オリジナル回です。ブリッジ的な?
取り急ぎ書いてすぐの投稿なので、ちょっとぐだってるかも。読みづらかったらごめんなさい。
誤字脱字等の修正は随時いれる、つもりです。
〈1〉
「…あっちぃ」
夏休み。
俺はスカラシップのため、夏休み初日からの前期夏期講習に参加している。内容はそれほどキツくはないが、エアコンをかけていても汗ばむ程の窓からの直射日光がキツイ。じゃあ窓から離れて座れというだろうが、日陰になる部分は既に遊び半分のリア充どもの居場所となっている。結果窓側に座ることになるのは、真面目に授業を受けに来ている俺達ぼっち組だけだ。達、といったが正確には俺の他には1人しかいない。そいつは現在、俺から3つ程前の席にいて、時折手で首元を扇いでいる。
川崎沙希である。
夏休み前、川崎の抱える問題を解決した結果、あいつは奉仕部に入ることになった。固有スキル「お姉ちゃん気質」をもって俺と由比ヶ浜、更には俺と雪ノ下の間にあった問題をさらっと解決に導いた川崎は、今度は自身の持つ「スカラシップを分捕る問題」を解決するべく、夏休み早々に夏期講習に来ているという訳だ。ちなみにけーちゃんと次男坊は保育園に行っているらしい。なんか雪ノ下達とそんな話をしてた気がする。
川崎は、常に他人との距離を一定に保つ。あの見た目だ、この講習でも初日は注目の的だった。だがあいつはそっちには目もくれず、かといって知り合いである俺とも軽い挨拶程度で、ひたすら授業に集中している。家では小さい妹弟の面倒を見て、講習ではきっちり授業を受けて、あげくに家事までこなす。そのスペックの高さは雪ノ下とはまた違う方向で完璧に近い。他人に対する当たりが強めなのが玉に瑕という所だろうが、元々独りを好む性格らしく、本人がそれを苦にする様子は全く無い。
「…ねえ」
そんな完璧お姉ちゃん超人サッキーが俺に話しかけてきたのは、午前の授業が終わった直後だった」
「サッキー言うなっての。あのさ、ちょっとさっきの授業で聞きたいことがあるんだけど」
「…飯買ってからでいいか。急がねえとあの購買、すぐ売り物がなくなっちまうんだ」
「あ、えっと…」
川崎は俺から目線を外し、少しもじもじしながら鞄から包みを出した。普段が普段だけにやたら可愛いんだけど。
「お礼っちゃなんだけど、多めにお弁当作ってきたからさ、それつまみながらでいい?」
「いや、それお前の分だろ?…まぁなんとなく入れ物がでかい気がするが」
「…いや、実はこれ、大志のなんだ。あいつも今塾の講習行ってるんだけど、あいつうっかりあたしのお弁当持って行っちゃったみたいでさ。流石にこの量はあたしだけじゃ食べられないから、どうせならあんたにも分けようかなって。あんた普段、購買のパンしか食べてないみたいだし」
「俺の食生活を何故知っている」
「そりゃ知ってるでしょうよ、いつもここでもそもそ食べてんだから」
そう、この予備校にはベストプレイスに出来るような場所がない。幸いリア充どもは外食なり、広い講義室の日陰で集まって食ってるので、自分の席にさえいればおのずと素敵ぼっちスペースが完成するのだ。
で、俺も川崎も、自分の席でぼっちメシを食ってるのであった。
「断る。周り見てみろ」
「ん?…あぁ、こっち見てるね」
「だから断る。わざわざ自分の評判落とす必要ないだろ。それに質問だったら講師に聞いてこいよ」
「ん、わかった」
よし、じゃあいよいよ購買に…っておい。
「なんでここで弁当広げてんだ。わかったんじゃねえのかよ」
「わかったよ。わかっただけだけど」
「は?」
「まぁいいから座りなよ。…あんたさ、周りを見てるようで全然見てないよね」
「そんなわけあるか。俺程周りを見てる奴なんかいねえよ」
「じゃあさ、ここであんた、何て言われてるか知ってる?」
「そんなん決まってんだろ。キモくて目の腐った、何考えてんだか分かんない奴とか」
「はずれ」
言いながら川崎は弁当箱のフタに中身を取り分けている。仕事はええなおい。
「あんた、割と評判いいんだよ。なんだっけ、『背筋伸ばせば悪くない』とか『授業真面目に受けてるから邪魔しないようにしよう』とか、あとは…」
「わかった。わかったけど、この目は隠しようがないだろうが」
「いや、見えてないんじゃないかな。逆光だし」
あ、なるほど。
「そうだ、あんたここではあたしの親戚ってことになってるから」
「…はぁ?」
「初日になんか張り付いてきためんどくさいのがいてね。悪いとは思ったけど名前借りちゃった。だから一緒にここでご飯食べてても別になんとも思われないよ」
そう言いながら川崎は、部活でたまにする綺麗な微笑みを見せた。
「さて、時間もあれだし食べちゃいな」
「…そういうことなら、じゃあいただくわ」
なんだこいつ。
何を企んでる?
