見上げると、街灯の上に立っている人の姿が。
フードを被っており、顔立ちは、はっきりとは分からない。
だが、体のラインから女性だということは分かる。
髪は長く、足元まで届いている。
片手に持つのは、鎌のように先が歪曲した長物。
何より、目を引くのは―――その眼球。
禍々しくも美しいその目は、俺たちを獲物として見ている目だった。
「ランサーのサーヴァント……!」
「……巣にかかったのは、3人だけ、ですか」
「……!」
見れば、俺たちの周りに鎖がじゃらじゃらと、幾重にも張られている。
まるで蜘蛛の巣だ。
「ああ、でもどれも瑞々しい肉ばかり」
ぺろりと、巣の主が艶めかしく舌なめずりする。
「それではじっくりと、頂きましょうか」
「先輩! 下がって!!」
上から放たれる一刺し。
マシュはそれを盾で防ぐ。
「く…っ!」
「マシュ! 右だ!」
休む暇なく、槍兵は下からすくい上げるように長物を振るう。
「はぁっ!!」
マシュは負けじと盾を突き出す。
「……」
ランサーはそれを受け、一気に遠くへと突き放される。
いや、今のは衝撃を避けるために、自ら後ろへと跳んだのか。
「成る程、あなたがこの子のマスターということですね」
ちらりと、ランサーは俺を見た。
ぞわ、と背筋に寒気が走る。蛇に睨まれた蛙のような気分だ。
「怯まないで! あなた達サーヴァント相手にちゃんと戦えてるわよ!」
所長が俺たちを励ます。
「……そうですか。今ので戦えている、と評するのですね。貴方は」
するとランサーは、腰を大きく落とした姿勢になった。
「では、もっと激しくいきましょうか」
ランサーとマシュとの間は10m以上は空いている。
その距離を、
「―――――――!」
ランサーは一気に詰め寄った。
「マシュ、上だ!!」
「!」
振り下ろされた攻撃を防ぐ。
そして、瞬く間にランサーは別の方向から長物を突き出す。
「つ、次は左!」
「ふふふ……」
ランサーは、縦横無尽にマシュの周りを駆け巡る。
「え、ええっと……。み、右! ……じゃなくて左?
い、いや、上? やっぱ左……」
「ちょっと! ちゃんとした指示出しなさいよ!!」
「そ、そんなこと言われても……!」
速すぎて目で追えない……!!
まるで意思をもった弾丸だ。
「これが……サーヴァント……!」
ロマンが人類最強の兵器といった意味が分かる。
こんなの、人間の手に負える相手じゃない。
四方八方から来る攻撃を、マシュはなんとか防いでいる。
「……ところで、私が持っているこの鎌。これにはある能力が備わってましてね。傷をつけられた者は、如何なる奇跡を用いようとも、癒すことができなくなるという特徴があるのですよ。
分かりますか? 一度コレに斬られれば、あなたは今後、全うに戦えなくなるということを―――!」
「!」
ランサーの鎌が、マシュを大きく弾き飛ばす。
……なんだそりゃ。傷を受ければその傷は治らない?
じゃあ、体のどこかを斬られれば、マシュは二度とまともに動けなくなってしまう。
その「もしも」にぞっとする。
とにかく、あの鎌には触れないように気をつけなければ。
マシュも同じように相手の出方を警戒している。
狙うべきはカウンターか。
鎌の斬撃を防いだ後、すきを見つけてこちらから攻撃を………………いや、待て。
なぜ自分からそんなことを言った?
黙っていれば、致命傷は与えないでも手傷を負わせることで、向こうに有利になるはずだ。
だが、彼女は武器の特徴を話すことで、有利になる事を捨てた。それは何故?
―――警戒、して欲しいから?
