イカの惑星   作:り け ん

4 / 17
ファミ通のスプラ開発者インタビューで「クラゲ達には基本的に自我がない(意訳)」というこの小説の根本を揺るがす設定が飛び出てビビリ中。
しかしよくよく考えたら、スプラの設定をモロ無視しているのは今更なことので気にしないことにした。

これはそういう小説です。お気をつけください。


体験 勧誘

「うーん…まだ固い感じするよねえ…。ユイの感覚としてはね、もっとこう…体を思いっきり

ぐにゃぐにゃさせて沈めながら地面に突撃! …みたいな!」

 

「その文言はもういい。ソウ、あまり間に受けすぎるな。

これ以上床に頭ぶつけるとまた記憶飛ぶぞ」

 

「ぶー! 人のアドバイスを役立たずみたいにー! じゃあクロ君が教えてあげなよ!」

 

「……そうだな。イメージとしては…やはり『溶ける』ことを念頭に置くのが重要だと思う。筋肉は本来固体だがそれが液体となりて全身が床に落ちるのを想像し…」

 

「……本当に、申し訳ないのですが、俺には、溶けるという概念が全く実感できないのです…」

 

 

 

痛む頭を押さえながらソウが返答すると、クロは困ったように眉をひそめた。

 

 

 

 

 

 

側から見れば、劇的な崩れ落ち方の練習にしか見えない光景であったが、

もちろんそんなアホみたいな練習ではないしこの三人のイカは至極真面目である。

今、ソウが一生懸命に取り組んでいるのは『イカ化』である。

 

 

 

 

ナワバリバトル。通称『バトル』というスポーツ…いや、クロの言葉を借りるなら『遊び』か。

クロからの説明を受けたソウは、バトルをするのも悪くはないとは思っていた。

 

クラゲさんからの支援があるとはいえ、これでは実質ニートと変わりない。

ソウの良心が痛む音が時々聞こえてくるような日々が続いているのだ。

 

彼女…つまりユイには、とてもお世話になっている。

衣食住の恩は、非常に大きい。彼女の好意がなければどうなっていたことやら。

最初の方はクラゲさんからの怪しいアドバイスによって、正直警戒心マシマシだったが、時々飛んでくる熱のこもっている視線さえ除けば、至って健全な生活であったのだった。

 

そんな恩義あるユイが喜んでくれるのであれば…自分から取り組んでみるのもよいと思うのだ。

それに、聞いたところによれば気楽なものでもあるらしいし、まあなんとかなるだろうと楽観的思考をしていた。

 

 

 

しかしそんな考えは、今まさに崩れ去っている最中である。

まさか、ここにきて人間とイカの生物的違いを徹底的に見せつけられるとは。

 

 

 

「…すまない。俺たちにとっては、このイカ状態の方が子供の頃から慣れているのでな。

正直、感覚的なアドバイス以上には、役に立てそうにない」

 

 

机の上に乗った紫色のイカ型生命体…もとい、クロは心底申し訳なさそうな声色で答えると。ぴょんと机から飛び降りたかと思えば、ぽちゃんという水滴のような音とともにほぼ一瞬で人間の形へ戻った。

身長でいうとほぼ倍近い変化だ。一体どうなっているのか。イカの神秘としか言いようがない。

 

 

 

クロの説明によれば、元々イカというのは…当たり前のようだが、このイカ状態で生まれてくるという。

そこから徐々に体が人型に近づいて、やがて『ヒト状態』と『イカ状態』を使い分けられるようになって、初めて一人前として認められるらしいのだ。

 

 

つまりは、このイカ化というのはきちんと生まれた時からイカとして過ごしてさえいれば、できて当たり前のことというわけだ。

おそらくユイやクロからしてみれば、大の大人に「ハイハイ」のやり方を教えているようなものなのだろう。これは、二人が困って当たり前だ。まあそのハイハイすらできないソウは今もっと困っているわけだが。

 

 

「ムムム…こーなったら、このユイが力づくで…」

 

「やめろ」

 

