラ・バーテックスを見ながら、Zの鎧をまとった甲児が言った。

 

「気をつけてくださいね」

 

 須美の言葉に頷くと、Zはバーテックスに向けて走り出した。

 やることは前回と同じ、勢いをつけて全力で殴りかかる。

 戦いの経験がない甲児にはこれくらいしか戦法が思いつかなかった。

 バーテックスとの距離が近づいてくる。

 向こうもZの存在に気づいたようだ。どこが顔なのか分からないが、視線を向けられたような気がした。

 

「くらえッ!」

 

 Zはジャンプすると、速度そのままにリブラに向かって飛び掛かる。

 リブラはピタリと進行を止めると、その場でクルリと回転した。

 

「ぐはぁッ!?」

 

 リブラの腕を思わせる横棒(バー)の先端に付けられた錘のようなパーツが、遠心力を伴ってZの体に打ちつけられた。

 Zはそのまま弾き返され地上に叩き落とされる。

 鎧にダメージはないが、中の甲児には鈍い痛みがあった。それでも衝撃は相当軽減されている。

 

「甲児さん! 大丈夫ですか!?」

 

 須美たちが走り寄って来た。

 甲児は起き上がると、平気だと返事をする。

 見るとバーテックスは、そのまま止まらずに回転を続けていた。

 樹海に風が吹いた。

 その風はどうやらリブラの回転によって発生しているようだ。

 風は徐々に勢いを増し、ついには台風のごとき強烈なものへと変貌する。

 4人は突風に飛ばされないよう踏ん張りを効かせる。

 Zはその鎧の重みによって、少女たちは3人の体を抱き合わせることで。

 

「くっ……これじゃ近づけないわ!」

「どうすればいいんだ……!?」

 

 須美と甲児は悔しそうにこぼす。

 

「あのグルグル、上から攻撃すると弱そうだけど……」

 

 園子がリブラを見ながら言った。

 

「そうか、台風の渦の中心は無風状態になる。しかし、どうやってそこまで行く……!?」

「甲児さん、Zは空を飛べないの!?」

 

 銀が問う。

 確かに、Zは空を飛ぶことができた。それは甲児が初めてZとなった時に体験している。

 しかしチャクラを封印している現状では、Zはその全ての力を発揮することができないのだ。

 加えて父である兜博士のサポートもない今、戦いながらZの能力を甲児単独で使いこなすことは難しいのが現実である。

 

「みんな、あれ見て~!」

 

 園子が何かに気づいた。彼女の言う方向へ視線を向ける。

 回転しているリブラ・バーテックスの足元と言える縦軸の下、地面に接する位置。そこからジワジワと神樹の根が枯れ始めていく。

 バーテックスは結界を侵食する。そしてその被害は現実空間へと反映されることになる。現実に被害が出てしまえば、無関係な一般人の生命に関わる事故が起きるかもしれない。

 

「早くやっつけなきゃ!」

 

 銀が叫ぶ。

 

「私が何とかしないと……」

 

 須美は抱きついていた園子の体から手を離すと弓を構えた。

 暴風にさらされたその身が宙に浮きあがるが、飛ばされてしまう前に銀が捕まえる。

 

「行けッ!」

 

 力を限界まで込めた必殺の矢がリブラに向かって飛んでいく。

 しかし突風にあおられた矢は進行方向を逸らされ、勢いそのままにバーテックスの脇を掠めていった。

 

「くっ!」

「あ~……」

「惜しい!」

 

 少女たちは悔しそうにうめく。

 

(飛び道具……もっと強い力で投げつければ(バーテックス)にも届くか……!?)

 

 その時甲児は、Zの腰に刀が提げられていることに気づいた。

 

「そうだ、Zは刀を持っていたんだ。これならもしかしたら……」

 

 Zは鞘から剣を抜き、投擲の構えをとる。

 上半身を弓なりにしならせ、リブラに向かって全力で刀を投げつけた。

 Zの剣は強烈な回転をともなって、円盤のように目標に向かって飛んでいく。

 暴風をものともせずに突き進む剣は、そのまま錘のついていたリブラの腕を切り落とした。

 

「やった!」

 

 少女たちが歓声を上げる。

 突風が止んだ。腕をなくしたリブラは回転は軸を失い、バランスを崩したのだ。

 さらに投擲された剣はブーメランのように戻ってきて、返す刃でリブラの胴と思しき場所にぶつかる。

 しかしこちらは先ほどと違い、金属同士がぶつかり合うような音を響かせ弾かれてしまった。

 

「! あの部分、他より硬い……? 何かあるのか?」

 

 いや、考えている場合ではない。この機に一気に攻め立てるのだ。

 Zは剣をキャッチするとリブラ・バーテックスを何度も切り裂く。

 豆腐を切るように甲児の手には何の手応えも無い。凄まじい切れ味だ。

 そうしてバラバラになったリブラの破片が樹海に降り注いだ。

 ピンチになりはしたが、第2のバーテックスの襲撃を甲児たちはどうにか阻止することができたのだった。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 樹海化が解除され、甲児たちは元の世界に戻された。

