イカの惑星   作:り け ん

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出会い 友達

「あー…ごめんねえ。僕、ソロの方がいいかなーって…」

 

「そ、そう…なんだ…。わ、わかったよ」

 

「すまんな…時間を取らせた」

 

「あはは…それじゃあ…ね?」

 

 

 

軽く会釈してスタスタと歩き去っていくボーイを、ユイとクロは静かに眺めていた。そのボーイが階段を降り、姿が見えなくなった時、クロがポツリと呟いた。

 

 

 

「…これで10人目、だな」

 

「……チクショォォォォォー!」

 

 

 

相変わらずガールに似つかわしくない悲鳴を上げ、ユイはロビーのど真ん中で膝から崩れ落ちた。

 

 

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未だ昼をちょっと過ぎた時間帯、まだまだ活気が絶えないデカ・タワー前広場だが、角のテーブルの空間で一人暗いオーラをプンプン放って突っ伏している人影…いやイカ影がある。無論、それはユイであった。

その向かいに座るクロは、そのブラックオーラを平然とした面持ちで受け流しつつ、ロブズ・10・プラーのショートジャンプオレンジを味わっていた。

 

 

「うわーん…なんで…どいつもこいつも断るのよお…」

 

「理由はちゃんと言っていたと思うが」

 

「納得できないよう! 何よ『面倒臭そう』とか、『一人が好きだから』とか、もうちょっと具体的に言ってよー!」

 

「…『キミは僕のタイプじゃないから』って言ったやつもいたな」

 

「……チクショォォォォォー! なによ! 顔か!? 胸か!? ゲソツヤか!? 外面しか見ないキザボーイがああああ!」

 

 

怨嗟の声を挙げて泣きじゃくるユイを見て、クロは(この内面じゃ、どっちしろダメだな)と冷静かつ残酷な結論を下していた。

無論、ここまで勧誘が上手くいかないのはユイの容姿が主な理由ではない。バトルにおけるチームというのは、大抵フレンドと遊んでいるうちに自然とチーム結成の流れになるとか、あるいは別の関係で集まっているイカ達がバトルをするにあたりチームを組む…など、とにかく既存の関係が元となってチームが生まれるパターンが多数であり、ユイのようにいきなりチームメンバーを直接的にスカウトするというのは珍しいことである。その上、今現在はチームバトルのリーグマッチより個人参加で即興チームを組むガチマッチ…通称「野良」人口の方が多いというのも向かい風なのだ。

 

 

活気が絶えるどころか、ますます賑わってくる広場を尻目にクロが尋ねる。

 

 

「で、今日のところはどうするんだ? またスカウトしに行くか?」

 

「ううう…ユイ、もう今日は気分がブルーで立ち上がれなさそう…クロくーん、なんか良さそうなイカ見つけたら尾行して住所突き止めておいてよー。それで、明日一緒に訪ねようよー」

 

「気分がブルーになるのは構わんが、思考がブラックになってもらっては困る。第一、明日は俺はいけん。外せない仕事があるからな」

 

「そんなあ! クロ君! 仕事とユイどっちが大切なの!?」

 

「基本的には、仕事だな」

 

「チクショォォォォォー!」

 

 

顔を覆って天を仰ぐ本日三回目のユイの叫び。もはやテレビの芸人のネタのようになっている。仕事と私どっちが大事なの発言といい、またどっかのテレビに影響されているに違いないと、クロは分析した。

 

 

「それが嫌だったら、俺が空いてる今日のうちにやるだけやるしかないだろう。ほら立て」

 

「うええ…ユイ、元気が出ないよう…クロくーん、なんか元気が出るようなことやってよー…一発芸とか」

 

「やらん」

 

「…ひどいや、クロ君」

 

 

ひどいと言われる筋合いはないと言いたいクロだが、ここまでぐずってるユイを見ると少し困ってくる。やはり何人のイカにも断れられたのは大分こたえているようだ。

感情の起伏が激しいユイのことだから、ちょっと何か面白い出来事があれば持ち直すだろう。クロは一発芸以外の選択肢を求めて、軽く辺りを見渡す。

 

 

 

 

 

すると、クロの視線が一つの人だかりを捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユイ、ちょっとアレを見てみろ」

 

「なーにー? クロくーん…」

 

 

寝起きのようなふにゃふにゃした声で、クロに連れられ人だかりに近づく。

背の低いクラゲが固まっている場所の後ろに立つことで、人が集まっているその中央部がよく見えてくる。

 

 

 

 

 

「ご安心くださーい! これはあくまでこの私が手作りをしたパラシェルターに似た何か! エセのシェルター! 名付けてエシェルターなのです! 決してブキチ店長を脅して複数強請ってきたわけじゃありませんで、はい! ま、ブキを取られるくらいなら、あのブキチ店長は何かトンデモナイ最終兵器持ち出してきそうですよねーははっ!」

 

 

