※何故か物間君と金木君が体育祭で一対一バトル。
始まりはⅠの方にも書いてあるので省略します。
「やあ、金木君。この間はきちんと挨拶できなかったから、改めて。僕は物間寧人、よろしく」
既にプレゼントマイクの『START』という号令はかかっているというのに、手を差し出して近寄ってきた物間君は、さわやかな笑顔を浮かべている。
その笑顔に思うところはあったものの、僕も手を握る。
「金木です。…知ってるみたいだけど」
不審感を隠そうとしない僕に返事をすることも無く、彼は一度しっかりと握り返すとパッと振りほどいた。
あまりにもあっけない動きに仮にも握手を求められた側の僕は釈然としない気持ちになるが、彼の肩が愉快そうに震えているのを見て口を噤む。
「ふふふ、ふはははははっ!すごい!体に力が巡ってくる!これが君の
愉快そうに高笑いをする彼は、体を駆け巡る力に歓喜している。僕は思わず眉を顰めた。
―――感嘆符使いすぎだと。
全身に力が漲るのを感じる。
先程精を付けようとステーキを食べたはいいものの胃がもたれて拳藤に呆れられたが、今は寧ろ完璧な腹具合だ。
これは……この感じはまさに――
最強だ!
負ける気がしない。今の
五分で終わってしまうというのは惜しいが、五分も必要ない。
「僕は最強だ!」
「……」
僕は余裕の有り余る心でゆっくりと金木君を振り返る。
もしや、予想もしていない同じ個性の持ち主に放心しているのだろうか。
かわいそうに、自分の個性が特別だと勘違いしているものはこの社会では珍しくない。彼もその内の…「はれ?」
冷たく赤く、光る金木君の眼光の奥、太く、大蛇のように長く赤黒い触手。
どことは言わないがヒュンと縮こまるのを感じ、僕はじりっと後ずさった。
「あはは、ごめんごめん!ほら、あれ。挨拶代わりの冗談、ジョークだよ!ね、ね?」
必死の思いは僕を逃がすまいとじりじり詰め寄って来ていた金木君にも通じたらしい。
彼は立ち止まるとわずかに微笑んだ。
ほっと胸を撫で下ろす。次いで、金木君の隙をついて肉薄する。
「なんて、ねっ」
彼を狙って振り下ろした拳は、コンクリートに直径15センチ近い地割れを起こした。
こんな芸当も容易い。
……?
「当たってないよ」
背後から呟かれる。
「っ!いつの間に!?」
「…?見えなかったの?うーん、個性は同じでも能力にはそれぞれ違いが出るのか、それとも個性のコピーとは言っても流石に劣化するのかな」
「そんなわけ無いだろう!僕のコピーは完璧だ、あるとすれば時間制限があるくらいで……あ、」
ムキになって言い返しているうちに、口が滑って弱点まで律儀に教えてしまった。
分かってる、ついムキになって僕の良く動く口がペラペラ喋る事は、時に僕の欠点になるのを分かってはいるんだ!だからその痛ましいものを見る目をやめてくれお願いします。
「時間制限があるなら、そろそろ本気を出さないとね」
「そんなこと、君に言われずとも分かっているさ!」
「赫子、出さないの?」
かぐね?
という僕の気持ちを察してか、彼は腰から生えた触手を指差し、これ見よがしにズヌっとうねらせた。
彼の意図は分からないが、アレが僕にもあれば今よりは有利に戦えそうだ。僕は勝つ事をまだ諦めていない。
「ふん、きっとその言葉を後悔するよ!」
どうすれば出るのかは分からなかったが、僕はとりあえず背中の方に意識を集中させて力をこめてみた。
ビリッと豪快に服が破けて、先程よりも強い力の脈を感じる。
「ふはははは!どうだい?僕のカグネは!」
「……うーん」
胸を張る僕に困ったような、それでいて遊具の天辺に上って威張る子供を見るような目で首を傾げる金木君に、僕の何かがブチッと切れた。
これでも食らえばいい!
ピョコ
ん?こうか!?
ピョム
「なんで動かな…ん?」
僕の尻の辺りに、生ぬるい風を感じる。どうしてだ、"カグネ"は出ている筈なのに!
体を捻り、違和感のある辺りを見ると、微かに見える青い突起。
そう、突起。
金木君のアレが鞭だとするのなら、僕のそれは突起だった。
まるでリスか兎の尻尾のようなものが尾てい骨の辺りで僕の意思のとおりにぴょこぴょこ動いている。
破壊力といえば、僕の服の穴を無駄に広げるくらいなかわいいものだ。
僕は表情を消して、金木君に向き直った。
「……たんまは?」
「たんまなし」
呆れたようにため息をついた金木君は、気合を入れなおすように指をパキッと鳴らすと、良く分からないけどとにかく凄そうな体術で僕は倒された。
カグネを使われなくて良かった。
……あれ、僕のカグネが消えたら、尻にあいた服の穴は?
最後まで考える時間も無く、僕の意識は闇に――まって、ほんとに僕の服、というか尻はどうなるんだ!?
足を下ろした僕は、要らなくなった赫子が空気に溶けていくのを視界の端に捉えながら、ぺシャッと場外に落ちる物間君を最後まで見送った。
彼が何らかの方法で個性を真似る事ができるのは騎馬戦の時に目撃してるし、これから戦うという時に手を差し出してきたときに察しはついた。
僕が彼の手を素直に握ったのは、ただ興味が出たからでしかない。
喰種の力を急に手にした人の実力は、どの程度なのかと。
結果はこの通りだったが、良く考えてみれば当たり前だろう。
彼がコピーできるのは相手の個性だけであって、経験まで自身の物にする訳ではない。
僕は前世で様々な強者と戦って強さを吸収してきた訳で、それまで簡単に真似られたらたまったものではない。
普通は個性を真似られただけでもそんな感情になるのだろうが、喰種は単純な力が強いだけに、喰種同士の戦いでいかに勝つかというところで実力の差が出る為、このぐらいでは"どうって事無い"。
喰種同士の戦いで力押しなんてものは、よっぽどの赫子の火力でも無い限り通用しないのだ。
僕は何時までたっても聞こえない終わりの合図にミッドナイト先生を仰ぎ見る。
彼女は僕と、そして場外でお尻を高く上げた情けない状態でうつ伏せに倒れている物間君を引きつった顔で見比べると、手を上げて勝者である僕の方へ向けた。
「っ物間くん場外、金木くん、二回戦進出……!!」
僕はペコッとお辞儀をして舞台を下りた。
物間君は…大丈夫だろう。ハンソーロボが保健室に運ぶはずだ。何か気まずいし近付かないでおこう。
同じ個性でありながら大差のある実力に盛り上がってるらしい会場に、僕はもう一度お辞儀をしてその場を後にする。
その後、僕は迷惑を掛けたと謝りに来たB組の拳藤さんと仲良くなったり、物間君に遭遇するたびに微妙な空気になったりしたが、それはまた別の話だ。
コメディー練習がてら。
シリアスを書くのは割と簡単なのに、コメディーってば超難しい。
クスッとでも笑っていただけたらいいんですが…。