〈2〉
川崎が企んでいるかどうかはともかく。
弁当はすげぇ美味かった。購買でご飯パックを買って、取り分けて貰ったおかずをつまんだ。
「…流石の家事スキル…」
「ん、割と上手く出来たね」
「いや、マジで美味いわ。わりいな」
「まぁ今日はね。もったいないから、食べてくれてこっちも助かったよ」
川崎の質問は古文で、まぁちょっとめんどくさい訳の部分だった。あれな、ちゃんと読み込まないと全然違う意味になっちゃう系。おれも少し前にハマったところだったから、なんとか上手く答えることが出来た。
「さて、ごちそうさん。今度なんかおごるわ。マッ缶とか」
「おそまつさん。マッ缶てあれかぁ…普通の缶コーヒーサイズなら悪くはないんだけどね」
「いやぁ、あれじゃ足りねえだろ。むしろ2リットルのペットとかあったら持ち歩くまである」
「それで血がドロドロになったら抉って抜いてあげるよ、部活のよしみで」
「やめろやめろ、獰猛に笑うな。…ん、わりぃ、メールだ」
「え、あんたに!?」
「驚きすぎだろ、小町だよ…え、なにこれ」
「どうしたのさ…あたしもメールだ、大志か…」
小町と大志はどうやら同じ塾で夏期講習を受けているらしい。あの小町も流石に焦ってきたらしく、夏期講習を受けてそのまま塾に通うことにした、と言っていた。それがあの小僧と同じ塾とは思わなかったが。大丈夫かな、お兄ちゃん信じてるからね。…とか言ってる場合じゃない。メールだ。そこには小町からこう書かれていた。
〈お兄ちゃん、小町は今日、大志くんと、大志くんのお家で、ご飯を食べます。うちには、何もないから、お兄ちゃんも、沙希さんと、一緒に来てね。小町がカレー作るよー!〉
「…何がどうなってこの状況だ…」
「あんたも内容同じみたいだね。妹さんがうちでカレー作るって?」
「おう。なんかお前と一緒に来いとか書いてあるんだけどどういうことだ大志の野郎」
「落ち着きなシスコン。大志の方はほら」
〈弁当間違えて持ってきたって比企谷さんと話してたら京華に会いたいって言われて夕方になるからお礼にごはん作るって言われた〉
「…大志これ、国語大丈夫か…?」
「いや、あんたの妹も割と心配なんだけど」
「句読点多いんだよなぁ…。まぁ小町は言い出したら聞かねえし、悪いけど小町をよろしく頼むわ」
「あんたも来いって言ってるけど?」
「行けるかよ。帰りに適当にサイゼでも行くわ」
「うちは別に構わないけど。どうせ妹迎えに来るんでしょ?」
「…お前、動じないな…」
「そういえばそうだね。多分あんたが動じまくってるからじゃないかな」
言いながら川崎はくつくつと笑う。くそう。
「けーちゃ…京華もあんたに会いたがってたし、まぁいいんじゃない?」
「……」
「奉仕部の連中だったら誰が来てもあたしは別に気にしないよ。スカラシップの礼くらいに思っときな」
言いながら川崎はひらひらと手を振り、自分の席に戻っていった。
なんだこれ。
これじゃあまるで、友達みたいじゃねえか。
〈3〉
「…うん、じゃあ帰るから。ん、ちゃんと耳摘んで連れていくよ。じゃあよろしくね」
予備校が終わり、俺は川崎に耳を摘まれていた。何故かは聞いてはいけない。しれっと逃げようとしたら先回りされて耳を摘まれた話なんてしたくない。
「諦めなって」
「いや、しかしな…」
「…あんたの可愛い妹が?あたしの可愛い弟と一緒にいるんだけど?」
「ほら何してるんだ皮先早く行くぞ」
「…あんた今、字の方間違えたね…」
「いてぇぇえええっ!捻り上げんな、お前はジャイアンのかーちゃんかよっ!」
「抉られてハラワタで縄跳びされないだけましだと思いな」
「お前のその時折出るバイオレンスなボキャブラリーはどうなってんだよ…」
ぶちぶち言った所で逃げられるわけでもなく。俺と川崎は自転車を取りに行った。
「道案内するから前走るけど、あんたどっかに逃げんじゃないよ?」
「今更逃げねえよ」
正直言えば、楽しみじゃないと言えば嘘になる。ついこの間まで赤の他人で、ちょっとしたことから挨拶くらいはするようになり、同じ部活になり。今はこうして相手、しかも女子の家に向かっている。
