―――ついてこれるか。
キャスターから聞いた事情をまとめると、こんなところだ。
自分たちは聖杯戦争を行っていたが、突然一夜にして人間はいなくなり、サーヴァントのみが残った。
現在残っているサーヴァントはセイバーとキャスターのみ。
それ以外は全員セイバーに倒され、黒い泥によって汚染、使役されるようになった―――先ほど倒したランサーもそうだったとのこと。
セイバーはキャスターを捜すため、異形の者―――一番最初に出会った骸骨たち―――も使役している……らしい。
キャスターがセイバーを倒せば、聖杯戦争は終結し、状況が修復する……可能性がある。
『成る程、それでボクたちの手を借りたい、と?』
「おう、そちらにしても悪い話じゃあねえだろ? 利害は一致している。
アンタらの目的はこの異常の調査。オレの目的は聖杯戦争の幕引き。お互い、陽気に手を組まないかい?」
「…うん。損はない、かな」
「おし、この街限定の契約だが、よろしく頼むぜ」
キャスターに一方的に手を握られる。かなり痛い。
「セイバーはどこに?」
「ヤツがいるとすれば、あそこだな。大聖杯がある場所。あんた等の調査で、最終的に行くべきところでもある」
『大聖杯? 聞いた事がないが、それは?』
「この土地の本当の”心臓”だ。特異点とやらがあるとすればそこ以外あり得ない」
「それって具体的には、どこ?」
「この橋を渡り、外れの山に向かうと、柳洞寺っていう寺山がある。その地下に大空洞があってな。そこが大聖杯のある場所だ。道案内はするぜ」
結構遠そうだな。
「セイバーに汚染されたサーヴァントって、あとどのくらいいるの?」
「さっきランサーを倒したから、残るはアーチャーとバーサーカーだ。ま、バーサーカーは無視してかまわねえ。奴さん、森の奥深くにいて、動かねえしな。
実質相手するのはアーチャーだが、こいつを先に倒さねぇとな」
話をしながら橋を歩く。
車は通っていないため、歩道の方ではなく、橋の上の自動車道を堂々と渡れる。
「先に倒すべきって……そんなに厄介なの? アーチャーは?」
「厄介っていうか、面倒だな。なにせ狙撃手だ。遠くから好き放題撃ってきやがる。先に片付けなきゃ、セイバーのもとに辿り着けねぇだろうな」
……ん?
「そういや、嬢ちゃん。あんた宝具が使えないんだってな?」
「……はい。その、わたしは先輩の指示の元、試運転には十分な経験を積みました。なのに、私はまだ宝具が使えません。使い方が分からない欠陥サーヴァントのようなものです」
……今、なにか…………
『でもそこは一朝一夕でできる話じゃないと思うよ? だって宝具だし』
「ばーか、そんなのすぐに使えるに決まってんじゃねぇか。宝具と英雄は同じもんなんだから」
……赤い光が……
「では、どうすれば?」
「んー、なんつーの、やる気? いや弾け具合? 気合っつーか、ケツに火をつけるぐらいの覚悟で放てばどうにかなるんじゃねぇか?」
「ちょっと! デタラメ言ってマシュを混乱させるんじゃないわよ!」
…………遠くから、飛んで、来た、よ、う、な――――――!!!
「マシュ――――――!!」
「!?」
「ちぃ―――!」
一番最初に反応したのは、キャスターだった。
先ほどランサーを倒すために使った巨大な腕のようなものを出し、赤い光を防いだ。
だが、その腕は赤い光の一撃で粉々にはじけ飛ぶ。
『い、今のは―――!』
「野郎、アーチャーだ! 狙撃してきやがった‼」
「そ、狙撃って何処から―――⁉」
「あのビルだ! 橋の向こうにある、あの高い建物!」
「はぁ⁉」
橋の向こうって……! 何キロあると思ってんだ⁉
あんなところから、此処まで? 俺たちに向かって? 滅茶苦茶だ!
「構えろ、嬢ちゃん! 次が来るぞ!」
「は、はい!」
キャスターの言う通り、向こうのビルから赤い光が放たれる。
そして、その光は真っすぐと、こちらに向かって―――!
