神琉「今日も御苦労だった、闇。久し振りの神界で疲れたのではないか?」
「いえ、そんなことはございません。神界に留まるだけで疲れていては、上級神は務まりませんので」
神琉「そうか、それなら良かった」
主様が、私に振り向いてお笑いになる。
この笑顔でどれだけの女を虜にしてこられたのかが物凄く気になるわね……
神琉「少し良いか?」
「はい、いかがなさいましたか?」
私たちは、神殿の廊下を歩いていたのだが、急に主様が止まられたので私も止まる。
そうすると、主様が私の目線に合わせて背を屈める。
何か御用がおありなのだろうか?
聞き逃さぬよう、耳を立てて視線を合わせる。
神琉「……今回は、俺も闇と共に宇宙界へ戻っても良いか?」
「えっ?はい、構いませんが……急にどうなさいました?」
普段であれば、神界に留まってご自分のお仕事を終わらせるだとかでお忙しい筈なのだけれど……
まぁ、別に迷惑な訳がないが、一応理由を聞いてみる。
神琉「……理由がなければ行ってはいけないのか?」
「い、いえ!そんなことは……」
神琉「はは、大丈夫だ。まぁ、強いて言うなら……従者の仕事を視察に行きたい、と言った所か?」
私の心情を言うとするなら、かなり焦った。
普通に理由を聞いただけなんだけど……今度からは理由を聞かずに何も言わず頷くだけの方が良いのかしら?( ˊᵕˋ ;)
良かった、主様がお怒りにならなくて……
はぁ、やっぱりこの方の感情は読み取りにくいわね……
神琉「ところで、宇宙界に戻ったら何をするつもりなんだ?」
「特には決まっておりませんよ。宴会も終了しましたし」
神琉「そうか」
主様は先程のように歩き始めた。
私は、主様の3歩程後をついていく。
どれくらい歩いただろうか。
私たちは、神界に入ってきた時と同じ、とある大きな黒い裂け目の前までたどり着いていた。
神琉「一緒に行こうか」
「えぇ、畏まりました……って、何故私を抱える必要があるのです?」
神琉「この方が手っ取り早いだろう」
……どっかで聞いたような気がするわね。
まぁ、気にしない気にしない。
そうして、抱きかかえられながら黒い裂け目に飛び込んだ。
他愛もない会話を続けていると、いつの間にか宇宙界への出口までたどり着いており、そのまま地球へと降り立った。
今は昼前のようで、燦燦と照り付ける太陽に思わず手で視界を仰ぐ。
「着いてこられて本当に宜しかったのですか?私の家は何も無く……」
神琉「闇、お前がいるだろう?それに、今は仲間が沢山いるだろう」
「まぁ、そうなのですが……」
私は、どうすることも出来ずに神社の中へ入っていく。
玄関先でブーツを脱ぎ、自室へと入った。
「さて、まだ夜は迎えておりませんが……今夜はどうされますか?客間でお休みになられますか?」
神琉「いや、お前と同室で頼む」
「畏まりました。御用意しておきますね」
まさか、同室を希望されるとは思わなかったけど……まぁ、迷惑な訳がないか。
布団を2つ用意しないと……それも、最上質な羽毛布団を。
メリー「師匠、いつお戻りになられたのです?」
私が色々と思考を巡らせていると、後ろから誰かの声がしたので振り返ると、箒を持ったいつもの姿のメリーがいた。
家事はアリシアと分担しているようで、メリーは主に掃除等を受け持っているらしい。
「あら、メリー?今日もお疲れ様!」
メリー「いえ……今までどちらに?」
「言ってなかったかしら?神界よ」
メリー「そうですか……」
メリーは、部屋の襖を閉め、私たちの目の前から消えた。
少し不満げなメリーの表情を気にする間もなく、主様が私の肩に手を置き、話しかけてきた。
神琉「いつから弟子を持つ程の力を付けたんだ?」
「……マエリベリーが弟子にしてくれと頼み込んできたからです。頼まれると断ることが出来ない性根でして」
神琉「随分と嬉しそうじゃないか?俺と話す時もそういう表情を見せて欲しいものだな」
主様が、わざとらしく頬を膨らませてお怒りになる。
いつもだったら完全に焦っていた私だったけれど……
「……では、主様ももう少し私にお顔を見せて頂けると幸いですわ」
神琉「お?寂しいのか?これからは出来るだけ会いに来てやるから許せよ」
私の頭に、主様の大きな手が置かれる。
いや、置かれると言うより被さると言った方が適切な気がするけれど……まぁ、身長差の問題ね。
神琉「そういえば」
「?」
主様が、何かを思い出したかのような仕草を見せる。
神琉「闇は伴侶を持つつもりはないのか?」
何を言い出すかと思えば……そんなことね。
私にとって、この身は主様によって与えられたモノ。
全てを主様に捧ぐと決めたその日から、私の人生……いや、神生?は定まったようなもの。
だから……
「この身は主様のモノ同然。他の者に身を委ねるなどという考えさえもありませんわ」
神琉「……そうか」
私が主様を見上げた時、不意に逸らされた視線が僅かに揺らいでいた気がした。
何が不満なのかしら?言ってくだされば何でも言うことは聞くのだけど……
「如何なさいました?」
神琉「いや、何でもない」
ほら、こんな風に話を逸らされてしまうの……って、私は誰と話しているのかしら?