高校に上がる時、こういうことを期待しなかったわけではない。だが1年間、名前もまともに読まれない生活が続き、会話する機会など遅刻で呼び出しくらったときくらいだった。やがて、どうせ卒業するまでこのままだろう、大学では友達出来るかな、1人でいいから。くらいのつもりでいたわけで、この状況に浮かれるなと言われてもどうしようもない。しかも相当な美少女だ。ちょっとキツいし怖いし逆らえない空気を漂わせているが、その実、家族想いでガチなブラコン、スタイルも良けりゃ頭も切れる、非の打ち所のない美少女だ」
「…っ!だからっ!あんたほんと、バカなんじゃないのっ!?」
「なんだ急に。言われる程バカじゃねえぞ、数学以外は」
「ガチなブラコンとはどういうことさ!?おいガチなシスコン!」
「へ?別にそんなこと口に出しては…あ、もしかして」
「がっつり聞こえてるよっ!…たく、ほんと勘弁してよね…」
なんか、あれだね。俺の口はどうしてこう漏れるんだろうね。っていうかなんで今まで気づかなかったのかな。言われたことないんだよね。言ってくれる人もね。それだ。
それからは無言で自転車を走らせる。予備校からの距離は大体自転車で15分ほどだそうだ。ずっと着いてきてるのかそこら中にいるのか、アブラゼミがミンミンと多重音声で鳴いている。いつもならただ煩いとしか思わないそれが、なぜか少しだけ心地よかった。
10分ほど走った所で川崎が振り返った。
「ねえ、ちょっとそこのスーパー寄りたいんだけどいい?」
「おう、構わねえぞ。買い物か?」
「ん、止まってから大志に連絡しようかと思ってね。足りないのがあったらって」
「…お前ほんといい姉ちゃんなんだなぁ…」
「〜〜っ!…またあんたは…無意識なのが腹立つね…」
「何がだよ…着いたぞ」
自転車を駐輪場に置き、川崎はスマホを手にした。中途半端な時間なのか、駐輪場には俺達の他に自転車が3台程しか置かれていなかった。と、呼び出し音が鳴った。
「あれ、大志からだ」
「タイミングいいな」
「ん、ちょっとごめん…もしもし?なんか足りないもの…大志?」
川崎が訝しげに言う。数秒の間無言でいたが、やがて俺の方を向き、スマホを差し出してきた。
「どうした」
「ちょっとこれ聞いて」
「あ?なんなんだよ一体」
「いいから。…ちょっとスピーカーにする」
『…からやめてってば!はなしてよ!』
『謝っただろ!いいから離せよ!』
『あぁ!?ふざけんなよガキこら、人の車にチャリぶつけといてごめんなさいで済むか馬鹿野郎が!』
『そっちが急に出てきたんじゃん!』
『おーもうめんどくせえから女積んでいくべぇよ。目があるしよ』
『おら、来いよ早く!』
『やめろ…ガァッ!』
「大志!」
「小町…か?」
不意に違和感に気づいた。
スマホ以外からも聞こえてきている…?
「川崎」
「うるさい!大志が「落ち着け!」…」
「耳すませ。…気のせいじゃねえよな」
「…ここにいる…?」
「向こうの駐輪場か。行くぞ」
「!」
スーパーには駐輪場が2ヶ所。俺達のいるのとは逆側は、駐輪場と駐車場の出口が隣り合わせになっている。ここからは微妙に見えないが、小町のよく通る声は聞き間違えることはない。
果たして、小町と大志がいた。駐車場出口あたりに派手なワゴン車が停まっており、その前の方に見えた。
「小町!!」
「大志!!」
〈4〉
そこからのことは憶えていない。気がついたら俺は、嗅いだことのない良い匂いのする和室で身体を横たわらせていた。遠くで蝉がうるさく鳴いている。
「…あれ」
「気づいたかい?…小町、比企谷が起きたよ」
「お兄ちゃん!?」
ドタドタと足音を立てて小町が入ってきた。よそんちに来たらお行儀良くしなさい。…よそんち?
「…どこだここ」
「あたしんちだよ。あの後大変だったんだから」
頭の上から川崎の声がする。ていうか目開けてるはずなんだが暗くて何も見えない。…ん?んん!?
