イカの惑星   作:り け ん

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前半唐突な試合パート。
スプラ試合を書く練習したかった。図まで入れる気合いの入れっぷり。疲れた。




インクアーマーのモーションはイカそれぞれに固有のがあるって考えたら、ロマンあるよね


新武器 創造

「ラッキー! 初っ端クロ君と一緒だー!」

 

「……」

 

 

ユイが隣で全身を使い喜びを表現している中、クロはただ黙って

ステージと野良のチーム編成を確認する。

 

 

 

(ガンガゼ野外音楽堂。チームはユイと…

ホクサイにスプラチャージャー持ちか…なら、俺とユイは…)

 

 

他二人のメンバーが持つブキを確認した所で、

クロはユイに向けて一瞬ハンドサインを出した。手のひらを下にして、下げるサインだ。

 

ユイはそれを見て頷き、ぐっとサムズアップを返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

R E A D Y ?

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、よろしくー!」

 

「よろしく」

 

「よろしく、お願いします...」

 

「おう、よろしくな!」

 

 

 

 

 

 

 

G O !

 

 

 

 

 

野良(内二人はチームメイト)同士の挨拶が済み、ナワバリバトル開始の合図が告げられた。

正面の塗りを進めつつ中央へ向かうホクサイを持つガールと、

自陣中央手前の高台を目指すスプチャを持つボーイ。

 

 

そんな中、ユイはさっきとは一転、緊迫感のある表情で右サイドから塗りを始める。

それらの大まかな動きを確認したクロは、左サイドへ向かう。

 

 

 

 

 

最初にクロがユイに出したハンドサイン。

あれは、チーム「インカーネイション」の時に使っていたもので、

それが指し示す意味は至極単純、「塗れ」である。

 

ユイのブキ、「デュアルスイーパー」は『塗り』と『味方のキル補助』を得意とする。

直接的なキルに関しては他に存在する塗りブキよりも得意な方ではあるが、

何よりユイがキルを得意としない。

よってユイの仕事は現状では二択となるのだが、他の野良メンバーが近距離、遠距離とそれぞれキルを得意とするブキを持っていたため、塗り役を任せることにしたのだ。

 

 

ガチマッチならいざ知らず、今はナワバリバトルだ。塗りを疎かにすることは出来ない。

無論、それはクロも一緒である。

 

 

 

「…よし」

 

 

 

左サイドの前高台に到着したクロ。

右手にスプリンクラーを投げて塗りを補助しつつ、辺りを確認する。

 

 

先ほどのスプチャのボーイは、自陣中心の高台に陣取ったようだ。

ガンガゼにおけるチャージャーの定位置として知られているここは、

ステージ中央に幅を効かせられる代わりに、敵にも登られやすく油断はできない。

 

だが、そこはステージ中央へ向かいつつあるホクサイのガールとユイがカバーするだろう。

そして、クロの役目は。

 

 

 

「…来たか。シャープマーカー…だな」

 

 

敵のイカを確認したクロは、軽く息を止めた。

金網を歩いている敵の動きを観察すること、一秒にも満たなかったが。

 

 

 

 

一発。

 

 

 

…二発。

 

 

 

 

 

それで充分だった。左サイドの高台のクロに気づかなかった敵イカは、

哀れデスすることになった。

 

 

 

「……」

 

 

 

銃口を下ろし、軽く息を吐いて成功を実感するクロ。

もっとも、これも一秒にも満たないわけだが。

 

 

 

高台のチャージャーは、台の中央にある障害物のせいで、左サイドの視界が制限される。

そこで、左サイドの敵の存在を察知し、早めに対処できるイカが必要なのだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

まずは、一人。

 

 

これ以上左から攻め上がってくる敵はいないようだ。

クロの今いる位置は、左の敵を対処するには最適な位置だが、全体的に見ればカバーできる範囲が狭いため

ここで芋っているのは得策ではない。

 

