兜甲児も勇者である   作:ほろろぎ

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第9話 樹海戦乱編

 3体目の敵……カプリコーンを倒したのもつかの間、勇者たち4人の前には残る9星座全てのバーテックスが集結していた。

 バーテックスは原則的に、1度の襲撃で1体ずつが現れるものとされてきた。

 それがここにきて総攻撃を仕掛けてくるとは。

 

(これまでと違うことといったら、甲児さんがいること……。バーテックスがマジンガーZの力を恐れているの……?)

 

 須美は推察する。

 意志の力が全ての源であるマジンガーならば、経験を積み重ねることでその力も限りなく上昇していくはずだ。

 おそらくバーテックスは、甲児がZの持つ全ての力を制御可能となる前に始末しようと考えたのだろう。

 マジンガーの鎧をまとっている甲児は、自身の喉に刺さった矢を無理やり引き抜く。

 矢が刺さっていた穴からは血がとめどなく流れ、傷がすぐに塞がる気配が無い。

 カプリコーンの毒によって精神も肉体も疲弊し、Zの回復能力がうまく機能しなくなっているのだ。

 甲児はマジンガーマスクの下で冷や汗をかいていた。

 

(マズイぞ……連戦に加えて一気に9体もバーテックスが攻めてくるなんて……)

 

 黙り込んでいる銀と園子の方に視線を向ける。

 2人の少女もこの急展開に焦りを感じている様子だ。

 

「あはは……私たち、大ピンチってやつだね~……」

 

 園子は乾いた笑いと共に呟く。

 口調は普段ののんびりしたものだが、その顔は緊張でこわばっていた。

 しかし樹海内部にまで敵が進行してきている以上、撤退することはできない。戦うしか選択肢はない。

 いかな劣勢であろうと負けることが許されない不安が、重圧となって4人の心にのしかかる。

 その中で銀が声を発する。

 

「逆に考えよう。確かに大ピンチだけど、あいつら全部やっつけたらお役目も終了。アタシたちはもう戦わなくて済むし、みんなのことも守れるんだ」

 

 この場さえしのげば、四国には平和が訪れる。もう人々が危険にさらされることもなくなるのだ。

 しかし、言うは易いが行うのは一筋縄ではいかないことは必至。

 そのことは銀自身も理解しているが、それでも彼女は3人を鼓舞するように言葉を続ける。

 

「やってやろうよ。アタシたちは勇者なんだ。勇者は強い! 勇者は負けない! 正義はアタシたちにある!」

 

 無理して普段通りの振る舞いを見せる銀を見て、須美たちの緊張も解された。

 

「銀に言われると、なせば大抵なんとかなる気がしてくるわね」

「ミノさんのそういう自信に満ち溢れてる所、私は好きだよ~」

「そうだな。やる前から諦めてちゃ、何も始まらないもんな」

 

 4人の心に闘志がみなぎってくる。

 甲児が拳を差し出すと、少女たちも何も言わずともそこに自らの手の平を重ねた。

 

「くれぐれも無茶だけはするなよ」

「甲児さんもね~」

「最後まで気を抜かずにいきましょう」

「分かってるって。それで、お役目を果たしたらみんなで夏祭りに行こう」

 

 銀の約束に3人は頷く。決意は固まった。

 迫ってくるバーテックスの集団に勇者たちは駆けていく。

 

 4人が迫ってくるのを止めようと、まずはタウラスが背に生やしている鐘を鳴らし、大音量の怪音波でもって足止めを図る。

 音の波動は目に見える空間のゆがみとなって4人を襲うが、彼女たちはそれを無視。

 効いてはいるのだが気合で耐えて、足を止める事無く敵に対して突っ込んでいった。

 続けて、ヴァルゴが下半身から爆弾である小型の分身体を放出してくる。

 数10機の小型爆弾は4人に飛んでくるが、それらは園子の槍を展開した傘で防がれ、傘の死角から飛んできたものはマジンガーの剣さばきで全て切り落とされた。

 ヴァルゴは近づいてきた4人に、今度は触手でもある2枚の布状の腕で攻撃を仕掛けてくる。

 

「ここは私が!」

 

 触腕は須美の放った矢で切り裂かれ、その威力を失う。

 

「ここまで来れば、あとはミノさんよろしく~!」

「おうよ!」

 