 そして反省会のため6年1組の教室に集まっているのだが、一同を前にした安芸先生はなにやら難しい顔をしている。

 どうやら今回の戦いも前回の戦いでも、バーテックスに有効打をあたえられたのがZだけなのが問題らしい。

 

「このまま戦いがZ頼みになってしまうのはよくないわね。兜先生がいてくれるのは心強いけど、あくまでもこの世界はこの世界の住人である鷲尾さんたちが守らないと」

 

 先生のごもっともな意見である。

 

「ということで、今度の3連休を利用して合宿をしましょう」

「それって秘密の特訓ってやつですか!?」

 

 安芸の提案に、銀が興奮したようにたずねた。

 ボーイッシュな性格の銀は、男の子的な燃えるシチュエーションに反応したようだ。

 

 かくして反省会から数週間後に合宿訓練が行われることとなったのだが、当日の早朝の集合時間に問題は起きた。

 一同の中で一番合宿について張り切っていた銀がなかなか来ないのだ。

 集合時間はすでに過ぎており、大赦が用意した送迎バスの中には甲児に須美と、彼女にもたれかかって眠っている園子の3人はすでにそろっていた。

 

「遅いわね、三ノ輪さん」

 

 須美はいらだたしげに言った。

 

「何かあったのかな……俺ちょっと連絡してみるよ」

 

 甲児はそう言って、ポケットからスマートフォンを取り出す。

 

「えーっと、電話はどうやってかけるんだっけ……」

 

 甲児のスマホは大赦から通信用に支給されたものであるが、彼の時代には存在しなかった技術で作られた未来の機械であるため、操作にはまだ慣れていないようだ。

 

「悪い、遅れた!」

 

 甲児がスマホの操作に手間取っている間に銀は到着する。

 

「10分遅刻よ! あれだけ張り切っていたのに、どういうことかしら」

 

 須美はジト目で抗議の声を上げる。

 

「色々あって……いや、悪いのは自分だけど。とにかくごめんよ~」

「事故とかにあったわけじゃないならいいんだ。でも、次からは遅れる時は連絡してくれるかい?」

「は~い。ごめんなさい、甲児先生」

 

 須美が銀に日ごろの態度を注意し、それを甲児がなだめている内に安芸先生も合流し、一同を乗せたバスは合宿の地である海岸へ向けて発車した。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 訓練場に着いた一同。安芸はジャージに着替え、須美、銀、園子も勇者服をまとい、甲児は私服のままZのマスクを抱え浜辺に集った。

 

「これより特訓を開始します。がその前に、あなたたちの連携不足を補うため、指揮を執るリーダーを決めたいと思います」

 

 安芸先生はそう言い、園子を見据えると

 

「乃木さん、あなたが隊長を務めてもらえるかしら?」

「え、私ですか!?」

 

 安芸の言葉に園子は驚いたように返す。

 この選択に、自分が選ばれるものだと思っていた須美は内心ショックを受けた。

 しかし、乃木の家は大赦の中でも大きな力を占めているためであろうと、即座に自分を納得させる。

 銀も、自分はリーダーなんてガラじゃないからと了承した。

 

「う~ん、できるかなぁ……」

「俺も手助けするから、やってみたらどうかな、園子ちゃん?」

「分かった。それじゃあやれるだけやってみるよ~」

 

 甲児の言葉もあり、園子が勇者たちの指揮をとることとなった。

 

「では、訓練を始めましょう。まずは兜先生、今からZに変身してみてください」

「わかりました」

 

 甲児は10数秒ほど深呼吸をしてからZのマスクを被る。

 展開された鎧が全身に装着された。

 暗闇の中深呼吸を続けることで精神を集中させ、1つずつチャクラを解放していく。

 第1のムーラダーラ・チャクラに光が灯り、続けて第2のスヴァディシュタナ・チャクラ、そして第3の

 

「長い!!」

 

 安芸の叫び声が響いた。

 

「長すぎですよ兜先生!一体、Zになるまでにどれほどの時間をかけるつもりですか!?」

「い、いや……しかしですね……集中するためにはこうするしか……」

「バーテックスはそこにいるだけで樹海を侵食していきます。その結果現実世界に被害が出る。そうなる前には一刻でも早く倒さなければならないんですよ?」

「うっ、その通りです。はい……」

「兜先生には別の訓練メニューが必要ですね」

 

 結果、甲児は1人だけ少女たちとは別れ、変身時間を短くする練習をすることとなった。

 しかし、具体的にはどうすれば時間を短縮できるのかわからない。

 甲児は浜辺に正座してZのマスクを見据え、初めて変身した時の父の言葉を思い出す。

 

