……まぁ、持ってないからいいか。
「フォーウ……。ンキュ、キュウ……」
「………」
なんというか。
この鳴き声、俺が起きるための目覚まし的な機能を果たしてないだろうか……?
起き上がると、そこはカルデアの俺の部屋。
どうやら、冬木から無事戻ってこれたらしい。
目の前には一人の女性がフォウくんと戯れていた。
「おっと、本命の目が覚めたね。よしよし、それでこそ主人公というヤツだ」
「あなたは……確か……」
ぼんやりとした頭で思い出す。
確か、マシュと一緒にいた時に横から話しかけてきた、黒髪の美人さん。
「おお、覚えていてくれたか! まぁこんな絶世の美女を? 忘れろというのが無理な話だろうがね!
自己紹介をしたいところだが、話は後。とにかくキミを待っている人がいる。管制室に行っ行きなさい」
「待ってる人……?」
いいから、ほら早く。と彼女に急かされ部屋を出ていく。
「さぁ、ここからはキミが中心となる物語だ。偉人ではなく、英雄でもなく、ただの人間として星の行く末を定める戦いが、キミに与えられた役割だ。
……どうか、よい旅を。キミにしか掴めないモノがきっとそこにはあるはずだ」
◇ ◇
管制室は、爆発があった時とはまるで変っていた。
瓦礫も撤去されたのか、無くなっている。
ただ、部屋の隅にある罅や煤がうっすらとあることから、あそこで確かに起こったことを現していた。
「おはようございます。先輩。無事で何よりです」
そこに、彼女がいた。
「おはよう。マシュ」
彼女の挨拶に、笑顔で返す。
「コホン。再開を喜ぶのは結構だけど、今はこっちにも注目してくれないかな」
あ、ドクター。……いたんだ。
「そりゃあいるよ。あの後の状況説明がまだだったしね。
まずは、生還おめでとう。そしてミッション達成、お疲れ様。その事に心からの尊敬と感謝を。君のおかげでマシュとカルデアは救われた。
所長は残念だったけど……今は弔うだけの余裕がない」
「……それは……」
頭に浮かんだのは、オルガマリー所長の最後の顔。
涙目で目の前の死を拒絶する、絶望の表情。
「ボクらは所長に変わって人類を守る。それが彼女への手向けでもある。
レフは最後に言ってたよね? カルデア以外の場所は終わっている、と。
……それは残念ながら真実だ。外部との連絡は取れず、外に出たスタッフも戻ってこない。既に、人類は滅んでいる」
「滅んでるって……そんな馬鹿な。俺たちはここにいるでしょう?」
「それはカルデアだけが通常の時間軸に無い状態だからだよ。宇宙空間のコロニーと思えばいい。外の世界は死の世界だ。この状況を打破しない限りはね」
「……打破、できるんですか?」
「復興したシバで地球の状態をスキャンした。冬木の特異点を消滅させたのに未来が変わらない以上、他にも原因があると仮定したんだ。
その結果がこれだ。冬木とは比べ物にならない時空の乱れ。人類のターニングポイント足りえる特異点。現在の人類を決定づけた究極の選択点。それを崩された箇所が、七つ発見されたんだ。これがある限り、人類の破滅は確定されている」
「七つ……」
七つもあると言うべきか、七つしかないと言うべきか。
「だけど、ボクらだけは違う。カルデアはまだその未来には到達していない。この七つの特異点にレイシフトし、歴史を正しいカタチに戻す。それが人類を救う唯一の手段だ。
けれど、ボクたちにはあまりにも力がない。マスター適正者は君を除いて凍結中。
―――この状況で君に話すのは強制に近いと理解している。それでも、ボクはこう言うしかない」
ロマニ・アーキマンは、正面から俺の眼を見据えて、問いかける。
「マスター適正者48番、藤丸立花。君が人類を救いたいのなら。2016年から先の未来を取り戻したいのなら。君はこれからたった一人でこの七つの人類史と戦わなくてはいけない。
その覚悟はあるか? 君にカルデアの、人類の未来を背負う力はあるか?」
「―――」
その真っすぐな言葉に、黙ってしまう。
他に言い様なんて幾らでもあるのだろうに、彼はただ純粋に、この俺、藤丸立花に問うている。
人類史と覚悟はあるか?
―――あるわけがない。
人類の未来を背負う力はあるか?
―――そんなもの、あるわけがない。
人類とか、世界の運命とか、そんなものを俺が解決しろって?
―――無茶を言うな。
「……俺は、どこにでもいる、ただの人間、です」
「……うん」
「……すごい力を持った奴じゃなく、覚悟なんて問われても、俺にはわかりません」
「……うん」
「……でも」
自分の手を見つめる。
あの感触を思い出す。炎の中、震える手を掴んだあの時―――。
生きて欲しい、と思った。
生きていたい、と思った。
「生きて、俺はその先を見たいと思うから。だから―――
マスターとして、戦う。結果は分からないけれど、自分に出来る事なら、やらせて下さい」
「―――ありがとう。その言葉でボクたちの運命は決した。
これよりカルデアは前所長が予定した通り、人理継続の尊命を全うする。我々が戦うべき相手は歴史そのもの。君の前に立ちはだかるのは多くの英霊、伝説になる。
けれど、生き残るにはこれしかない。いや、未来を取り戻すにはこれしかない
……たとえ、どのような結末が待っていようとも、だ。
以上の決意をもって、作戦名はファーストオーダーから、カルデア最後にして原初の使命。人理守護指定グランドオーダーに改名する。魔術世界における最高位の使命をもって、我々は未来を取り戻す!」
作戦名宣言後、ふぅ、とロマンはため息をつくと、その場でへたり込む。
「本当によかった。藤丸君が戦うと言ってくれて。断られたらどうしようかと思ったよ……」
「お、俺も足ガクガクなんですけどね……き、緊張でこれ以上立つの限界かも……」
「ようし! 冬木の特異点完了を記念として、打ち上げといこう! 藤丸君はネットアイドルとかに興味ある?」
「アイドルですか……? あんまり歌とかは聴かない方でしたけど……。ドクターは何かオススメが?」
「それだったら、ボク一押しのアイドルを紹介してあげよう! 話し方はちょっとアレだけど、案外仕事の合間には楽しめるものなんだよね」
「ドクター。先輩をドル友に引き入れようという魂胆が見え見えです」
◇ ◇
「さて、先輩は指示があるまで、もう少し部屋でお休みください」
「うん。でもマシュの方が疲れてるでしょ? あんなに激しい戦いだったし」
「それならお気になさらず。デミ・サーヴァントと化したおかげか、体力的にも余裕が持てるようになりましたので」
「そっか。…………あのさ、マシュ。改めてなんだけど……」
彼女の前に手を差し出す。
「? これは……?」
「うん。ここまで色々あったし、どうやら長い付き合いになるみたいだから、さ。
これから、よろしく。マシュ・キリエライト。俺の名は藤丸立花。一般枠の数合わせのマスターで、君に相応しくないとは思うけど、俺なりに頑張っていくから」
俺の言葉に対し、マシュは手を握り返し、応える。
「―――はい。私の方こそ、よろしくお願いします。まだまだ未熟者ですが、全力で先輩のサポートにあたりたいと思いますので」
何度目になるのか、彼女の手の感触を感じる。
温かい、その手。
―――果たして。最後まで彼女の手を握っていられるのだろうかと、俺はそんなことを思っていた。
でも腹立ったので、持ってる石と一万かけたらギル様が来ました。