まぁ、主様のすることに文句を言うつもりなんて全く無いし、別に気にも留めないけどね。
神琉「そうだ、提案があるんだが」
「はい、何なりとお申し付け下さい」
神琉「……海へ行かないか?皆も連れて」
「海、ですか……」
それは、思ってもみなかった提案だった。
いや、前世では何回か訪れたことはあるんだけど……泳ぐのがどうしてもできなくて苦手で、親に帰るよと言われるまで延々と磯遊びをして生き物を観察していたという記憶がまだ残っている。
前世の記憶は、何億年生きていようが残るものなのかしら?
「……それは良さげですね。私が皆を誘っておきましょう。いつになさいますか?」
神琉「いつでも良い。お前たちの都合がつく日で構わないから決めておいてくれるか?」
「畏まりました」
私たちにとって、時間という概念は無いに等しいけど……
神界で過ごすより、地球で過ごすのが好きな理由は、時間の流れを感じられるから。
神界では、時間の概念が無いから、絶対安全とはいえ少し味気無いのよね……
神琉「この後は何かするのか?」
「いえ、何も……」
神琉「じゃあ、少しばかり雑談をしようか」
「それは良い提案でございますね」
暇を持て余し気味だったので、助かるといえば助かった気もする。
何より、主様といられる時間がとても光栄だから。
神琉「困ったことは無いか?何か、自分の力じゃどうにも出来ないこととか……」
「対応に困ることはあるかもしれませんね。例えば、この原因の分からないモヤモヤした感じ……」
不穏な空気を感じる、というか……
原因がどうしても分からないからどう対処すれば良いのか。
はたまた、未来に起こる出来事を感じ取っているだけなのかもしれない……
「この原因は、近々調査するつもりです。主様の手を煩わせることはありませんので、御安心下さい」
神琉「そう、か。頼りにしているぞ」
「ありがとうございます」
まぁ、基本的に出来ないことは無いから大して困ってないんだけどね。
行き当たりばったりで大丈夫な時がほとんどだし。
神琉「……闇は、俺と出会うまでどんな人生を送っていたんだ?」
「珍しいですねぇ……でもまぁ、お答えしますよ」
私は、生まれてからどんな境遇で過ごしてきたのかを話した。
小学生の頃は比較的社交的だったんだけど、中学生になってからは友達が激減した。
……一緒にいても、楽しく感じられなくなってしまったのだ。
「……そして、今に至ります」
神琉「能力で知り尽くしてはいたが、お前の口から聞けて嬉しかったよ」
「ふふ、プライバシーの欠片もありませんね」
神琉「……一目惚れしたんだよ」
「え?」
神琉「いや、何でもない」
プライバシーの欠片も無いと言ってみせたが、不快な思いは微塵も感じてないから良しとする。
私の精神年齢はもう100億を超えているけど、乙女の心はいつまでも残るものよ。
神琉「提案があるんだが」
「何でしょう?」
神琉「俺と闇で、本気のぶつかり合いをしてみないか?能力は使わずに……」
「!!?」
私の頭に衝撃が走った。
『本気のぶつかり合いをしてみないか?』
無理に決まっとるやん……
お相手をさせて頂いたことは確かにあったけど、いやぁ……流石に、本気は……
「か、仮に本気でぶつかったとしましょう。そうすれば全世界が壊れますわ。いけません、絶対にいけません」
神琉「そんなこと、絶対に起こらないぞ?何故なら、俺がいるからだ(▭-▭)」
「主様はご自分のお力をご存知ですか!?」
そんな会話が2時間程続いた。
色々と説得を試みたけど、主様は中々諦めない……(--;)
ので、私が結果的に折れる形となった。
『全てを司る程度の能力』は使わない条件として。
仕方ない。主様だもの……
神琉「良いことを思いついたぞ?」
「何でしょう……?」
神琉「他の皆に、俺たちの戦いを見せてやるのはどうだ?身近な者だけに、だ」
「……良いお考えだと思います」
はぁ、この先どうなるのか不安だわ……
だけど、自分の力を出す暇なんてろくに無かったから、良い機会かも……?
まぁアリシアたちには適当な理由をつけて見ていて貰いましょうか……
神琉様の闇ちゃんに対する深い深い愛が感じられますね……
皆星 心七(夜刀神 闇)をホーム上から線路に突き落とした犯人についてのお話を書くか否か
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犯人についての話を書いてほしい
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別に犯人について書かなくていい