カネキヒーロー IF・番外編   作:ゆきん子

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勇者イズクと隻眼の魔王 中

 

 

 

漆黒の玉座に座り、手を組み瞑目して何やら考え込む青年に一つの影が近付いた。

影の主である赤毛の男は青年に近付くと、思考の邪魔を躊躇うような口ぶりで報告した。

 

「勇者一行が、魔王城の近くまで来ているみたいだ」

「……」

「お前の、弟も居る」

 

ようやく目を開けた青年の瞳は眼帯を付けている為片方しか現れなかったが、黒に近い灰色の瞳がどこか物憂げだった。

 

「そう、ショートが」

「大丈夫なのかよ……」

 

部下らしき赤毛の男が労わる様に言うのに苦笑して髪をかき上げた。

 

「うん。決めたんだ、人間じゃなく魔の者達の為に生きると」

 

玉座に腰掛ける青年の髪が白く、その場に居る者が全員黒い服を着ていることもあってか、彼らはまるで喪に服しているようだった。

 

 

 

 

 

 

ようやく魔王城に辿り着いた勇者一行は、幾人かの猛者達が城に入りもせずに城門近くで野営している事に気付いた。完全に居座るつもりの者達を見たイズクが不思議に思って近くの女戦士に訳を尋ねると、どうやら不思議な力によって入ることができないらしい。

それを聞いたカツキが背負った剣で城門に切りかかるが、やはり不思議な力で弾かれてしまう。彼のドラゴンも同じくだ。

どうやらただの攻撃ではどうしようもない城門を開く方法に頭を悩ませる一行に、背後から声を掛ける男が居た。

 

「もしや、ショート王子ですか!?」

「?」

 

ショートをはじめとする仲間達が振り返ると、騎士のような甲冑に身を包んだ清廉な雰囲気の男性がいた。

イズクが不思議に思ってショートを見ると、彼は少し驚いたように目を瞠っている。どうやら本当に知り合いのようである。

 

「テンヤか。どうしてこんなところに居るんだ?」

「どうしてはこちらの台詞です!預言者からお告げをされた時、本来なら護衛を用意して出発するところを王子が一人で先に旅立たれてしまったんですよ」

「悪い」

「でも魔王城に先回りして正解でした。王子ならば、そこらの魔の者や不届き者に遅れを取る事はないでしょうから」

 

イズクは戸惑いながらも、話の流れから彼が王子に付く予定だった護衛騎士だと当たりをつけて礼儀正しく自己紹介をした。

 

「えーと、ショート王子のお知り合いの方ですか?僕はイズク。預言者様に勇者とお告げをされた者です」

「はっ!俺としたことが、挨拶が遅れたね。俺は国の騎士テンヤだ。今まで王子をお守りしてくれて礼を言う、ありがとう」

「そんな!むしろ僕の方が守られてばっかりで……」

「王子は何でもできるからな。昔は臆病でかわいらしかったのだが」

「おい」

 

イズクはショートの幼い頃の話がとても気になったが、嫌な話の流れを察したショートが素早くテンヤを睨み付けたのでこの話はここでやめになった。全て終わったら聞こうと思う。

 

「仕方ない。ここは俺らも野宿するしかないか」

「はあ!?」

「うーん…」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

約一名、目を極限まで吊り上げて不満を表したが途中で仲間になったオチャコが発表をするように手を上げた。

 

「あの、旅の途中に物理攻撃が効かない"もや"を纏ったやつがいたよね?」

「うん。確かに居たけど……」

「…そうか」

 

突然何を言い出すのかと首を傾げたイズクの横でショートが全てを理解したように頷いたので、全員の視線がそちらに向く。

 

「そんときはオチャコの聖なる魔法をイズクの武器に纏わせて戦っただろ。今回もそうすれば、あるいは…って事が言いたいんだな?」

 

ショートの説明にオチャコは首が取れそうになるほど激しく頷いた。

イズクはポンと手を叩いて預言者から受け取ったナイフを掲げる。ショートの洗練された長剣やカツキの大剣のように力強くもない、一見何の変哲もない短剣だが特別な力があるのかこの短剣だけがオチャコの得意とする聖なる魔法の効果を纏う事ができた。

