合宿訓練の目的であるチームワークを高める特訓。
その成功を祝っての夕食も終え、甲児は自室へ戻ろうとしていた所を銀に呼び止められた。
彼女に連れられて来た場所はというと、そこは少女たち3人の相部屋である寝室だ。
「それではこれより、Zの必殺技開発会議を行います!」
銀が高らかに宣言する。
昼間の訓練の最中に彼女が口にした話の続きを、今行おうということだ。
わ~い、と園子はノリノリで拍手をする。当の甲児と須美に関してはいたって平常である。
「ちょっとお2人さん、テンション低いんじゃない?」
「そう言われても、私そういうことに詳しくないし……甲児さんはどうです?」
「実は俺も。子供の頃は女の子に交じってママゴトとかして遊んでたから、ヒーローものってよく知らないんだよね」
須美と甲児の言葉にガッカリする銀。テンションもダダ下がりである。
「ありゃりゃ、じゃあお話できないね~。それじゃあ、明日も早いしおやすみ~」
「待て待てーい! まだ9時になったばかりだぞ!」
園子はそう言って布団にもぐりこもうとするが、それを銀が阻止した。
「せっかく合宿の最終日なんだし、もうちょっとこう……盛り上がろうよ~!」
「話題が無いならいいじゃない。そのっちも言うように、明日も早いんだから」
「じゃあさ、Zの名前を決めようよ!」
「「「名前?」」」
銀の言葉に、甲児たちは揃って同じ疑問を口にした。
「名前って、『ゼット』っていうのが名前でしょ~?」
「それじゃ味気なくない? もっとヒーロー! って言うようなカッコいいネーミングが欲しいんだよな」
「ただの銀の要望じゃない……」
「甲児さん、Zってどういう意味なの?」
銀の質問に甲児は口を開く。
「父さんが見つけた物質の名前だよ。父さんは研究の中で、精神エネルギーと物質の中間に存在する新たな超物質を見つけたと言っていた。人類が知り得る最後の物質という意味で、アルファベットの最後の文字を当ててつけられたのが『超精神物質Z』なんだ」
銀は腕を組んで、う~んと考え込む。何かいいネーミングが無いか考えているのだろう。
そこに甲児はヒントとなる言葉を与える。
「そういえば父さんは、Zを身につけたものは神にも悪魔にもなることができると言っていたな……」
それだけで銀は妙案が閃いたように顔を輝かせた。
「Zの魔神だからZマジンガー……いや、マジンガーZだ!」
どう、カッコよくない? と皆に尋ねる。
「確かに、悪くないわね」
「私も、グッときたよ~」
須美と園子は受けがいいようだ。当人の甲児はというと
「ああ、俺も良いと思うよ。正義の味方って感じだ」
『マジンガーZ』。それが甲児に与えられた、新たな戦士としての名称になった。
そのあとも少女たちと甲児は様々なことを話した。
特に須美は、甲児から西暦時代の日本の様子を詳しく聞きたがっていた。
愛国心の強い彼女はその中でも日本軍の話への食いつきようがスゴく、目をランランと輝かせて聞き入る姿は年相応の無邪気な幼さを感じさせた。
話に置いて行かれた銀と園子は途中で眠りについている。
そんな軍ヲタトークに徹すること数時間、時刻は日をまたぐ直前の深夜と呼べる時間帯になっていた。
さすがにもう寝ようという話になった時、須美は甲児の顔に疲労の影があることに気づく。
「ごめんなさい、私の話に無理に付きあわせてしまって」
「須美ちゃんのせいじゃないよ。どっちかって言うと訓練の疲れが出たんだろうね」
「Zをまとっていても疲労はあるんですか?」
「父さんは、マジンガーになっている間は疲れを感じないと言っていたけど、どうやら俺はまだ使いこなせていないってことらしいね」
須美は甲児の顔をジッと見つめる。そこには訓練の疲労だけではない、何か別の心労があるように感じられた。
それを口にすると、甲児は頭をかき申し訳なさそうに話を続ける。
「訓練を受けて、俺って心底戦うことに向いてない人間なんだなって感じたんだ。きっと俺以外の人間がZになっていた方が、もっと君たちの力になれていたんじゃないかって考えてしまうよ」
甲児はこれまで年長者として、また男としてそれらしく振舞おうとしてきたが、ここにきてつい弱音を漏らしてしまった。
そんな落ち込み気味の甲児の手を、須美は優しく握る。
