結局、箱も60ぐらいが限界だったよ……
なんで皆100箱いけるんだよ……
「む―――」
橋の向こう側、深山町と呼ばれている街にそびえ立つ一つのビル。
そのビルの屋上から、狙撃手は橋を見下ろしていた。
「あれは―――」
橋の上にいるのは二人の人物。カルデアのマスターである少年と、そのサーヴァントである少女のみだ。
先程、彼らとキャスターを含めた四名がこの橋に来ていたので。アーチャーは狙撃した。
……まさか、防がれるとは思ってはいなかったが。
(花の魔術師め、まさかあの宝具にそんな使い方があったとは……おとなしく塔の中にいればいいものを)
アーチャーは軽く毒づく。
「だが、正面突破とは芸のない」
いつの間にか、彼の手元には弓と矢が携わっている。
その弓を構え、橋の上にいる彼らに狙いを定めた。
おおかた、矢を一度防いだ後、次弾までのインターバルでキャスターをこちらに向け、撃破を狙っているのだろう。
だが、遅い。いかにクランの猛犬と言えど、今の彼は魔術師。
転移の魔術も使えず、得意の俊敏さも十分に生かしきれないようでは、こちらを仕留めるなど不可能であろう。
「ふ―――!」
魔力を込め、矢を放つ。
音速を超える弾丸は狙い通りの場所に行き―――
彼女の盾によって防がれた。
そして予想通り、霊体化していたのか、サーヴァントが後ろに現れる。
「―――なに?」
だが、それはキャスターではなかった。
◇ ◇
「マシュ! 来たぞ、二時の方向!」
「はい! 宝具、展開します!」
マシュが出した宝具で、アーチャーの弓を受ける。
「アーチャーからの狙撃、防御に成功しました!」
「よし、後は―――」
「私の出番、ということですね。いいでしょう」
彼女が姿を現す。
「それでは、飛ばします。落とされないよう、しっかり捕まっていなさい、キャスター」
『はっ、言ってろ』
彼女は体を低く構え、目の前に魔法陣のようなモノが展開された。
色は血のように赤く、そこから、大きな眼が現れる。
そう、これこそが彼女の宝具―――
「
◇ ◇
―――30分前。
召喚されたのは、見たことがある姿の英霊だった。
「……まさか、召喚されたのが貴方なんてね。メドゥーサ」
「どうやら、先ほどは別の私が世話になったようですね。ですが、今の私は貴方がたのサーヴァント。貴方がたと戦った存在とは別の者だと思って下さい」
そう言えば格好も変わってるな。
ランサーの時の彼女はフードを被っていたが、目の前の彼女は際どい所で隠している、ぴっちりとしたボディスーツだ。顔もバイザーで隠されている。
「メドゥーサさん。あなたのクラスは何になるのでしょう。ランサーでは、無いのですよね?」
「ああ、その女のクラスはライダーだ」
そばにいたキャスターが代わりに答えた。
「あなたは…そうですか。あなたも別のクラスで召喚されている、と言うことですか」
「おう、何でか知らんがご覧の通りキャスターだ。
ったく、何で杖持って戦わなきゃならねぇんだか……あー、槍が欲しい」
『おや? 二人は知り合いだったのかい?』
ロマンが尋ねる。
「ま、ちょっと別の戦いで縁があってね……。
それよりもだ、ライダーを引いたのは幸先が良いぜ、坊主」
「え?」
「ライダーは機動力に優れたサーヴァントだ。おまけにこの女の宝具なら、アーチャーの狙撃を突破できる」
◇ ◇
「
彼女が宝具を展開すると、魔法陣からナニカが出てきた。
白く輝くそれは、橋を抜け、ビルまで一直線に飛んでいく。
「ああ」
それを見て、空を翔る彗星みたいだな、と場違いにも思ってしまった。
「ちょっと。なにボサっとしてるのよ! 早くいくわよ!」
「あ、はい」
物陰に隠れていた所長が顔を出し、叱りつける。
「行きましょう、先輩。目指す場所は柳洞寺の地下、大空洞です」
◇ ◇
「チィ――――――!!!」
彼女の宝具がこちらに向かってくる時には、既にアーチャーはビルから飛び降りていた。
「まさか、彼女を喚んでいたとはな……!」
落下しながら上を見上げると、白い彗星がビルの屋上に突っ込んでいた。
結果、屋上はおろか、ビルの上部が丸ごと吹っ飛ぶ。
地上に着地、もう一度弓矢を顕現させ、上空にいるライダーに向けて矢を放とうと構えるが、
「よう、追いついたぜ。アーチャー」
「!」
放たれる炎を間一髪で躱す。
「はっ、狙撃手が標的に近づかれちゃ世話ねぇな。腕鈍ったかい?」
「そういう君はキャスタークラスの分際で、獣のように接近戦を好むようだな。槍はどこに置いてきた?」
上を見ると、ライダーの姿は消えていた。
今の宝具は攻撃する為ではなく、キャスターを移動させるための手段だったということか。
「黒化しても、減らず口は相変わらず、か。
いいぜ、それじゃあいつもの様に、殺しあいますかね――――――!」
◇ ◇
「はぁ……はぁ…」
「ご無事ですか? マスター」
走って橋を渡り終えた頃。上空からライダーの声が聞こえた。
ライダーが乗っているのは、白き天馬。ペガサスと呼ばれる伝説上の生物。
さっきの宝具の正体はそれか。
―――曰く、彼女の首から流れる血で、その天馬は生まれたと―――
「キャスターは?」
「彼は今、アーチャーと交戦中です。私たちはその間にセイバーを討ちましょう」
「キャスターを待った方が良くない?」
「……彼が必ず勝つとは断言できません。セイバーと戦闘時、はさみうちにならないためにも我々は先に行くべきかと」
ばさ、と翼の動きを抑え、ライダーは地上に降りる。
「乗って下さい、マスター。この子なら数分とかからず柳洞寺にたどり着けます」
「え、乗っていいの?」
アニメとかで見たことあるけど、まさか自分がペガサスに乗れるとは。
ちょっとわくわくしてしまう。
じゃあ失礼して、と天馬の後ろに回る。
「あ、すいません。ひとつ言い忘れましたが……」
ドゴッ!!