「ぐ、うううぅぅぅぅ‼」
聞こえたのは轟音。
マシュが受け止めた衝撃波は、盾だけでは終わらず橋全体に悲鳴をあげさせた。
「こ、この橋から離れるわよ! 今すぐに‼」
所長が全員に命じる。
「賛成だがね、後二発ぐらいは嬢ちゃんに耐えてもらわなきゃ逃げ切れねぇぞ」
「なっ………あなたは何とかできないの!?」
「悪ぃが、さっきのは連発できるもんじゃなくてね、アーチャーに壊されちまった。ルーンを刻むにも時間がない。
嬢ちゃん! ここが踏ん張りどころだ! 宝具を使え‼」
「えっ……で、でも私は……!」
「やるしかねぇんだよ。でなけりゃ嬢ちゃんだけじゃなく、そこにいる坊主も死ぬぞ!」
「!」
三発目の弾丸が放たれる。
マシュこれを何とか受け切ったが、それが限界。膝をついた。
「はぁっ、は―――これ、以上、は―――」
「マシュ……!」
マシュは疲れ切った顔で、俺の方を向く。
次の一撃で終わり。
次でマシュが死ぬ。
四発目の弾丸がマシュの命を貫く。
そんなの―――駄目だ。
「せん、ぱ」
「―――死ぬな! マシュ‼」
「―――あ」
マシュは何かに気が付いたような顔をして、
「ああ、ああぁあああ――――――!!」
宝具を、展開した。
展開されたのは、盾よりも遥かに大きなモノ。
盾というよりは、壁に近い。
その宝具が、四発目の弾丸を受け切った。
それまで盾で受けてきたのとは明らかに違う。完全に受け切った。
まるで、一切の異物を受け付けないとでも言うような守りだった。
「先輩……私……」
「ああ、やったな」
「おう、おめでとさん。喜びを分かち合いたいところだが、とっととずらかるぜ」
「え? キャ―――!」
キャスターにむんずと捕まれ、橋から離れていった。
◇ ◇
「ここまで行けば大丈夫だろ」
戻ってきたのは、ロマニから言われたサークル。
結局、ここに戻ってきてしまったか。
「はぁ、取りあえずは一安心ね」
『皆無事でよかったよ。それにマシュ、宝具開帳おめでとう』
「はい、ありがとうございます。ドクター」
『宝具が使えるということは、マシュに融合したサーヴァントの正体は分かったのかい?』
「あ……いえ、ごめんなさい。とっさのことだったので、宝具は使えるようになりましたが、まだ宝具の真名も、英霊の真名も分かりません……」
「……そう。未熟でもいい…仮のサーヴァントでもいい……そう願って宝具を開いたのね。だから宝具もあなたに応えた。あーあ、全く、とんだ美談ね」
「あの、所長……」
「ただの嫌味よ、気にしないで。でも真名なしで宝具を使うのは不便でしょ、いい
そう言って、所長はマシュの宝具に名前を付けた。
「さて、宝具を使えるようにできたのはいいが……どうすっかね」
『問題はあのアーチャーの狙撃だね。あの橋を渡らないことには、大聖杯にはたどり着けない。だが、あの攻撃を凌ぐのは至難の業だ』
「俺一人なら掻い潜れるんだがね、嬢ちゃんは二人を守りながら移動ってもの難しいな。
……となると、俺が一人で先行して、アーチャーを倒し、その後で嬢ちゃんと合流。共にセイバーを倒すってのが妥当な線か」
「できるのか? キャスター、連戦になっちゃうけど」
「これでも生き残ることには特化してるんでね、セイバー相手はちとキツイが何とかするしかねぇだろ」
……少し考える。キャスターは強いが、あの狙撃を潜り抜けながらアーチャーを倒すのは難しいのではないだろうか?
