藤丸立香達の乗る車両がアーカムへと入ると同時に誰もいなかったはずの向かいの席から気配を感じる。
その気配は人のものではない。
人のものどころか生き物の気配なのかすら怪しい。
背筋が凍る。
本能が恐怖を
悍ましさを
死を
絶望を
狂気を実感させる。
目をそらしていたい。だが逃げるわけにはいかない。
気配のする方を見る。
それは人の形をしていた。笑顔を浮かべ優しそうな雰囲気を醸し出してる老紳士のように見える。見た目だけならただの人のようにも思える、服の下から見える顔のような何かさえなければ。
服の下から見えた何かはこちらに邪悪な笑みを浮かべてるようにも見える。
今まで感じたことのない恐怖が吐き気を催す。だがこれ以上は体が動かない。どうすることも
「何を呆けておるか、藤丸立香。目の前の敵に恐怖し動けなくなったなどと言うまいな」
ギルガメッシュが目の前の老紳士を見ながら声をかけてくる。
その声で少し恐怖が薄れる。薄れた恐怖を振り払い、前を向く。逃げたくなる恐怖を未だに微かに震えるマシュの手を握り、お互いに落ち着かせる。
その姿を見た老紳士が口を開く。
「なるほど、なるほど……仲間の声ひとつで恐怖を打ち払えるとは。その勇気、素晴らしい、実に素晴らしいなぁ。いやしかし、そうでなくては、そうでなければ君たちはこの町で生き残れはしないのだよ」
老紳士は優し気な笑みを浮かべたまま、興味深そうにこちらを見つめている。
「あなたは……?」
「私か? 私かね? 私はウェスパシアヌス。ブラックロッジのアンチクロスであり、君たちの敵であり、サーヴァントだ」
「ブラックロッジ……?」
聞きなれない言葉だった。だが、それよりも、目の前の老紳士ははっきりとサーヴァントだと、敵だと言った。
おそらく嘘ではない。だがなぜだろう? こんなにも目の前の存在がサーヴァントだということに違和感を感じるのは
「ふ、はははは! 笑わせるわ。貴様がサーヴァントだと? アンチクロスなどというただ崇拝するだけのものが我と同じ英霊を語るか!」
「そう言われてもだね。今はサーヴァントなのだよ。そうなっているのだよ」
表情に変化はあまり見られないがギルガメッシュの言葉には若干の怒りを感じる。
「すぐに動けず申し訳ありません先輩……手を握っていただけて少し恐怖が和らぎました。もう大丈夫です」
耳元でマシュが囁く。声が若干震えているが表情は落ち着いているように見える。
ウェスパシアヌスと名乗ったサーヴァントとギルガメッシュがにらみ合うように見つめ合う。静寂に包まれた空間で両者いつ仕掛けてもおかしくない雰囲気だ。
そんな静寂を打ち破るように前方の車両──クー・フーリンが向かった車両──から、ガンッと何かがぶつかったような大きな音が響く。
音が聞こえた車両から何かがゆっくりとこちらへ向かってくる。聞こえるはずがないのにしっかりと足音が耳に伝わる。何かが近づくたびに体の震えが戻ってくる。和らいだはずの恐怖がさらにより濃い恐怖となって押し寄せる。
体の震えが止まらない。
より強い死を感じる。
逃げなくては。
勝ち目などあるはずがない。
そんな思考が脳内で駆け巡る。
マシュやギルガメッシュは前方車両を見据えながら身構えてる。ギルガメッシュは立ち上がり戦闘態勢をとれているものの、マシュは盾を杖のようにして震えながらも何とか立っているように見える。
俺は立つことすらできない。声を上げることすら。
コツンコツンと聞こえる足音はついに止み、前方車両とこの車両の連結部につき扉を開ける。
扉の奥から現れたのは人/死だ。人外じみた美しさの男/獣だ。その姿に魅入られたかのように目が離せない。しかし、目の前のそれから感じるのは恐怖/絶望/死―いや、言葉では表せないほどの何かだ。
男はゆっくりと俺の方に藤丸立香に近づいてくる。俺のそばにいてくれていたマシュの横を通り過ぎ、目の前まで
「はじめまして、カルデアのマスター、藤丸立香。余はマスターテリオン。魔術の心理を求道するものなり」