「ごふっ!!」
「……この子は、後ろに回られると、蹴ります」
「い……言うの、遅い……………ガク」
「先輩!? せんぱーい!!」
「何やってんのよアンタ……」
◇ ◇
「うう……まだ頭がぐらぐらする…」
「大丈夫ですか、先輩? かなりのスピードで飛んでましたし……」
「少し休憩しましょう。ドクター、彼のバイタルちゃんとチェックしている?」
『え? ああ、はい。そうか、二度にわたる契約に、サーヴァントの召喚、そして宝具。
カルデアの支援があるとはいえ、
柳洞寺と呼ばれる寺院の地下、大空洞の中で俺達は腰を落ち着けていた。
「ドライフルーツを隠し持っているとは、所長の周到さには舌を巻きます」
「たまたま所持していただけよ。頭痛には、柑橘系がいいのよ」
「メドゥーサさんもお一つどうでしょう?」
「いえ、サーヴァントは基本食事を必要としませんので…」
「まあそう言いなさんなって、ほら、一杯」
蜂蜜が入った紅茶のコップを差し出す。
「は、はあ。どうも……」
「………」
「どうしました? 所長も飲みます?」
「私は一杯で充分よ! それと紅茶より珈琲派だと覚えておきなさい!
い、いえ、そうじゃなくて!」
コホンと所長はひとつ咳ばらいをした。
「こ、ここまでの働きは及第点です。カルデア所長として、あなたの功績を認めます」
「……え」
「フン、なによその顔は」
『おや、所長が他人を認めるとは。これはもしや、所長のにもようやく心の雪解けが?』
「バ、バカ言わないで! 本人が頑張ってるのに失敗したら可哀想じゃない!」
『いやぁ、いつ見てもいいですね、少年少女の交流。所長は少女という割にはアレですが』
「そうでしょうか。所長は確かに年上ですが、趣味趣向は大変近しいものを感じます」
「何言ってるのよ! アンタたちなんて私の道具に決まってるでしょう!」
「………」
「どうしたの? ライダー」
傍目から見ているライダーに向けて話しかける。どうやら所長の様子を伺っているようだ。
「いえ……。少し、美味しそうだなと思いまして」
「!?」
「少女と呼ばれる年齢でなくても、まだまだイケます。舌触りは少し悪くなっているかもしれませんが、その分コクがあるといいのですが……」
「………」
な、なんの話だろう……。
◇ ◇
「最後に確認しましょう。この洞窟の奥にいるサーヴァント、セイバーの撃破。それが今回の特異点における、私たちの最終目的よ」
『セイバーは最優のサーヴァントと呼ばれている。加えてキャスターの話によれば、その宝具は―――』
「エクスカリバー……王の剣。星が生み出した神造兵器。それを扱えるサーヴァントはこの世で一人だけ」
「ブリテンの王、アーサー王。……間違いなく、今まで戦ってきた中で最強の敵でしょうね」
「戦略はどうする?」
「攻撃は私がつとめます。マシュ、あなたはセイバーが攻撃してきた際に前に出て防御を」
「あ、はい!」
「それと、セイバーは魔力放出で攻撃にブーストをかけています。油断していると吹き飛ぶのでお気を付けて」
「……わたしに、防げるでしょうか。音に聞こえたアーサー王の聖剣が」
「それは大丈夫かと。おそらくですが、あなたとセイバーの相性はかなりいい。あなたの盾ならば聖剣は耐えきれます。
あなたの宝具は攻撃するものではなく、守るためのもの。そのことを努々お忘れなく」
「はい……行きましょう。先輩」
「ああ」
奥まで行くと、広いところについた。
ここが終着点―――
「これが大聖杯…超抜級の魔術炉心じゃない…なんでこんなものが、極東の島国に…」
『資料によると、アインツベルンという錬金術の大家が制作したそうです』
「先輩! あの奥にいる人物が―――!」
「―――」
いた。
魔術を詳しく知らない俺でもあの異様さは分かる。
見た目は小さい体だが、その周りから放たれるオーラは体格の比ではない。
ぐにゃりと、周りの空気が歪んでいる。
いや、それよりも―――
「女性……だったんだな」
『うん。伝説とは性別が違うけど、事情があってキャメロットでは男装をしていたんだろう』
「―――ほう、面白いサーヴァントがいるな」
セイバーが、アーサー王が口を開く。
「喋れたのですね、セイバー。キャスターの話では、口が利けなくなったものと聞いていましたが」
「貴様はランサー―――ではなくライダーか。
……ふむ、因果なものだな。再びこの時、この場で、こうして相まみえようとはな。今回も私の敵にまわるか」
「セイバー。あなたの目的はなんのですか?」
話しながら、ライダーは顔にかけていたバイザーを外す。
そこから出るのはキュレベイと呼ばれる魔眼。相手を石化するという呪いの眼。
「案山子に徹していただけよ。何を語っても見られているのでな。だが―――」
セイバーはマシュの方を見る。
石にならない。魔眼が効いていないのか。
「面白い。その宝具は面白い。構えろ、名も知れぬ娘。その守りが真実か、この剣で確かめてやろう―――!」