それは、例えるなら一つの嵐だった。
彼女が剣を振るえば、地は割れ、風が巻き起こる。
「く―――!」
ライダーは躱すので精一杯だ。
ガリガリと大地を削る音が聞こえる。セイバーは高速で移動し、ライダーを斬りにかかる。
「ほう」
「ぐ……っ!」
マシュが前に出て、ライダーを守った。
剣を盾で受けたが衝撃が凄まじいのか、こちらにまでビリビリと響いてくる。
横から、ライダーが持っている短剣のような杭が放たれる。
セイバーは盾を蹴り飛ばし、反動で後ろに飛んで躱した。
「あっ…」
「マシュ、彼女の攻撃をまともに受けてはいけません。彼女の一撃は大魔のそれに等しい。盾は無事であっても、盾を持っているあなたの腕が砕けます」
「は…はい…」
「………」
スゥ、とライダーは息を吸う。
「フ―――!」
ライダーが駆け抜ける。繰り出される杭をセイバーが剣で受けた。
ギン、という金属音がこちらに聞こえてくるころには、ライダーはセイバーの後ろにいた。
そして、再びライダーはセイバーに突進する。
二度、三度、四度、五度―――
もはや、目で追える速度じゃあない。
これは……ランサーだった時にも見せた、彼女の俊足を活かした高速連撃!
マシュも、これには防御するしかなかった技だ。
だが―――
「……嘘だろ」
その悉くを、セイバーは弾き返した。
縦横無尽に駆ける銃弾を、その嵐は撃ち払う。
ライダーがセイバーに向かって行く度に、ライダーは傷を負っていく。攻撃をいなすだけでなく、隙を狙って剣で切り裂いているのか。
一撃毎にライダーは弱っていく。その攻撃は間違いなく全力だ。
なのに―――
「……っ」
……理不尽だ。
ライダーの方が速いのに、ライダーが攻撃を仕掛けているのに、何故こちらの方が追い詰められなければならないのか―――!
「……これが、セイバー」
これが、言わずと知れたアーサー王の実力。
「ふむ」
じゃらり、と鎖の音が聞こえる。
「!」
見れば、セイバーの手にはライダーの鎖の一端が握られていた。
「ライダー! 武器を放―――」
セイバーは鎖をブン、と振るい、その先にいるライダーを地面に叩き付ける。
「……がっ!」
ぐしゃりと、肉が地面にぶつかる音がした。
「ライダー!」
「が……! ぐ…っ!」
必死に立ち上がろうとするライダーに対し、とどめを刺そうとセイバーが斬りにかかる。
「はぁっ!」
「む」
その一撃を、マシュが受け止めた。
「小癪な」
ガイン、ガインとセイバーの剣戟をマシュが受け止める。
「ぐ―――っ!!!」
剣戟に容赦は無い。
少しでも防御の手を抜けば、その時はその盾ごと両断せんとでも言うような勢いだ。
ライダーの言うとおりだ。
このままじゃあマシュが持たない。
「……っ」
悔しくて歯嚙みする。
マシュが必死になっているのに、自分はこうして見守ることしかできないなんて―――!
『藤丸君!』
「っ!」
『君が目を背けるな!! 君以外に誰がマシュを信じてあげられるんだ!』
「ドクター……」
「そうよ、サーヴァントを信じなさい。マシュはまだ折れてないでしょう?」
「所長……」
二人の言葉に対し、ぱしんと、両頬を叩く。
そうだ。
今は、俺が彼女のマスターなんだ。
目を背けるな。俯くな。
今、俺にできることを探すんだ。俺たちが勝つ道を―――!
「ライダー! 立てるか!?」
「…っ。はい、何とか…」
ボタボタと、血を流しながらライダーは立ち上がる。
「ごめん……悪いけど、もう少しだけ踏ん張れる?」
「マスター、私のことはお気になさらず。あなたは命じるだけでよいのです」
「うん。ドクター、ライダーの傷を治したいんだけど如何すればいい?」
『ああ、それなら、君が着ているその礼装が役に立つ』
「俺の服?」
カルデアから支給されたこの制服か?