彼は微笑みを浮かべる。その笑みに吸い込まれそうになる。
離れなければ/動けない
ギルガメッシュたちに助けを/口が動かない
逃げる算段をつけなければ/思考が纏まらない
「っ……マスター!」
マシュの声が聞こえた。しっかりと。
その声で思考が纏まり始める。恐怖はぬぐえないが意識ははっきりし始める。
「あなたが……あのサーヴァントのマスターなのか……?」
「いかにも。この者は余の持つ聖杯によって呼び出したサーヴァントだ」
「っ……!」
「そして余もサーヴァントだ。貴公がこの特異点を修復しようとするのであれば必ず倒すべき敵である。以後、お見知りおきを」
マスターテリオンと名乗るサーヴァントは敵と名乗りながらまるで握手を求めるように手をこちらへと伸ばしてくる。血で赤く染まった手を。
この男がやってきたのはクー・フーリンが向かったはずの車両側。なら、彼は? この男がここにきて彼が戻ってこないのは、この男の手の血は
「これは失礼、先ほど貴公のサーヴァントが槍で小突いてきたのでな。少しばかり返礼させてもらった」
やはり、クー・フーリンと戦い傷を負わせたのだ。いや、この男の言葉と外傷のなさからして戦いにすらなっていなかったのだろう。
こんな敵に俺たちは勝てるのだろうか。
「マスターよ、さっさと立ち上がらぬか!座ったままでは何もできぬままここで死ぬぞ!貴様が我のマスターであるというのなら、我の言葉にのみ耳を傾け気概を見せよ!」
「…っ、あぁ!戦おう、王様!マシュ!」
「はいっ!マスター!」
ギルガメッシュの言葉で立ち上がる。彼の号令のような声と言葉は勇気と力がもらえるような気持になる。
恐怖に呑まれ、何もできないなんてことはあっていいはずがない。ここで死んでは今までのことが全部無駄になる。こんなところで死んでなんていられない!
「ふっ、たわけ。何も立ってすぐに戦えというわけではない。衝撃に備えておけ」
ギルガメッシュはそういうと前の車両に視線を送る。すると、その車両から壁でも壊したかのような音が聞こえ、彼の声が聞こえた。
「嬢ちゃん、マスターが怪我しねぇようにしっかり防いでくれよ!
彼の宝具は本来投げることによって発揮される。その一撃が今この車両へと襲い来る。
彼の槍が届くのは一瞬だった。赤い一筋の光が一直線にマスターテリオンの背後へと迫り、ぶつかる。
衝撃波があたり一面に広がる。車両の窓は吹き飛び、壁や天井は変形する。車両のいたるところが今にも壊れんばかりに悲鳴を上げている。
俺はマシュや車両にしがみつき、なんとか吹き飛ばされそうになりながらも耐えている。
そんな惨状だというの俺の目に映るものは目の前のサーヴァント、クー・フーリンの全力の宝具が直撃したはずマスターテリオン。そのはずの彼は
――槍に貫通されることなく、表情も変えずにその場で立っていた。
「え…?」
「ほう。あの傷でまだ生きていたのか、アイルランドの御子よ!貴公の生命力には少しばかり驚かされた」
マスターテリオンは槍が貫き開けた天井から見えるクー・フーリンの方へと向きを変える。
槍が命中したはずの背中には一切の外傷が見られない。彼の宝具はいまだに何かにぶつかり、マスターテリオンを貫くことを妨げられている。
「これでもあんたに一切傷つけることができねぇとはな。マスターの前でかっこわりぃとこ見せちまったぜ」
「クー・フーリンっ!よかった、生きて…⁉」
天井の穴から降りてきた彼の心臓のあるはずの胸にはこぶし大の穴が開いていた。その穴からは後ろの壁が見えている。
礼装を使っての回復でもおそらく彼は助からない。ぎりぎり姿を保っている、そんな状態なのだろう。
それでもと、手を伸ばすもギルガメッシュに止められてしまう。
「駄犬にしてはよくやった。あとは我の任せておけ」
「けっ、気に食わねぇがこの有様だ。殿は俺がやってやるからさっさと行きな。…マスターのことは任せたぜ」
そこからの行動は早かった。
