ちょっとした描写練習みたいなやつなんで、気になったら読んでくだしぃ。
闇があった。
私の眼前には、ただただ闇が広がっていた。
光差すことなく。
私の心すらも塗り潰さんとする闇が広がっていた。
光を浴びているものからすれば、それはおぞましく、恐ろしく感じる光景だ。
ふいに目を覚ます。
頭の中で「起きろ」と聞こえた気がしたから目を覚ました。
女性の声だった。
その声の主を見たわけではないが、直感でその声を女性の物と判断したのだ。
………声が出ない。
ヒュー、ヒュー、と枯れた音しか聞こえない。
すると、寝ている私の横には1つのカバンが落ちていた。
中を探ると、筒状の硬い物が出てきた。
手の感触に伝わる金属の硬さ、そこから伴う冷たさが手に伝わる。
それを揺らすと、何か中で物が揺れているような感触がした。
それは水だと直感した。
すぐさまそれを飲み、喉を潤し、枯れた音も人の声として聞き取れるようになった。
口から流れる冷たい水は枯れた喉を潤しながらさらにその下へ、カラカラの胃に伝わり、染み渡る感触を覚えると、胃の中は空っぽなことに気づく。
そう言えば、私は一体どれほど眠っていたのだろう。
なぜこんな所で眠っていたのだろう。
空っぽの頭の中にいくつもの疑問が湧き出るが、特にそれがなんだと思うわけでもなく、まぁいいかの一言でソレらを一蹴した。
それからやることもなく、また眠りにつこうとすると………ふいに、頰を冷たい何かが撫でた。
その感触に驚き、周囲を見渡すも、辺りは闇ばかり。
直感する。
その頰の感触の正体を探さねばならない、と。
私は、眠っていた体を起こし、地に足をつけ、立ち上がろうとするも、足に力は入らず、そのままガクリと崩れ落ちてしまう。
ーーーー足の感触がない。
そこに足があるのは分かる。
だが、足が何かに触れているとか、そう言った感触を感じないのだ。
普通なら、その時点で諦めていたのだが、心の臓腑から湧き上がる衝動にも似た感触が、私に諦めるという選択肢を消し去ったのだ。
次に、壁に寄りかかりながら立ちあがる。
これは成功した。なんとかそのまま移動できそうだ。
歩き進めていると、次第に微睡んでいた頭も目覚めて行く。
そして、ふいに腐臭のような酸い匂いが鼻に付く。
その匂いに気を悪くしながらも、歩き続ける。
時折足元にグシャリとした感触が走り、体を崩してもまた体を起こし、壁に寄りかかりながらも立ち上がり、移動する。
この腐臭のような匂いやふと足に伝わる感触の正体は分からない。
見渡すもそこは闇。
光など存在しないのだ。
探っても無駄、と判断した私は歩みを進め続ける。
どれほど移動したのだろうか。
足がまともに動かないせいもあるのだろう、普通に歩いている時に比べかなり疲労が蓄積する。
一歩、また一歩歩みを進めるも、目の前には広がる光景に変化はなく、自分の足音以外に音もなく、ただただ闇が広がり続けている。
心に湧き上がった衝動に似た感触も、今ではすっかり落ち着いてしまった。
ーーーここで辞めてしまおうか。
私の中の怠惰な自分が私にそう囁くと、特に抵抗する気も起こるわけでもなく、そのまま膝を折り、足を崩し、体を寝かせてしまおうなどと考えてしまう。
そうしてしまったほうが、遙かに楽だろうからーーーーー
ーーーふいに、またあの感触が顔を撫で回す。
なぜ今になって…だが、目的地は近いということか、それを理解するとあの衝動が湧き上がり、歩こうと言う意志が強くなって行く。
そして、自然と歩みを進める足が軽くなっていった。
ーーと、歩みを進めていると何かにぶつかる感触を覚える。
それに手を触れると、いくつもの岩が重なっているような感触を覚える。
行き止まり、一方通行。
そんな言葉が頭の中で増え続ける。
何かないかと見渡す。
ーーーと、一ヶ所だけ色が違うところが見えたのだ。
そこだけ岩はなく、その隙間からなら体が入ることができそうなほどに広がっていた。
私は、重なる岩を足場にし、その隙間へたどり着くために、登り始める。
やがて、その隙間から身を投げ出すと、目の前が真っ白な風景に切り替わる。
あまりにも唐突に目に伝わる感触から思わず目を背ける。