聞こえてくるマシンガントーク。本人曰く「エシェルター」という普通のブキより小さなパラシェルターを三つ、両手で掴んでいる、一人のガール。スカイグリーンという言葉が適切であろう薄い緑色のゲソをしており、瞳も同様の色をしているようだ。

 

満面の笑みを浮かべたガールのマシンガントークは続く。

 

 

「残念ながらトンデモ最終兵器は私は持っておりませーん! しかし、しかしですね! 私は皆様に笑顔を届ける大道芸人! ブキチ店長のようにブキを作る材料と技術がなくても、この鍛えに鍛えた技術と体がありまして、はい! そしてここはやはりナワバリバトルの本場ハイカラスクエア! この技術と体を使ってハイカラスクエアに住む皆様に笑顔を届ける演目として選んだのがこれ! エシェルターによるパフォーマンス!」

 

「普通のパラシェルターと違う点は様々!お話ししたいところではありますがー! 校長先生もびっくりの私のロングトークばっかり聞かされているお客さんが寝てしまってはたまらない! …本番に移りましょう! いきますよー! 瞬き厳禁!」

 

 

そう叫んだガールが、右手に一本、左手に二本のパラシェルターを構えた。

 

 

「3! 2! 1! そぉおれっ!」

 

 

ガールの右手首のスナップにより、エシェルターがくるりと宙を舞う。

それに一瞬遅れて左手首のスナップ。左手のエシェルターが手を離れて飛ぶ。

 

右手から飛んだエシェルターが左手に収まる直前、左手のもう一つのエシェルターが空を舞う。

右手と左手で捕まったエシェルターが、三本目が落ちるより前に宙を飛ぶ。

常に空中に一本のエシェルター。落ちてくる二本のエシェルターは的確にキャッチされ、また宙を舞う。

 

 

そう、これはエシェルターを使ったジャグリング。

 

 

「おおー!!」

 

 

周りのギャラリーから歓声が飛ぶ。クラゲなんぞはそのふにゃふにゃな触手で音の出ない拍手をする。さっきまでブラックオーラを出していたユイも、今では目を見開いて注目している。

ジャグリングを披露するガールの視線は宙に固定されたまま、それでも笑顔でトークは欠かさない。

 

 

「ありがとうございますー! いやーいいです! これ! みなさんの声援があればあるほどもう集中力が溢れて止まらない!!素晴らしいこれ新記録行くかもですっ!」

 

「おっと! はいみなさんご注目ー! ドライアイの人は辛いかもしれないですけど、瞬きしない方がいいですよー! もうまもなく、みなさんビックリすること掛け合い! 私は辛くなること請け合い! でも大丈夫! 練習しましたから! 自分を信じろ! 頑張れ私ってね!」

 

 

淀みなくジャグリングを続けながら、語る言葉にユイを含むギャラリーは耳を集中させ、視線は言うまでもなく釘付けである。

 

 

「ああ、そろそろ! そろそろっすねー! 3! 2! 1! はい!」

 

 

 

その合図と同時に、宙を待っているエシェルターが、開いた。

さらにガールの両手のエシェルターが宙を舞うと、それもまた開く。

 

 

ギャラリーがどよめく。

傘が開いた状態で落ちてくる。あれでは受け止められない、と一瞬ギャラリーの脳にちらつく未来。しかし、それすらも裏切るのが、大道芸人であった。

 

 

「よいしょっ! はいっ! はいっ!」

 

 

気合の声と共に、エシェルターが宙を舞う。

開いたシェルターは、落ちることはなかったのだ。

 

開いた傘の部分が落ちてくればそれを手で弾く形で宙にあげ、傘の柄の部分が下に落ちてくればそれを掴んで繊細なコントロールを持って投げ回す。

 

傘が開いたことによる面積の広がり。よほど上手く投げなければ傘同士がぶつかり変な方向へ飛び散ってしまうだろう。しかし、大道芸人のガールは絶妙な投げ操作によって傘の開いたエシェルター三つを華麗に宙へ舞わせていたのだ。

 

 

ギャラリーのどよめきがやがて心底感心したようなため息がその場を支配する。パフォーマンスにつられ、新規のギャラリーまでどんどん増えていく始末。

 

 

 

やがて、フィニッシュの時。そこでも見せ場を忘れない大道芸人。

落ちてくる傘の柄の部分。ガールはそれを「手の甲」で受け止めた。

 

 

絶妙にバランスを取りつつ、右手の甲、左手の甲にそれぞれエシェルターを立てる。そして特に高く宙を待っていた最後のエシェルターはなんと、彼女の頭の上に危なげに着地した。

 

 

「……はい!」

 

 

 

フィニッシュとして、体の三点に傘を立てて見せたガール。

それは数秒も持たずして傘は地に落ちてしまうが、誰も気にしなかった。

今しがた見せたパフォーマンスに、ギャラリーは大満足の歓声をあげていた。

 

 

「ウッソでしょ! どうやったらあんなことできるの!? はー…すっごいわあ…」

 

 

