イカの惑星   作:り け ん

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一話に纏めようと思ったら長くなっちゃったから、先に前半を投稿するの巻です。
後半は比較的すぐ投稿できると思います。


協力 驚愕

形勢不利と見て、一旦自陣に撤退したソウが見たのは、味方のカーボンローラーのイカが敵のN-ZAP85によって爆散する瞬間であった。

 

 

(…これで、二人落ちか)

 

 

ソウが内心でどうしたものかと唸っていると、ピコンピコンというジャンプマーカーの存在を示す音が、耳元に鳴り響く。

そのマーカーの上に着地してきたそのイカは、あんまりにも慌てていたためか着地する際に少し態勢を崩して膝をついた。

 

 

「あ、わわ…と。…ど、どうしよう、ソウ。中央とられちゃったよ…僕のブキじゃ、とても…」

 

「そうみたいだな…他の二人のイカも今はやられてるし…俺もあんまり、強気で切り込むのは賛成しないな」

 

 

ソウは、軽い牽制のために金網にそうように『カーリングボム』を投げつつ、思案顔をする。と、ここでソウは隣にいるイカ…ユーロの頭をみて、あることに気づいた。

 

 

「ユーロ、スペシャル溜まってるんだな。さっき吐いたばっかりな気がするけど」

 

「あ、本当だ…いやあ、パブロ・ヒューってほら、スペシャルの回転率がウリみたいなものだから…」

 

 

ちょっと恥ずかしげに頬をかくユーロ。そう、確かにユーロの言う通り、パブロ・ヒューはスペシャルウェポン”イカスフィア”を使うために必要なポイントは僅か160P。これは他のイカスフィア持ちのブキと比べても最少の値である。メインとサブの塗り性能も合間って、スペシャルの溜めにおいては他のブキと一、二を争うレベルとなる。

 

それを確認したソウは、今一度中央の様子を顧みた後、ユーロに向き直り神妙な顔で提案する。

 

 

「じゃ、やるっきゃないな。例のアレ」

 

「あ、あれを? …でも、今度はうまくいくかなあ……今までも成功率半々程度だったし…」

 

 

不安を隠せないユーロの手を、ソウは両手でぎゅっと包み込んだ。

 

 

「大丈夫。この打開の難しいフジツボスポーツクラブで成功率半々なら、充分やる価値はある。…スイトさんも言ってただろ? 『実戦で何度も失敗し、負けてこそ、バトルは強くなる』って。失敗を恐れちゃダメだ。勝てる可能性へ向かって、頑張らなきゃな」

 

「…うん。そう…だね。よし、僕、やるよ!」

 

 

決意したように頷くユーロをみて、ソウは内心ホッとした。

というのも、これまでのバトルにおいて、ユーロは基本的に及び腰の態度であった。ソウが見たところ、どうにもユーロは『失敗』というものを極端に恐れているように思えた。

 

その度にソウはスイトの言葉を引用しながらユーロを説得しているのだが、だんだんユーロが思い切って決断してくれる時間が短くなってきたように感じ、ソウは内心微かに安心していた。

 

 

「じゃあ…いってくるよ。最大時間で、できるだけ引きつけるように…だよね」

 

「おう、頼んだ」

 

「…任せて!」

 

 

ぐっ、と拳を握ったユーロは、勢いよく自陣の壁から飛び出し、手元のパブロ・ヒューと共に金網の橋を駆け抜けて中央へ向かった。

無論、金網を渡り切るより早く、中央を陣取っていた敵のイカ達の目に止まる。

それぞれのブキがユーロに向けられた時を見計らい、ユーロは前転するかのように体を丸めた。

 

 

 

 

 

その時、ユーロが一瞬だけ自チームのインクの色と同じ、オレンジの光に包まれる。そして次の瞬間には、ユーロの周りに丸いプラスチックのような守り…『イカスフィア』が形成された。

 

 

 

メインもサブも使えない状態のユーロは、コロコロとスフィアを内部から動かして突進する。

少々間抜けな姿だが、しかしこのスペシャルウェポン、ただ身を守るためのものではない。その証拠に、コロコロと向かってくるスフィアを前にした一人の敵イカは、素早くイカダッシュして中央から離れる。ターゲットを定めたユーロは、その敵のイカダッシュの飛沫を正確に見極めて追いかけていく。イカスフィアを使えば、敵インクの上だろうと難なく進むことが可能だ。