 

手をワキワキさせながら不穏なワードを漏らすユイを、クロが頭を引っ叩いて制する。

 

 

「え〜…でもこのままじゃソウ君がバトルできないじゃん!」

 

「逆にソウを急かすのもよくないだろう。イカ化はおって練習すればいい。今は…そうだな、なら『さんぽ』するのはどうだ?」

 

「あっ、そっか! それいーね! よっし、そうと決まったらほら行こうソウ君!」

 

「は、はい? さ、散歩……ですか?」

 

 

ソウを置いてけぼりにしてはしゃぐユイだが、クロからはしっかりと補足が入る。

 

 

「『さんぽ』とは、一応バトルの公式用語だ。分かりやすくいうならば…試合会場の下見…と言ったところか」

 

「はあ…その…下見って、公式で認められてるのですか?」

 

「そうだ。バトルには多種多様なステージがあり、各ステージによって立ち回りは大きく変わる。そういった立ち回りの研究や練習は、本気で勝ちに行く者達…いわゆる『ガチ勢』にとっては、必須となるからな」

 

「…そうですか」

 

 

なんか、ステージだのガチ勢だの、まるでゲームの話をしているみたいだ。

いや、というよりは本当に彼らにとっては『バトル』とやらはゲームに近いのかもしれない。

本気でやる人と、遊びでやる人がいる点で、確かにバトルとゲームは共通してる。

 

 

 

 

そんなわけで、この日。

ソウは早着替えをしたユイに強く腕を引っ張られながら、初めてイカ世界へ足を一歩踏み出した。

 

 

 

 

*

*

*

*

*

*

 

 

 

 

大通りに出た途端、イカ達の声が大量に交差し始める。

ソウの元高校生の記憶の中より、大通りに走っている車の数は少なく、車道も狭めだ。

その分大きいのが歩道。歩いているイカの数は、車と同じく少ない気がする。

 

が、なんか平均的に声が大きい。

普通の街中の会話より1.5倍くらいの大きさで喋っているイカが大多数なせいか、一般的な都会に比べて数は少なめなのに、賑やかさは都会に負けてないくらいである。

そして、歩道に並ぶ建物も…平均的にちょっと低めなのは、イカと人の身長差を反映しているというべきか。

それでも、『都会』よりの『街』くらいには賑やかな様である。

 

 

 

そうして大通りをまっすぐ歩くこと20分。

 

 

 

「着いたー! ソウ君、ここここ! ここがデカ・タワー前広場だよ!」

 

 

鼻歌歌いながら歩いていたユイは、大通りに着いた途端テンションが1.8倍くらいになった。

もっとも、テンションが1.8倍くらいなのは、ユイだけではないようだ。

 

 

「ねえ見て! 私もとうとうイカすための第一歩を踏み出したわ!」

「ああ、あの髪型手術受けたの? へえ、いいんじゃない?」

 

「どーよ見たか! この輝くA +の称号を!」

「おお、マジかよ! クッソ、これは俺も負けてられんなぁ!」

 

「おめえアメフラシ抱え落ちしすぎ! 最後あそこで打ってたら絶対カウントリード防げてたのに!」

「そ、そんなこと言ったって…あのリールガンのイカのエイムがやばすぎなんだよ…」

 

「あの武器すっごいよね。どーにかして手に入れられないかな…」

「やめとけやめとけ。あのクマサン商会を探って帰ってきたイカはいないって噂だぜ…」

 

 

ここの広場のイカも声量が1.8倍だ。

言葉の意味の殆どはソウには理解できなかったが、きっとバトルとやらの用語なのだろう。

ちなみにクロに関しては、テンションの変化は見られず寡黙なままだ。

 

広場は全体的にカフェみたいに椅子や机がおしゃれに設置されており、居並ぶ店の内部から声が漏れるほど、活気に満ちている。

 

 

そしてユイがちらりと漏らした『デカ・タワー』とやらは、ぶっちゃけすぐ分かる。

なるほど名前に恥じないデカさ。…だが、四角いパーツが危なげに積み重なったような外見で、正直ちょっと歪すぎやしないかとソウは思った。

 

