チロル「美味しかった~!連れてってくれてありがとうね、闇ちゃん!」
「別に良いわよ、また行きましょうね」
チロル「やった!楽しみ~!」
あれから何日か経ったある日、私はチロルを連れていつかの甘味処を訪れて団子を食べに行った。
私が何度も訪れている行きつけのお店で、店主にも顔を覚えられている。無論、チロルもそうである。
「あっ、そういえば今日、5人の求婚者が来る日だったわね」
うっかり忘れそうになっていたが、輝夜に求婚していた男たちが難題をクリアする為のものを持ってくる日が今日である。
因みに不比等の件であるが、私が偽物を用意してあるので大丈夫である。それを渡して、輝夜と結婚したことにしろと言ってあるから。
「あら、もうちょっとだわ。少し早いかもだけど、もう行っておきましょうか」
輝夜の屋敷にて
チロル「こんにちはー!」
輝夜「よく来たわね、闇にチロル?」
「えぇ。少し早かったかしら?」
輝夜「いいえ、大丈夫よ。貴女たちがいれば退屈しないで済むしねぇ」
私たちが雑談を続けていると、ふと輝夜が口を開いた。
輝夜「それでね、今日じゃなくて月の使者のことなんだけど……」
「あぁ、月の使者ね。殺すんじゃなくて気絶させるっていう話だったわよね?」
輝夜「そうよ。で、その月の使者の中に私の知り合いがいるんだけど……」
「永琳?」
輝夜「そうそう!永琳を連れて逃げようと思うの、それでも良いかしら?」
「もちろん」
永琳、輝夜を連れて私が逃げ場へと行く。
後の永遠亭になる場所に、安全な所へ案内してあげるのだ。
因みに、他の皆についてだが、皆は神社で待っているとのこと。確かに、私が出かけてる間、神社に誰もいなかったら不安だしね。
輝夜「本当に……何から何までやらせてしまって、ごめんね。申し訳ないわ」
「良いのよ、好きでやってるだけだし。ね、チロル?」
チロル「うん!輝夜ちゃん可愛いし!」
輝夜「あら、そうかしら~?チロルちゃんとかやみぃの方が可愛いと思うわよ~?」
「もう!何言ってんのよ輝夜!そんな訳ないでしょ!?」
私は、輝夜をばんばん叩いて否定してみせた。
輝夜は終始笑っていたが、それはもうお姫様の笑い方ではなく、友達とおしゃべりしている時の笑い方であった。
翁「かぐや姫~、求婚者様方がいらっしゃいましたよ」
そんな他愛もない話をしていると、翁が襖を開けて入って来た。
もう5人の求婚者が来たようだ。
輝夜「分かったわ、おじい様」
翁「頑張ってくださいね。それと、夜刀神様。今日はかぐや姫の為、こんな所においでなすってありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ。私は好きでやらせてもらっていますのでお気になさらず」
私は、微笑んでお淑やかに返す。
前から、翁には呼び捨てで呼ぶよう言っているのに未だに夜刀神様と呼ばれている。
まぁ、大概の人間には~様と呼ばれているのでもう慣れているが。
輝夜「 ̄ ̄石作皇子様、これはただの石鉢です。よって不合格とします」
石作皇子「っ!そんな……」
輝夜に言われた石作皇子は、とても残念そうに帰っていった。
因みに、本物かどうかは私が判断している。
難題は、全て実在する物ではあるのだが、生身の人間であれば絶対に取ってこれないような所に存在しているのだ。
藤原不比等が持ってくる予定(笑)の秋葉の首(笑)は、私が秋葉に前もって了承を得ている。……凄く嫌な顔をされたけど。
輝夜「では、車持皇子様……どうぞ」
輝夜がそう言うと、車持皇子……藤原不比等が前に出る。
その手には、事前に私が渡してあった、首が入っているであろう木箱が。
「……輝夜」
輝夜「……えぇ、わかっているわ」
私たちは、5人の求婚者に聞こえぬよう耳打ちし、輝夜と私は木箱を持って部屋の奥に消えていった。
まぁ、木箱の中は偽物って分かっているのだけど、一応、5人の求婚者には確認しに行ったように見せておかないと。
不比等を除く4人の求婚者には、輝夜は藤原不比等と結婚したと認識させる為だ。
少ししてから……
輝夜「車持皇子様、合格です。よって、私は貴方様と婚約致します」
輝夜がそう話した瞬間、不比等を除く4人の求婚者が飛び上がる程驚いていた。
何やらザワザワとし、騒がしい雰囲気である。
そう思っていると、不比等が口を開いた。
不比等「かぐや姫、誠にありがとうございます。貴女を必ずやお幸せにします」
輝夜「ありがとうございます。楽しみにしていますわ」
不比等と簾ごしに会話する輝夜の、いつもと全然違うお淑やかなお姫様のような雰囲気に、私は吹き出しそうになりながらも、耐える。
輝夜「それでは、今日にて婚約のお話は終了致します……皆様、ありがとうございました。どうぞお引き取り下さいませ」
輝夜かそう言うと、不比等を除く4人の求婚者たちは帰っていった。