「きゃっ…急に頭起こすんじゃないよ。また目ぇ回しても知らないからね」
「いや、ちょ、おま、これっ」
枕かと思っていたそれは、川崎の太ももだった。…なんかこうむちっと、ぷりっと、安眠枕とか目がねえくらいに気持ち良かった」
「…そ、そうかい、それはよござんした…」
「おうどうした川崎、顔が真っ赤…ていうか!」
「おにいちゃん!どこか身体痛くない!?怪我してない!?」
「お、おう、そういやあちこち痛えな…怪我は擦り傷くらいか?…ていうかおれなんでこんなんなってんの?」
「お兄さん起きたんすね!…良かったぁ…ほんとありがとうございます!お兄さん達いなかったらどうなってたか…」
「お兄さんって言うなつってんだろ…お前らは大丈夫だったのか?」
「うん!おにいちゃんとおねえちゃんのおかげだよ!ありがとう…こわかったよぉ…」
目の前で可愛い妹が泣いてる。その光景を目にした時、思い出した。
「…川崎、あのチンピラはどうなった」
「あんたにビビってとっとと車乗って逃げてったよ。…ありがとね、大志も助けてもらっちゃって」
「いや、おれイマイチちゃんと思い出せてねえんだけど。…説明してくれねえか?」
3人の話を統合すると、つまりこういうことだった。
俺達が小町達の所に着いた時、大志は尻餅をつき、小町はまさに後ろのドアから引っ張り込まれる所だった。全力でそこまで走った俺はそのまま車に突っ込み、チンピラが驚いてる隙に小町を引っ張り出した。川崎は大志を起こし、大志はそのままスマホで現場を撮影したらしい。
「んだこらてめぇ!邪魔してんじゃね「っせぇんだこのチンピラがぁ!てめぇら俺の妹になにしてやがんだごらぁぁっ!!」」
あれ誰だこの声。俺の声はここまで低くない。こんな怒鳴ったりしない。こんなに怖くない。…あれ、これ俺?
「おらあああああっ!!」
俺の声をした、俺の姿の誰かが、近くにあった大志の自転車を片手で持ち上げていた。いやあれママチャリよ?20キロくらいあるじゃん。あんなこと出来るの、やっぱ俺じゃないと思うんだけど。
持ち上げた自転車をボンネットに叩き下ろす。ひしゃげた自転車はボンネットでバウンドした後、向こう側に消えていった。
「な、なんだてめぇ、やんのかごらぁ!」
「…うるせえ」
「ああ!?」
俺のような誰かが、チンピラに蹴りを入れていた。
「いい蹴り持ってるじゃない」
そういうことじゃないんですよ川崎さん。
「撮ったのはここまでっす。ちなみにこの後、お兄さんはチンピラを無表情でボコボコにしてました。車が逃げたあと急にぶっ倒れちゃったんで、運んできたんです。喧嘩強かったんすねぇ」
「…あれは俺じゃない」
「え?」
「あれは俺に似た誰かだ。俺は今まで喧嘩したことなんかないし、人を蹴ったこともねえ。チャリ片手で持ち上げてぶん投げるとか、俺に出来るわけねえだろ。…ていうか済まなかったな、あれじゃチャリぶっ壊れたろ」
「謝らないで下さいっす。…情けないけど俺、あんときほんと怖くて。…買い物しに来て姉ちゃんに電話すんの思い出して、自転車とめて電話したんす。で、その時比企谷さんのいたところにスーパーから出る車がきて…」
「小町の自転車の後ろタイヤに何かがとんって当たった気がして、見たら車のバンパーが当たってたの。通路ふさいじゃってたの気づかなくて、慌ててごめんなさいって言ったんだけど」
「それに気づいた大志が、あたしに電話かけっぱなしでフォローしようとして、それからはあたし達も聞いた通りだったみたい」
「ほんと、すいませんっした!ちゃんと守ってあげられなく「んなことねえよ」…お兄さん」
「お前はちゃんと小町を守ってくれたろ。…その、ありがとうな。お前がいなかったら間に合わなかったかもしれん」
「お兄さん…」
「だからお兄さんはやめろっつの」
言いながら俺は、無意識に大志の頭を撫でていた。
「おにいちゃん、ありがと。…ごめんね?」
「ん、気にすんな。…まぁ最初はお前がうっかりしてたんだろうが、ちゃんと謝ったんだ。車に傷でもつけてりゃまためんどくさいことになったんだろうが、俺っぽい誰かがチャリぶん投げてたからな、向こうも結局逃げたんだしほっときゃいいんだよ」
「まぁ、褒められたことじゃないけどね」
川崎が苦笑しながら言った。
「…そういや、確かもう1人いたろ、チンピラ。運転席にいたやつ。あいつどうなったんだ?」
「…」
川崎さん?