『一般人でも簡単な魔術が扱えるように、魔術礼装になっているんだ。
その服に魔力を流すだけで、緊急手当ぐらいなら出来る!』
「わ、分かった!」
服に魔力を通し、ライダーとのパスを通じて、彼女に俺の魔力を流しこむ。
「…どうだ? ライダー」
「はい。これなら動けます。これで、マシュの加勢に――」
「待って。それじゃあさっきと同じだ」
ライダーを止める。このやり方じゃあ、あのセイバーには勝てない。
この場を切り抜けるための手段。考えろ。考えろ。考えろ。
今ある戦力と、使える技。能力。切り札。
それで、あのセイバーを倒せる手段となると―――
「……ライダー、もう一度あの天馬を放てる?」
『「!」』
俺の発言に、二人とも驚いている。
「ちょっと、あなた正気⁉」
『いや……でも、悪くないかも。ライダーの宝具は強力な対軍宝具だ。あれなら、セイバーも押し切れるかもしれない。
でもライダー。君は大丈夫なのかい? その傷で、宝具は打てるのかい?』
「あと一回だけならば。…ですが足りません。
私の天馬では、セイバーの聖剣には及ばない」
『そ、そうなのかい⁉ 聖剣ってそこまでデタラメなのか⁉』
「いや、それでいい」
「え?」
「ライダー、その宝具についてなんだけど―――」
◇ ◇
「く―――!」
これで何撃目になるのか、セイバーの剣を受け止めるのは。
疲れ切って眼がくらむ。
息も絶え絶えだ。
運動はあまりしてこなかったが、全力で延々と走り続けるとこういった状態になるんじゃないかと思った。
腕はもう痺れて感覚がない。
今にも膝をつきそうだ。
むしろ倒れてしまった方がずっと楽だろう。
「―――でも」
でも、倒れるわけにはいかない。
今でも繋がりを感じている、自分のマスター。
自分が倒れたら、誰が彼を守れるというのか―――!
「マシュ! 下がれ!」
「えっ」
マスターからの命令が聞こえる。
見れば、セイバーの剣は止まっていた。
彼女の意思は、自分ではなくその後ろに向いている。
振り返ると、ライダーが腰を大きく落とした姿勢をとっていた。
(あれは―――宝具!)
「この一撃で、決着をつけましょう。セイバー」
ライダーの前に召喚の魔法陣が展開される。
「……フ、いいだろう。その挑戦、受けてやろう。
正直なところ、貴様の宝具とは白黒をはっきり着けねばと思っていたからなァ‼」
セイバーもまた、応えるように剣を構える。
そうして、剣から黒き光が流出した。
辺りに、暴力ともいえる風が巻き起こる。
『あれは―――なんて魔力量だ! 対軍宝具なんてものじゃあない! この洞窟ごと消し飛ばす気か⁉ 彼女は!』
「マシュ。こっちに!」
マスターの元に駆けつける。
ライダーの宝具とセイバーの宝具、どちらも魔力をギリギリまで貯めて、次の一撃で決めようとしている。
だが、勝てるのか。
魔力の量、宝具の威力、どう見てもセイバーの方が勝っている。
このまま宝具を放てば、間違いなくライダーが蒸発する。
「先輩……」
マスターに顔を向ける。
このままでは間違いなく負ける、と伝えたかったが。
「マシュ」
ぎゅっと、彼に手を握られた。
「あ――――――」
痺れていた手に、感覚が取り戻される。
盾を持つ手に熱が伝わる。
温かい、その手。
不思議と心が落ち着いた。
それで、彼が何を行おうとしているのかが分かった。
「―――いける? マシュ」
「はい―――!」
「卑王鉄槌、極光は反転する―――」
「我が血から生まれるは、空駆ける天馬―――」
「光を呑め…!
「蹴散らせ…!