 タウラスのすぐ側まで接近できた。

 銀は飛び上がると、タウラスの背の鐘に斧を叩きつけ一撃でこれを砕く。

 さらに、二振りの斧をめったやたらに振り回し、暴風のごとき勢いでタウラスバーテックスそのものを撃破するに至った。

 

「よっしゃ! まずは1体!」

 

 怪音波が鳴りやみ軽快な様子の銀は、再び3人と合流する。

 

「お次はどいつだ」

「……?」

 

 次の標的を決めようと周囲を見渡すと、そこで園子はおかしなことに気づいた。

 4人を囲むように佇んでいるのはヴァルゴ、アリエス、キャンサー、サジタリアス、スコーピオン、それらから少し離れた所にレオ。

 

「あれ~、数が足りないよ?」

 

 いつの間にか、ジェミニとピスケスの姿が無い。

 須美が即座にスマートフォンを取り出し地図を開く。

 マップには、4人を無視して神樹に向かって突き進んでいく2体のバーテックスの姿があった。

 

「ここは私とミノさんで何とかするから、甲児さんとワッシーは向こうをお願い!」

 

 即座にチームを二分する判断を園子が下す。

 

「すぐに戻る!」

 

 少女2人だけで6体のバーテックスを足止めすることは無謀としか思えなかったが、それでも甲児と須美は2人を信じてこの場を任せた。

 須美を抱えたマジンガーは飛翔して敵の囲みを抜け、進行する2体のバーテックスの下を目指す。

 地上を爆走するジェミニの姿は巻きあがる土煙のおかげですぐに発見できた。

 一方のピスケスは能力により樹海の下を泳ぐようにして進んでいるため、揺らめく影でしかとらえられない。

 

「このまま攻撃しても樹海を傷つけてしまうな」

「何とかして地上に引っぱり出せれば……」

 

 普通に腕を突っ込んでも、樹海の根が邪魔して到底届きそうにない。

 しかし今のZには身に着けた新たな技がある。

 

「そうだ! ロケットパンチなら……!」

 

 放たれたパンチは樹海の根の隙間を縫って地下へ潜航、ピスケスを掴まえると大出力のロケット推進によって無理矢理地上へ引きずり出すことに成功した。

 さらに撃ち込まれるもう1発の拳に加え須美のチャージショットの威力もあり、体を貫かれたピスケスはそのまま地上へ落下、再び動き出すことはなかった。

 残るジェミニも、隙をついての一点突破型だったためさしたる攻撃力も無く、難なく倒すことができた。

 2人はすぐさまUターンし園子たちの下へ引き返していく。

 

 戻ってきた甲児たちを待っていたのは驚愕だった。

 6体だったはずのバーテックスの数が、どういう訳か10体に増えていたからだ。

 更なる増援かと思ったが、アリエスと同じ姿のものが何体か見受けられる。

 どうやら攻撃すると、そこから分裂、増殖し数を増やすというのがアリエスの能力のようだ。

 

 4体に増えたアリエスが一斉にZに襲いかかる。しかしうかつな攻撃は敵の数を増やすだけになるので甲児も反撃ができない。

 スコーピオンは必殺の威力を持つ毒の尾で銀を狙い、須美と園子はキャンサーの鋼鉄の如き頑強な装甲に攻めあぐねている。

 苦戦する4人にヴァルゴの子機爆弾と、サジタリウスの矢の雨が降り注いだ。

 4人は一カ所に固まると、硬質化させ広げたマジンガーのマントと園子が展開した槍の傘でこれをしのぐ。

 

「はぁ~、さすがにしんどい……」

「手が痛くなってきたよ~」

 

 銀と園子が呟く。

 

「やっぱりあれだけ大勢で来られると、一筋縄じゃいかないな」

「バーテックスの連携攻撃、やっかいですね……」

 

 甲児と須美もつい弱音を吐いてしまった。

 防御の下で4人は荒れていた呼吸を整えつつ、どう反撃すべきかを考える。

 

「1体ずつみんなで一斉にズガーンとやっつけちゃいたいけど、私たちが固まってたら向こうも攻撃を集中させちゃうから、ここは別々に行動するのがいいのかな~?」

 

 リーダーを任されている園子が最初に口を開いた。

 

「1対1にもってくわけか。でもそうすると向こうは6匹余るぞ」

「今の私たちで複数のバーテックスを相手にするのは無理が過ぎるんじゃないかしら?」

 

 銀と須美が意見を述べる。

 

「じゃあこうしよう。俺が6体引きつけるから、3人には残り1体ずつ引き受けてもらうってことで」

 