 

しかし、ユイに手を引かれ入ったその内部は、結構まともだった。

外部は『デカ・タワー』で、中は『ヒロビロ・タワー』みたいな感じだ。

思った以上に奥行きがあった。大きな病院のロビー、みたいな感じである。

 

イカは確かにたくさんいたが、広さに対して人数は少ない。

静かに待っているイカとかが多い印象から、おそらく待ち合わせとかに使う場所なのかもしれない。

 

 

 

「ソウ君、こっちこっち!」

 

「こら待て」

 

 

エレベーターの方に走り去ろうとするユイの首根っこを引っ掴むクロ。

カエルみたいな悲鳴をあげるユイ。

 

 

「ソウはここに来るのは初めてだろう。登録が必要だ。そして、ソウの保護者はお前だろう」

 

「あっ、そーだそーだ! 受付行かなきゃ!」

 

 

ユイはぴゅーと向きを180度変えて受付に走っていった。

結構静かめな場所なのにユイがドタバタして大丈夫かなとも心配するソウ。

 

 

「あっ…登録って……俺も行った方がいいんじゃないですか…?」

 

「いや、一応保護者であるユイがいれば大半の登録は済む。

ソウは…向こうの方で証明写真を取って…最後は指紋だけ登録すれば十分だろう」

 

 

そして、クロに連れられて証明写真機で写真をとった。

途中「クロく〜ん! ここ何て書くんだっけ〜?」とユイに呼ばれて一時受付の方に行ったが、幸運にも証明写真機の方は人間世界とほぼ変わらない仕組みだったため、一人でも問題なかった。

あとは受付の方で証明写真を提出し、機械に親指を押し付けて指紋を取ることで案外スムーズに終わった。

 

 

「ほらソウ君! これ君のマイイカカードだよ!」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「そのカードは戸籍と同じくらい重要だから、無くさないようにな」

 

「えっ、は、はい」

 

 

まさかの戸籍なみの重要さと聞いて、ちょっとビビるソウ。

自分の緊張した顔が印刷された写真が貼られたカードを取りあえずポケットにしまった。

 

 

 

「で、はいこれ! ソウ君のわかばシューターと初期ギア!」

 

「…はい? わかば…? ギア…?」

 

「…意味合いとしては、試合のユニフォームと、試合の武器だな。

最初のうちは、これで戦うんだ」

 

 

戦う。

その言葉を聞いて受け取った布袋の重さがちょっと重くなった気がした。

 

 

*

*

*

*

*

*

 

 

 

 

「きゃー! 似合ってるよソウ君! かわいー!」

 

「そ、そうですか…ね?」

 

 

更衣室から出てきたソウを、ユイは黄色い声を挙げて出迎えた。

ユニフォームという言葉通り、確かにそれらしいものであった。

白いヘッドバンドと黄色い半袖Tシャツ。ぴっちりした黒いズボンに白いスニーカー。

そしてクロに教えられながら背中に取り付けた『インクタンク』なるもの。

手には危なげに抱えた「わかばシューター」なるコミカルおもちゃ銃みたいなもの。

 

 

 

「なっつかしいなあ…やっぱりこの初心者ギアは心が癒されるわ〜。

そしてそれがソウ君となると…グヘヘへへ…」

 

「………」

 

「ソウが怯えてるだろ。やめんか」

 

 

実際は怯えてるというよりドン引きの方だったが、ニュアンスは一応間違ってはいないだろう。

 

 

「そういえば…ユニフォームって言ってましたけど、お二人は?」

 

「お、いい質問だね。ふふん、実はこの服装もギアという名のユニフォームなのさ!」

 

「そ、そうなんですか?」

 

 

頭のパイロットゴーグルに手を添えて得意げなユイ。

そういえば、ユイとクロの手にも武器のようなものをいつの間にか携えている。

二人とも銃みたいなものだが、ユイは両手にそれそれ銃身が長く赤いもの。

クロは銃口がとても大きく、かつユイと同じように長い大きな銃に見える。

 