 

 

 

狙いを定めたイカだが、ユーロは決して適当にターゲットを決めたわけではない。決め手は、あのイカの持ちブキがヴァリアブルローラーであったこと。

 

 

イカスフィアは、決して無敵ではない。インクの攻撃を連続で受け続ければ、ノックバック…つまり思うように前に進めなくなる上に、耐久力以上の攻撃を受ければ、スフィアを剥がされてしまうこともあり得る。

そのため、イカスフィアの天敵は継続射撃ができるシューター・マニューバーや、攻撃力の高いボム持ちのブキだ。

 

ヴァリアブルローラーは、そのいずれにも該当しない。

ローラーの場合、振り下ろしによる至近距離攻撃か、縦振りによる隙のある中距離攻撃の二択だ。いずれもイカスフィアに対して強く出る事は出来ない。

ただ、ヴァリアブルローラーが持つスペシャル”スプラッシュボムピッチャー”による連続ボム攻撃だけは懸念すべきだが、相手にスペシャルが溜まっていない事は、しっかり確認していたのだ。

 

 

ターゲットになってない敵イカも一度中央から離れ、ユーロが狙いを定めた敵イカは金網下の通路を使って逃げきらんとする。

 

 

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ユーロの切り込みによって、中央につけいる隙が生まれた。だが、まだソウは動かない。じっと、その時を待つ。

コロコロスフィアに追い立てられた敵イカは、サイドに存在する壁の方へ退避する。壁を巧みに使って、イカスフィアの持続時間一杯まで耐えきろうというのだろう。

 

確かにイカスフィアの”爆発”は、壁を超えては貫通しない。壁を上手く使って立ち回れば防ぐのはたやすい。

無論、ユーロもそれを理解していた。

 

 

 

“だからこそ” ユーロはいとも簡単にターゲットを見捨てると共に、スフィアのまま中央へ戻っていった。

 

 

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そして、そろそろスフィアの時間が切れる。

 

 

 

 

ピーッという鋭い警告のような音と共に、ユーロの入っているスフィアの内部が自らのインクの色で満たされた瞬間…強烈なインクの爆発が発生した。

 

 

…しかし、敵イカは充分に距離をとっていたため、一人もデスする事はなかった。その代わり、たった一人で孤立したユーロを袋叩きにしようと、敵のイカ三人がワラワラとよってくる。

 

 

 

 

「わーーー!」

 

 

 

情けない悲鳴を上げながら、中央から降りて逃げるユーロ。

幸いにも、パブロ系列の機動性を持ってすれば、乱れ打つインクの弾から逃げるのは比較的簡単である。しかし、このステージにおいては自由に逃げ切れる場所は限られている。もし複数人を持って追いかけてこられれば、さしものパブロと言えど危険である。

 

しかし、実際には誰一人として追撃してくる事はなかった。

その理由は一つ。突如中央に現れたジャンプマーカーに、気を取られていたからだ。

 

 

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敵イカ達はその時、こう思った。さっきキルしてやったイカが、慌ててジャンプしてこようとしているのだろうと。そう考えるのは何も不思議なことではない。特にさっきデスしたイカが復帰した頃合いとなれば尚更だ。

 

そうして焦って飛んできたイカを着地狩りすることは容易である。マニューバー相手なら話は別だが、少なくとも相手の編成にマニューバーがいないことは、度重なる撃ち合いを元に敵イカ達は把握していた。

 

しかし、彼らは一つ失念していた。

マニューバーこそ確かにいないが、ジャンプマーカーが見えた時に警戒しなくてはならないもう一つの存在…『スーパーチャクチ』を。

 

 

 

敵イカがそれを忘れていたからこそ、『受けとめて☆ラブメテオ!』は成功するのだ。

 

 

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インクの大渦によって、二人の敵イカは倒されてリスポーン地点へ吸い込まれていった。

 

 

 