空は暗くなり始めている。善は急げだ、早速オチャコが掲げられた短剣に手をかざすと、短剣は暖かな光に包まれた。

 

「僕達は、この先に行く…。道を、開けて!」

 

イズクが袈裟切りに振り下ろした短剣によって、うんともすんとも言わなかった結界がバターの様に切れ、宙に解けた。

 

「やった!」

「よくやったな」

「よかったぁ~」

 

一行が思い思いに喜びをあらわにすると、どこか高貴さを身に纏う女戦士が話しかけてきた。先程結界について教えてくれた人物だ。

彼女は驚き、目を見開いて結界があった場所を見渡した後、感動の言葉を伝えるとやや強引にイズクの手を掴んだ。

 

「驚きました。あの結界がこんなに簡単に解けるとは」

「えっと、あなたは?」

「ああ、失礼いたしました。私は剣士モモ、人に仇なす魔の者を狩っている内に預言者に言われ、この地にて勇者を待っておりました」

「僕を?」

 

イズクが自分を指差して首を傾げると、モモは曖昧に頷いた。

 

「最初はそちらの方だと思いましたが、今では自分の見る目の無さを恥じていますわ。とはいえ、ここに居る方々は勇者のお仲間とお見受けします。皆さん相当に腕が立つのでしょうね。ぜひ、私も一緒に連れて行ってください。きっとお役に立ちますわ」

 

そちらの方、と言ってショートを見たモモに、イズクも内心同意した。

勇者に選ばれたと言っても、村に居た頃イズクはドジばかりやらかして、自分が救世の勇者だとはとても思えない。

旅の仲間は皆イズクよりもずっと優秀だと、誰よりもイズク自身が分かっていた。

 

だけど。それでも誰にも負けない気持ちを持っている。

旅をしている内、人々と触れ合う内にだんだんと強くなったその思いだけは、誰よりも強いとイズクは信じている。

 

「……うん、行こう!」

 

 

 

 

城の中は不気味な静けさに包まれていた。

気のせいか身を撫でる空気もどこかひんやりとして冷たい。イズクは腕を擦ると顔を引きつらせて苦笑した。

 

「な、なんだか寒いね……」

「油断すんなよ。いつ奴等が出てくるかわからねえ」

「うん」

 

馴れ合いを嫌うカツキはケッと悪態を付くが、僅かに感じた違和感に動物的勘が働き、後ろを歩くイズクたちを止めた。

 

「妙に静か過ぎる」

「確かに、結界が解かれたのに警戒もしないのは不自然だな」

 

立ち止まった一行が怪訝な顔を見合わせていると、背後からカツン、カツン、と足音が聞こえてきた。

各々が武器を構えて一斉に振り返ると、そこには眼帯をした白磁の顔に優しい微笑を称えた青年が立っていた。

 

「こんばんは。沢山居るようだけど、どうしたのかな」

 

青年の微笑と物腰の柔らかさにホッとして、それぞれ知らずに力んでいた肩を休ませた。

彼の疑問にイズクが答えようとすると、隣のショートが口を何度かはくはくと動かした後、掠れた声を上げた。

 

「あ、兄上?」

「?どうかしたかい、ショート」

 

「「「!?」」」

 

二人の会話にその場の全員が驚愕する。会話から察するに、彼はショートの兄であり国のもう一人の王子ということになる。イズクがショートに聞いた話では魔族に攫われたと言うニュアンスだったが、見たところ自由に歩き回っても大丈夫なようである。

 

「何で……いや、無事なのか?どうしてここに?」

「……。もしかして、僕が心配で探しに来てくれたのかい?ショート」

「あ、たり前だ!あんなふうに居なくなられたら誰だって」

「はは。確かにね」

 

可笑しそうにくすくす笑う彼の白い髪が揺れる様をイズクはぼうっと見つめる。

良く見れば肌も抜けるように白く、服まで白ければおばけと間違えていたかもしれないが、服も眼帯も光を飲み込むような漆黒だ。そして、彼は何故だか見る者の目を惹き付ける。