 

「…ギアは、バトルの人気要素の一つとも言える。つまりはファッションとしても使え、自由度の高い服装でできるスポーツとしてな。まあ、他にも意味合いはあるんだが」

 

「はあ…なるほど」

 

 

そんな説明を受けつつ、エレベーターで4階へ移動。

ただ、思った以上に4階の構造はシンプルであった。

 

 

簡易的な受付と、待機のために誂えたようなソファー。そんな場所を抜けると、まるでカラオケ店のように部屋が立ち並ぶ通路だ。

 

クロとユイは、そんな部屋の中で水色の表示があるドアの部屋に入っていく。ソウも続く。

部屋の中はさらにカラオケ店のようにシンプルである。

確かにカラオケ機に似たような機械はあるが、違う点としてはテレビやソファー。テーブルがないこと。

そして機械の手前には、何だか黄色の…4人くらいは立てそうな台?立ち場?みたいなのがある。

 

 

「…ああ、そういえばクロ君……これで」

 

「ん? ………そうか。それは、忘れていたな」

 

 

その部屋で、ユイとクロは何かお互い納得したように頷いている。

今回ばかりはクロの補足がなく、置いてけぼりになるソウ。

 

 

「え、えっと…?」

 

「ソウ君、こっちこっち!」

 

 

ユイに手を引かれ、その黄色い立ち場にクロと共に、三人で立つ。

クロはソウとユイのマイイカカードを受け取り、自分のも含めて三枚を機械に差し込む。

そして、足元の立ち場では何やら白い矢印のようなものがグルグル回っている。

 

 

 

「な、何が…?」

 

「…アドバイスとしては…息を止めて、目を閉じるといいかもしれん」

 

「…え?」

 

 

その言葉を脳が理解し、体に実行の指令を出すまでもなく……

 

 

 

 

 

 

「………っ!?」

 

 

 

体が『溶けた』

いや、そうとしか本当に表現しようがなかった。

体が液体のように地面に張り付く。それでいて前方がはっきり見えているのが不思議だ。

手だの、足だの、顔も目も今の自分は自覚できないというのに。

 

 

 

 

そして、自分の視界が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さー! 到着! ここは私のお気に入りステージ! コンブトラックだよー!」

 

「それより、ソウ。大丈夫か?」

 

 

 

いつの間にか、体が元に戻っていたソウは、心臓バクバクの汗だくで膝をついていた。

体が未知なる状態になるのは、相当な恐怖だ。

 

 

「か、か、か、体が……」

 

「落ち着け…それが『イカ状態』だ。…こうやって、ステージへ転送される時は

一旦イカ状態になって転送されるからな」

 

「こ、心の準備が……したかっ…た…」

 

「…本当にすまない。そこまで狼狽するものだとは思わなかった」

 

 

俺もここまで新感覚だとは思わなかった。流石一万年二千年の神秘は伊達ではない。

自然に驚異を覚えつつ、心配してくれているユイとクロの背中すりすりによって、ソウの心が平常心を取り戻すのに軽く7分はかかった。

 

 

*

*

*

*

*

*

 

 

 

それからはユイとクロによる「ナワバリバトル」の指南が行われた。

指南とは言っても、実際は簡単な説明だった。

 

 

制限時間まで床を塗り合い、最終的に塗った面積が多い方が勝ち。

なんだかんだ言っても、これさえ知っていれば試合はできるのだと言う。

 

ソウの予想する試合会場とは違う、一見すると公的施設に見えるこの場所で

銃から出るインクで塗りたくるのはなんか罪悪感を感じなくもないが、

クロ曰く「少なくとも『ここ』はナワバリバトルのために作られた場所であることは間違いないし、それにイカのインクは一定時間経てば消えるから、迷惑もかからない」とのことらしい。

何だか、まるでゲームみたいに都合がいいなという感想を抱いてしまうソウ。

 

