Fate/abundant colors   作:パンda

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ゆるふわ男、襲来。




プロローグ(下)

自室にて。

 

「はーい。入ってまーす…」

 

なぜか、先客がいた。

 

「………」

 

「………」

 

「………えっと」

 

「って、うえええええ!?

 

き、君は誰だ!? ここは僕のサボり場だぞぅ!?

 

誰のことわりがあって入ってくるんだい!?」

 

自分で堂々とサボり宣言してる人、初めて見た。

 

見れば、その男性はかなり若い。20代後半辺りだろうか。

 

栗色の髪をまとめており、その細い体からは全く敵意が感じられない。

 

「いや、アンタこそ誰だよ」

 

などと、そのゆるふわの雰囲気につられ、思わず突っ込んでしまった。

 

   ◇     ◇

 

彼の名前は、ロマニ・アーキマン。

通称Drロマン。

 

カルデアの医療部門。そのトップらしい。

 

ああ、またやってしまった。

また上司に失礼な態度を……。

 

これは怒られますわ。

 

「成る程、所長のカミナリを受けて、説明会を追い出されたと。

うん、僕と同類だね! 何を隠そう、僕も所長に叱られて待機中だったんだ。

 

『ロマニがいると、現場の空気が緩むのよ!』

 

なーんて言われて、追い出されちゃったからさ。

 

よし、これも何かの縁だ。所在ない者同士、交友を深めようじゃないか!」

 

だが、ロマンは気さくな態度で応えてくれた。

 

かつん、と淹れてくれたコーヒーカップを合わせる。

 

   ◇     ◇

 

「……とまあ、以上がこのカルデアの構造だ。標高6000mの雪山の中に作られた地下工房で、数々の設備・機材が存在する。

何か、聞きたいことはあるかい?」

 

「…個室があるのは分かりますが、レクリエーションルームまであるとは…」

 

「ははは、カルデアは長期滞在を基本としてるからね。娯楽だって生活の大切な一部、さ」

 

「シミュレータールームって、なにを再現するんですか?」

 

「基本的にはサーヴァントを用いての戦闘かな、ほら、君もここに来た時、霊子ダイブで経験しなかったかい?」

 

「……サーヴァント」

 

なにか、聞きなれない言葉が出たような…?

 

「ああ、そういえば君は一般枠のマスターだったね。

うん、サーヴァントっていうのは…」

 

その時、ぴぴ、と端末が鳴った。

 

『ロマニ、あと少しでレイシフト開始だ。万が一に備えてこちらに来てくれないか?

Aチームの状態は万全だが、Bチーム以下、慣れていない者に若干の変調がみられる。

 

今医務室だろう? そこからなら二分で到着できるはずだ』

 

「おっと、了解。それじゃあ、ちょっと麻酔をかけに行こうか」

 

端末を切る。

 

「今の声って、ひょっとしてレフ教授の?」

 

「おや、彼のことを知ってるのかい?」

「さっき、ちょっとだけ会いました」

「うん。レフ・ライノール。あの疑似天体(カルデアス)を見るための望遠鏡。近未来観測レンズ・シバを作った魔術師だ。

 

シバはカルデアスの観測だけじゃあなく、この施設内のほぼ全域を監視し、写し出すモニターでもある。

 

因みに、レイシフトの中枢を担う召喚・喚起システムを構築したのは前所長。

 

その理論を実現させるための疑似霊子演算気、ようはスパコンだね。これを提供してくれたのがアトラス院。

 

このように実に多くの才が集結して、このミッションは行われる。

 

ボクのような平凡な医者が立ち会ってもしょうがないけど、お呼びとあらば行かないとね」

 

「さっき、医務室にいるって言ってませんでした?」

「…あ、あわわ…それは言わないでほしいなぁ。ここからだと、どうあっても五分はかかるぞ……」

というより、今の会話で二分は確実に過ぎたな。

 

「それじゃあ行かないとね。お喋りに付き合ってくれてありがとう藤丸君。

落ち着いたら医務室を尋ねに来てくれ。ケーキぐらいは、ご馳走するよ」

 

ドクターは部屋を出ていこうとする。

しかし―――

 

唐突に、視界が暗転した。

 