傷つけば治ることの無い武器。そんなもの誰だって恐い。だが自ら言うことで、注意を武器に引き寄せる。それはつまり―――
「それでは、そろそろ終わらせますか。さようなら、可愛らしい兵士のお嬢さん。あなたは特別に―――優しく殺してさしあげましょう」
「く―――!」
ランサーは鎌を大振りに構え、マシュに襲い掛かった。
マシュもその攻撃に合わせようと、盾を構える。
―――それはつまり、まだ
「駄目だ!! マシュ、下がれ!!」
「えっ…。―――!!」
横薙ぎの攻撃を、マシュは後ろに下がってぎりぎり躱す。
その時、ランサーの目が妖しく光った。
「マシュ!! 前方に盾を!」
「っ……!」
指示通りにマシュが動く。
次の瞬間、ピシ、と空気が固まったように感じた。
「ちっ」
マシュが盾を振るい、ランサーは後退する。
「……今の、は?」
マシュの盾で隠れてよく見えなかったが。ランサーが放った鎌以外の攻撃を、マシュの盾が防いだのか?
「我が魔眼すら防ぎますか……厄介な盾ですね」
『魔眼……今のはキュベレイの能力! 見たものを石に変えるという最高位の魔眼か‼』
「不死殺しの鎌、ハルペーを持っているから、てっきり真名はペルセウスかと思ったけど……。その眼を持った存在となれば、一人しかいないわね。
ゴルゴン三姉妹の一人、メドゥーサ。それがあなたの真名というわけね」
「……ふん。小賢しい真似をしてくれますね。斬られるのは痛かろうと、わたしなりに気を使ったのですが。
本当に、鬱陶しい」
ランサー……いや、メドゥーサの眼が俺に向けられる。
「やはり、ここは定石通りマスターから仕留めていきますか」
「……!」
「先輩……!」
こっちに一気に近づこうというのか、メドゥーサは再び腰を大きく落とす。
だが、
「はっ、やめとけよ。そんな下手くそな槍使いで相手を仕留めようなんざお笑い種だねぇ。ランサークラスの名が泣くぜ?」
「! 何者⁉」
彼女に向けて、炎の弾が幾つも放たれる。
メドゥーサは鎌を回転させ、その弾丸を弾き返した。
「キャスター……! 何故あなたが、彼ら漂流者の味方を‼」
「あん? そんなのテメェよかマシだからに決まってるじゃねぇか。それに、見所があるガキは嫌いじゃねぇ」
姿を現したのは、精悍な顔つきをした男。
フードのついたマントを肩にかけ、片手に杖を持っている。一目で彼もサーヴァントだということが分かった。
「……!」
ランサーはキャスターと呼ばれた男に向かって突進する。
「おっと、言い忘れてたが、足元注意だぜ?」
「なっ! ……くっ‼」
ランサーの足元に浮かび上がったのは、文字のようなもの。
それが、彼女の動きを強制的に止めた。
「そら、今のうちにやっちまえ‼」
「! マシュ‼」
「はい!」
マシュは、盾をランサーに思い切り突き上げた。
まともに喰らったランサーは空高くに舞い上がる。
「上出来だぜ。お二人さん!」
キャスターは杖を掲げる。するとどこからか、大きな手のようなモノが現れた。
「な―――」
そのサイズは、掌で人間一人ぐらい楽に掴めるほど。
その手が―――ランサーに振りかぶった。
がは、とランサーは地面に叩きつけられる。
それが決め手となったのか、ランサーの体は消滅していった。
「……サーヴァント、ランサー。メドゥーサ。消滅を確認しました」
「おう、おつかれさん」
「あ、あの……ありがとうございます。危ないところを助けていただいて……」
「なに、この程度貸しにもならねえ、気にすんな。
それより体は大丈夫かい? ケツのあたりとか、あの女に斬られてないかい?」
「ひゃん……!」
「ちょ、ちょっと!?」
この男、介抱にかこつけてマシュの尻を撫でたぞ!
セクハラオヤジだ。訴訟を起こすぞ!
『まぁまぁ、落ち着いて。どうやら彼はちゃんと話せるまともな英霊のようだ。事情を聞こうじゃないか。
初めまして、キャスターのサーヴァント。御身がどこの英霊かは存しませんが、我々は尊敬と畏怖をもって―――』
「あー、そういう前口上はいいよ。聞き飽きた。用件だけ放せよ軟弱男。そういうの得意だろ?」
『う……そ、そうですか。……軟弱……、軟弱男ってまた言われちゃったぞ…』
ドクターの扱いは、英霊相手であっても変わらないみたいだ。