 

 

さらに塗り塗り散歩をしながら、二人によるルール解説は続く。

バトルは4対4で行い、二つのチームは適当に色分けがされる。

実際今この「さんぽ」においても、いつの間にか三人の頭のゲソの色、そしてインクの色は黄色になっていた。

 

 

そしてもう一つ重要な要素として、「相手を倒す」ということを聞いた。

なんでも、ある程度相手にインクを当てると、その相手を倒すことができるらしい。

相手を倒すことを『キル』といい、逆に相手に倒されることは『デス』というとのこと。

なんか用語が物騒なんじゃないかとは思った。

 

 

倒した相手は一定時間たてば、「リスポーン地点」と呼ばれる所で復活するという。

しかし、よりたくさん敵を倒せば人数有利の時間が多くなるため、勝負にも勝ちやすい。

キルは試合の重要な指標であるとはクロの言だ。

 

 

実はこの後、キルデスの体験をするために別の部屋に移動するはずだったが、予定が変わった。

というのもインクに滑ってソウがコケた時、無意識にイカ化していた出来事をきっかけとし、イカ化へのコツを掴むことができたのだ。

そうして、数十回のインクへの突撃を繰り返した結果、ソウもまた自在にイカ状態になれるようになったのだ。

 

 

まるで、初めて自転車に乗ることができた時のようだった。

こうして自在にイカ化できるようになって初めて、最初の時にユイやクロに言われたイカ化のアドバイスがまんざら適当でもないことがよくわかった。

正直このイカ化とやらは自転車に乗ることほど気持ちよくはない。

むしろ気持ち悪い。ただ、こうしてバトルを続けて行けば、嫌でも慣れてしまうかもしらん。

 

さらにその後の時間、ずっと練習していたことがある。

ナワバリバトルのテクニック、「イカダッシュ」である。

なんでも、イカ状態になるとインクの中を泳ぐことができ、

走るよりも早く移動できるということ。

これまたツッコミどころのあるトンデモ情報だが、もうなんか一々狼狽しても仕方がないので、自分の理解の外の情報に関しては、全部「一万二千年の神秘」として片付けることにした。

 

 

ただ、インクの中を泳ぐことに関しては…ちょっと楽しかった。

イカ状態になってインクに潜った時…人間形態でいうと後ろ足に当たる部分?を平泳ぎのように動かすことで、普通に泳ぐよりも3倍くらいの推進力で泳げる。

水たまりにも満たない浅さでどうやって泳ぐのか…これも「一万二千年の神秘」である。

 

泳ぎまわるのは楽しかったが、少々泳ぎすぎて疲れた。

現役のイカ二人によれば、長い間外出ていない久しぶりの運動だから仕方ないとフォローをもらった。

確かにそれもあるだろうが、やっぱり元人間がイカの動きに慣れていないというのが一番大きいと思う。

 

 

 

そんなわけで、一時間とちょっとしか満たない時間だったが、

ソウのナワバリバトルへの、第一歩は無事踏み出したといえる。

 

 

 

 

「ふむふむ。いやーでも、ソウくんなかなか筋がいいと思うよ!」

 

「そ、そうですかね…?」

 

「確かに、初めてにしてはスムーズなイカダッシュだった。ただ、イカとしてはまだスタートラインより後ろに立っていることを忘れないようにな」

 

「き、肝に銘じておきます…」

 

 

クロからは忠告をもらったが、正直イカとしてスタートラインに立ちたいかと言われれば首を捻るしかない。

いやしかし、この取り組みは元々恩返しを含めた金を稼ぐ仕事のようなものだと考えれば、

これからも真面目に取り組むべきであろう。これを楽しく遊べる日は、来るのだろうか。

 

 

「それで…今日は、後どうするんですか?」

 

「そうだな……そろそろ昼飯の時間だ。どこか、食べに行くか?」

 

「あっ、じゃあユイこの間テレビでやってた

デコレーションラーメン屋の「クシクラ」行きたーい!」

 