二人の宝具が放たれる。
黒き光と白き彗星。
二つは激突する―――かに見えたが。
「なに―――?」
その彗星は、セイバーの方でなく逆方向―――真っすぐ後ろに飛んで行った。
「臆したか、ライダー―――!」
聖剣が振り下ろされる。
その光はその場にいる全員を塗りつぶそうとする勢いで、私たちに襲い掛かった。
「マシュ、宝具を!」
持っている盾に力を籠める。
今こそ、所長に貰った宝具の名を告げるとき―――!
「
◇ ◇
俺たちを飲み込もうとする黒い聖剣を、マシュの盾が遮る。
「あ、ああぁぁぁあ―――!!」
「……ぐ、…あっ!!」
盾を持っている手に、自分の手を添えて彼女を支える。
衝撃が全身に伝わり、骨にまで響く。
―――痛い。盾を掴んでいる指が折れそうだ。
マシュは、こんな攻撃を何回も受けてきたのか。
―――だったら尚更、俺が手を放すわけにはいかない!
「くっ……う―――!」
だが、このままでは、押しつぶされる。
未熟ゆえ宝具を扱いきれていないのか、宝具の真名を明かせていないからか。
「でも……! だからこそ……!」
だからこそ、
「令呪をもって命ずる! マシュ・キリエライト!! その盾に人理の守りを!!!!」
「―――!」
盾が輝く。
顕現されたのは、白き壁。
白亜の守りの輝きは、黒き光を押しとどめる。
眩しい。間近で見るその盾の輝きに目がくらむ。
「……っ」
それから、どれくらいの時間が流れただろうか。
白き光が消えていた時には、黒の衝撃も止んでいた。
『耐えた……! アーサー王の、あの聖剣を耐えきったぞ‼』
ロマンが興奮した声を上げる。
「……我が剣から主を守り切るか。
見事―――見事だ! それでこそ―――」
「セイバアァァァァァ―――――!!!」
そうして、
十分な加速を終えた、白い彗星がセイバーに向かっていった。
◇ ◇
「―――どのような英霊であれ、宝具を放った後は力が緩む。それが必殺の一撃なら、尚更のこと。
それが狙いだったか。そこなマスターよ」
「………」
セイバーが、アーサー王が俺を見る。
崩れかけた、その体で。俺を見て笑っている。
「―――フ。知らず、私も力が緩んでいたらしい。最後の最後で手を止めるとはな。
聖杯を守り通す気でいたが、己が執着に傾いた挙句敗北してしまった」
「セイバー……。あなたは何を守っていたのですか?」
「……私は、人理の守人として為すべき事を為したまでだ。いずれあなたも知るだろう、ライダー。
グランドオーダー―――聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだという事をな」
そういって、セイバーは消えていった。
「……セイバー、消滅を確認しました」
「おう、どうやら、そっちも決着がついたようだな」
洞窟の向こうからキャスターの姿が見える。
「どうやら、勝てたようですねキャスター」
「当たり前だ。俺を誰だと思っていやがる?」
「キャスターさん! 体が―――」
キャスターの体が徐々に透けて見える。
「チ―――強制帰還か。セイバーが消えて、聖杯戦争が決着したからな。
じゃ、後は任せたぜ。次があるんなら、その時はランサーとして喚んでくれ」
それじゃあな、と気軽な口調で彼は別れを告げていった。
「ランサー、セイバーに続いて消滅を確認。……これで、終わりなのでしょうか?」
『ああ、藤丸君にマシュ! よくやってくれた!』
「ライダーは、さっきの二人と同じように消えないんだな」
「はい。私は貴方達カルデアから召喚されたサーヴァントですので。強制帰還は働きません」
所長は、一人俯いてぶつぶつと呟いている。
「……
「所長?」
「!? え、ええ。そうね皆よくやってくれたわ。まずはあの水晶体を回収しましょう。冬木の街が特異点となった原因は、どうみてもアレのようだし」
「はい、至急回収、を―――⁉」
「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だよ」
そこに、
本来ありえない男が立っていた。
「レフ教授⁉」
『レフ―――⁉ レフ教授だって⁉ 彼がそこにいるのか⁉』
「うん? その声はロマニかな? 君も生き残ってしまったか。
すぐに管制室に来てほしいと言ったのに、私の指示を聞かなかったんだね。いや、全く―――」
レフ教授は顔に手を当てて俯く。
彼の顔を見ようとすると、
「―――っ」
その眼には、その場にいる全員に対する侮蔑と狂気が綯い交ぜになったモノを、孕ませていた。
「どいつもこいつも統率の取れていないクズばかりで吐き気が止まらないな。人間というものはどうしてこう、定められた運命からズレたがるんだい?」
その言葉に対し、ライダーとマシュが俺の前に出る。
「マスター、下がってください! あの人は……私たちが知っているレフ教授ではない……‼」
「レフ……ああ、レフ、レフ、生きていたのね! 良かった、あなたがいなくなったらわたし、この先どうやってカルデアを守ればいいか分からなかった!」
「所長! いけません!」
所長は、俺たちの横をすり抜け、レフ教授に一直線で走っていく。
……その姿は、親にやっと巡り合えた子供のようだった。
「やぁオルガ元気そうで何よりだ」
「ええ、そうなの! 管制室は爆破するし、カルデアには帰れないし!