ユイも、その一人であった。

熱狂の拍手を繰り返しながら、その技術の高さを素直に賞賛し、また感嘆していたようであった。

 

 

大道芸人は笑顔のまま、さあ続きましてと言いつつ床のケースからゴソゴソと道具を取り出そうとする。あの様子では、まだまだ芸は続きそうだ。

 

 

 

「……」

 

 

クロは、人だかりから離れたところにいた。

元々クロは大道芸には興味がない。だが、あの様子ならユイの気を取り戻させることは成功したようだ。レベルの高い大道芸でよかったと思う。ただ、ユイが熱中しすぎてスカウトの件を忘れていそうなことは懸念しているが。

 

 

あれならしばらく放っておいても大丈夫だろう。芸に夢中なユイに自分が話しかければ、逆に鬱陶しがられるだけに違いない。

クロは、自分の席に座ってショートジャンプオレンジを飲み干そうとした。

 

 

だが、そのカップを持った手がふと止まる。

大道芸が行われている方角とはちょうど反対のところ。つまり、デカ・タワー前の入り口付近にまた、イカ溜まりができていた。もっとも、大道芸の周りの数には及ばないほどではあったが。

 

 

クロがそちらに視線を止めたその一瞬。

囲まれたその中で、ちらりと見えたとある一人のイカの顔。

それを認識したクロは、弾かれたように立ち上がった。

 

 

「…!」

 

 

その勢いで倒れたカップからショートジャンプオレンジが溢れるのにも関わらず、クロはそちらの方へ向かって足を進めた。

 

 

 

近くにつれ、イカたちのざわめきがクロの耳に飛び込んでくる。

 

 

「久しぶりに見たぜ。あいつらだよな…『ガチヤグラの高み』にいったチームって…」

 

「やばい。あいつらマジやばいよ…うちらのチーム、ストレートでノックアウトされた」

 

「なんだよお前らのチーム情けねえな……俺ら、カウント3しか取れなかった…」

 

「隙がねえんだよ…どこをどう逃げても射線だらけで気が狂いそうになった」

 

「ていうか、ありえねえだろ……なんで…」

 

 

 

 

 

「『全員チャージャー編成』で、なんであんなにつえーんだよあいつら…」

 

 

 

 

 

 

クロは、イカ勢から羨望と畏怖の視線を向けられているそのチームの進行方向。その先に回り込んで、立ち止まった。

 

 

それぞれブキを背負った四人のイカは、突如目の前に現れたクロへ視線を向ける。そのうち三人は、訝しげな表情や不思議そうな顔を向けてきた。

 

だが唯一…スプラスコープコラボの入ったケースを背負った、一般人より一回り大きい体格のイカ。水浅葱色のゲソを後頭部にまとめ、首元に垂らしているボーイだけは、目を見開いた驚きの表情でいた。

 

 

「…クロか?」

 

「お久しぶりです。 コラスさん」

 

 

敬意を乗せた言葉を発したクロは、丁寧に頭を下げた。

 

 

 

 

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二人が案内された喫煙席に座り、店員から注文を聞かれるより早く二人は自らの希望を口にする。

 

 

「ホットオレンジ」

 

「…カフェオレで」

 

「かしこまりましたー」

 

 

妙齢のガールが笑顔のまま、一礼して去っていく。

一息ついた水浅葱色のゲソを持つボーイ…コラスは頭のギア、『ステカセヘッドホン』を外して首にかけ、着ている服のギア…『FA-01 オモテ』のポケットからタバコを一箱取り出した。

 

現在販売されているタバコの中でもマイナー中のマイナー種『デスイカレット』を咥え、ライターで火をつける。ふーっと一服しているコラスに、クロは改めて頭を下げる。

 

 

「…ご無沙汰しておりました。ご友人と一緒におられた所をお邪魔して申し訳ありません」

 

「あいつらは友人なんて関係じゃねえよ。それに、そう慇懃にしなくてもいい。俺はもうお前の上司でもなんでもないんだからな」

 

「いえ…あなたが職を退いた後でも…俺にとっての師であることには、変わりありませんから」

 

「やれやれ…お前にそう思われるのは、悪い気がしねえな」

 

 

かすかに口角を上げながら、ゆらゆら登る自らのタバコの煙を見つめるコラス。このボーイこそ、クロが警察官職において最初に教えを受けた上司。クロが得た射撃技術の大半が、コラスの教えによるものである。それゆえ、クロが敬意を持って接する数少ないイカの一人である。

 

 

「…最初聞いた時には耳を疑いましたが…コラスさんが、チームを組んでバトルをやっているのは本当だったのですね」

 

「ああ…まあ、な」

 

 

その口ぶりが、どことなくぎこちないのをクロは感じとった。

クロが「耳を疑う」とまで感想を漏らした理由。コラスの人柄を知っているクロは、どうしても彼がバトルを行うとは考えられなかったからだ。

 

 

