幽香side
私は花を操る妖怪。
それ故に、花を愛でることが趣味でもある。
そして、花を傷つける者を絶対に許さない。
勝手に花畑に土足で踏み込んできた者は、今までに何人も虐殺してきた。
この唯一無二の枯れない花で、数え切れない位の人間の首を撥ね飛ばして、返り血を浴びてきた。
強い妖怪が現れれば、自ら赴き、戦闘を仕掛け、決して負けることはなかった。
……そう、あの妖怪が現れるまでは。
幽香「はぁっ、はぁっ……ぐっ」
紫「ふぅ……ほら、もうそこまでよ。私は貴女の花畑を傷つけるつもりも無い。お互いの為にも、これ以上人間を殺すことを辞めて貰えるかしら?」
幽香「……分かったわ」
"八雲 紫"なんていう妖怪が現れるまで、私は無敗を誇ってきたのに。
だけど、私と互角の妖力と身体能力を持つこの妖怪は、おかしな能力を使って私を負かした。
「……な〜んてこともあったわねぇ」
紫「えぇ、そうね」
私は今日も自宅で紫とお茶を飲む。
自分にとっての死闘を経験した相手は、今では唯一の友達だ。
まぁ、たまに嫌な所もあるけど。
紫「……師匠が目覚めたらここに連れてきて良いかしら?」
「勿論よ。いつでも連れてきて構わないわ」
私を負かす程の力を持つ紫が、師匠って呼ぶ程の人物。
自分の中の闘争心が沸々と湧き上がってくるのを感じる。
「今度戦わせてね」
紫「ちゃんと師匠に許可をとってよね。急に襲いかかったりしたら勘違いされて殺されるかも……」
「そんなことしないわよ……貴女と会って、私も少しは落ち着いたんだから」
紫「本当かしら〜?」
紫が、相当疑ったような目で私を見る。
全く、失礼ね!
まぁ、疑われても仕方ないんだけど……
紫「じゃあ、今日はもう帰るわね」
「あら、もう帰るのね?」
紫「神社の管理をしないと……後、あの邪神がうるさいから」
「邪神って、そんなこと言っていいの?」
紫「良いのよ。それじゃあね、また来るわ」
「はーい」
私は、テラスから飛び立っていく紫を見送り、残っていたお茶をぐっと流し込む。
食器を片付けようと立ち上がった瞬間、微かな、しかし強大な妖力の混じった風が、私の髪を優しく撫でた。
❁❀✿✾
闇side
「随分と強くなったわね、紫」
紫「いえ、師匠の強さも健在のようで安心しました!」
とある日の私は、紫の修行に付き合っている。
どうやら、私が眠っている間に凄く嫌なことがあったらしい。
紫のこの性格も、私が眠っている間に変わってしまったのだとか。本当に大丈夫かしら?
「今日の修行はここまで。修行に付き合って欲しくなった時は、またいつでも誘って頂戴ね」
紫「ありがとうございました!またお願いしますね!」
紫は笑顔で答える。
初めて会った時は、まだ少し幼かった。
だけど、大人の女性に成長しても、この向日葵みたいな眩しい笑顔は健在。
紫「師匠!」
「なぁに?」
私が、日傘の埃を払ってスキマに入ろうとしていると、紫が後ろから話しかけてきた。
紫「今日の夕飯……焼き鮭です!」
「ふふ、分かったわ……日が落ちる頃には帰るわね」
紫は、私が目覚めてから毎日のようにこんなことを言うようになった。
私がまたいなくなるのが怖いんだとか。主様から聞いた。
全く、まだまだこういう所は子供なんだから……
私は、笑って返事をするとスキマの中に入っていった。
そして、やってきたのは月。
本当に久し振りの人たちに会いに来た。
依姫たち、元気にしてるだろうか。
……いや、それ以前に合わせる顔があるだろうか?
?「闇さん……?」
随分と長い間聞いていなかった声に、懐かしさを覚えながらも振り返る。
そこには、出会った時より少し大人びて……しかし、雰囲気は何も変わっていない人物が立っていた。
「あら、久し振りね……
依姫「あっ……」
目を見開いて動けない"依姫"に、私は近づく。
月は重力がほとんど無いはずなのに、地球にいる時と同じように歩けるのは何故かしら?
「あの時……妖怪を討伐した後、依姫に会いに行ったの。そうしたら、貴女が倒れてしまっててね?」
私は、"あの時"を思い出す。
あんなに大量にいた妖怪が消えていた。
ほとんど、依姫が。
「本当に、ありがとう。都市の皆が助かったのは、間違いなく貴女の貢献によるものよ」
依姫「うぅぅっ……!!!」
普段、常に凛々しい顔を保つ依姫が泣き崩れてしまった。
少し驚きながらも、私は依姫のそばに行き、肩に抱き寄せる。
「泣いて良いわよ、幾らでも。私はここにいるから」
依姫「良かった、良かった……!」
私は、依姫が落ち着くまで、一緒にいてあげた。話を聞いてあげた。
その間、声を聞きつけた人たちが集まってきたが、そんなことは気にしなかった。
「少しは落ち着いたかしら?」
依姫「はい、取り乱してすみませんでした……」
?「依姫!こんな所で何を……って、え!?」
人混みを押し退けてやってきたのは、依姫の姉であるあの人物。
そう、
やっぱり、豊姫も私のことを見てとても驚いた顔をしている。
豊姫「あ、貴女は!」
「貴女も久し振りね。あまり話したことはなかったかもしれないけど、しっかりと覚えているわよ」
私は、豊姫とは話す機会がほとんどなかった。
強いて言うなら、依姫が連れてきた豊姫と挨拶したり……後は、月移住計画の時にちょこっと話した位。
豊姫「……まさか、こんな所で会うなんてね?奇遇だわ。だって貴女、地球に残る選択をしたんでしょう」
「その地球を創ったのは誰だと思っているの?」
豊姫「……」
私が豊姫に笑いかけると、豊姫は何も言えなくなったように黙り込んでしまった。
本当のことだもの、仕方ない。
それに、地球及び宇宙の創成者だしね。
依姫「……すみません、お姉様は少し気が立っているんです」
「何かあったの?」
依姫「ご存知かもしれませんが、先の戦争のことで……」
「戦争って?」
依姫は、知らないのか、と少し不思議な顔をしながらも答えてくれた。
……私は、その話を聞いて驚くどころか仰天してしまった。
「とある妖怪が大量の妖怪を引き連れて、月に攻め込んで来た!?」
依姫「そうです。ご存知ありませんか?」
「知らなかったわ……その妖怪の名前は分かる?」
……嫌な予感がする。
私の心臓の鼓動が体中にうるさく響く。
依姫は、一息ついてこう言った。
依姫「その妖怪の名は……」
八雲 紫……
……嫌な予感は見事に的中してしまった。