予想外のことばかりで頭がどうにかなりそうだった! でも、あなたがいれば何とかなるわよね?
だって今までだってそうだったもの。今回だって私を助けてくれるんでしょう?」
「もちろんだとも。本当に予想外のことで頭にくる。その最たるものが君だな、オルガ。
君の足元に爆弾を置いたのに、まさか生きてるなんて」
「え―――?」
「いや、生きているというのは違うな。君は肉体的にはとっくに死んでいる。
トリスメギストスはご丁寧にも、残留思念の君をこの土地に転移させてしまったんだ」
「私が、死ん、で―――?」
「ほら、君はレイシフト適性が無かっただろう? だが肉体が死んだことで、念願だった適性が手に入ったんだ。だからカルデアには帰れない。なにせ肉体が無いのだからね。戻った時点で君という思念は消滅する」
「消、滅―――?」
「そうだとも。だがそれではあまりにも哀れだ。生涯をカルデアに捧げた君のために、せめて今のカルデアがどうなっているか見せてあげよう」
レフ教授が手を上げる。
すると、世界の一部が全く違う景色に変わった。
あれは―――カルデアの管制室?
その中央に位置するオブジェ―――カルデアスといったか―――が赤く染まっている。
確か爆発でマシュと二人になった時も、あんな色をしていたような―――
「カルデアスが、真っ赤に……? あ、あれ偽物よね、レフ?」
「本物だよ。君のために時空をつなげておいたんだ。聖杯があればこんな事もできるからね
どうだい? 人類の生存を示す青色は無い。あるのは燃え盛る赤色のみ。良かったねぇマリー? また君の至らなさが悲劇を呼び起こしたワケだ!」
「ふ―――ふざけないで! わ、私は悪くない! 私の責任じゃない! 私は……死んでなんて、いない!
アンタ、どこの誰なのよ⁉ 私のカルデアスに何をしたっていうのよぉ……⁉」
「君の、ではない。全く、最後まで耳障りな小娘だったなぁ、君は」
「!? キャア……!」
「なっ⁉」
所長の体が―――浮いている。
いや、これは引っ張られている、のか!?
「慈悲だ。最後に君の望みを叶えてあげよう。君の宝物とやらに触れるがいい」
「ちょ―――なに言ってるの、レフ? 私の宝物って……カルデアスの、こと?
や、止めて、お願い。だってカルデアスよ? 高密度の情報体よ?」
「ああ、ブラックホールと何も変わらない。人間が触れれば分子レベルで分解される地獄の具現だ。遠慮なく、生きたまま無限の死を味わいたまえ」
「いや―――いや、いや、助けて、誰か助けて!」
所長は必死にカルデアスから離れるようにもがく。
その顔は、恐怖に染まっていた。
「! ライダー! 所長を‼」
とっさに指示を出していた。
「フ―――!」
ライダーの投げた鎖が、所長の体に絡みつく。
「くっ……」
鎖を掴みながら、ライダーも所長と同じように引きずられる。
「このっ……!」
俺も所長を引っぱろうと、鎖を掴む。
だが意味がなかった。ズリズリと地面についている足が引きずられる。
「い、痛い……! いや……!」
カルデアスに吸い込まれるのと、ライダーに引かれるのとで、所長は苦痛の声を上げる。
「無駄だ、無駄! ブラックホールと言っただろう! そのサーヴァントがいかなる怪力を持ち合わせていようが、星そのものを持ち上げられるか‼」
「いや……! 死にたく、ない……! こんな所で、死にたく、ない!