その理由の一つが、今コラスが吸っているタバコである。

警察官時代、コラスは自他共に認める超ヘビースモーカーであった。そしてそれが健在であることは今クロの目の前の光景を見れば明らかである。

 

だが問題は、「タバコの禁止」がバトルのルールとして制定されていることである。ポイ捨てによる火事の可能性。それがないようなステージだとしても、タバコの吸い殻がそこらに捨てられるような有様になってはステージの雰囲気がぶち壊しである。

 

 

そして何より、コラスは単独行動を好む、いわゆる『一匹鮫』*1な気質であった。同じ警察組織において、気心のしれた仲間はいくつもいたが、それでも作戦の際は必ず単独での行動案を提出し、それに基づいて動くことを徹底する信念を持つボーイであった。

 

警察官の役割においてはナワバリバトル関係のトラブルの調査、巡視もあるため、一般のイカに紛れてバトルに参加することを奨励しているのだが、コラスはそれも辞退している。

 

 

「バトルはどうにも俺の性に合わないんでな。俺みたいな奴が紛れては逆に浮いてしまうだけだろう」

 

 

その立場を考えればワガママな発言には変わりない。だがそのワガママの分、コラスは作戦立案や人員配置などの総合戦略において手腕を発揮している身であるため、その程度のワガママも組織内では許容されていたのだ。

 

 

そんなコラスが、少なくとも警察官であるクロが見たことのないイカ達とチームを組んで、『ガチヤグラの高み』に登り詰めるまで活躍をしている。それが、クロにとっては甚だ疑問であった。

 

 

「…クロ」

 

 

視線を下げたコラスから、低く真剣な声がクロに投げかけられる。

 

 

「俺がチームを組んでまでバトルしてる理由…お前も気になるだろう。だが…こればっかりは、お前にも教えるわけにはいかん。名誉に関わる問題だ……分かってくれ」

 

「分かりました。コラスさんが、そう言われるのなら」

 

「…すまねえな」

 

 

バツの悪そうに顔を背けたコラス。だが、それも一瞬。気を取り直したコラスは、再びタバコを一服吸い込むと、正面に向き直った。

 

 

「次は、俺から聞いてもいいか? …ああ、答えたくない質問なら、答えなくていい。俺みたいにな」

 

「はい…大丈夫です」

 

「そうか…いや、話したいのはまさにそれだ。お前、今『大丈夫』なのか?」

 

「……それは…どういう」

 

 

最初、本気で意味が分からなかったクロだが、コラスは続けて補足する。

 

 

「そのまんまだ。お前、ただでさえ普通の警察官任務に加えて、あの『極秘任務』にもついている身だろ?」

 

「……」

 

 

その補足の言葉を聞いて、今度はクロの視線が少し下がる。

 

 

「それに加えて…俺のチームにいる噂好きのガールから、お前らのことも少し聞いている。…かつて『ナワバリの高み』にいたチーム…『インカーネイション』が復活しようとしてるだの…な」

 

「……あくまで噂だと聞き流していたが、それは本当か?」

 

 

コラスの問いに、クロはこくりと頷いた。

それを見たコラスは、煙を吐き出しながら眉根を潜めて言葉を続ける。

 

 

「クロ、お前は昔っから『妥協』という言葉を知らない。無論、妥協してはいけない場面も多々あるが、それを同じくらい妥協をしなくてはいけない場面も存在するもんだ。3羽の鳥を追ったところで、1羽も得られないのが関の山」

 

「…わかって…います」

 

 

クロが絞り出した声は、かつてユイやソウの前では見せたことのないほど…迷いと苦痛が浮かび上がるような、そんな声であった。

 

 

「…それでも、俺は…選ぶことは…あのチームを見捨てることは、できません」

 

「………」

 

 

クロが続けて絞り出した、強い決意を表す言葉を、コラスは黙って聞いている。

 

 

「…どうしても、気になるんです。うちのチームメンバー。…特に、ユイが」

 

「…あのお気楽そうなチームリーダーか」

 

「はい。感情を抑えるのが苦手なお調子者で…よく笑うし、よく泣くんです。…泣いてる姿をみると、放っておけないし、笑ってる姿を見ると…何でしょうね、この感情……悪くない、と思ってしまうんです」

 

「つまり……そいつが『好き』っていうことか?」

 

「…………」

 

 

コラスが切り出した言葉に対して、意外にも沈思黙考するのみであった。

猛烈に反論するであろうとコラスは思っていたのだが、思った以上にクロは自分の感情について鈍感なようだ。

 

 

「まあいい。…あくまで、3羽の鳥を追いかけるというならば、俺は止めねえ。だが…無理はしないように、自分の体について充分気をつけることだ。欲を出すなら、それなりの対策はするこったな」

 

「…肝に銘じておきます」

 

 

クロは、また静かに頭を下げた。

いつものチームメンバーの前では決して明かされることのなかったクロの心。かつての上司を前にしたこの時間は、クロにとってのカウンセリングと言える時間となった。

 

 

 

 

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「さて…私はこれからガチマッチへ行くが…君はどうする?」