マスターテリオンの障壁に妨げられた槍を手元に戻したクー・フーリンがマスターテリオンとウェスパシアヌスへと槍を構え、襲い掛かる。
その隙に壊れた窓にギルガメッシュが人が通れるほどの穴に広げ、俺とマシュの手を引き、車両の外へと飛び出していく。
「…っ、クー・フーリン!」
「逃げ延びる時間は稼いでやるから後は頼んだぜ!マスター!」
クー・フーリンはギルガメッシュが開けた穴の前に場所を移動し、立ちふさがるように構える。その後ろ姿が一瞬見えたが列車は走り去り見えなくなる。
外へと出た俺たちはなんとか起き上がり、走り去った列車の方を見る。
「クー・フーリンさん…あの傷では…」
「傷心に浸っている場合か。あの駄犬に任せられたのは癪だが、奴は命を賭して貴様を窮地から逃したのだ。奴のためにも今はここから離れ対抗手段を見つけなければならん」
「あぁ…わかってる。行こう。マシュ、王様」
こうして、俺たちは一人のサーヴァントを失いながらもアーカムシティへと足を踏み入れた。
-----------------------------
「まだあのカルデアのマスターとは対話をしてみたかったのだが…」
「わりぃな。だが、マスターにあんたを近づかせるわけにはいかねぇ」
もはや興味をなくしたというように目の前の男は外を見る。隣の老紳士もこちらに興味がなさそうにしている。
それは敵意も感じられないほどに
「
「よい、放っておけ。もう何もできまいよ」
確かに槍を振るうことしかできず、宝具はもう放てない。それにもう魔力は底をついている。
だが、まだ戦える。この体は生きている。何もできないということはない。
「まだ終わりじゃ―」
「もう貴公には飽いた。余は貴公の児戯に付き合うつもりはない」
「――あ」
あぁ、地面が迫ってくる。
前に進んだはずだったが。
転んだのだろうか。
いや、違う。この感覚は落ちて――
いともたやすく、ここに一人の英霊は敗れた。
「さて次はどうしますかな?
老紳士は問う。
その身の下に巣くう何かとともに笑みを浮かべながら。
「決まっている。待つのだ」
青年は嗤う。
これから起こる何度となく経験したあの唯一の楽しみが。
「余に対抗するために召喚された大十字九郎とカルデアのマスター藤丸立香。彼らが出会い、ようやく始まるのだ。此度の闘争が!フ、ハハハ、ハハハハハハ!」
※使わないかもしれない設定
「やはり、カルデアにいる神性持ちのサーヴァントを彼のもとに届けなければまずいかもしれないな」
「何人か召集をかけて向かわせましょう。霊子通信もつながりそうにありせんし…」
不安が募る中、あるサーヴァントが入ってきた。エプロンを身にまとったアーチャー。エミヤだ。
「おや、どうしたんだい?」
「ダ・ヴィンチ女史。ここに皇帝ネロは来なかったかね?」
「いんや、見てないけど…」
「食事の途中で席を離れてから戻らなくてね、探してはいるがなかなか見当たらなくて困っているのだよ」
それは気になることだが、今はそれどころではない。
そのことに関しては彼もわかっているはずだが
「大変です!誰かが勝手にレイシフトを!」
「なんだって!」
サーヴァントといえしようと思って勝手にできるものではない。いったい何が…
それにいったい誰が
「レイシフト直前の映像出します!」
「あれは…赤色のドレスに金髪、皇帝ネロがいったいなぜ」
「レイシフト先から通信が来てます!」
「もう!次から次へといったいなにが!」
「あ、あー。聞こえるか。もしもーし。あんたらがカルデアでいいんだな?俺は大十字九郎。少し話がしたい」
-----------------------------
口調とか忘れたわ。
はい、どうも。久々の更新です。上に書いたのは使うか微妙な設定の話だから気にしないで。
次回更新未定です。すんません。気が向いたら書きますので感想等お願いします!
FGOサボってるからアトランティス終わってないんだ、どうしよう