初動の左を潰したので、前線を押し上げるためにクロは高台から

先ほどまで敵がいた左サイドの網場にイカジャンプで飛び乗り、中央へ向かう。

 

…しかしその前に、もう一人の敵イカを見定めた。手に持つのはプロモデラーMG。ユイのデュアルスイーパー以上に、キル性能を犠牲にして、塗りに特化したブキだ。

 

ユイとホクサイのガールが丁寧な自陣塗りを行なっているのをいいことに、中央の確保に移っているようだ。あの塗りスピードでは速攻で制圧を済ますだろう。

 

チャージャーのボーイが牽制の射撃を行うも、二発とも塗りつつ綺麗に躱したばかりか、サブウェポンの「キューバンボム」で高台のボーイを上手く退かしてしまった。

このままでは本陣まで侵入を許しかねない。

 

 

 

一応ユイやホクサイのガールも控えてはいるが、その前に。

 

 

 

クロは壁の向こうから対象を確認。狙いを定める。

 

 

 

 

一発。

 

 

 

……二発。

 

 

 

 

「…む」

 

 

今度は、シャープマーカーの敵の時のようにはいかなかったようだ。

 

 

極力死角となっている位置から飛び出したクロだが、あのプロモデラーのボーイは視界の端でクロを捉えたらしい。

 

それのみならず、上手く体を捻って倒しながらイカ化することで、一発目もカス当たりで済ませ、二発目は完全にかわしきってしまった。

いくら並の弾速と最低クラスの連射速度を持つ96ガロン相手と(いえど)も、あの距離と一瞬の時間でかわすとは大したものだ。と、心の中で感心するクロ。

 

 

置き土産とばかりにクロに向けてキューバンボムを投げつけつつ、後退するモデラーのボーイ。

流石に対面戦闘力の低いブキでこれ以上の深入りは避けるつもりらしい。

 

クロも積極的に追うつもりはない。

長射程のシューターは余程のことがない限り強く前線に出るべきではないからだ。

ましてやクロの96ガロンは緊急時即座に逃げられるようなブキではないのだから。

 

キューバンボムの爆発を冷静にかわしつつ、中央にスプリンクラーを設置。

中央の塗り返しにかかる。

 

と、そこで自陣塗りを終えたユイが中央に到着した。

 

 

 

「おっ、敵いないね! クロ君さっすがー!」

 

「油断するな。俺がキルしたやつはもうリスポーンしてるはずだ。警戒にあたってくれ」

 

「わかってるわかってるー」

 

 

 

お気楽な様子で、ユイはスプリンクラーの塗りを埋める形で塗りつつ、

サブのポイントセンサーを投げつつ敵の把握に努める。これもチーム時代からのユイの役目だ。

 

チャージャーのボーイも高台の定ポジションに復帰した。

とりあえず中央はあの二人に任せることにする。

 

 

 

 

クロが警戒すべきは裏どり。

中央以外にも自陣へ侵入可能なルートは両端にある。

ここから回り込まれて敵陣を攻めていた味方が全滅、というのは

このガンガゼ野外音楽堂ではよくあるパターンとなる。

だが、両端の位置が離れすぎて、クロ一人では完全なカバーは不可能である。

どちらの裏どりもケアできるような中央の後方で警戒に回るのが妥当だが…

 

 

 

「ぴぎゃっ!」

 

 

「…!」

 

 

 

今、右サイドから聞こえたガールの悲鳴。

ユイの声ではない。あのホクサイを持ったガールが、デスしたという証。

 

 

 

「遅かったか…!」

 

 

 

クロが視線を向けた右サイド。そこにいたのは、パブロを構えた敵のボーイ。

まさか、パブロでホクサイ相手に勝ったのか。いや、奇襲による不意打ちと見るべきか。

とにかく。あのままユイが後ろを取られれば確実にやられる。ここは自分が相手をしなくては。

 

 

 

「きゃー!」

 