 

「俺…は、ナワバリでもうちょっと練習してから、帰るつもりです」

 

「そうか…ああ、忘れるところだった。明日はロビーに…そうだな、1時集合でどうだ?」

 

「あ、それで大丈夫です」

 

「よし。では、私はこれで。また明日な」

 

「はい。き、今日はありがとうございました!」

 

 

ガチマッチエントリーの為、一人用の部屋に入っていくピースの背中に向けてソウは一礼を返した。

厳重に包まれた『イカネサダ・心』を手に抱えながら、ロビーの中のソファーに座ったソウはふーっと思いっきり息を吐いて脱力した。

 

 

 

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昨日の夕方に引き続き、行われている練習。ピース曰く本武器ではない『スプラシューターコラボ』vsバトルでの出陣は初めてである『イカネサダ・心』との対面勝負。

 

 

結果として…ソウが勝てたのは多くて三割、という感じであった。

ピースより告げられたソウの問題点は『臆病』ということであった。

 

 

 

「大分、私に対して先手を取るのが上手くなってきたようだな」

 

「『イカネサダ・心』は、チャージャーとほぼ同等のキルスピードに加え、スプラシューター系列より微かに長い1確射程を持つ。普通のシューター相手なら、先手さえ取れればほぼ確実にキルできるはずだ」

 

「なのに、君は何度も私に返り討ちにあっている。なぜか? …射程範囲外で打っているからだ」

 

 

 

ソウにとって『イカネサダ・心』は何度も試し打ちをして手に馴染んだブキ。射程を見誤るようなことは本来ないはずであった。だがしかし、こうして対面の勝負してみると話は別だ。

 

実際に自分をキルせんと襲いかかってくる敵を前にすると、どうしても焦ってくる。先手必勝とばかりに慌てて切り払おうとする。しかしそれはピースには届かずに、逆に射撃後の隙を突かれて、スプラシューターコラボのインクの前にソウは哀れにも露と消える。

 

かつてユイがソウの前で「ユイのデュアルスイーパーより敵のデュアルスイーパーの方が射程が長い」などと支離滅裂な思考・発言をしていたのを見て、ソウは何を言ってんだこいつみたいな感情になっていたが、今ならユイの気持ちもわかると感じてしまう。ほぼ同じ射程のはずなのに、自分のは届かず相手のが届いてしまうのならユイのように考えてしまうのも仕方ない。

 

ただ今回の場合はユイのような錯覚の問題とは違う。ソウが臆病なゆえに射程範囲外で打ってしまっているという明確な問題点があるのだ。

 

 

「通常のシューターを使うならば、先手必勝で射程外から撃ったとしても…まあ、避けるべきミスとは言っても、それほど痛手ではない。なぜなら、シューターなら歩き撃ちで距離を詰められるし、先手を取れば相手よりも撃ち合いに勝てる可能性も大幅に上がる」

 

「だが『イカネサダ・心』はあくまでチャージャーと同じ一発一発の勝負だ。歩き撃ちなんて概念はない。その上、射撃後硬直がある以上、射程外で撃つことによる危険度は他のシューターの比じゃない。十中八九その隙をキルされて終いだ。今まで私にそうされたように」

 

「そもそもチャージャーと同等のスピードでキルが取れるのであれば、射程内にさえ捉えておけば撃ち合いに負けるなんてことはまずありえない。どうせ敵を一瞬でキルできるブキなのだから、むしろ一発や二発はシューターの弾を受ける覚悟で立ち回ったほうがいい。多少のダメージを受けたとしても、射程内にさえ敵を捉えればその瞬間に君の勝ちなのだから」

 

 

告げられた問題点と改善点は、ソウにとっても理解しやすい内容で教えられた。しかし、だからと言ってすぐ矯正できるかといえばまた話は違ってくる。

ソウの場合は、未だスパイガジェットの挙動に引っ張られつつあった。

 

 

スパイガジェットの場合、シェルター部分を盾にしつつ攻撃をするため、基本的に敵のインクを食らいながら撃ち合う...ということにはならない。シェルターが壊れるような事態であれば、それは十中八九危険な状態。そのまま無理に撃ち合って仮にキルが取れたとしても、その後の立ち回りには不利である。よって、ソウはシェルターが壊れれば即座に撤退し、シェルター部分が回復し次第再び前線へ…という立ち回りがメインとなっている。

よって、通常のシューター持ちと比べれば、敵の攻撃を食らう経験が少ない…もっと適切に言うのであれば、『敵の攻撃を食らう前提の立ち回り』ができないのである。

 

 

今日の特訓でできた目標は、『敵の攻撃を食らう前提の立ち回り』をできるようにすることである。無論、今日のうちにその目標をクリアすることは叶わなかった。いつも使っているスパイガジェットのシェルターが目に見えて存在しないことで、いつもよりつい逃げ腰になってしまうのだ。

 

 

(…結局は慣れ…なのか? うーん、インクって当たっても痛いわけじゃないんだが…なんであんなにびびってしまうんだろう、俺…剣道部の時は、竹刀にビビるなんて入部当初でもなかったんだがなあ…何が問題だ? やっぱシューターが銃っぽいから…とかか?)