 甲児はそう言いながらも、内心では少女1人であの巨大な怪物1体を相手させることはやらせたくないことではあった。

 かと言って、自分1人で10体すべてを相手取ると言えるほど慢心はしていない。

 なにより、この共に戦う仲間たちの力を信じたいという思いが強かった。

 3日間とはいえ訓練を共に過ごした彼女たちの力量は、当初のそれより勝っているだろうから。

 そんなことを考えている甲児の横で、園子はなにやら不思議な動きをしていた。

 両手を円を描くように動かし甲児に向けている。

 

「園子ちゃん、なにやってるんだ」

「アルファー波を照射してるんよ~」

「……なんで?」

「癒しなんよ~。疲労回復に効果てき面なんさ~。ほら、ワッシーとミノさんも一緒にやるんよ」

「「あ、アルファー波。アルファー波……」」

 

 園子につられた須美と銀も一緒になり、滑らかな動きで甲児の体にアルファー波を向ける。

 敵に囲まれ危機的状況にあるというのに、そのどこか気の抜けた雰囲気に甲児の心は和んでいた。

 心なしか本当に疲れがとれていく気もしてくる。

 そんな甲児のリラックスした精神にZが反応した。

 マジンガーの鎧が濃いブルーから淡い緑色(グリーン)に変色していく。

 体色の変化に伴って、マジンガーの体全体から波動が放出され始める。それはアルファー波であり、イコール超能力の波動でもある。

 

「すごいな、アルファー波は」

 

 新たな能力の目覚めを感じ取った甲児は、呆れたような感心したような声を上げた。

 直後、超能力によって広がった甲児の知覚に大きなエネルギーが感じられた。

 それは強大で勇者数人分の力に匹敵する勢いであり、さらに止まることなく膨張を続けている。

 バーテックスが何かを企んでいることは明白だ。

 これ以上休んでいる暇はないと、4人は攻撃に転じることにした。

 

「いくぞ!」

「「「はい!」」」

 

 Zは防御のために全面に張っていたマントをどけると、同時に超能力によって手の平から竜巻を発生させる。

 竜巻は周囲に浮かんでいたヴァルゴの小型爆弾を吹き飛ばし、降りそそぐサジタリアスの矢をも跳ね返した。

 攻撃が止んだ一瞬のタイミングをついて、甲児と須美たちはそれぞれ反対の方向に飛び出す。

 

 Zを追って4体のアリエスとヴァルゴが動いた。

 少女たちの方にはサジタリアス、キャンサー、スコーピオンが向かう。

 レオは動かなかったが、その正面には大きな火の玉浮かんでいた。

 先ほど甲児が感じた力の高まりの正体がこの火球であろう。

 その火球は真っ直ぐに神樹の方に向けられている。

 

「! まさか神樹様を先に滅ぼすつもりか!?」

 

 バーテックスの狙いに気づいた甲児は慌てて引き返そうとするが、そうはさせじとアリエスとヴァルゴが立ちはだかった。

 神樹が狙われていることを察知したのは須美たちの方も同じであったが、同様に3体のバーテックスに阻まれ動けないでいる。

 レオの火球はレオ自身よりも巨大になっていた。もはやいつ放たれてもおかしくない。

 

「邪魔をするなー!」

 

 刀による切断ではアリエスの体を分裂させてしまうと思った甲児は、拳による殴打で攻撃を行う。しかしパンチだけでは致命打を与えられない。

 

(本体だ……本体がどれか分かれば倒すことはできるはずだ!)

 

 カプリコーンの毒がカプリコーン自体を倒したことで解除できたように、アリエスも本体を撃破してしまえば残りの分身も消えるはずだと甲児は考える。

 そしてそれは正解だ。問題は、どれが本体かを見抜く時間がもはや甲児には残されていないことだった。

 レオは、ついに火球を放ってしまった。

 熱風をまき散らしながら、直径50メートルを超す火の玉が神樹に向かって飛んでいく。

 

「させるかーッ!!」

 