 

「っ!」

 

 

 

右サイドへ向かおうとしたクロの足が、ユイの悲鳴を聞いて止まった。

そしてそこから一瞬遅れて中央の広場からこちらに向かって流れてきたのは、複数のカーリングボム。

 

 

 

「『カーリングボムピッチャー』…あのプロモデラーか」

 

 

 

全武器中、唯一プロモデラーMGのみが持つスペシャル。平面的な場所において圧倒的な塗り能力を発揮する。

あれではいくらユイのデュアルスイーパーといえども塗りで対抗はできない。

ピッチャーを使っている、がら空きの本人をうまくキルできればいいのだが、ユイではそれも望み薄だ。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

「もう無理無理無理! 突然カーリングピッチャーなんてひきょーだよー!」

 

 

「…っ! ユイっ! 後ろだっ!」

 

 

「…え」

 

 

塗りでインクを極限まで使い切り、必死にスライドで中央から降りてきたユイを迎えたのは不幸にも、敵のパブロの洗礼であった。

急な事態を察知したチャージャーのボーイが、そちらに射線を向けるも…

 

 

 

「うぎゃーっ!」

 

「うぐっ!」

 

 

 

聞こえたのは、ボーイとガール二人分の悲鳴。

結構ガールにしては中々濃い悲鳴をあげてユイはデスすることとなった。

ただし、チャージャーボーイのとっさの機転で、どうにかパブロの敵も倒すことができたようだ。

 

 

 

しかし、一息ついている暇はない。

中央のみならず、自陣近くまでカーリングボムによって侵食されてしまっている。

これ以上相手を進めないために、せめてあのプロモデラーだけは倒しておかなくては…

 

 

 

 

「んなっ!?」

 

「…!」

 

 

 

今度聞こえた悲鳴と破裂音は…後方。それも上部から。

危険を察したクロは体をひねり、高台を確認しつつ左サイドへの退避を行う。

 

 

 

その高台にいたのは、もはや味方のボーイではなく、スプラローラーを持った敵のボーイであった。

 

 

 

 

(…馬鹿な! いつの間に回り込んで……そうか、あのカーリングボムピッチャーの時に!)

 

 

 

 

スプラローラーのサブウェポンは、カーリングボム。

プロモデラーのカーリングボムピッチャーに紛れて自身のカーリングボムを使ってイカダッシュで移動。

クロ達がパブロやプロモデラーに気を取られている隙に素早く後ろに回ったに違いない。

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

(味方がここまで落ちた今…すべきことは『時間稼ぎ』だ。

だが、ここまで攻め込まれては後方へ下がってもすぐ追いつかれる。居場所もバレているためリスジャンも間に合わない)

 

 

(…ここは、多少の危険をおかしてでも、敵陣の方へ退避を狙ってみるか)

 

 

高台からローラーを振り下ろしつつ、こちらへ攻撃してくるローラーを避け、

左サイドから敵陣へ向かう。そう、自分たちでいうと裏ルートに当たる道だ。

 

あのローラーが追いかけてくるかは半々と言ったところだが…

イカジャンプで敵陣地へ着地したクロがちらりと確認したところ、ローラーがこちらまでくる様子は見えない。

どうやら、こちらの制圧の方を優先しているらしい。また距離を取られた以上、長射程シューター相手には返り討ちにされる可能性を見越してのことだろう。

 

 

敵陣地へ侵入できたとはいえ、一人で塗れる範囲などたかがしれてるし、侵入はモロバレである。

きっとすぐにも追っ手が来る。

 

 

 

 

 

 

 

クロの思考はそこで中断された。

その理由は、視界が一瞬で薄い紫色に染まったからだ。

そして、体がズシリと重くなるこの感触。

 

 

 

この瞬間クロは…大げさに言うならば、自分の運命を悟った。

そして同時に、クロの中で一つのカウントが刻まれた。

 

 

 

 

(……ユイ、復帰、完了)

 

 

 

 

クロは、目を閉じ、右手の拳を大きく掲げた。

その右拳から、紫インクの空気が後方へ伝播する。

 

 

 

 

 

 

しかしその直後、正確無比のエイムから放たれるシャープマーカーの連続射撃を身に浴び、

クロの体は一瞬で爆発融解した。

 

 

 

 

 

 

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10

 

9

 

8

 

7

 

6

 

5

 

4

 

3

 

2

 

1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Finish!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

52.8%-47.2%

 

 

 

 

 

You win!