 

 

体はソファーに脱力した状態で預けたまま、ソウの脳内では解決の見込みのない疑問をぐるぐると回していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前えええ!! どうしてくれるんだよ!!! おい!!!」

 

 

 

突如ロビーに響き渡った叫び声に、ソウの頭の中は驚愕によって一気に弾け、さっきまでの疑問はどこかにすっ飛んでしまった。

 

ソファーから脱力したままずり落ちた情けない体勢から、なんとか持ち直したソウが声の方に視線を向ける。

 

 

 

ソウが見たのは、想像以上に穏やかではなかった。

 

 

 

 

二人の男…イカ風に言うならボーイ…がいる。だが、その力関係は初見のソウから見ても明らかであった。

 

ガチマッチに参加するための個室のドアの前で、ガタイのいいボーイが小さいボーイの胸倉を掴み、怒鳴りつけている。いや、怒鳴っている方のボーイが特別ガタイがいいわけではない。怒鳴られている方のボーイが小さいが故に、一瞬ソウは「ガタイがいい」と勘違いしたのだ。そのボーイの小ささでいえば、ソウよりもさらにもうひと回り小さいくらいである。

 

怒鳴られているその小さなボーイの瞳には遠目でも分かるくらいに大粒の涙が浮かんでいる。明らかに萎縮して泣いているのにも関わらず、もう一人のボーイの叱責は続く。

 

 

「やる気あんのかお前!? フルで戦ってたったの3キルだあ!? しかもイカリング見たら全部アシストキルじゃねえかっ!! どうしてくれんだ!あと一勝すりゃあウデマエ上がってリセットしたってのに、お前がまじめにやらなかったせいで割れちまったんだぞ! そんなクソブキ担いでんだったらバトルなんかやめちまえっ!!」

 

「ひっ…う、うう…っ…」

 

 

怒鳴り声に比例して、小柄なボーイの瞳に浮かぶ涙と嗚咽の数がさらに多くなる。そのボーイの頭にかぶっているサンサンサンバイザーがずり落ち、ドアの近くに立てかけられていた細長いケース─おそらくボーイのブキケースだろう─が倒れる。

 

 

 

 

さすがにこれは、見て見ぬ振りはできない。

 

ソウが姿勢を直して立ち上がろうとした瞬間、

通路の奥からもう一人のイカが走ってくる姿が見えた。

 

 

「はぁ…はぁ…あー…やっと見つけたあ…もうなーにやってんのよ。アサリの時間の間にウデマエ上げちゃうんでしょ? だったら早くやっちゃおうよー」

 

 

もめている所に追いついたのはこれまたソウの見知らぬガールであった。肩で息をしながら、怒鳴り散らしていたボーイに向かって話しかける。知り合いなのだろうが。

 

 

「お前はこんな奴が許せるのか! こんな不真面目なガキでさえなけりゃ...俺は今頃Xいけてたのによ!!!」

 

「もー。いちいち戦犯一人一人にキレてたらキリがないよ。そもそも、昇格直前までヒビをピキピキ作ってたのが悪いんでしょー。そんなあんたがX行ったってフルボッコにされてまたS+に落ちるのがオチよー。...落ちだけに」

 

 

ガールの言葉を聞いたボーイが「ああ!?」と額に青筋を立ててガールの方を向く。その際、胸倉を掴んでいた手は勢いよく離され、小柄なボーイは地面に転がった。

小さな呻き声を発する小柄なボーイに構わず、第三者のガールに向かって喧嘩腰のボーイ。

 

 

「何上手いこと言った気になってんだてめえ!! てめえだってほんの一週間前までS+だったろうが! X底辺程度でドヤ顔してんじゃねえぞ!」

 

「べーっだ。底辺でもあんたより上の存在ですよーだ」

 

「上等だ!! ぶっ殺してやる! 今すぐプラベに来い!!」

 

「はいはいわかったわかった…まったく血の気が盛んなんだから...」

 

 

殺気立ったボーイと呆れた様子のガールは、揃ってロビー先のエレベーターへと消えていった。

 

 

 

 

…倒れている小柄なボーイを残して。

 

 

 

「え、ええ!?」

 

 

ソウは思わず声が出るほど驚いた。あのガールが怒っているボーイを宥めたことで内心胸を撫で下していたのに、当たり散らされている小柄なボーイのことは一切無視するとは思わなかった。

 

 

ということは、少なくともあのボーイとガールは知り合いでも、小柄なボーイの方は面識がない。ウデマエという言葉から察するに、おそらくはガチマッチ。小柄なボーイが野良で合流した程度の面識なのだろう。…一度同じチームになったとはいえ、ほぼ初対面からあそこまで激怒するなんて…ソウはまた一段とガチマッチへの敷居が高くなるのを感じた。