抗議する者も現れるかと思ったのだが、以外と素直に帰っていった。
不比等「……かぐや姫」
輝夜「分かっています。妹紅を此方に」
今まで、庭に隠れていた妹紅が現れる。
ついに、この時が来たのか。
……妹紅が、不安そうに父親である不比等の方をじっと見る。
寂しいんだろうな、父親と別れるのが。
次会えるかも定かではない上、治らない病気にかかっている。
……そう、妹紅にとってこれが父親との最後の時だ。
不比等「妹紅、幸せになるんだぞ」
妹紅「はい……父上もご無事で」
妹紅も分かっているだろう。
……無事でなんて、いられるはずがない。
さようならなんて、言いたくない。
ずっと、一緒にいたい。
……私も出来ることなら、願いを叶えてあげたいのだが。
不比等「それではかぐや姫、妹紅をよろしく頼みます」
輝夜「お任せを。……来なさい、妹紅」
妹紅「……うん」
妹紅が、段差を登って此方へとやって来る。
その顔はどこか寂しげだった。
妹紅を此方に渡した後、不比等は何も言わずに此処を出ていこうとした。
「不比等さん」
不比等「……?」
私は、気づけば不比等のことを呼び止めていた。
どうしても、心に留めておいて欲しいことがあったからだ。
「……妹紅との別れを悲しまないで下さい。いつかきっとまた会えますから」
不比等「!!!……はい、分かっています。ありがとうございました。この恩はきっといつか返します」
不比等は、とても驚いたような顔をしていた。
だけど、すぐに何かを察したかのような表情になり、私たちにお礼を告げ、本当に此処を出ていった。
輝夜「……ねぇ、やみぃ」
「何かしら」
輝夜「また会えるって……貴女」
輝夜が、私の方を見て不思議そうな顔をしていた。
まぁ、不思議がるのも無理はないだろう。
「私はただ単に予想をしただけよ。絶対という訳ではないけれど、不比等と妹紅との間に、親子として本当の愛があったのなら、きっと会えると思っただけよ」
輝夜「へぇ、貴女って意外とロマンチストだったのねぇ……まぁ、信じなくもないけど」
妹紅「私、いつか父上に会ってみせる……いつか、どれだけ時間がかかっても絶対会いにいく」
お互いを愛する気持ちが絶えない限り、いつかまた会える。
どこの世界でもあるような言葉だが、意外とこれは叶ったりするものだ。
ほら、どんな物語の主人公でも、一度別れた愛する者と最後には再開したりする場合が多いじゃない?
それを、私はただ単に不比等と妹紅に当てはめただけだ。
そこまで、複雑なことを考えている訳ではない。
「さて……お別れも済ませたことだし、私は帰るわね」
輝夜「分かったわ。またいらっしゃいね」
「えぇ。帰りましょう、チロル」
チロル「うん、ばいばーい!」
輝夜「えぇ、ばいばい」
妹紅「またね~!」
お爺さんとお婆さんに預かって貰っていたチロルの手を引き、私は帰路に就いた。
チロル「闇ちゃん、今日の晩御飯何かな?」
「さぁ、何でしょうね?今日はアリシアに作ってって頼んであったからね~」
私は、人に見つからないような所に行った後、アリシアとメリーが待つ家へとスキマを繋げ、入っていった。
「ただいま~」
チロル「ただいま!」
私たちが、玄関で靴を脱いでいると、アリシアとメリーが玄関まで来て出迎えてくれた。
アリシア「お帰りなさいませ、御先祖様、チロル様」
メリー「お、お帰りなさい……師匠、チロルちゃん」
アリシアとメリーは、私たちに深々と礼をした。
……ん?メリーも?
いつもなら畳に寝転がっていて、私たちが帰ってきても出迎えるどころか、反応すらしないのに。
「へぇ、メリーが出てくるなんて珍しいのね」
メリー「し、師匠を出迎えることなど当然のことです!夕飯はもうできていますので、冷めない内に召し上がって下さい!」
チロル「わぁ、楽しみ~」
そう言うと、メリーは居間へと駆けていった。
チロルは相変わらず夕飯を楽しみにしているが、私ははてなのカチューシャだ。
いつもは面倒臭がりなメリーが、夕飯を作れるはずがない!
そう思った私は、アリシアに事情を聞くことにした。
「ねぇ、メリーどうしたの?」
アリシア「メリーですか?メリーなら、『師匠の弟子として頑張らなきゃ!……それで、弟子って何をすればいいの?』……と私に聞いてきたので、私が色々と教えていました」
「……メリーらしいわね」
すっかり弟子になった気分らしいわね。
まぁ、私も満更ではないが。
だから、だらけている時はだらけるメリーが、あのメリーがあんなに働き者だったのね。
……昔の私を思い出すわ。
「まぁ、そんなことは後にしましょう。まずは夕飯を食べなきゃね。冷めちゃうわ」
チロル「うん!」
アリシア「そうですね」
そんな会話を続けながら、私たちは、メリーが走っていった居間へと向うのだった……