「なんだ? 急に明かりが消えるなんて、何が―――」

 

どこか遠くで聞こえる爆発音。

 

けたたましくなるサイレン。

 

『緊急事態発生。緊急事態発生。

中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました。

 

中央区画の隔壁は90秒後に閉鎖されます。

職員は速やかに第二ゲートから退避してください』

 

「な―――」

 

火災ーーーまさかさっきの爆発か⁉

 

とっさに部屋を出る。非常電源が働いたのか、廊下の電気はすぐについた。

 

「フォウフォウ!」

 

「君は―――」

さっき見た、フォウという生物。

俺をちらりと見て、すぐに駆けて行った。

 

…ひょっとして、ついて来いっていう意味か?

 

   ◇     ◇

 

中央管制室。

 

そこでは、真っ赤な世界が広がっていた。

 

ごうごうと燃える炎。

 

崩れ落ちた壁。

 

そして―――あたりに散らばっている、人、人、人。

 

―――まるでこの部屋のみ、空襲にでもあったかのようだ。

 

「………生存者はいない。

爆発の起点はここのようだね」

 

「……ドクター」

振り返れば、ロマンが苦々しい面持ちで、この惨状を見ていた。

 

「全く、君と来たらボクが何も言わない内に出て行ってしまうんだから。

 

さっきの放送聞いただろう? もうすぐ隔壁が閉じる。

すぐに外に出て、救助をまつんだ」

「ドクターは?」

「ボクは地下に行く。カルデアの火を止めるわけにはいかないからね。

 

いいかい。くれぐれも寄り道せずに、戻るんだ!」

 

ドクターは管制室を走り去る。

 

「……と、そういえばフォウくんは?」

「フォウフォウ!」

彼の鳴き声が聞こえた。

瓦礫の山を乗り越えて、その奥に、

 

彼女はいた。

 

「――――マシュ?」

「あ―――せん、ぱい?」

 

頭から血が流れ、体はぼろぼろ。

腰より下は、瓦礫に埋もれている。

 

「マシュ! しっかり!」

「だめ、です。せんぱい……逃げて、くだ、さい。

わたしは、もう……助かり、ま、せんから」

「っ」

 

その言葉に、馬鹿野郎、と叫びたくなった。

 

瓦礫をどかそうと手をかける。

「熱っ……!」

瓦礫は石焼きのように熱くなっており、触っただけで指が火傷した。

「この……っ!」

袖を引っ張り、服越しで瓦礫を引っ張る。

だが、びくともしない。

 

だめだ、これじゃあ。

俺一人じゃあ、どうすることもできない。

 

誰か助けを呼ぼうと扉に顔を向けたが、

「あっ」

扉は自動的に閉ざされた。

隔壁が閉じたのだろう、扉は固くとざされていた。

 

部屋からは出れない。

助けを呼ぼうにも、端末も持っていない。

これは、つまり―――

 

「八方ふさがりってことか」

 

マシュの前にどっかりと胡坐をかく。

 

「…マシュ。ごめんね」

「いいえ………あっ」

「?」

 

マシュは顔を上げる。

その視線の先には中央にある、地球儀のようなオブジェが真っ赤に染まっていた。

 

『観測スタッフに警告。

カルデアスの状態が変化しました。

 

シバによる近未来観測データを書き換えます。

 

近未来百年までの地球において、

人類の痕跡は 発見 できません。

人類の生存は 確認 できません。

人類の未来は 保証 できません。』

 

「………」

この警告が何を言っているのかは分からない。

 

分からない、が――

 

 

何かが、致命的に手遅れだったと言うことは分かった。

 

 

「あの、せんぱい」

「うん。なに? マシュ」

彼女の慰めになればと、せめて笑顔で応えようとする。

 

「手を、握って貰っても、いいですか?」

 

 

『――レイシフト 定員に 達していません

該当マスターを検索中……発見しました。

 

アンサモンプログラム スタート。

霊子変化を開始 します』

 

 

「……うん。いいよ」

差し伸べられた手を、握り返す。

 

 

『――全工程 完了

ファーストオーダー 実証を 開始 します』

 

 

少し、震えている彼女の手を、

せめて、俺の勇気を少しでも分けられるようにと、強く、強く握った。

 

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