それは眩しいというよりもとても熱く、眼球がすべて焼き尽くされてしまうのではないかも思えてしまうほどに、その感触はとても不慣れなもので、とてもーーー心地よく感じた。
瞼の上から伝わる熱の感触に目も次第に慣れて行き、伏せた目を開け、その熱の正体を見るーーーーー
「ーーーーーーーーーーーーーッ」
言葉を失った。
心を奪われた。
それに対し、何を感じ、何を考えつくという行動権すらも奪われた。
それに対し、私はただただ目を見開いてその光景を眺めることしかできないーーー否、許されていないかのように感じた。
映った光景、目に伝わる熱の正体は、いわゆる朝焼けというものだった。
深い深い闇夜の時間に終刻を告げるが如く、光と炎に包まれたソレは闇を払って行く。
ソレの前では深い闇など存在を保つことすら許されず、1つの強大な光は世界を覆っていた闇を有象無象が如く、無慈悲に切り払って行く。
それを見たとき、私に何を考えられようか。
当たり前ともすら感じた闇という存在が、このように容易く払われてしまっているのだから。
この光を知ったとき、私は思う。
闇は冷たいものだ。
目の前には何も見えず、どこに何があるのかは手の感触や嗅覚、聴覚でしか把握できないのだ。
知ることを許されず、見ることを許さず、闇という囲いの中でしか存在できないのだから。
そして、光とは温かいものだ。
私たちに見ること、知ることを許してくれたのだ。
だからと言って匂いや嗅覚が途絶えるわけでもなく、そこからも様々なことを知ることができる。
故に思う。
人間……いや生物は、光の下で生きているのなら、生物として自由に生きていて良いものだと確信する。
フワリ、と。
あの闇の中で不意に顔を撫でたソレは今度は大きく、はっきりと全身で受けることができる。
とても、心地よい風だ。
温かすぎるわけでもなく、冷たいすぎるわけでもなく、触れた瞬間に心地よいと感じる、そんな風だ。
この風がまた相まって朝焼けの美しい光景が心に染み渡って行く。
そう、最初に目覚めた時に枯れた喉を水で潤わせた時と同じ感触が、私の心の臓腑に染み渡って行くのだ。
闇の冷たさによって凍り付いていた心が、次第に陽の光によって溶かされて行くーーー
ーーーーポタリ、と。
目から頰を伝うように何かが流れる。
これは汗だろうかーーー否。
これは凍り付いていた心が溶けた際に流れた雫と言おうか、私の目から止め処目なく溢れ出す。
止まらないーーー止められない。
押さえつけていたものが支えを失い、一気に込み上げて行く。
………気がつくと、私はその場で崩れ落ち、ただただ泣きじゃくっていた。
それは子供のように……否、胎内から出てきた赤ん坊のように、ただただ泣きじゃくっていたのだ。
心が溶けたことで様々な感情が流れ、込み上げて、抑えることができず、そのままただただ溢れて行く。
故に思う。
私はなぜ無関心でいたのか。
光が一切刺さない闇の中でなぜ平然としていられたのか。
助けを求めるだの、人の気を探すだの、やることはあったはずだ。
なのに、私はまたその場で眠ろうとしていたのだ。
それだけではない。
途中鼻についた腐臭、あの暗闇の地下道には相応しくないような腐臭がしたと言うのに、なぜ気を悪くする程度で動揺もしなかったのか。
なぜ、腐臭の元であるグシャリとした物体を踏んでもなんとも思わなかったのか。
ーーーこれが、闇を当たり前と認識してしまった凍り付いた心によるものだと思うと、不思議と納得が言った。
狂っていたのだ。
あの場で私は光も音もない闇の中で、何も関心を持つことがなかった私の心は、あの場で狂い果てていたのだ。
それも、自分が狂っているだなんて気づけないほどに。
だが、この朝焼けの光が、私の全身を包み込むように凪いだ心地よい風が、私の現状を教えてくれたのだ。
だからこそ、閉じていた感情が、こんなにも止め処目もなく溢れてしまっていると分かる。
なぜこうなっていたのか。
なぜ私の心はこうも狂ってしまっていたのか。
頭の中を探すーーーーーーそして理解した。
この出来事の大元ともなった出来事、その正体が。
あの時私はーーーーー
…………私はーーーーーーー!
Fin