 

 

 

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「いやー! 一時はどーなることかと思ったけど、

クロ君のインクアーマーのお陰だね!」

 

「…そうだな」

 

 

 

個室のロビーで、指でデュアルスイーパーをクルクル回しながら、ユイは上機嫌であった。

 

 

 

 

あの時、クロがキルされる直前、何とかスペシャルを発動させて全員に付与することに成功していた。

前線の味方が全員キルされた状況で、クロはもはやあのままずっと生き残ることを考えてはいなかった。ただ、自分に溜まっていたスペシャル『インクアーマー』をより多くのイカに付与させ、逆転の糸口とするため、ユイのリスポーンが終わるまでは最低限生き延びるつもりだった。

 

 

その目論見は上手くいったことは、何よりこの試合結果が示している。

キルが苦手なユイでも、せめてインクアーマーがあるときは積極的に前に出るように

チーム時代からクロは何度も厳命していた。

その甲斐あって、何とか逆転に持ち込むことができたのだ。

 

一度制圧した盤面でも、クロとチャージャーのボーイの狙撃が主に功を奏し、再逆転されることはなかった。

 

 

 

「やー、やっぱりクロ君いるだけでバトルが捗るねー!

もうユイ、クロ君無しじゃ生きていけない体になっちゃう!」

 

「変な表現するんじゃない」

 

 

 

ぽこりと頭を叩くが、ユイにはいまひとつのようだ。

実を言うと、ユイとクロがこうして共にバトルをするのは数週間ぶりであるため、

多少ユイがキャッキャするのも仕方のないところもある。

 

 

 

 

「じゃーあ! クロ君次いこ! 次も勝とうね!」

 

「…同じチームになるとは限らんのだがな」

 

「ダイジョーブだって! ユイとクロ君は運命の赤い糸で結ばれてるんだから!」

 

「だから、変な表現をするなと…」

 

 

 

 

その時、個室ロビーのドアの取っ手が、控えめにガチャリと音をたてた。

ユイとクロが視線を向けると、これまた控えめにそーっとドアが開く。

 

 

 

 

「…えーっと……ユイさん達ですよ…ね」

 

 

 

「ソ、ソウ君ー! ソウ君だぁー!」

 

「え、うわちょ」

 

 

 

ドアの向こうのイカの姿を見るや否や、

未だドアが半開きなのにも関わらず頭から突撃するユイ。

当然ながらソウの体よりも先にドアの取っ手がユイの頭に接触する。

 

 

 

「久しぶりだな、ソウ」

 

「あ…お久しぶりです、クロさん。数週間ぶり、ですかね」

 

「そうだな、あれからちょうど三週間だ」

 

 

 

痛がって蹲るユイの頭上で懐かしの挨拶を交わすイカ二人(うち一人は元人間だが)

しかしユイも早々と復活し、部屋に入ったソウに迫っていく。

 

 

「ソ、ソウ君仕事は!? っていうかここにいるってことはひょっとして…!」

 

「いや、スイトさんから『仕事は今のところ大丈夫そうだから、

そろそろ本当の試合も見てみたらどうか』と言われたので。

そしたら、ちょうどお二人が試合に…」

 

「え? え? 見ちゃったの!? ユイの試合! きゃー! 嬉し恥ずかしー!」

 

 

 