だって、まだ、褒められてない……! 誰も、私を認めてくれて、いないじゃない……!」
「先輩! 駄目です! このままではあなたまで……!」
「だからって、手を放せってか! そんなこと、できるか!」
「やだ……! やめて! いやいやいやいや……! まだ、私は何も! 誰にも、認めて――――――あ」
「⁉」
掴んでいた鎖の感覚が突然無くなる。
見れば、ライダーは杭の顕現を消していた。
そうなれば彼女は、オルガマリー所長は、あっと言う間にカルデアスに吸い込まれていき―――。
「所ちょ―――」
彼女の姿は、かき消えた。
否、星に飲まれたと、言うべきか。
「……っ。ライダー‼ なんで…!」
「………」
ライダーは黙る。ただ、レフ教授にのみ注意を向けている。
「いいや、彼女の判断は正しいよ。このままだと、君もカルデアスに吸い込まれていただろうね。まぁ、私としてはそちらの方が都合が良かったが」
「……レフと言いましたか。あなたは、人間ではありませんね? 元から違う異形の何かです」
「ほう、流石はサーヴァント。そのあたりの違いは当然ながら感知できるというわけか。
改めて自己紹介をしよう。私はレフ・ライノール・フラウロス。貴様たち人類を処理するために遣われた2015年担当だ。
聞いているな。ドクター・ロマニ? 学友として最後の忠告をしてやろう。カルデアは用済みとなった。おまえたち人類は、この時点で滅んでいる」
『……それはどういう意味ですか? レフ・ライノール。2016年が見えない事に関係があると?』
「いいや、もう終わっているのだよ。未来は消失したのではない、焼却されたのだ。カルデアが深紅に染まった時点でな。
未来は確定した。貴様たちの時代はもう存在しない。カルデアは磁場で守られているが、外は冬木と同じ末路を迎えているだろう」
『……そうでしたか。外部との連絡がとれないのはそういう理由だったのですね』
「……え?」
それって、どういう―――
その時、地面が揺れた。
「おっと、この特異点もそろそろ限界か。……セイバーめ、余計な手間を。
では、さらばだロマニ。そしてマシュ。藤丸君。こう見えても私は次の仕事があるのでね。
このまま時空の歪みに呑まこまれるがいい。私も鬼じゃない。最後の祈りぐらいは許容しよう」
そう言って、レフ・ライノールと名乗ったその男は、どこかへと消えていった。
「じ、地震か⁉」
「これは地下空洞が崩れて……! いえ、それ以前に空間が安定していません! ドクター! 至急レイシフトを‼」
『もう実行している! でもゴメン、崩壊の方が早いかも! その時は諦めてそっちでなんとかしてほしい! ほら、宇宙空間でも数十秒は生身でも平気らしいし!』
「ちょっと!?」
ひ、他人事だと思って適当なことを……!
「すみません、黙ってくださいドクター! 怒りで冷静さを失いそうです‼」
「マシュ! こっちだ!」
「先輩! 手を……!」
差し伸べられた手を掴もうと、お互いに手を伸ばす。
手が触れられた瞬間、世界が崩れ、
「フォウ!」
最後に、白いナニカが見え、俺の意識は遠くへと飛んで行った―――。
◇ ◇
今にして思う。
あれが全ての始まりだったと。
この長い長い旅の出発点。
人理という、人類の往く末を見定める航海。
一人の平凡な少年が歩む、出会いと別れの物語―――。
「白黒つける」と言っておきながら、もうすでに色は白黒になっているとか言わないで……