「そんなことはありません。甲児さんは初めて会った時も、あんなに勇敢に戦ったじゃありませんか」
初めてのお役目の時に相対したアクエリアス・バーテックスとの戦いを思い起こす。
「買い被りすぎだよ。俺はあの時本当は、怖くてガタガタ震えていたんだ。体が竦んでしまって、すぐに動き出すことができなかった」
「そんなに怖い思いをしても、私たちを助けるために戦場に飛び込んできてくれた。誰にでも出来ることじゃありません。甲児さんは勇気のある人です」
須美は甲児の手を握ったまま、その瞳をまっすぐに見つめ微笑んだ。
「私や銀、そのっちが勇者であるように、甲児さんがZであることに変わりはない。あなた以外にZなどありえない」
そう力強く断言した少女の無垢な心のおかげで、甲児の中にあるモヤモヤも晴れた気がした。
「ありがとう須美ちゃん。俺、まだ頼りないかもしれないけど……これからも精一杯やってみるよ。君たちも、この世界も、これ以上バーテックスの好きにはさせない。一緒に救ってみせよう」
「はい!」
敬礼する須美。甲児も習って敬礼で返す。2人のにこやかな笑顔が静かに流れた夜だった。
◇ ◆ ◇ ◆
合宿3日目にして最終日。
訓練は滞りなく終わったが、須美はこの日の朝も遅刻してきた銀のことを妙に思い、ついには彼女が何をしているのかを突き止めようと行動を開始した。
訓練を終え帰るまでの自由時間で、銀は弟たちにあげるお土産を買いに向かった所だ。
須美は園子と甲児を連れ、銀にバレないよう距離をとって彼女の後を追跡する。
「何だかワクワクするね~」
「うーん、保護者として止めた方がいいのだろうか……」
銀の背を見ながら呟く園子と甲児。須美は何故持っているのか、双眼鏡を覗き銀のことを監視している。
「あっ! 2人とも、あれ!」
何かに気づいた須美の声に反応して、甲児たちもその方向に目をやる。
見ると、銀は道中で人に声をかけられている所だった。
立ち止まり、身振り手振りで何かを教えている。どうやら道を尋ねられた様子だ。
道を教えた銀は再び歩みを進める。
しかし1分と歩かないうちに、彼女はまた通行人から道を尋ねられていた。
それだけに止まらず、散歩中に逃げられた犬を掴まえたり、迷子になった子供の親を見つけてあげたりなど、どういう訳か銀は道中で様々なトラブルに巻き込まれている。
「こういうのって巻き込まれ体質って言うんだっけ~?」
「これも勇者だからかしら」
「……大変だな勇者は」
無論、勇者だからトラブルに巻き込まれるという因果関係はないだろう。これは銀の生まれついての運命なのだろうか。
しかし、これらの不幸に見舞われたとしても、いちいち相手をする必要もないはずだ。
これらに律儀に対応し、トラブルを解決していくのが銀という少女の誠実さであるだろう。
見れば、銀は女性が落とし道に散乱した果物を拾い集めていた。
「もう見ていられないわ。私たちも行きましょう」
見かねた須美が銀の下に向かい、園子と甲児も後に続く。
そして、現れた3人に驚きながらも果物を拾う銀を手伝っていく。全てを拾い終えた後で、女性は礼を告げ去って行った。
「3人とも、なんでここにいるんだ?」
ジト目で須美を、特にその手に持つ双眼鏡を見ながら銀が尋ねる。3人はそれに誤魔化すように乾いた笑いを返す。
「それにしても、偉いな銀ちゃんは。こんな誰にも知られない所で人助けに励んでたなんて」
甲児の言葉に銀は頬を染める。
「べ、別にそんな大したことじゃないですよ」
「謙遜することないさ。そこは君のいい所なんだから、胸を張っていいんだよ」
そう言って甲児は銀の頭を撫でる。銀は嬉しそうにそれを受け入れた。
「これは通信簿の評価にも加点をしないといけないな」
「マジで!? やったー!」
甲児は珍しく教師の顔を覗かせた。喜ぶ銀を見て須美と園子も笑顔になる。
フイに風鈴の音が響いた。少女たちの顔に緊張が走る。
「バーテックス! もう来たの!?」
「まだ時期的には余裕がある筈じゃ……!?」
光が満ち、世界は結界の中──樹海──に塗り替えられた。
スマートフォンを取り出すと、探知ディスプレイには大橋の外から侵入してきつつあるバーテックスのアイコンが表示されていた。
しかしこの場は大橋からはかなり離れた位置にある。
「どうしよう~。このままじゃ間に合わないよ~」
園子が困り顔で声を上げた。