何だかよく分からない感情の発露を精一杯表現している感じのユイ。

しかしユイにとって大事なのは、そんな自分の感情より今目の前にいるソウのことである。

 

 

 

「ね、ね、ソウ君! お仕事ないなら久しぶりに二人っきりでお茶でも…!」

 

「…いいのか、ユイ?」

 

「ほえ?」

 

 

 

ソウの手を取りウキウキになりかけるユイだが、クロからの一声に振り向く。

 

 

 

「お前、テンタクルズのチケット分、今日稼ぐんじゃなかったか?」

 

「………」

 

 

ぴしり、という擬音語がつく勢いでユイが固まった。

相変わらずなリアクションだなあとソウがぼんやり思ってる間に、クロの言葉が重なっていく。

 

 

「俺を見るなり無理矢理引っ張ってきて言ったよな。何が何でも今日で稼がないとマズイって」

 

「………」

 

「俺はアイドルに詳しくないから知らなかったが…

何でも超人気チケットのため値も跳ね上がってるし、早急に買う必要があるらしいな」

 

「…………」

 

「普段稼いでた金はどうしたかと聞いたら、ここ最近のグルメ巡りで散財してほとんど吹っ飛んだんだとな。だから何としてでも、今日中にライブチケット分をバトルで稼ぐ必要があると熱弁してたばっかりだろう」

 

「……………………」

 

「で、この後ソウとお茶した後……チケット稼げる見込みはあるのか?」

 

 

 

 

「……うわーん! 私にソウ君とヒメちゃんを天秤にかけろなんて、神様は残酷すぎるよー!」

 

 

 

 

床にひれ伏してさめざめと泣くユイを見ていると、流石のソウも憐憫の情を覚えてしまう。

実際の内容はちょっとしょうもなさが拭えないが。

 

 

 

 

「ええっと…だ、大丈夫ですよユイさん。何も休みは今日だけじゃありませんから…

いつかユイさんとお茶する時間取りますから、安心してください」

 

「ぐすっ……本当? …約束してくれる?」

 

「はい、約束です」

 

 

 

 

涙を流すユイの肩を支え、強く抱き寄せるソウ。

側から見れば完全にラブロマンスの1シーンである。

ソウがかつて人間だった時にはこんなことは死んでもしないはずだが、

自分の体とは思えない異種生物の体で異種生物の体に対してすることに関してはハードルが下がるらしい。

もっとも、こういうことをあざとさ狙いでやっているというよりも、

ただユイを落ち着かせようとして半分無意識にやっている辺り、天然気味である。

 

 

そんな約束ができたところで、クロが疑問を口にする。

 

 

「ところで、ソウはこの後はどうする予定なんだ?」

 

「…いや……まだ特には…」

 

「そうか…時間が空いているなら、少しどこかで話をしないか?」

 

「え…いい、ですけど」

 

 

 

久しぶりにしても、いつも一歩引いた位置から見てる印象のあるクロにしては、

珍しく積極的な申し出だなあと内心で感想を抱きながらも、同意するソウ。

しかしそんな話を聞いてユイが黙ってはいなかった。

 

 

 

 

「あー! ずるいよクロ君! 抜け駆けしてソウ君とお茶するなんて! 大体一緒にバトル手伝ってくれる約束はー!?」

 

「約束した覚えはない。無理矢理ユイが連れてきただけだろう。

それよりいいのか? 早くバトルを重ねないとチケット分間に合わないぞ」

 

「むむむむむー! ソ、ソウ君! 次こそは! 次こそはユイとお茶だからねー!」

 

 

 

 

精一杯の主張を最後に、ユイはワープ台からナワバリバトルへ旅立っていった。

この後の試合においては、ユイは鬼神の如き活躍(普段比80%増し)を見せたという。

 

 

 

 

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「なんか…オシャレな喫茶店ですね…」

 

「…昔の同僚に教えてもらった店でな。…少し、気に入っている。

俺みたいなボーイにはちょっと似合わんのは自覚してるがな」

 