……そうだ。ショートのような一目見て目を奪われるような派手さは無く、大きい目と通った鼻筋がどこと無く中性的だがどちらかと言えば地味な青年は、それでも王子なのだ。気品のある振る舞いは彼の容姿にピタリと寄り添って、物腰が柔らかいにも関わらず見る物に有無を言わせない雰囲気を纏っていた。

 

そのせいだろう。

勇者一行の誰もが、彼がショートの質問から自然に話を逸らした事に気付かなかった。

 

「あの城から来たって事は、長い旅だっただろう。お仲間の方々も、今夜はゆっくり休むといい」

 

庶民のイズクから見ても品があると分かる所作で付いて来るように促すと、彼はこちらに無防備に背を向けて歩き出す。

無防備に、なんて無意識のうちに考えていた自分に、すっかりサバイバル生活が身に染みてしまったと苦笑したイズクはその考えを振り切るように前を歩く兄王子に話しかけた。

 

「あ、の!」

「ん?」

「お名前を、聞いてなかったなって」

「ああ。そうだったかな……」

「…?あ、あの?」

 

ぼうっと考え込む青年にオチャコがおずおずと声を掛けると、にこりと笑って首を傾げた。

 

「いや、ごめんね。何と名乗るべきか悩んだんだ。申し遅れたね、僕はケンだよ。……よろしくね」

「は、はいぃ!よろしくお願いします」

 

何か言いたげに見つめるショートと目が合ったケンだが、直ぐに案内を再開した。

 

「…さて、この辺りの部屋は好きに使っていいよ」

「えっ!ここ全部!?」

「急なお客様でろくに持て成すこともできないけど、ゆっくり休んで、ね?」

 

先程から顔色の悪いモモの肩を労わるようにやさしく叩いて去っていく背中を見送る。

やがて闇へと溶けた黒い装束から目を離すと、仲間達は早速部屋を選んでいるらしい。イズクは慌てて部屋の中に入ろうとする彼らに声を掛けた。

 

「あの、皆!落ち着いたら僕の部屋に来てくれる?」

 

 

 

 

 

 

「で、全員集めて何の用だ?」

「いや、僕達魔王を倒しに魔の者の本拠地と言われてる城に来たのに、居るのは君のお兄さんくらいじゃないか。この城に他の人が居るような生活音もないし……」

「無駄足だったって事だろ。チッ、折角魔王をブッ飛ばせると思ったらあんなヒョロい男一人かよ」

 

つまらなそうにぼやいたカツキがさっさと寝たそうにしている横で、テンヤが首を傾げた。

 

「しかし妙だな。この城に近付くほど魔の者の数や強さが格段に上がったのは言うまでもない。……まるでこの城を守るように」

「でも中にいたのはお兄さんだけやったってことだよね?」

「そう……だね。まあこんな大きい城が綺麗に掃除されていたし、使用人さんとかが居るかもしれないけど」

「チッ」

 

その場に沈黙が訪れる。

さっきの、ケンの雰囲気で有耶無耶になってはいたが、改めて整理するとおかしな話だ。この城を守るように数と強さを増した魔の者、勇者にしか解けなかった結界、静けさに包まれた城でただ一人会った白磁の青年。

これではまるで、まるで……魔の者がケンを、

 

「……つまりお前たちは、魔の者が俺の兄を守っていると、そう言いたいのか」

「っ!」

 

先程まで口を閉ざしていたショートがおもむろに放った言葉に、気まずい空気が流れた。しかし状況から見てもそうとしか考えられない。

 

「でも、ショート…この状況から見て、君のお兄さんは――」

「っお前…!」

「お、落ち着いて!」

 

オチャコの声に冷静さを取り戻したショートは、それでも参った様子で俯き髪をクシャッと握った。

 

「分かってる。これはそんなはずじゃないと信じたい俺のわがままだ。だが…!」

「うん、そうだよね。じゃあ、明日本人に聞いてみよう。どうしてこんなところに住んでいるのか」

 

その時は誰も気付かなかった。

一言も話さなかったモモが、顔色を悪くしてじっと話を聞いていたなんて。

 

 

 

 




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