「大丈夫だよ」
甲児は念のためにと背負っていたリュックサックの中からマジンガーのマスクを取り出し、それを被りマジンガーZに変身した。
少女たちにも変身を促し、3人も勇者装束に身を包む。
「どうするんですか?」
「訓練で身に着けたことを生かすんだよ」
マジンガーは3人の少女を抱きかかえると、そのまま空へと浮かび上がった。
「そっか~。飛んでいけば、走っていくより早く着くね」
「そういうこと。皆、落ちないようにしっかりつかまっていてくれよ」
「すぐに倒して、銀のお土産を買い直しに行きましょう」
「よーっし、マジンゴー!」
両手に須美と園子を抱え、銀を背中に乗せたZは彼女の掛け声を合図に、一直線にバーテックスの下へ飛んで行った。
◇ ◆ ◇ ◆
時速数百キロの速度で飛行するZのおかげで、勇者たちは訓練場の海辺から大橋まで10秒もかからずに到着した。
上空で静止しつつ、大橋の向こうから姿を見せた第3のバーテックスの姿を確認する。
巨大な体躯に、4本の山羊の角を思わせる部位を備えた異形が樹海を進行してきた。
須美は矢をつがえ、
「先手はこちらが……」
だが、害意を察知したのかカプリコーンは、須美が矢を放つより先に霧状のガスを4人に向けて放射してきた。
「!? マズい!」
マジンガーは咄嗟に3人を庇うために、勇者たちを自身の体から振り下ろした。
勇者の身体能力なら、この高さから落下しても怪我はしないという判断からだ。
だがZ自身は攻撃を避ける間もなく、その身にガスを受けてしまう。
「甲児さん!」
落下中の勇者たちは、園子が槍を傘状に展開したことでそれをパラシュート代わりに利用、3人は手を繋ぎゆっくりと下降していく。
一方のZはガスの中でもがき苦しんでいた。
どういう成分のものか分からないが、これは毒だ。
一呼吸吸い込んだけで息ができなくなり、体の中に焼けつくような痛みを覚えた。
意識が乱れ、飛行能力を維持できなくなったマジンガーは重力に引かれるまま地上に落下してしまう。
カプリコーンは地上に叩きつけられたZに、さらに毒のガスを浴びせかける。
「グ……あぁ……ッ!」
(マジンガーZになれば呼吸をする必要もないと父さんは言っていた。なのに息ができないのが苦しい! やはり俺は、まだZになりきれていないのか!?)
ガスから脱しようにも、すでに毒の猛威はZの全身に行きわたり手足を自由に動かすのも困難になっている。
「銀! 手を離して!」
今だ降下中の勇者たち。地上まではあと僅かだが、甲児の危機を放置はできないと須美は自ら落下することで、空中にその身を置きながらバーテックスに向けて矢を射かける。
矢が当たったカプリコーンの体は一部が砕け、またZへの攻撃を中断させることもできた。
地上に着地した須美に続いて、園子と銀も降下を終える。
マジンガーへの攻撃を邪魔されたバーテックスは、お返しとばかりに勇者たちに毒の霧を噴射する。
「散開!」
須美の掛け声で勇者たちは三方に別れガスを避けた。
「今度はこっちの番だ!」
二振りの斧を構え突撃しようとする銀だが、突如起きた地震に足を取られる。
これは自然現象の地震では無い。カプリコーンが自らの力を使い大地を揺らしているのだ。
銀も園子も揺れでバーテックスに向かって行くことができず、地面に両手をつけている。
須美も狙撃で地震を止めようとするが、振動で弓の照準が定まらない。
強烈な振動で樹海にもダメージが伝わっていく。このままでは現実に被害が出てしまう。
一方の甲児も毒で息も絶え絶えになりながら、何とかして加勢できないかと考えあぐねていた。
毒のダメージと地震の影響で、もはや立ち上がることも難しい状況だ。少女たちの姿を見ていることしかできないのか……。
カプリコーンは揺れで動けない4人の姿に勝機を感じたのか、さらに攻撃に転じる。
4本ある角の内、後ろの2本で地震を起こし、前の2本を須美と銀に向ける。
角は高速で回転を始めると、爆音と共に射出。2人の勇者目がけてドリルの様に突き進んでいく。
避けられない。おまけに須美と銀には園子のような攻撃を防ぐための防具もない。
甲児は毒で力の入らない腕を無理に上げる。それでカプリコーンの攻撃を止めようとでもしているように。
(せ、せめて……腕だけでもあそこへ行けたなら……!)
