この話はそんな方々と、反対に「コピーしちゃった話が見たい」という方に捧ぐ。
多分こういうのを求められた気がした。
「ねぇ、君入試一位の人だろ?」
「!」
「僕?まぁ…」
「僕は物間。よろしく、金木君?」
食えない笑みで手を差し出してきたのは、眉目秀麗といった少年だった。
僕のような珍しいタイプは置いておいて、見た目で個性が分からないという事は少なくとも異形系では無さそうだ。
このままでは気まずいと握手を返そうとする僕の手を止めたのは、いい加減足止めに焦れた焦凍の声だった。
「おいカネキ、これ以上待たせると置いてくぞ」
「あ、うん……それじゃあ」
仕方ないと言わんばかりに肩を竦めて手を下ろした物間君は、その手をひらひらと振って去っていく。
僕は誰かの面影を感じさせる彼の背中を見送ると、宣言どおり僕を置いて行きかけている焦凍を小走りに追いかけた。
――パターン1――
で、
「やあ。あの時はきちんと挨拶できなかったからリベンジしようと思ってね。僕は物間、よろしく」
「あ、あぁ。金木研です。よろしく」
何か含みを持たせている目が誰かに似ている気がして気になったが、僕は素直に握手に応じた。
途端に肩を跳ね上げて目を見開く彼を見て思い至る。
そうだ……彼は、会ったばかりの頃の月山さんにどこか似ている。
咄嗟に手を振りほどいたが遅かった。
彼は苦しげにうめき、もがいている。
異変にいち早く気付いたミッドナイトが慌てた様子で近付いてきて、僕に詰問した。
「金木君!何があったの!?」
「あっの、いえ、彼と握手をしたら急に苦しみだして」
「!握手?物間君と握手をしたのね!?」
「
「ええ、彼は手で触れた相手の個性を一定時間コピーする個性持ちよ!」
「っ!」
状況の危険さを察した僕は、血の気がさっと引くのを感じた。
だとすると、彼は今喰種だという事だろうか。
ごろごろとのたうち始めた物間君に、流石に危険だと思ったミッドナイトが薄い生地のコスチュームを引っ張りつつ近付こうとするのを止める。
彼が最近肉料理を食べたのかは知らないが、彼はバシャバシャと胃の中のものを吐き出している。
僕の個性は野菜だったり肉以外のものを食べれないわけではない。
でも味はともかくとして何とか胃に流し込んだ後も、油をそのまま飲み込んだように胃がムカムカし、吐き出そうとする。
そして肉料理を暫く食べていないのだとしたら……。
「いくら先生でも、飢えた喰種に近付くのは危険です」
「でも、あなたの時は完全に理性を失っていなかったわ」
「
「そんなに……」
個性が発現したばかりの子供が慣れているものか。
焦って不自然な事を言ってしまったと気付いたが、そんなことより先生は飢餓の苦しさに反応して気付かなかったらしい。
「一定時間とは、どのくらいですか?」
「確か五分間だったと思うわ」
なら大丈夫そうだな。と僕は赫子を出して一歩前に出る。
「金木君……?」
「五分くらいなら、抑えておきます。個性の終わりが来て大人しくなったら先生は念の為彼を眠らせてください」
「…分かったわ」
ゆらりと起き上がった彼に、これ以上話す事は出来なさそうだと理解した僕は低く構える。
「肉……にぐよこせぇええ!」
彼の尾てい骨あたりから伸びた青く細い鞭のような赫子。
尾赫か。羽赫よりは周囲のダメージが少なそうだ。
それにしても個性のコピーという事はそっくりそのままコピーなのだと思ったが、"喰種"という性質をコピーするだけであって、赫子の種類はその人によるらしい。
二つ持ちじゃないだろうなと疑いはあるが、飢えて正気を失った状態で力を隠すような事をする喰種はまずいない。多分赫子はあの一本だけだろう。
規則性も何も無くただ乱暴に暴れまわる赫子を自分の赫子で相殺する。
まるで獣だなと自分の姿を鏡で見た気になって自嘲する。
身体の方は何とか体術で押さえ込む。
締め技を使いたいところだが、そんなことをしては忽ちの内にあの細い尻尾が刺さる。
僕ら二人の赫子がぶつかる度に、硬いコンクリートが容易く砕けた。
「!っミッドナイト先生!セメントス先生に僕ら二人をコンクリートで囲むように説明して下さい!」
「大丈夫なのね?」
「はい」
心配を滲ませた声を背中に聞きながら頷く。
殴り掛かって来た手を逆に掴み返して背負い投げをかけて地面に叩きつけると、僕ら二人を囲むようにドーム状に厚いコンクリートが出現した。光を取り込むためか、天辺だけは穴が開いていた。咄嗟の事とはいえ、流石はヒーロー。冷静だ。
僕は案外早かったなと一先ず胸を撫で下ろすが、まだ油断は出来ない。