ソウが言った『例のアレ』とは何のことはない。ただの『スーパージャンプからのスーパーチャクチ』である。いつも野良で時折狙っているソウの…いや、チャクチを使うイカなら誰もが考える打開手段の一つである。

 

ただし、普段のソウと違うのは、連携のとれる知り合いの味方がいたこと。

 

イカスフィアが未だ上手く動かせない、と嘆くユーロに対して、ソウが提案したのがスフィアとチャクチのスペシャルコンボ。

これも特に難しいことはない。ただスフィアで一人をキルしようと付け狙うのではなく、ユーロがわざと目立つところでスフィアを起爆させて敵の注意を引きつける。そこへソウがスーパージャンプを狙うことでジャンプマーカーを敵に視認させ、着地狩りを狙わせる。そして、スーパーチャクチによる逆狩りを狙う、と言ったわけである。

 

 

…『スーパージャンプからのスーパーチャクチ』のことを、ユーロが『受けとめて☆ラブメテオ!』と表現した際には、ソウは何とも言えない表情になったものだが。

無論これはユーロが命名したのなく、ユーロが大好きなとある有名ユニットが命名したものであるのだが、ソウはそこら辺を突っ込んで聞かなかったため、『ユーロのネーミングセンスは方向性がおかしい』とソウに誤解されることとなった。

 

 

名前の話はともかく、この作戦をソウが思いついた時には、画期的だと思ったものだ。だが、先ほどユーロが不安げに言ったように成功率はせいぜい半々だったのだ。

 

理由は単純。少しでも『受けとめて☆ラブメテオ!』を警戒しているイカがいれば、当然失敗に終わるからだ。

ある程度ジャンプマーカーから距離をとって着地狩りを狙っているイカは、ダメージこそ与えられても倒すまでには及ばない。

 

特に天敵なのはチャージャーやスピナーであり、ダメージを与えるどころか遠距離から安全に『チャクチ狩り』をされてしまうだけに終わることも普通にあった。

 

こうして画期的だと思っていたご自慢の戦法は、思ったより万能ではないという事実を実戦から理解したソウだが、それでもこうした打開しなくてはならない場面に対しては、やらねばならないと決断する必要がある。

 

そのたびに『友達』であるユーロを説得するのは、もはや試合における恒例行事となりつつあった。

 

 

 

 

 

チャクチによって、二人のデスを確認したソウの元に、大きくUターンしてきたユーロが、パブロ・ヒューを滑らせつつ駆け寄ってきた。

 

 

「ハア…ハア…や、やった…の?」

 

「ああ、二人倒した。ユーロが上手く誘導してくれたおかげだ。ありがとな!」

 

「あ、う、うん! じゃ、じゃあ今のうち中央塗っちゃうね!」

 

「了解! あ、ただ仕留め損ねたやつが左サイドにいる! 今から向かうけど、ひょっとしたら倒せないかもしれないから、一応警戒頼む!」

 

「うん…じゃなくて…了解!」

 

 

ビシッと律儀にソウの同じように返事をすると、筆を思いっきり振りまくることでインクを思い切りばら撒くことで自らのチームのナワバリを広げにかかる。

 

ソウの方はと言えば…ユーロに伝えた通り、左サイドの方へ向き直る。

一応、横目で常に注意はしていたため、少なくともこっそり抜け出して金網下の通路へ退避している…ということはないはずである。恐らくは、壁裏で注意を伺っていることであろう。

 

普段のソウであれば、自信のない打ち合いに自らもつれ込むよりも、あそこに敵がいることをそれとなく味方に伝えつつ、自分は塗りに徹して勝ちに行くだろう。

 

しかし、今回はそれではダメなのだ。他のチームのイカ達には申し訳ないと強く思っているが、今日のナワバリバトルにおいては『勝利』は二番目の目標に過ぎない。

一番目の目標のために、ソウは『いつもとは違うブキ』を持っているのだから。

 

 

「よっし…行くぞっ!」

 

 

決意を持って、カーリングボムを左サイドに向かって放つ。しかし、そのままカーリングの塗り後をイカダッシュして一気に距離を詰めることはしない。あくまで牽制。センプク状態から炙り出すための一手であった。

 

 

(…スパジャン前に確認した限りでは…あの壁裏にいるやつは、さっきまでユーロが追い回していたヴァリアブルローラー使い。…サブウェポンは…確か)

 

 

そこまで思考したところで、敵が隠れる壁の右側にサブウェポン『スプラッシュシールド』が展開される。

それとぶつかったソウのカーリングボムは、未だ走行距離を残しているにも関わらず、あえなく爆散した。

 

 

(そうだ、スプラッシュシールド! …シールドの影から縦振りで道を作って逃げる気か?)