 

 

…しかしそんなことより、問題はあの倒れている小柄なボーイのことだ。

死んだように動かないが…まさかとは思うけど、いやまさか死んでるわきゃないと思うが…

 

 

 

ソウはキョロキョロと辺りを見渡し、何か用事があったのか席を外しているらしいロビーの受付を含め、この場に自分以外のイカがいないことを確認した。そして、小柄なボーイの方へ駆け寄った。

 

 

「…え、えーっと……大丈夫?」

 

「うっ…ぐす……ひっ…くっ……」

 

 

近づくとよりはっきり聞こえる、嗚咽と涙。

死んでいないのは本当によかったが、こんな子供(今の自分も子供の範疇だが)を放っておくのは本当にいけないことなくらいはわかる。

 

でも、かといって…

 

 

 

「……どうしよう」

 

 

泣いている子供への対応なんて、ソウは未だ経験したことはなかった。

 

 

 

 

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「すみません…突然押しかけちゃって…」

 

「ほっほっほ。構わんよ、ちょうど一通りの修理が終わったところじゃ」

 

 

結局のところ、ソウが頼ったのは年の功…すなわちスイトであった。

ぐずっているボーイをおんぶし、おそらくボーイのものと思われるケース&自分の『イカネサダ・心』を持った手一杯な状態で、やってきたのは仕事場。すなわちカンブリアームズのスタッフ用試し打ち兼修理場であった。

正直職場に泣いている子供を引き込むなんて非常識なのではないかと思ったが、数少ない知り合いであるユイやクロが近くにいない上、ちょっとデカ・タワーから出るだけでやたら視線を感じるので、早々に避難したいという気持ちが強かったのだ。

 

ソウがやたら視線を感じた理由は二つ。一つは、さっきまで『ガチヤグラの高み』のチームが通っていたため、たくさんのイカがデカ・タワー前に集まっていたこと。そしてもう一つは、その中にいくらか紛れ込んでいたショタコンの熱い視線が原因である。しかしそんな事情はソウが知るよしもない。いや、知らない方が幸せと言うべきか。

 

閑話休題(それはともかく)、この状況でスイトの元へ赴いたのは間違いではないとソウは思った。

スイトは未だ涙が収まらないボーイを抱き寄せ、「よーしよしよし。いい子だからなあ…」と背中をポンポン叩いてあやしている。

スイトからすれば泣いている孫をあやす感覚なのだろうが、スイトは飛んでもない年齢詐欺な見た目のジジイ。傍目から見たら兄と弟の関係にしか見えなかった。

 

 

 

しかしそのかいあって、ボーイが落ち着きを取り戻すのも比較的早かった。

 

 

 

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「あのう…ごめんなさい。なんか、迷惑かけちゃった…みたいで」

 

「ほっほっほ。大丈夫じゃよ。孫をあやすのは慣れてるからのう」

 

 

青年姿のスイトからそんな返事をされ、未だ頬に涙の後を残したボーイは不思議そうな顔をした。

 

 

 

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小柄なボーイは、ユーロと名乗った。そして、自分を連れてきてくれたイカがソウだとスイトから教えられると、こちらに向かって90度近いお辞儀をしてきた。

 

 

「助けてくれて、ありがとうございます。ソウさん」

 

「あ、ああ……ぶ、無事で…何より、だ」

 

 

ちょっと言葉にどもってしまった。それというのも、この世界に来て以来、ずっと敬語で喋っていたからだ。

これまで知り合いになったイカ…やその他生物はみんな年上っぽかったため、敬語のイカ語がすっかり定着してしまっていたが、もちろんこれはソウの素ではない。

 

流石に自分より小さい相手に敬語を使うのは不自然だと思ったソウは、ほぼその身に定着してきたイカ語を駆使して初めてのタメ語チャレンジだったのだが、結局不自然にどもってしまい、口調も素のものというよりクロを真似した感じになってしまった。

 

そんなソウの様子を面白そうに見ていたスイトだが、今度はユーロの方へ向き直って問いかける。

 

 

 

「話を聞くに、君は他のイカに絡まれていたとのことじゃが…何かあったのかのう」

 

「あ、いえ……僕が、悪いんです。試合で、僕が役に立たなかったから……」

 

 

 

悲しそうに眉根を寄せて俯くユーロ。かぶり直したサンサンサンバイザーで顔が隠れる。その体は、軽く震えていた。

 

 

「僕…今日からは……いつものブキとは、別のを使おうかなって…思っただけけど……やっぱり、うまく、動けなくて……そしたら、『バトルなんかやめちまえっ!』って…」

 

「あんなこと…言われたの、初めてだから……怖く、て……ぐすっ」

 

 

あの時のことを思い出したのか、また泣き出しそうになるユーロ。

またスイトが抱き寄せて背中をポンポンさせて落ち着かせる。

 

 

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ランク13までのナワバリ経験者であるソウだが、今まであんなことを言われた経験はまだない。

