※注意※
東京喰種キャラの有馬さんがヒロアカに転生しています。
体育祭も終わり、落ち着いた頃。
まだ入学して半年も経っていないというのにもう職場体験をするらしい。
まあ、これの為の雄英体育祭と言っても過言ではないのだが。
私はといえば、緑谷君に相談に乗ってもらって東京にあるヒーロー事務所まで来ていた。
大きく開いた背中を長い髪が撫で、気合を入れるように深呼吸した。
ヒーローには詳しくないが、緑谷君によるとこの事務所の代表は身体強化の個性で、武器を使って戦うらしい。
ただ、身体強化とは言え"それだけ"。オールマイトのようなド派手なモノではないが、
私はそれでこそ私の
自動ドアを潜ると、夏の蒸し暑い空気に包まれていた体を清涼な風が包み込んだ。
私に気付いた受付の女性……男性?中性的な人が代表は上だとエレベーターを指した。
エレベーターで最上階のボタンを押し、閉まる扉を見つめる。
じれったいほどにゆっくりと大きくなる数字に、何故だかだんだんと胸が高鳴る。
緊張?ううん。体育祭の時だってこんなにどきどきしなかった。それじゃあ期待?
チン
軽快な音と共に階数を告げるアナウンスが聞こえ、次いで扉が開く。
開いた扉の向こうには、廊下を挟んでまた別の扉が。ここが、私の目的地だろう。
ノックしようと手を上げると、下ろした手は空振った。
腰を引き寄せられて、誰かの胸板に顔をむぎゅっと押し付ける形になってしまった。
突然抱き寄せられた事にも驚いたが、そんなことより気配に全く気付かなかった事に眉を顰める。
とりあえず離れてもらおうともぞもぞ動いて口を開くと、また目の前の男に遮られた。
「やっと、逢えた」
ひゅう。と、下手くそに吸った息が鳴る。
人は、人を忘れる時に声から忘れるのだという。
だが、たとえ一時の邂逅だったとしても、一瞬の会話だとしても、15年の長い離別だとしても。
忘れるわけが無い。彼の声、話し方……。
「あ、りま…貴将?」
「うん。久しぶりだな、金木研」
この声だ。この声に、ずっと名前を呼ばれたかった。
震える手で彼の胸を押すと、以外にも拘束は緩んだが、まるで逃がさないと言いたげにその手は私の腰から離れなかった。
そっと彼の顔を仰ぎ見る。
私よりずっと高いところにあるそれは、記憶と寸分違わない……いや、少し若いだろうか。
私は未だに信じられず両手でそっと彼の顎を触り、輪郭を確かめるように耳の裏まで撫で上げた。
「くすぐったい」
「あ、ごめんなさい。……本当に、有馬貴将、有馬さんだ。有馬さんが居る…」
生まれ変わっただけでなく、私と同じように前世の記憶を受け継いで、目の前に居る。
視界がにじむ。
片手をようやく離した有馬さんは、涙の浮かぶ私の目じりを親指でそっと……。
「ごほん」
「っ!」
背後から聞こえた咳払いに私は肩を跳ね上げて、割と本気の力で有馬さんをべりっと引き剥がした。
どうしよう、見られてしまった。これはまずいのではないだろうか、何せ私達は…
「未成年者にヒーローがなんてことしてるんですか」
「あ、あの、これは」
その、やむを得ない事情が…と私が必死に言い訳をしている横で、有馬さんは涼しげな顔でその人の名前を呼んだ。
「郡……邪魔しに来たの?」
「な訳無いでしょう。感動の再会も良いですが、傍から見たらいい年した大人が未成年を誑かしてる様にしか見えませんよ」
「それはまずいかな」
そういうと有馬さんはやっと離れた。
ほっとするのと同時によく効いた冷房で体が冷え、微かに身震いすると有馬さんが自分が着ていた白いサマーコートを肩に掛けてくれた。
御礼の変わりに彼に微笑むと、また背後から咳払いが。
「だから、いちゃつくのは後にしろって言ってるんですよ」
「あっすみません……。あの、