 

 

ヴァリアブルローラー最大の特徴といえば、『変形機構が組み込まれたローラー』である。

「スプラローラー」より早く、「カーボンローラー」より強い横振り。

「スプラローラー」より長く、「ダイナモローラー」より早い縦振り。

スピードこそ遅いものの、状況に応じた塗り方法を他のローラーよりも柔軟に操れる器用なブキだ。見た目のフォルムも実はソウの好みに近い。

 

敵はスプラッシュシールドによってこちらの攻撃を封鎖し、自分は長射程シューター並みの塗り範囲を誇るヴァリアブルローラーの縦振りを用いて、ここから離脱するための道を作るのではないか、とソウは推測していた。

おそらく敵側としては、このまま壁裏で応戦するのは好ましくないだろう。確かにローラーであれば、壁を使った奇襲は得意とするところだが、敵に位置バレしてるとなればその強みは半減するからである。

 

 

 

しかし、そんなソウの推測はあっけなく崩れ去ることとなる。

壁を越えるようにして飛んできた『スプラッシュボム』によって。

 

 

「っ!!」

 

 

危うく体を思いっきり仰け反らした勢いのまま自分のインクに戻って退避することで、なんとか避けるまでに至った。だが、敵の紫色のインクが体にかかり、言葉にするのが難しい倦怠感がソウの体を襲う。

 

 

(やばい…スペシャル溜まっていたか!)

 

 

ソウが敵の本当の狙いを察したその間にも、壁裏から次々と飛んでくるスプラッシュボムが2つ、3つ、4つ。

無論、これは敵のスペシャル”スプラッシュボムピッチャー”である。

 

 

周辺にばら撒かれる三角錐のボムの数々。ソウは顔を強張らせ、中央へ撤退しようとした。…が、すぐに立ち止まって、再び壁の方へ体を向けた。

 

 

(…逃げちゃダメじゃないか。…やるしかない。強くなるために)

 

(……打ち取る! 『敵の攻撃を受ける覚悟』で!)

 

 

ソウは、毅然とした表情でカーリングボムを壁の左側に向かって放つ。

 

ボムピッチャー系列のスペシャルを発動している相手に対して真っ向から仕留めにいくのは、普通では無謀な行動として認識される。

 

 

起爆まで時間のかかる”キューバンボムピッチャー”や”カーリングボムピッチャー”ならばそれなりに合理性のある行動ではあるが、それでも相手の対応次第では返り討ちにあうケースも少なくない。まして今回のソウの相手はより危険性の高い”スプラッシュボムピッチャー”だ。

 

ただし、ソウが向かっていったのは何も勝算がない訳ではなかった。

敵はデスを恐れているのか壁越しにしかボムを投げてこない。つまりは、こちらが接近している様子が見えていないということだ。

 

後はボムをかいくぐり、敵が気付く前にこちらが懐に潜り込めば...!

 

 

 

ソウは、周辺で破裂するボムから飛散するインクを極力交わしつつ、自らが投げたカーリングボムの軌跡に沿ってイカダッシュする。

あのカーリングボムは反射によって壁裏に向かって滑り込む。その跡についていけば、あのヴァリアブルローラー使いの元へ切り込める。

 

 

だが、そのボムはあくまで『囮』であった。

ソウの狙いはあくまで、右側。先程敵が張ったスプラッシュシールドが、ソウのボムが与えたダメージと合わせて、時間経過で切れる頃合い。

 

イカダッシュしていたソウが、サブウェポンが発射できるギリギリの量までインクが回復した瞬間に、二発目の『本命』を放った。

 