「――ただ、何も考えずに暴れているようなら、負ける気もしないけど」
「グルル…ウアアあああぁぁぁ!」
「完全にトんでるか」
はあと重いため息を吐く。
これは僕のせいになるんだろうか。
いや、僕の方に過失は無いはずだ。彼の個性のことなんて知らなかったし、僕の個性をろくに調べもせずにただ"強い個性"という情報だけでコピーするだなんて、今日じゃなくてもいずれ痛い目を見たはずだ。
ただ、彼のこの状態を見て、僕の個性が"危険だ"と判断されてヒーローの道を諦めざるを得ない事態になったとしたら――。
「一生恨むぞ……」
僕の半ば諦めの滲んだぼやきですら、正気を失った彼には届いていないだろう。
二本に増えた僕の赫子に赤子のように翻弄されている彼は口の端からだらだらと唾液を垂れ流し、鼻の頭に深い皺を寄せてグルグルと低く唸っている。
周りを囲んでもらったのは、人の理性と知性を失ったこの姿を見せない為でもある。
さて、状況は整った。それじゃあ彼をどうしようか。
手っ取り早いのは、彼に僕の―――もしくは彼自身の肉を食わせる事だが、そんな酷い事は流石にしない。
例え意識の無い状況でも、人である自分が人の肉を食べた苦しみは僕が一番良く分かってる。そんな事を自業自得とは言え、不可抗力で喰種の《飢え》に苦しんでいる彼に味わわせたくは無い。
……仕方ない、たったの五分だし耐えるか。
戦いの中の五分は短いようで意外と長い。
気合を入れなおす僕に、一向に一撃も与えられない彼が焦ったように突っ込んできた。
残念だが、それは悪手だ。
彼の前髪を掴んで頭突きをすると、ふらりと後ろによろけたがら空きの腹に割と手加減無しの蹴りを入れる。
口から血とさっき出し切らなかった胃液を吐きながら、彼は数十メートル先の壁を砕きながら叩き付けられ、べシャッと地面に落ちる。ドーム全体に大きな音が反響して耳に想定外のダメージを負ったが、痛みを感じないので気にすることも無い。
予想はしてたが、僕よりずっと
「………?」
だが一向に立ち上がる様子が無いどころか、ピクリとも動かない。
まさか、死……?
ぞぞっと血の気が引いて、僕は慌てて彼に近付く。
鼻の前に手をかざして、脈を見る。心臓の音も確認した。生きてる、良かった…。
予想よりも早いダウンに拍子抜けだが、飢えていた上に体自体を特別鍛え上げているわけでは無さそうだったから、妥当な結果なのだろうか。
安心した僕は、僕の蹴りに耐え切れずに弾けた彼の腹部の痛々しい傷を観察した。
腹部は青あざどころか赤黒く――というか寧ろ茶色く――変色して、大変痛々しい。
コピーの効果が終わる前に治るか心配だったが、じわじわと巻き戻すように色が戻っていくのを見て杞憂に終わる。安定型の尾赫は鱗赫程では無いにせよ、傷の再生が早い事が幸いした。
しかし自分がやっている事ではあるが、人の傷が再生するのをまじまじと見るのはグロいし気持ち悪くて、僕は思わず目を逸らした。南無。
「……そろそろ外の人を安心させないとな」
タイムリミットの五分はまだ経っていない筈なのに、急に静かになって不安に感じているかもしれない。
僕は壁に向かって歩こうとしたが、ふと自分が怪我どころか汚れ一つ負っていない事に気付いた。
「……」
"個性の危険性"と"僕の危険性"、隠すとしたらどちらだろうか。
……悩むまでも無いな。
きっと、大丈夫だ。
僕が自己管理出来ている事は知ってもらっているはずだし、何よりだれも彼が暴れて居た様子をじっくりと見たものは居ない。……筈だ。
僕は肩を竦めると、めんどくさく思いつつ彼を片手に抱えた。
荷物のように抱える程度、許して欲しい。彼のせいで今後の僕の人生が狂うところだったのだから。
赫子で彼がぶつかって薄くなったコンクリートを慎重に崩して、僕は眩しく感じる外に出た。
「あの、終わりました」
僕はそれぞれ戦闘態勢を取っていた雄英教師陣――つまり、ヒーロー達にへらりと笑いかけた。
緊迫した場面に微妙な空気が流れたのが、とても印象的だったと言っておく。
あ、ミッドナイト先生に個性の使用を頼んでたけど、結局僕が眠らせちゃったな。
相澤先生とミッドナイト先生が顔を見合わせて胸を撫で下ろす様子を見て、僕は呑気にもそんなことを考えていた。
本当はクックヒーローランチラッシュが肉持って来て、トーカちゃばりのヒロイン力(物理)を金木が見せ付けるように肉を口に"ッパーン!"すれば早かった。でもしなかった。
だって物間君を追い詰めたいし金木君も(立場的に)追い詰められたら面白そうだから。
パターン2もその内出します。お楽しみに(?)