その意志にZが応えた。
差し出した両腕の肘の部分から炎が噴射されると、切り離された両下腕がミサイルの如き勢いで発射された。
両腕は凄まじい速度でカプリコーンが撃ちだした角にぶつかると、勢いそのままに2本のドリルと化した角を粉砕する。
「スゲー! マジンガーZの必殺技、『ロケットパンチ』だ!」
銀が歓声を上げる。
慌てたカプリコーンは残された2本の角を間髪入れず、再び須美と銀に向けて放った。
「アタシに1度見た技は効かないッ!!」
銀は手にした斧を正面から角ドリルに叩きつけ、その勢いを相殺する。
須美に向かって来ていた攻撃は、横から飛び込んできた園子が傘を展開し受け止めた。
角を全て撃ちだしたせいで地震は止まり、そのおかげで自由に動けるようになったのだ。
「ワッシー、今の内に!」
須美は弓を構えると、エネルギーをチャージしてバーテックスに射かける。
矢は胴体に直撃し、カプリコーンの体にヒビが入った。
「この程度では済まさないわ」
須美はさらに何本もの矢を連続して放つ。これまでより格段に投射速度が上がっているのは訓練の賜物だ。
カプリコーンの体に入った亀裂は見る間に大きくなり、ついには耐え切れずその身を完全に砕けさせる。
バーテックスが倒されたことで、園子と銀が抑えていた角も力を失い地に落ちた。
戦闘不能となったカプリコーンを確認した3人の少女は、未だ倒れているZの下に駆け寄る。
「ぅ……む……」
呼吸をすることも困難だった甲児だが、よろよろと力無く立ち上がる。
「大丈夫ですか、甲児さん!?」
「あぁ……。どうやらバーテックスを倒したことで、毒の効力も無くなったみたいだ。まだちょっと苦しいけどね」
その言葉に少女たちもホッと息をつく。
戦いも終わり変身を解こうとした須美だが、そこであることに気づいた。
「樹海化が……解除されない……?」
すでにカプリコーンの残骸は、神樹様が行った鎮火の儀で結界外へ排出されている。
もう樹海の中に敵はいない。だというのに、未だ戦闘フィールドは解かれる気配が無かった。
「!!」
突如強烈な殺気を感じた甲児は、3人の少女を守るために前面に立つ。
そこに光りを物質化した1本の矢が、目にも映らぬほどの速さで飛んできた。
矢は少女たちを庇ったマジンガーの喉に深々と突き刺さる。
「グハァッ!?」
Zは格子状のマスクから血を吐き、地面に膝をついた。
矢が飛来してきた方角……大橋と外界との結界の通り道の空間が歪む。
結界を抜けてきたのは第4のバーテックス、
さらにその後から、
「ウソ!?」
「連続で来た! しかも3体も!?」
園子と銀が目を見開いて驚く。
バーテックスの襲来は周期的であり、大赦はそのパターンを把握している。
最近になって徐々にその周期は乱れつつあったが、ここまで予測と違うことは初めてだ。
そして、新たな脅威はそれだけに止まらなかった。
結界を抜けてくる外敵の影は数を増していく。
これまでに勇者たちが撃退してきた3体以外の、12星座の残る9体のバーテックスが総攻撃を仕掛けてきたのだった。
プロットを組み直したのであと2話で終わらせるつもりです
今しばらくお付き合いください