カーリングの軌跡が、今度は反射して右側から侵入できるように。

 

『スプラッシュシールド』は、一度に二つは設置できない。

そのためあのヴァリアブルローラー使いはとりあえず、(ソウから見て)右の方をシールドで封鎖した上で”スプラッシュボムピッチャー”で最期の塗りを狙いにかかった。

そんなかのボーイも、シールドを置いていない左側をしっかり警戒していても、右側に関しては注意が薄い筈だ。シールドが万能ではなく、時間経過で消えるという事実をしっかり理解していても、「シールドを設置しておいた」という事実からくる安心感が、右側の注意を逸らしている筈である。

 

ソウは、それに賭けた。

 

 

カーリングボムに沿って右側から回り込んだソウが見たのは、敵であるヴァリアブルローラー使いの”背中”であった。上手くいった。敵はソウが最初に放った囮のカーリングボムの爆発に気を取られ、ソウの目前で無防備な姿を晒していた。

 

だが、ソウが敵をキルすべく一歩踏駆け出した瞬間に、気配を察したが、それとも偶然か、敵のヴァリアブルローラー使いが振り返ったではないか。

 

 

「なあっ!?」

 

「っ! うおおお!」

 

 

驚きの声を上げた敵のボーイの顔を見て、ソウも一瞬顔を歪めるが、後戻りをしてはいけない。今日のバトルで身につけるべきは『覚悟』 最悪刺し違えても敵をキルする覚悟で動くことを学びに来たのだから。

 

 

雄叫びを上げたソウは、思いっきり前につんのめる勢いでブキを前に詰めていく。カーリングボム二連打のせいでソウのインクタンクはカツカツ。歩き打ちで距離を詰めても、敵に届く寸前でインクが切れたら大変だ。

 

だから、そのトリガーを引くのは、確実に倒せる距離まで近づいてからだ。

 

敵は、とっさにヴァリアブルローラーを振り上げた。ここまで接近されると、スプラッシュボムは遠くに転がって相手をキルしきれない可能性がある。確実に倒すためのメインウェポンによる迎撃を狙ったのだろう。

 

だが…

 

 

(俺の方が…早いはず…!)

 

 

思いっきり腕を突き出して、敵に銃口を向けるソウ。

 

 

(届け……『ボールドマーカー』!!)

 

 

ソウは、引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

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Finish!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

57.3%-33.5%

 

 

 

 

 

You win!

 

 

 

 

 

 

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「いやー、今日バトルに付き合ってくれて本当にありがとうな。お陰でランク14になれたよ」

 

「え、嘘!? ソウってまだランク10台だったの?」

 

「…ええ、初心者で悪うござんしたね」

 

「あ、いやいやいやそういう意味じゃないよ! とてもランク10台とは思えないほど上手いって意味だから!」

 

「…そうか?」

 

 

ちょっとぶすっとした顔になってしまったソウだが、ユーロのフォローで褒められたのは悪い気がしない。ちょっとだけ嬉しかった。

 

 

 

ぶすっとするなんてこと、ソウがこの世界に来てから初めてであろう。ユイにもクロにも見せたことのない表情を、このユーロの前ではよく見せる。今やソウは、出会って数時間程度であるユーロを前にして、もっとも素に近い態度でいることができていた。

 

その理由は、やはり『言葉』と『バトル』であろう。

 

助けられた恩からか、フレンドになってくださいと敬語でお願いしたユーロを見ていると、ソウはかつての…というより今までの自分を見ているような気持ちになっていた。

 

 

──わかった。フレンドになろう。

 

 

ソウが答えると、ユーロの顔はパアアという効果音がつきそうなくらいの笑顔になった。

ただし、とソウは続けた。

 

 

──これから『友達』になるなら、敬語はなしで行こうか。もちろん、お互い呼び捨てでな。

 

 

その提案は、ユーロに気を使ったというより、ぶっちゃけ自分自身のためという方が大きかった、というのは否定しない。

つまるところ、ソウも欲しかったのだ。自然な態度と口調で接せる『友達』が。

恩人であるユイやクロ、スイトは今更そういう対象として接することはできない。たとえ本人達が快く了承してくれたとしても、ソウの心の中における『恩人』というカテゴライズは早々覆るものではない。