「…そこ確か値段高いとこだよな。言っておくが、ソウの分は奢るつもりだがお前は範囲外だ」

 

「えー! そんなの聞いてないよー!」

 

「聞いてないも何も、まだ何も言ってない。そもそも別にお前、金に困ってないだろ」

 

「…いいもん! 自腹すればいいんでしょ! クロ君のケチー!」

 

「えっちょっとユイさん危な」

 

 

 

涙を輝かせながら、だっと走り去ろうとしたユイだが

数歩も走らないうちに前方に立ち止まっていた別のイカの背中に衝突した。

 

 

「ふぎゃ! いったーい、おしり打ったー!」

 

「…自業自得だバカ。今度からは前を向いて走れ」

 

「……えっと…その、だ、大丈夫ですか…?」

 

 

 

ソウは目の前で繰り広げられるギャグ的光景にオロロとしながらも

ユイとその犠牲となった他人のイカの両方を心配する声をかける。

 

 

 

ただ、そのユイがぶつかったイカは。

イカ一匹が追突してきたにも関わらず、声をあげることなく振り向き、

ソウの目の前まで来ると、ソウをじっと見つめている。

 

 

 

「……」

 

「………んん?」

 

 

 

ゲソの色は小豆色。青いクラゲがドットで描かれている黒い帽子と、さらに黒いジャケットの男イカだ。

もちろん、ソウには面識がない。そもそも面識があるイカはユイとクロだけなのだから。

それなのにも、関わらず。

 

 

 

「…君、ひょっとしてソウ君かの?」

 

「……え? なんで」

 

 

 

まさか、名前を言い当てられるとは思わなかった。

驚きとちょっとだけ恐怖が湧き上がってきたと同時に、その男イカの背後に影が二つ。

 

 

「ちょーっとそこのボーイ君? うちのソウ君が何か?」

 

「……」

 

 

え、何ちょっと怖い。

今までの明るさはどこやら、無表情になっているユイ。

クロの無表情は今まで通りだが、その目には警戒の色が見える。

もはやソウには、この見知らぬイカに名前を呼ばれた恐怖よりも、

そのイカの背後に立つ二人のイカに対する恐怖の方が大きくなってきた。

 

 

しかし、そんな黒い影を背後に抱えても、その見知らぬイカは動じない。

むしろニッと笑って二人に向き直る。

 

 

「君たちはソウ君の保護者じゃな? いやはや、怪しいものではないんじゃ。

わしは、この子をスカウトをしようかと思って、声をかけたのじゃよ」

 

 

ソウから見ても、クロと同じくらいの年齢に見えるそのイカはやけにジジくさい言葉で答えた。

しかし、その『スカウト』という言葉に、ユイの目はさらにギラついた。

 

 

「い・っ・て・お・き・ま・す・け・ど・ね。この子は、ユイのだいじーなチームの一員なの!

あなたがどこのチームか知らないけど! 絶対渡す気ないんだからね!」

 

 

べーっだ! と言ってソウ君を自分の手元に手繰り寄せるユイ。

ああそっか。俺を他チームに引き抜かれると思ったからあんなに警戒してたのかとぼんやり理解したソウ。

 

しかし、その見知らぬイカは軽く微笑みながら返事をする。

 

 

 

「お嬢さん。実はの、わしはチームのスカウトに来たわけではないのじゃよ」

 

「…え?」

 

 

 

間抜けな声を喉の奥から出すユイに対し、そのイカはゆっくりとポケットから何かを取り出した。

 

 

 

 

「わしが所属しているのは『カンブリアームズ』

…ナワバリバトルを支える仕事、体験してみるのは如何かな?」

 

 

 

 

掲げられたネームプレートには「ブキ開発アシスタント 『スイト』」の文字が

シンプルに書かれていた。

 

 

 

 

 

 




ユイ

性別:女
ゲソの色:緑色
誕生日:5月13日
持ち武器・名前の由来:デュアルスイーパー
ソウが好きな理由:ショタコンの魂が囁きかけてくるから
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。