「宇井郡。有馬さんのサイドキック兼この事務所の事務も担当してます。因みに"男"です」
「あっ……ですよ、ね」
消え入るような声で返事をする。
聞くまで完全に女の人だと思ってた……。
本人が慣れた様子で自己申告してくれて良かった。じゃなきゃこの職場体験期間ずっと彼を彼女だと思って過ごしていただろう。……なんだかこんがらがる。
とりあえずここではなんだからと宇井さんに促され、私達は部屋の中へと入る。
未だに高鳴る胸を押さえて促された席に座る。うわ、ソファーふわふわだ。
何故か隣に座った有馬さんは、私の長い髪を指で梳く。
絡まったりしないかな。こまめに切るのが面倒で伸ばしたのはいいが、きちんと手入れをしたかと聞かれたら頷く事はできない。柔らかいソファーと有馬さんの手に挟まれて居心地悪くお尻をもぞもぞ動かし、沈黙に耐え切れずに口を開いた。
「あ、あの……お久しぶり(?)です。有馬さん」
「うん。久しぶり、ケン」
「……」
「……」
き、気まずい。
"あの時"は意外とお喋りな人なんだなとか思ったりもしたけど、全然そんな事なかった。
っていうか、今ナチュラルに名前で呼ばれた?有馬さんにとって自然でも、私にとっては全然自然じゃないんですけど?え?
「髪、長いね」
「!あ、と。邪魔、ですよね?そろそろ切ろうかな……」
彼に倣って髪を一房手に取り、苦笑する。
そういえばいつの間にか腰を擽るほどに伸びていた髪は、今まで気にしなかったのが嘘のように邪魔な気がする。
有馬さんは不思議そうに首を傾げると、唐突に「テレビで見たとき、」と切り出した。
「金木って名前が聞こえて、人違いだと思ったんだ。よくある名前ではないけど、珍しいというほどでもないからね」
「……?」
「でも、画面の中で、風に広がる白い髪から目が離せなかった。記憶に焼きついてたんだ。白秋の歌と地面に広がる君の髪が」
つまり、だ。
そんなつもりは無いのかも知れないが、彼は「この長い髪のおかげで私が金木研だと気付けた」と言いたいのだろうか。
「……髪は、縛るようにします」
「?うん、邪魔ならそうしたら」
「はい…はい……」
きっと真っ赤であろう顔を手で覆い、俯く。
するとデジャヴを感じる咳払いがまた響いた。
「私が居るのを忘れてませんか?」
「「あっ」」
二人の声が揃う。
尤も、有馬さんのは"まだ居たの"というニュアンスだったが。
「いちゃつくのは後にしろって言ったでしょう。説明は、もう済んだんですか?」
「いや、まだ」
「全く……」
愚痴を零しながらコトリと目の前に置かれたカップを見る。
どうやら珈琲を淹れてきてくれたようだ。ありがたく頂いて、説明とはどういうことかと質問する。
宇井さんは何故か擽ったそうな顔をするが、すぐに不機嫌そうな顔に戻り、目を逸らす。
「職場体験に来た学生にする、ちょっとした注意事項と体験内容の説明みたいなもんです。学校でも耳にたこができるくらいには言われたと思いますけどね」
「あぁ、確かに言われました。ヒーロー事務所側でもそういった事の説明はするんですね」
「へえ。知らなかった」
チラリと有馬さんを見ると、何を考えているのかよく分からない表情でなるほどと頷いている。いや、貴方は知らないと駄目では。
宇井さんは有馬さんに「ちょっと黙ってください」とため息を吐いた。
非常に不安だが、大丈夫だろうか。
未だに実感が湧かないが、やはり夢などではなく、目の前のビルには"有馬ヴィラン対策ヒーロー事務所"と書かれている。……最初に気付けと?無理だ。何せ二度と会えないと思っていたのだから。
そして今日の体験内容はパトロールらしい。ヒーローらしい行為にわくわくすると同時に、あの有馬貴将もパトロールするのかと少々意外に思った。
「……おはようございます」
「おはようございます。有馬さんはまだ来てませんよ」