 

 

ソウの提案に対して、ユーロは一瞬意外そうに目を見開いたが、すぐに「うん…わかったよ」と言って微笑んだ。

 

 

言葉というのはすごいもので、それからお互い素の口調で会話していくにつれて、どんどん打ち解けていった。

それに加えてバトルで同じチームになった時、声を掛け合って連携したりナイスのシグナルを送り合うことによる一体感は、より二人の距離を近くしていった。

 

友達と一緒にやるナワバリバトルは、普段の野良バトルよりずっと楽しく思えていた。

 

 

(…ユイさんやクロさんと一緒にバトルできたら、二人とも『友達』に慣れる日が、くる…かもな)

 

「……どうしたの?」

 

「あ、いや…なんでも、ない」

 

 

ちょっと深く思案しすぎたため、隣で歩くユーロに心配されてしまった。

ちなみに今はもうバトルを終え、自らのブキが入ったケースを背負ってロビーの方へ向かう最中である。

 

 

「それにしても、ソウってボールド上手いんだねー…扱いが難しいブキだってよく聞くのに」

 

「や、俺もボールドそのものに慣れている訳じゃないんだけどな…。ただ、サブスペに関しては大分練習と実戦を繰り返したから…な」

 

 

少々照れたように、視線を逸らしつつ答えるソウ。

 

カーリングボムに慣れているのは、ソウが原案のブキである『イカネサダ・心』のサブウェポンであるから。

そしてスーパーチャクチに慣れているのは、ここしばらくのナワバリバトルにおける相棒ブキであった『スパイガジェット』のスペシャルであるからであった。

 

そもそも今回相棒ブキである『スパイガジェット』を持たずに『ボールドマーカー』を使ったのは、「敵の攻撃を受ける覚悟」を身につけるためであった。

 

 

『ボールドマーカー』はその射程の短さから、他のブキよりも敵へ接近する必要性が高まる。それこそ、「敵の攻撃を受ける覚悟」がなければ、ボールドマーカーで敵を倒すことはできないだろう。それでいて、イカネサダ・心と同じサブウェポンを持つボールドマーカーは練習ブキとして適切であると判断したのだ。

本当であれば、イカネサダ・心と同じサブスペを持っている『ロングブラスターカスタム』が練習ブキとして適切だとは考えたが、あれが買えるのはランク18にならないと無理ということで、妥協の練習ブキとしてのボールドマーカーなのだ。ここまで使ってみたソウとしては、このブキもなかなか自分の身の丈に合っていると感じていた。

 

 

そんなこんなで会話していると、やがてデカ・タワー 一階のロビーに到着した。バトルを行うイカ同士の待ち合わせに使われることが多いこの空間は、今日の時間にもそれなりのイカがいる。

 

 

「…で、ユーロの待ち人って…いるのか?」

 

「うーんと、ね。まだ来てない…みたい」

 

 

キョロキョロと辺りを見渡すユーロ。

そう、今日楽しい二人のナワバリバトルを途中で切り上げたのは、ユーロが「あるイカ達と待ち合わせをしているから」と心底申し訳なさそうに伝えたからであった。

ソウの内心では確かにまだちょっとバトルし足りなかった感があったが、だからと言ってワガママを言うような真似はせず、ただ「わかったよ」と返事をした。それでもちょっとガッカリしたことは表情に出てしまったらしく、ユーロは慌てて「今度、また一緒にバトルしよう! 絶対! 約束だから!」と言ってくれた。

気を遣わせてしまったかな、とソウは心配になったが、ユーロがまた一緒にバトルしようと言ってくれたことは嬉しかった。

 

待ち人についてはソウは特に掘り下げて聞くつもりはなかったが、とりあえずロビーの適当なところに座って待ってるか、と二人で結論づけたその瞬間であった。

 

 

「ねえ、あれって……おーい! ソウくーん!」

 

「え…ユイさん!?」

 

 

まさかユーロの待ち人が来るより早く、ソウの待ち人が来るとは思わなかった…いや特に待っていた訳ではないが。とにかくソウが振り向くと、入り口からブンブンと手を振って駆け寄ってくるユイの姿と、それに追随してゆっくりと歩いてくるのはクロの姿が見えた。