『甲児、Zはお前の精神力でコントロールできる。精神の力を解放せよ。強い意志で゙思ゔのだ』

 

 Zを操る術はすべてイマジネーションにある。

 甲児は正座したまま目を閉じ、瞑想を始める。

 頭の中で自身とZが一体化する様を強く、強く想像する。

 そしてマスクを被る。

 変化はない。

 そして装着した状態で、改めてZの装甲と自分の肉体が一体化するイメージを浮かべる。

 あとはそれをひたすら繰り返すのみだ。

 須美たちが3人でチームワークを強化する特訓をしている横で、甲児は1人淡々と己に課せられた訓練をこなしていく。

 

 訓練開始から数時間が経ち、浜辺は夕焼け色に染まる時刻となった。

 甲児はZのマスクを手に取り、それを頭にかぶる。

 同時に、人がかぶるには大きすぎるマスクは瞬時に甲児の頭にピッタリのサイズに縮み、首から下の鎧を展開していく。

 全身が甲冑に覆われると、直後に胸から腰にかけて取り付けられている4つの宝玉に光が灯った。チャクラが開かれた証である。

 

「ふぅ……」

 

 甲児は安堵の息を吐いた。数時間の反復運動の末に、ようやくZへの瞬時変身を成せるにいたったのだ。

 

「兜先生の方の訓練は、上手くいったようですね」

 

 声の方を向くと、安芸が立っている。今までずっと少女たちの方の訓練につきっきりだったのだ。

 須美たちの訓練はと言うと、飛んでくるバレーボールから銀を庇い彼女を目的地まで到達させることであるのだが、どうやらそれは失敗に終わったようだ。

 

「今日の訓練はここまでにしましょう」

 

 安芸の言葉で一同は練習を終了し、旅館へと帰って行った。

 甲児たちは温泉で汗を流すと、ジャージに着替え夕食のため部屋に集まる。

 テーブルの上には蟹や鯛の船盛りなどの豪華な食事が並んでいる。

 

「うお~、すっげ~! こんなゴチソウ、アタシは初めてだよ」

 

 銀は豪勢な食卓を見て目を輝かせた。

 

「確かにすごいなこりゃあ。かなり高そうだけど、本当にこんなに食べちゃっていいのかな?」

「お役目についている私たちに対する報酬、といった所じゃないでしょうか」

 

 甲児の疑問に須美が答える。

 4人は席に着くと、神樹様に感謝を捧げて手を合わせた。

 

「ねえねえ。今日の夕ご飯、甲児先生も加えた祝勝会ってことにしたらどうかな~?」

 

 園子が言った。アクエリアス・バーテックスと戦った後、少女たちは3人でささやかな祝勝会を行ったらしい。それに今度は甲児も参加させようということだ。

 

「いいね。んじゃ、乾杯しようぜ」

 

 銀がジュースが注がれたグラスを持ち、3人もそれにならってグラスを掲げる。

 

「それじゃあ、戦いの勝利を祝って乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 

 グラスの中身を一気に空けると、次いで食事に手をつける。

 今日1日動きっぱなしだった少女たちは特に空腹だったようで、美味しそうにご飯を口に運んでいた。

 甲児も、口には出さなかったが内心では4人でのにぎやかな食事を楽しんでいた。

 元の世界での食事は、ほとんど1人で行っていた寂しいものだったからだ。

 

「そうだ。せっかく親交を深めるんならさ、須美ちゃんも、銀ちゃんたちのことを名前で呼ぶようにしたらばどうかな?」

 

 甲児が食事の手を止めてそう言った。

 教師として少女たちの関係を見ていると、銀と園子は割と砕けた関係のようだが、須美は2人とは少し距離を開けているように感じられたからだ。

 

「いいですねそれ。アタシもこれからは須美って呼ぶことにするからさ」

「じゃあ私はスミスケ、は嫌なんだっけ。う~ん……じゃあ、わっしーって呼ぼう! 私のことはそのっちって呼んでほしいな~」

 

 乗り気な銀と園子に対して須美は遠慮しているようだった。

 

「安芸先生も言っていたけど、これからの戦いにはチームワークが重要になってくる。そのためには交流を深めることは必要だと思うんだ」

 

 甲児は言葉を続ける。

 

「それに戦いだけじゃなく、君たちには友達との付き合いを大切にしてほしいんだ。それはこれからの人生で絶対に大きな意味を持ってくる。俺も元の世界じゃ友達いなかったから、心からそう思うよ」

 

 甲児の言葉を聞いて、須美は恥ずかしげに了承した。

 

「分かりました。改めてこれからもよろしく、ぎ……銀、そのっち……」

「こっちこそ、須美」

「仲良くしようね~すみすけ」

 

 少女たちは嬉しそうに笑い合い、それを見る甲児もにこやかなほほ笑みを浮かべた。

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