「あ、その、はい。すみません」
朝から掃除に清が出る様子の宇井さんを手伝っていると、扉を開けて有馬さんが入ってきた。
「おはよう」
「おはようございます」
「ケン、食事の材料を買って来た」
「?」
「料理できるんでしょ?肉とかいろいろ買ってきたから、作ってくれ」
宇井さんに助けを求めるも、無言で首を振られる。やるしかないらしい。
食事も終えると、有馬さんはおもむろに上着を脱いで机に上がった。
「腹ごなしに手合わせでもしようか」
「そこでですか?」
「うん。丁度いいから」
「(どこが?)」
結果だけ言うと、勝てなかった。何回やっても、何をやっても。敗北のイメージが脳裏にこびりつくようだ。
それからいい時間なのでパトロールを開始するという有馬さんについて外に出た。
迷子になった子供、落し物をした女子高生、腰の曲がったおばあさんの荷物持ち。
流石にヴィラン事件には出会わなかったが、困ってそうな人を見かけては私にGoという有馬さんに人使いが荒いと思っていると、ケータイに一斉送信で緑谷君からメッセージが来た。
開いてみると、"江向通り4-2-10の細道"とだけ。
何のことか分からないが、意味もなくこんなことをするような子ではないと知っている。
「有馬さん」
「ん?」
「江向通りって、ここから遠いですか?」
「……いや、そんなに遠くないと思うよ」
「友達がそこに……危険かもしれません」
「そうか。行こう」
二つ返事で頷いた有馬さんの案内で向かう。
彼の背中が大きく見えた。
発信された住所に着くとすぐに、傷ついた轟君、緑谷君、そして飯田君がヴィランに囲まれていた。
この通りは血の匂いが色濃く充満している。怒りに頭の中が真っ赤に染まった
到着した直後、一瞬の間に金木の背中から赤い赫子が何本も放出するさまを、轟は瞬きもせずに見つめていた。
まるで花の開花を早送りにして見ているような気分だった。花とは対象に死を感じさせる彼女の姿を、綺麗だと思った。
「っカネキ、」
「ケン」
白いコートが、金木の姿を覆い隠す。
男は頭を抱えて何事が呟く金木に近寄る。轟が思わず近付くのを戸惑った赫子の間をするすると通って、いともたやすくその頬に触れた。
気付いたら、有馬さんの冷たい手が頬に触れている。
彼の指が、ググっと力を込めて眼球に近づく恐怖に目を見開き、思わず目を合わせてしまう。
そして、すぐに後悔した。
何も映していない様な冷たい目。強いて言うなら、私への失望が浮かんでいるような気さえしてくる。
「あ……あ、ごめんなさい有馬さん…」
「今がどんな状況か、分かるな」
「はい。ヴィランが街中で暴れているので、すぐに制圧しなければいけません」
「よし。――準備しろ。殲滅する」
それだけを言うとすぐに背を向けた彼にほっと肩の力を抜いて、一度目を伏せる。
「……カネキ」
「あ、轟くん」
「大丈夫か?」
「うん、ごめんね。みんなの方こそ、怪我は大丈夫?」
「飯田の怪我が酷え。俺はまだ戦えるが、緑谷も難しいだろうな」
辺りに血の匂いが充満していてよくわからなかったが、よく見ると轟君の腕も刃物で刺されたような傷があった。
「ううん。君もここでそのヴィランを見張ってて。他のヴィランは私と有馬さんで何とかなるから」
「有馬……」
何かを考えている轟君には悪いけれど、有馬さんを待たせているので構っている暇がない。
有馬さんが去った方へ走っていくと、既に戦闘は始まっていた。
「丁度良かった。上を飛んでるやつを倒してきて」
上を見上げると、確かに脳無が何匹も空を飛んでいた。
数や位置を確認して頷くと、有馬さんは武器を顔辺りの高さで横に構える。
さあ来いと言わんばかりの顔にやることを察して、数歩下がって助走の距離を取る。体勢低く走り出し、地面を蹴って有馬さんの武器に足を掛けてもう一度跳ぶ為に膝を曲げると、彼と目が合った。