「そ、それは考えすぎでは…」

 

 

 

てっきりソウの思い込みでクロはコーヒー系を飲むのかなと思っていたが、

意外にもクロは美味しそうにホットオレンジを嗜んでいる。

ソウもココアを一口飲み、気になった情報から会話を始めていく。

 

 

「同僚ってことは、仕事仲間ですか?」

 

「そうだな...今は野良のプレイヤーをやっている。贔屓目なしに見ても、あのリッター4Kを扱う腕前は一級と言える」

 

「…リッター4K……ですか」

 

 

 

その言葉を聞いたソウの視線が少し宙を泳いだのをクロは見逃さなかった。

だが、クロはその様子に直接触れることはせず、さり気なく話題を気になる方へ持っていく。

 

 

「どうだ、仕事の方は? ちゃんとやれてるのか?」

 

「…はい、スイトさんの教え方が丁寧なので…俺でもちゃんと働けている、と思います」

 

 

ソウの表情はクロからの声を受けて、普通の表情に戻った。

いや、クロが数週間ぶりにみるソウの表情は、以前よりもオドオドした様子は消え、

少し自然体に近づいているように見えた。

 

「うむ…となると、ブキの修理もできるようになったのか?」

 

「はい、一通りは…あとはインクタンクとかサブやスペシャルの出現機構部分とかも…もちろん、部品交換だけですけど」

 

「…ほう」

 

 

「一通り」「サブ」「スペシャル」という言葉がソウの口から出たところで、

クロはソウの知識のほどが少々気になってきたようだ。

 

 

「96ガロンデコのサブスペ構成は、なんだ?」

 

「え? え、えっと…『スプラッシュシールド』と『スーパーチャクチ』です」

 

 

脈絡もない突然の質問にも結構しっかり答えるあたり、素直だなとクロは感じた。

そして、質問はどんどん重なっていく。

 

「射撃を連打したボトルカイザーと96ガロンはどちらの方が有効射程は長い?」

 

「それは…ボトルカイザーの方だと」

 

「では、バケットスロッシャーとヴァリアブルローラーの縦振りではどちらの方が塗り射程が長い?」

 

「…ヴァリアブルローラー、です」

 

「キューバンボムとジャンプビーコン、インク消費が多いのはどっちだ?」

 

「…確かビーコンの方がちょっと多かったような…」

 

「…なら、インクアーマーを発動させるための必要SPが一番多いブキは何だ?」

 

「えっと…あれだ、あのZAP…黒い方」

 

 

ほう、とクロは感心した声を漏らした。

 

 

「まさか、サブやスペシャルのことまで正確に把握しているとはな。

俺の想像以上に、よく勉強しているようだな」

 

「いやあ…何回も試し打ちとか色々やってると、自然に覚えちゃうんですよね」

 

 

 

ソウは答えるが、それにしてもバトルについて素人だった状態から、たったの三週間でここまでブキの特徴を把握しきっているのは『自然に覚えた』程度ではないことは明らかである。

かつてソウがイカ語を覚えるために三ヶ月も篭り切って勉強したことを考えれば、

この三週間にもソウの努力の跡も窺えるだろう。

 

 

 

「バトルの指南も教わるという話だったはずだが…そちらはどんな感じだ?」

 

「えっとですね。今はスーパージャンプの練習…のはずだったんですが、

そもそもイカの信号とやらの察知が…」

 

「……できないのか」

 

 

 

小さくこくりと頷くソウ。だが、どうも納得がいかないのか表情が暗めになっている。

 

 

 

「なんですかイカって…信号を発するなんて、どんな生き物ですか…」

 

「そういう生き物なんだろう」

 

「というか、イカの信号が分かるってことは、

後ろからこっそり忍び寄るイカとかも丸わかりなんですか?」

 

「そうだな。まあ、その筋の達人とかでもない限り、誰の信号かまでは分からんがな」

 