 

ソウの元へたどり着いたユイは、ソウに勢いよく抱きつくという強烈なスキンシップを行う。

半日以上ソウから離れていると、ユイはおおよそ八割近い確率でこのようにやってくるため、ソウもある程度心構えができていたし、何回も繰り返されるうちにユイの勢い余った体当たり抱擁を受け止められるくらいの筋力もついてきたので、別に困ったことではなかった。

 

 

「もー聞いてよソウ君ったら! さっきすっごい面白い芸を見たんだよー! あーソウ君にも見せてあげたかったよー…ソウ君は? ひょっとしてずっと修行してたの?」

 

「あー、そうですね…まあただ途中からはちょっと…他のイカと…」

 

「他のイカ? それ…っ…て……」

 

 

疑問を突き詰めようとしたユイの言葉が、だんだんと薄く尻窄みになって消えていく。どうしたのかと一瞬ソウは訝しんだが、その理由はすぐに知れた。

 

ソウの体に抱きついているユイは、しばらく目を閉じてソウの小さな体の感触を存分に堪能していたのだろう。だがそんなユイが目を開ければ、目の前にはもう一人、もっと小さい体のイカがいる。

 

困惑顔のそのイカは、言うまでもなくユーロ。ユイが大好きないわゆる『ショタ』である。

 

 

「…かわいい」

 

「はい?」

 

 

夢うつつ、と言った感じの声を発したユイは、一旦ソウから離れてユーロの真ん前に立った。ますます対応に困ったユーロの目をじっと見つめ、ユイはパッとその小さな手を取った。

 

 

「決めた。ユイ、決めたよ。そう、これは運命に違いないよ!」

 

「え、ええと…あの…」

 

「君が! 君こそが! 私たちの最後のホープ! 希望の四人目っていたああああい!」

 

「お前は初対面のイカに迫るのをやめろ」

 

 

途中から追いついてきたクロのチョップによって、ユイは涙目で蹲る。

ちょっとばかし恐怖を感じたらしいユーロは、こそこそとソウの側によって小声で尋ねる。

 

 

「えっと…ソウの知り合いのイカ?」

 

「あー…その…チームメイト…かな。まだ正式かどうか、分からないケド…」

 

「チームメイト?」

 

 

首を傾げたユーロに対し、痛みから復活したユイが機敏に反応する。

 

 

「そう! ユイ達はチーム『インカーネイション』! 最後のメンバーを探すべく、こうしてロビーへやってきたところ、こうして君と出会ったのは、まさしく運命! 是非ともユイ達と一緒に…」

 

「え…ちょちょちょっと! 待ってください! 『インカーネイション』って……あなた達が?」

 

「もちろん! そして、このユイこそがチームリーダーで…」

 

「……嘘、ソウ……も、なの?」

 

「あ、ああ…」

 

 

コクリと頷いて肯定するソウだが…それにしても、あまりにもユーロの動揺ぶりが激しいのに気になった。

ユイの朗々たる名乗りも耳に入っていない様子のユーロは……なんというか、ただ思いかけず有名人に会って驚き、狼狽している…にしては非常に顔が青くなっている。ソウと…そしてクロもまた、そんなユーロの様子を訝しむ。

 

 

 

「ソウ…あ、ええっと……その」

 

 

 

ユーロが、おぼつかない言葉でソウへ何かを告げようとした時、

 

 

 

 

 

 

「おい、ユーロ。誰だそのイカ達は?」

 

 

 

 

 

 

ソウ達の背後から、聞いたことのないガールの声が飛んできた。

その声に呼応してユイ、クロ、ソウの『インカーネイション』の面々が一斉に振り向いた。

 

 

「………」

 

「………」

 

「………あ」

 

 

 

 

「………あ」

 

 

 

 

 

 

「「ああああああああああああ!!!!!?????」」

 

 

 

ユイと、声をかけてきたガールは、お互い指を差しながら絶叫した。




試合描写におけるバトル理論に関しては、実際のゲームと大いに差異があるかと思います。ご了承下さい...。
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