「行ってこい」
「はい!」
その言葉を合図に有馬さんが武器を振り上げ、同時に私も空へと跳んだ。
崩れかけた姿勢を空中で直し、丁度寄って来た脳無に赫子で掴まって更に高度を上げると、踵落としを食らわせて地に落とす。それでもなお立ち上がる脳無には有馬さんがとどめを刺している。
それからも赫子で倒したり、下に居る有馬さんの届くところまで投げたりすれば、すぐに周りのヴィランが居なくなった。
どれも以前USJに来た脳無よりずっと弱かったのは、やはりあの脳無が"対オールマイト用"とだけあって特別強かったのだろう。
赫子で勢いを殺しつつ着地すれば、有馬さんが歩いて来て一つ縛りにした私の頭を撫でた。
「よくやった」
「ありがとうございます」
「俺は向こうを見てくる。お前はここで同級生と待機」
「分かりました。東側にヴィランが大量に居るみたいです。気を付けて」
有馬さんは私に一つ頷いて未だ戦闘音の続く方へと歩いて行った。
「カネキ、大丈夫か」
「うん。轟君たちも大丈夫?すぐ応急手当てをするから…」
止血をしようと伸ばした手を掴まれる。
「あいつ……お前が言ってた、"初恋の人"か?」
「へっ!?」
あまりにも突然に投下された爆弾のような一言に、思わず声が裏返る。
轟君は私の狼狽えっぷりに納得をしたように「そうか」と頷くと、胸を押さえる。
「?いてえ…」
「え?傷はないと思うけど」
「……多分何でもねえ。飯田達の手当てすんぞ」
彼らの方に向かうと、倒れているヒーローと気絶し拘束されたヴィランが居たことに気付く。
状況から見て、三人と戦ったのはこのヴィランだろう。
プロ顔負けの実力を持った轟君と、A組の中でも実力者の緑谷君と飯田君が揃って戦ってこんなにボロボロになるなんて。このヴィランは相当な実力者なんだと思う。
その場には事態に収拾が付こうとしている安堵からか、どこか気の緩んだ空気が包む。
見知らぬご老人が来たり飯田君がなぜか頭を下げたりして事態を飲み込めずにいると、突然翼の生えた脳無がやってきて、緑谷君を掴んで飛んで行った。
まさか有馬さんがヴィランを取りこぼしたのだろうか?しかし、脳無の来た方向は東ではなかった…いや、今は考えている暇はない。
「緑谷君!」
赫子を伸ばすも、飛行する脳無には届かない。
脳無のつぶれた片目から流れた血が頬に降ってくるのが見えて目を閉じると、その上をぬらりと何かが這う感覚がした。
直後、脳無が不自然に動きを止め、緑谷君共々落下する。
落下地点へ走ろうとすると、私を追い越して轟君達がとらえたはずのヴィランが空中で緑谷君を受け止め、脳無にナイフで止めを刺した。
「偽者が蔓延るこの社会も、
「粛清対象だ」
気圧された。
ヴィランのあまりの気迫に、圧倒された。
前世の経験から、そのヴィランがいつこちらに刃を向けても対応はできるようにしてはいた。
だが、聞きたいと、いや、
「全ては、正しき社会の――」
ヴィランが倒れる。
その後ろに居たのは、白いコートを羽織ったかつて"死神"と呼ばれた男だった。
有馬さんは色のない目でヴィランを見ると、武器についた血を払ってこちらに歩み寄ってくる。
「
「あ……有馬さ」
ヴィランに
「分かった?」
「……はい」
話していたのはヴィランであって会話はしていないとふて腐れるもそういうことではないと分かっているので頷くと、それすらも分かっていると言いたげに有馬さんはまたポンと頭に触れたのだった。
「卒業したら、うちの事務所においで(命令)」
「分かりました」
逃がす気のない有馬さんと逆らうという考えすらない金木ちゃん。
甘酸っぱい轟ルートとは対照的に、有馬さんとの恋愛描写は暗めに書きました。
リクエストありがとうございます!