「達人がとかいるんですか……イカって謎すぎる…」

 

 

生命の神秘の前にむむむと唸ってしまうソウの姿に、内心クロは少し微笑ましく感じていた。

表情には噯にも出さないが。

 

 

そして、自らの知りたいことへの質問を投げつける。

 

 

「なら…最近、困っていることはないか?」

 

「困っていること……ですか」

 

 

その言葉を受けて、明らかにソウの様子が変わる。

視線が泳ぎ、眉根が寄る。

言うべきか否か、迷っているように見える。

 

クロは、押しの一言をソウにかける。

 

 

「…力になれるかも知れない、迷っているなら、話して欲しい」

 

「えー、いやあ、その、困ってる、と言うほどじゃないんですけど…….」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『不満が、あるのじゃな?』

 

『…え?』

 

『遠慮することはないぞ。その不満、絵でも言葉でも、自分の形で、表現してみてはどうじゃ?』

 

 

 

 

 

 

 

「満面の笑みで、スイトにそう言われたと?」

 

「……はい」

 

 

すごくバツの悪そうな顔をして頷くソウ。

クロはふむ、と顎に手をあてる。

 

 

「で、不満があるのか?」

 

「いやいやいやいや! とんでもないです!

こんなにたくさん色んなこと教えていただいてるのに、仕事に不満なんて…!」

 

「ん……まあ、そうだろうな。仕事に、不満はないだろうな」

 

 

 

 

 

「ソウ、お前が持っている不満は『ブキ』に、だろ?」

 

「…え」

 

 

目を見開くソウ。どうして、という言葉が小さく口から漏れる。

クロは気にせず、言葉を綴る。

 

 

「まあ、『不満』という言葉は少々大げさすぎるにしても

『こんなブキがあればいいのに』という…欲望、みたいなものだろう」

 

 

「…なぜ、分かったのですか?」

 

「勘だ」

 

「…勘ですかっ!」

 

 

 

いつも思慮深そうなクロの口からでた予想外の言葉に、思わず突っ込んでしまったソウ。

クロはふっと笑って、言葉を重ねる。

 

 

「だが、全くの勘ではない。スイトがお前をスカウトした意味…

それはお前のブキへの発想を期待して、だと俺は考えていた」

 

「そう、なんですか」

 

 

正直、ソウにはそんな風に考えられる心当たりがなく、首を傾げてしまう。

 

 

「…あの日、俺がスイトについて言ったこと、覚えてるか?」

 

「えっと……それは確か…スイトさんが『雑誌で取り上げられてる』って」

 

「さすが、よく覚えてるな」

 

 

 

心の底から感心したような声を出すクロ。

 

 

 

「そして、その雑誌に載っていたのは、スイトの若作りだけではなかった。

そこで載っていたスイトの紹介は、『ブキ発案者』としてだった」

 

「ス、スイトさんって、ブキの発案してたんですか…」

 

 

 

その情報は、ソウはスイト本人からも聞いたことはなかった。

確かにブキに関しては博識な印象だったが、それはイカとしての平均的知識ではなく、

ブキ開発者としての知識だったのかもしれない。

 

 

 

「彼が開発していたブキは『スパイガジェット』…まあ、ソウには説明は不要だろうな」

 

「あのオート射撃ができる黒いシェルターですよね…そうか、あれ、スイトさんが…」

 

「そのスイトが、『前世の記憶』というどのイカにも持っていない経験、

それを持つ『そんな君だからこそ』スイトはお前を選んだ。その経験から、新しいブキへの発想を導けると感じたからだろうな」

 

「……」

 

「そしてそれは、あのブキチも同じらしい」

 

「…え。それは、どういう……」

 

 

 

予想外の名前が出たことで、ソウの目がますます丸くなる。

 

 

 

「ブキチが初めて会ったお前に言った言葉は、単なるお世辞として言ったわけではない」

 

 

 

 