というかそもそも、あんなことをするのは相当面倒臭いはずなのだ。

 

 

なぜかというと、ナワバリやガチマッチでやる場合、参加するイカは空いている好きな個室に入り、その中の転送装置を使って参加する。

そのような参加者の中からランダムでマッチングされる。ということは、偶然同じチームになった他の野良プレイヤーを探そうとすると、まずそのプレイヤーが入っている個室を探さなくてはならない。

バトルの本拠地であるこのハイカラスクエアにおいては参加者が多い分、デカ・タワー個室数もハンパない多さだ。もし仮にソウなら、どんなにムカついても結局面倒臭くなって諦めるに違いない。

ソウが見た時は、怒鳴るボーイとユーロは部屋の外にいた。ユーロのブキケースも外に出ていたということは、おそらくユーロは部屋を出ようとしていたところを、偶然にも怒り心頭のあのボーイに見つかってしまったということだろうか。

 

 

 

「ふーむ…あまりに気にしなさんな。運が悪かったと思う他ないわい。わざと負けようとしたならともかく、君は一所懸命やったんじゃろ? なら、自分に責任を感じることはない。実戦で何度も失敗し、負けてこそ、バトルは強くなるもんじゃ」

 

「……はい」

 

 

 

さすがは年長者。若干見た目にあっていない老人特有のゆっくりした深い声だが、それはユーロを落ち着かせるのに効果的であった。やっぱりスイトを頼って正解だったとソウは思った。クロはいい人…いやいいイカだがあんまり泣いている子供をあやすのに向いていないのではないかと思う。ユイは……どうだろう。案外あの性格ならあやすのも元気にするのもうまくいくのかもしれない。

 

 

スイトによってユーロが落ち着きを取り戻している間、ソウが気になっていたのは、ユーロの近くに落ちていたブキケース。一応持ってきたが、ユーロのそばに置いてあっただけで、彼の持ち物かどうかはっきりしているわけじゃないため、確認をしようとそれを持ち上げた。

 

 

(…細い……この形…ってことは)

 

 

 

 

 

「え、えーっと…ユーロ…くん?」

 

「は、はい?」

 

「この…パブロ、君の?」

 

「!!」

 

 

ソウが青いケースを指し示したのを見たユーロが驚きの表情に変わったと思ったら、残像が見えるほどのスピードでソウが持っていたケースをひったくられた。

 

 

 

突然の行動に目を白黒させるソウ&スイト。手にケースを抱えたユーロは、ちょっと顔を赤くして答えた。

 

 

「ぱ、ぱ、パブロじゃないですこれ! パブロ・ヒューですから…!」

 

「え、あ、ご、ごめん……間違えちゃって」

 

「あ、いいいいいえ! 僕の方こそごめんなさい! 勢いよくとっちゃって…。持ってきてくれて、ありがとうございます…」

 

 

必死で奪い取ったことが恥ずかしいのか、何度も何度も頭を下げて謝る。

なるほど、確かにマイナーチェンジ版の可能性を無視してパブロと決めつけたのは早計だった。しかし、ソウにはどうもブキをとった時のユーロの必死さが気にかかった。ブキを他人に触られるのが嫌だったのか、それともパブロと間違えられたことが嫌だったのか…。

 

 

「まあまあ、とにかく怒られただけで、大した怪我をしなかったのは不幸中の幸いじゃ。何か困ったことがあったら、ナワバリバトル本部の人に話しなさい。力になってくれるじゃろう」

 

「…はい。分かりました。…今日は、本当にありがとうございました。スイトさん、ソウさん」

 

「ほっほっほ。まあ、気をつけてお帰り」

 

「あ、おう。…元気でな」

 

 

 

相変わらず90度近いお辞儀をしたユーロは、ケースを手に背を向けて部屋からでようとする……

 

 

 

 

 

 

しかし、ユーロはなんとドアが開いた瞬間に突如回れ右し、ソウの方に駆け寄ってきたではないか。

あまりに素早くスムーズに向かってきたもので、思わずホッと一息ついていたソウはびっくりして逆に変な息が出てしまった。

 

 

 

「あ、あの! ソウさん! ………あっ、え、ええっと…」

 

「ど、どうした……んだ?」

 

 

ソウをびっくりさせるほど勢いよく戻ってきたのはいいが、どうやら勢いだけできたらしく、肝心の用を口に出そうとしても言葉が詰まってしまうらしい。

 

 

時間にして10秒ほど。口がうまく動かないのか、それとも言い出すべきか迷っているのか、ずっとどもっていたままだった。だが、そのうちユーロはきっぱりと顔をあげ、ソウの目を正面から見据えた。

 

 

 

「…ぼ、僕と…フレンドになってください!」

 

 

 

決意の言葉と共に、ユーロは本日三回目の直角お辞儀で頼み込んだ。

 

*1
人間世界でいう「一匹狼」と同義




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この気持ちが強すぎて、前書き後書きに書くことがない...。
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