キャスターは魔術師のクラス。体を動かすのではなく、魔術で準備をして相手を迎え撃つクラスだとドクターは言っていた。
かといって、マシュを同行させるのも駄目だ。
サーヴァントはマスターと契約している。マスターと遠く離れて戦っては、その性能を十分に生かしきれない。
そうなると、俺も一緒に行かなければならなくなる。
また、所長も一人だけ残すのは危険なので、必然的についてくることになってしまう。
そうなると、かえって邪魔になってしまうのではないか。
そもそも、徒歩であのアーチャーに近づいたとしても、逃げられて、また別の場所から狙撃されてしまうのではないか。
……駄目だ、やっぱり危険だ。
あと一人だけでもいいから、戦える存在がいればいいのだが……。
すると、所長が口を開いた。
「ねぇ、要はあと一人、サーヴァントがいれば、何とかなるってことじゃあない?」
「え?」
『いやいや、所長。そんなことできれば苦労は―――まさか』
所長はにやりと笑う。
「ええ、ここはカルデアの疑似召喚場と同じ、召喚サークルがある。だったら、ここからサーヴァントを召喚することだって、できるのではなくて?」
『そんな―――無茶だ! カルデア内での召喚だって数回しか行ったことが無いのに…レイシフト先での召喚だなんて!』
「そうね、カルデアの設備は破壊されて、ほとんど動かせない状態になっている。でもここは、かつて何度も聖杯戦争が行われたという冬木の土地。
ここの土地の霊脈と、カルデアに残されたリソース。二つを使えば、新たにサーヴァントを呼ぶことだってできるはずよ」
『う……いや、それは確かにそうかもしれませんが……』
「それに、ここにはキャスターのサーヴァントがいるのよ? 彼に手伝ってもらえば、可能性はもっと上がるはずだわ」
「うん? まぁ別に俺は構わねぇが……」
『……ちょっと待って下さい、『彼女』にもできるかどうか、確認をとってみるので……』
それから十分ぐらいして、ロマニは再び話し出す。
『……1回だけ、1回だけなら召喚はギリギリ可能だそうです。
ただし、これはカルデア側で行う召喚ではない。冬木側で行う召喚なので、呪文詠唱からの召喚になるそうです』
「そう、分かったわ。じゃあ早速準備に取り掛かりましょう」
『じゃあ藤丸君、君が召喚の要になるから、頑張ってね』
「え」
やるの俺かよ!?
「しょ、所長がやるんじゃないですか⁉」
「私にはマスター適正は無いのよ! だから、召喚したサーヴァントのマスターになるのも貴方だし、召喚の儀を行うのも貴方なのよ!」
「ええ⁉」
『大丈夫、召喚の準備はこっちでやるから。君は呪文の詠唱を行ってくれればいい』
「呪文の、詠唱……?」
◇ ◇
「……ふぅ」
一つ、大きく息を吐く。
「……あとは、退去の陣を四つ刻んで、陣で囲んで、と―――よし、完成だ」
『それじゃあマシュ。媒体として、君の盾をそこに置いて』
「分かりました……先輩、大丈夫ですか?」
「いやぁ、あまり大丈夫じゃないかも……魔術を使うだなんて、これが初めてなんだけど」
「なぁに、さっきあんたの上司が教えたとおりにやりゃいいんだよ。肩の力を抜きな、坊主。無駄に力む必要なんかないのさ」
『じゃあ藤丸君……準備はいい? さっき教えた呪文は覚えた?』
「な、なんとか……き、緊張して舌噛みそうです」
「呪文で舌噛む魔術師なんているわけないでしょ。ほら、男だったらシャンとしなさい!」
「先輩……頑張って!」
「う、うん。……よし!」
ぱしんと頬を両手で叩く。
大きく目をつぶり、先程覚えた呪文を紡ぐ。
「素に銀と鉄。
礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
ごくり、とつばを飲む。
「
繰り返すつどに五度。ただ満たされる刻を破却する」
イメージするのは、自分がただの道具であること。
この時だけ、体が魔術の装置だと言うことを意識する。
体に、熱が宿るのが分かる。
これが、魔術―――
「―――告げる。
汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うのならば応えよ。
誓いをこ此処に。
我は常世総ての善となる者、
我は常世総ての悪を敷く者―――!」
体中が熱い、なにか別のモノで塗りたくられるようだ。
それでも何とか手を突き出し、最後の一節を放つ。
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
次回、召喚したサーヴァントが登場。
というわけで、オリ展開「特異点冬木を別の鯖で攻略しよう」でした。