 甲児は叫んだ。

 瞬間、マジンガーの姿がアリエスたちの前から消え、次に火球の直線状に現れる。

 超能力による瞬間移動。甲児自身どうやってそれを成しえたか分からなかったが、レオの攻撃を何とかして止めなければという思いをZが叶えたのだ。

 両手を広げ仁王立ちしたマジンガーZが火球を受け止めた。

 超高温によって、Zの鎧が火にくべた飴玉のように溶け始める。この鎧は甲児の皮膚と化しているため激痛が彼を襲った。

 さらに火球は形状を維持できず大爆発を起こす。爆風は強烈な衝撃波となって、樹海の中を吹き抜けていった。

 爆発でZの体は地面に激しく叩きつけられる。

 マジンガーの鎧は全身に渡って大きな亀裂が走り、一部は砕け、そこかしこから血が溢れ、グリーンだったボディーは鮮血で真っ赤に濡れている。

 爆発の衝撃と蓄積された疲労で朦朧とした意識の中、甲児は3人の少女たちに視線を向けた。

 須美たちは訓練で得た連係プレーで、必死に3体のバーテックスを相手にしている。

 しかしバーテックスの方も、ジェミニが撃ちだした針の雨をキャンサーが反射してあらゆる方向から攻撃し、その隙をスコーピオンがつくという連携を見せている。

 少女たちは次第に劣勢に追い込まれていき、ついにはキャンサーの尾による横なぎをダイレクトに喰らってしまう。

 3人は血を吐き、人形のように地面を転がっていった。

 須美と園子は痛みで起き上がることができず、2人より防御力の高かった銀だけが辛うじて立ち上がることができた。

 体のいたる所から血を流しながら、それでも2人の友を守ろうと銀は怪物の前に立ちはだかる。

 そんな少女にサジタリアスの矢が、キャンサーの鋏が、スコーピオンの尾が、必殺の威力を持って放たれた。

 

「や……やめろおおおお!!」

 

 甲児は力を振り絞って、銀を攻撃から守るように彼女の前にテレポートした。

 だがひび割れ砕けたZの鎧では、3体のバーテックスの同時攻撃は防げないだろう。

 ゆえに甲児は覚悟を決め、これまで使用しなかった残る3つの内の、さらに2つのチャクラを解放した。

 喉と眉間の宝珠に光が灯り、強化された超能力によってZの周囲にバリアーが展開される。

 バリアーは敵の攻撃を防ぐにとどまらず、攻撃を仕掛けてきたバーテックスにむかって威力そのままに跳ね返した。

 さらにZの格子状のマスクがバキバキと音を立て裂けると、それは獣のような鋭い牙をもった口に変化する。

 

「オオオオオオオオッ!!」

 

 マジンガーの口から、雄叫びと共に強烈な暴風が放たれた。風は竜巻となり3体のバーテックスを飲み込む。

 Zが放った風には強力な酸が含まれており、強酸の嵐(ルストハリケーン)に巻き込まれたサジタリアス、キャンサー、スコーピオンの体はあっという間に腐食し、砂像のようにボロボロに崩れ去っていった。

 

「甲児さんスゲェ! よーっし、アタシも……?」

 

 残るバーテックスに追撃を仕掛けようとした銀だが、甲児の様子がおかしいことに気づいて動きを止める。

 マジンガーの体はグリーンから完全なブラックに変色し、さらに鎧の各部がささくれ立ったように変形を始めた。

 手足の先には鋭い爪が生え、背にしたマントは2枚のコウモリを思わせる翼になっている。

 

「こ……この姿は……」

 

 背後で倒れていた須美が声を漏らした。

 今のマジンガーの形態は、以前に彼女が夢に見てきた悪魔とまったく同じ容姿であるからだ。

 異様な姿になったZに脅威を覚えたのか、今まで静観していたレオが動く。

 神樹に放ったものよりは小型だが、それでも強力な威力をもつ火炎弾をZに向けて放ってきた。

 同時にヴァルゴも数10の爆弾を生み出し、アリエスも分身体と思われる数体が特攻を仕掛けてくる。

 

 マジンガーは今度はバリアを張らず、レオの火炎を真正面から受け止めた。

 止められた火炎はどういう訳か、見る間に縮小し消滅してしまった。

 次いで起きたヴァルゴの子機爆弾による爆発も、同様に火の手が広がることなく消え失せる。

 

「……バーテックスの攻撃を……食べちゃった……?」

 

 怪我の痛みを押して起き上がった園子が呟く。

 その通り、マジンガーはバーテックスの放った攻撃を自身のエネルギーとして取り込んだのだ。

 園子の声が聞こえたのか、バーテックスも動揺している気配がする。

 向って来る複数のアリエスを悠然と見やるZ。その胸の装飾板が赤く輝き始める。

 

「グオオオッ!!」

 