 

『君の眼には他のイカとは違う輝きが宿ってるでし!』

 

 

 

 

 

「ナワバリバトル関係の店の店員は、イカを見る目があってな」

 

「バトルを経験していない半人前のイカに関しては、基本的に対応が冷たい」

 

「それはブキチも例外ではない。そんなブキチがお前に掛けた言葉は、一体何を期待しているのか」

 

「そしてお前が、何を、どんなブキを、望んでいるのか」

 

 

 

 

 

 

 

「…見せてやっては、どうだ?」

 

 

 

 

 

 

 

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「ほう、なるほど……これが、ソウ君の考えたブキ…」

 

「……はい」

 

 

 

自分の創作物を目の前の一人に見せるのは、思ったよりドキドキして、恥ずかしい。

 

 

 

「いい意味でいえば、味のある絵。悪い意味でいえば、下手じゃな」

 

「…それは言わないで欲しかったです……」

 

「ほっほっほ、申し訳ないのう」

 

 

オブラートに包むことはなく、案外バッサリいかれてしまって、ソウは危うく涙が出そうになってしまう。

 

 

「だが……ソウ君の気持ち、やりたいこと…それはよく、伝わってくるのう」

 

 

そんなスイトの言葉に、ソウは顔を上げる。

 

 

「このコンセプトは…恐らく、『チャージャー』かの?」

 

「…はい」

 

 

 

ソウは、恥ずかしさを滲ませながらも、自分のブキを自分の言葉で説明する。

 

 

 

「自分でも体験しましたが…チャージャーって、当てるの難しいですよね」

 

「スイトさん曰く、普通のイカでもチャージャーは上級者向けで、慣れるのも大変だと」

 

「でも…当たって敵を倒すのは、すごく…楽しいというか、爽快感がありますよね。それがチャージャーの人気の秘密でもある」

 

「だから…自分なりに、初心者でも当てられる…こういうチャージャーができないかと……考えてたんです」

 

 

 

 

「なるほどなるほど…となると…このブキが目指すのはさしずめ『近距離型チャージャー』と言った感じかの。あの『武器』をモチーフにしている点も…殺しに特化しているという点では、チャージャーをリスペクトしていると言えるかもしれんのう」

 

「や、これを選んだのは完全に俺の趣味です…」

 

 

男のロマンを体現したブキの真意を明かしたソウは、やはり恥ずかしそうだ。

 

 

「ただ、ここまで無駄のないフォルムだと、チャージャーのインク圧縮機構の搭載スペースをどこにするかという問題があるのう…」

 

 

 

「店長は、どう考えますかな…?」

 

 

 

そこでソウとスイトは、非常に真剣な顔でソウの書いた図を見ているブキチに視線を向けた。

スイトの問いかけからきっかり三分間後に、ブキチは顔を上げた。

 

 

 

「…とても、面白いでし!」

 

 

にっこり笑ったその顔に、ソウの緊張が一気にほぐれる。

 

 

 

「インクの機構に関しては、少々異例気味になるけど、開発のあてはあるでし!」

 

「開発許可をもらうためには、色んな課からのOKが降りる必要があるでし。……ただ、僕からも強く口添えさせてもらうでし!」

 

 

 

 

 

 

「若きイカの発想から生まれたブキ。僕としてもぜひ形にしたいでし!」

 

「無論、新ブキの開発にはたくさんの調整が必要でし!許可が取れた暁には、君にも死ぬほど付き合ってもらうでしよ!」

 

 

 

 

 

「…はいっ! 任せてください!」




スイト

性別:男
ゲソの色:小豆色
誕生日:8月13日
持ち武器・名前の由来:スパイガジェット
スパイガジェット開発経緯:老人でも持てるくらい軽く、敵の攻撃をできるだけ受けずに塗れるブキが欲しいと思った。
自分の愛用しているスパイガジェット:妻が作ったシールが取っ手に貼られている。

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