 赤熱化したマジンガーの胸の装飾から、目も眩むばかりの強烈な熱波が放射された。

 胸からの放射(ブレストファイヤー)はアリエスを、分身も本体も区別なく飲み込み一気に蒸発させる。

 さらに熱線はヴァルゴとレオをも包み込んでいく。

 2体とも抵抗を試みるがマジンガーの攻撃はそれを許さず、侵攻してきたバーテックスはここに残らず殲滅されることとなった。

 

「……やった……。やったよ、須美! 園子! バーテックスは全滅だ!!」

 

 銀は喜びの声を上げ2人の友人に駆け寄る。

 園子も同様に喜んでいるが、須美だけは不安のまなざしでZを見ていた。

 

「……甲児さん?」

 

 須美の声に振り向いたマジンガーの異様な姿に、少女たちは声を無くす。

 耳まで裂けた口から覗く牙、血走った目は正気を失っているようにしか見えない。その顔はまさしく悪魔(デーモン)のそれだ。

 悪魔と化したZ(デビルマジンガー)は爪を構えながら、ゆっくりと少女たちに歩みを向ける。まるで彼女達が敵であるかのように。

 

「ちょっとちょっと! どうしちゃったのさ!?」

 

 変わり果てた甲児の様を見て銀が叫ぶ。

 Zが銀に近づく。すでに爪の届く距離だ。Zは腕を振り上げる。銀はそれを受け止めようと斧を構える。

 しかし、Zは振り上げた腕を降ろすことなくその場で固まる。自分の中にある何かと葛藤しているようだ。

 

「うあああああ!?」

 

 やがて甲児はZの顔を掴むと、力任せにそれを引きはがした。変身が解け、元の彫像に戻ったマジンガーマスクが樹海に転がる。

 人間の姿になった甲児はガクリと樹海に倒れ伏した。少女たちが慌てて駆け寄ってくる。

 

「す、すまない。意識を持って行かれてたみたいだ……」

 

 肩で息をしながら甲児は言う。その背中を落ち着くように須美と園子が撫でている。

 

「何が起きたのかよく分かんないけど、これでバーテックスは全部やっつけたんだ。もう戦わなくて済むし、甲児さんもこれ以上変身しなくていいなら大丈夫なんじゃない?」

 

 そう銀が言った。

 

「ええ、そうね」

「これにて一件コンプリートだね~」

 

 全員が肩の荷が下りたような、のんびりした気分になっていた。

 しかし穏やかな雰囲気を壊すように、これまで倒してきたバーテックスの死骸から突如として、逆三角錐の形をした結晶状の物体が浮かび上がってきたではないか。

 

「な、何だあれ!?」

 

 結晶は結界の内と外を繋ぐ大橋の境界に飛んでいった。一同は唖然としてその様を見送っている。

 結界の境界に到着した結晶群は、その結界に干渉し無理やり外との境界をこじ開けていく。

 開かれた結界から覗く外の世界、それは歴史で語られる廃墟と化した原野ではなかった。

 結界の外は文字通り、火の海に包まれている。燃え上がる炎の赤が、宇宙の暗黒のなかで輝いている。世界の外は赤と黒の2色、それだけで塗りつぶされていた。

 

「こ、これは一体どういうことなの……」

 

 須美も、園子も、銀も、この世界の住人では無い甲児さえも、結界外の光景に言葉を失った。

 彼女たちを驚愕させたのはそれだけではない。

 結界の外にもいくつかの結晶体が浮かんでおり、それにまとわりつくようにして白い袋状の物体──星屑──が集い、これまで打ち倒してきたバーテックスの体を再生させている様が目に飛び込んできたのだ。

 バーテックスは12種を倒しただけでは終わらない。倒しても際限なく再生産される代物だったのだ。

 出し抜けに、蠢く星屑たちの背後の空間……宇宙が割れた。

 裂けた宇宙からは、金色に輝く瞳のような物体が覗いている。

 瞳は甲児を見ていた。そして瞳から雷光が放たれ、甲児の体を直撃する。

 

「ガッ……!?」

 

 雷光を受けた甲児は一瞬体を硬直させ、そうして力無く倒れ伏す。

 

「甲児さん!!」

 

 少女たちは甲児に声をかけるが反応はない。気絶しただけにしては異様だ。呼吸は徐々に弱まり、肌は土気色に変わっていく。

 謎の存在の攻撃を受けて今、兜甲児の命は潰えようとしているのだった。

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