「車降りて来て俺の胸ぐら掴んだ途端、姉ちゃんにボコられてました…」
川崎さん…
「だって!とっさに!」
「わかってんよ。…川崎も済まなかったな、尻拭いみたいなことさせちまって。…ここまで連れてきてくれたんだろ?」
「…ま、まぁそのまま起きるまで待つのも暑いしさ、その…」
「おねえちゃんがおんぶして連れてきてくれたんだよ!良かったね!普通は逆だけど!」
「うるせぇよっ!ていうか、ああああっ!!また黒歴史がああっ!!」
ブチ切れて暴れて気ぃ失うとか恥ずかしすぎんだろ俺。
「…あ、けーちゃん達迎えに行かなきゃ。比企谷、悪いけど一緒に来てくれない?」
そういって川崎はちょっと目配せをした。…ちくしょう、格好いいなおい。
「おう、とりあえず動けるし、行ってくるわ」
「じゃあ小町達はカレー作って待ってるね!けーちゃんと会えるの楽しみー!」
「じゃあすいませんお兄さん、京華たちお願いします」
〈5〉
「わりぃな川崎」
「ん、何が?」
「気ぃ使ってくれたんだろ、俺がのたうち回りそうになってたから」
「…あたしもあんたもさ、弟や妹に無様晒したくはないでしょ?」
「…ほんと、かなわねえわ」
けーちゃん達を迎えに歩いて行く道すがら、俺は川崎とぽつぽつと話しながら歩いていた。西日がやたらと眩しい。早く沈んでくれよ、冬並みに。
「…あのさ」
「…どうしたよ」
「…あ、あんたに、ちょっと依頼したいことがあ、あるんだけど…」
「依頼?奉仕部としてか?」
「い、いや、あんた個人に、なんだけど」
「…奇遇だな」
「え?」
川崎家で目を覚ましてから、ずっと考えていた。
川崎沙希は、いいやつだ。
家族を大事にするだけじゃなく、俺みたいなやつにも気を使う。時にはさっきのように、弟を助けることも出来る。俺なんてほっとけばいいものを、わざわざ自宅まで運んで、あまつさえひ、膝枕、とか…。
多分俺は、川崎に嫌われてはいないのだろう。少なくとも同じ長子として、ある程度のシンパシーを感じてくれているとは思う。何故かと言えば、俺と川崎は、似た部分があるからだ。もちろん俺は川崎のように堂々とした人間じゃない。独りを好むのは一緒だが、こいつは「それが悪いか」といわんばかりに、当然のように独りでいることを良しとする。…でも、俺は。
「…川崎。俺もひとつ、依頼したいことがある」
「…な、なに?」
「…俺と、友達になってくれないか」
けーちゃん達を連れて帰り、カレーをごちそうになった帰り道。小町の自転車は大志の自転車が直るまで貸し出すことになり、小町は俺の自転車の荷台に乗っている。
「なあ小町」
「ん、なーにー?」
「俺な、女友達が出来たわ」
「…うん、知ってる」
「あだ名が増えちまった」
「…ハチ」
「あー、ようやく大志からお兄さんとか言われないですむわー」
「ハチさんって呼んでたもんね。でも、大志くんが『小町ちゃん』て呼ぶのも認めるとは思わなかったなー」
「…あいつ、逃げなかったからな」
「うん。正直小町も見直したよ」
「でもな!オトモダチとしてだからな!名前で分けないと混乱するからってだけだからな!」
「わかってるよー。大志くんは霊長類オトモダチ目だもん。…今はね」
「ん、なんてー?」
「なんでもないよー。でもおにいちゃんは大丈夫?」
「なにが?」
「今度から沙希おねえちゃんのこと名前で呼ぶことになったじゃん」
「…ぐ…」
俺と川崎、沙希の依頼は全く同じものだった。「ひ、独り同士だし、そういうのもいいかと思って」だそうだが、あの時の沙希の、真っ赤になった顔が目の裏から離れない。
予備校で俺を親戚だと発言したのは、いわゆる男避けのためだったと謝罪された。同じ部活ということで気安いから、というのと、あの時点で俺と友達になりたい、という気持ちがあったらしい。先に言わなくてごめん、と繰り返し謝られたが、今となっては一向に構わない。俺と沙希が友達、というよりむしろ説得力がある。まぁそれにしても。
女友達、か。
いいかもな、こういうのも。
次は林間学校です。さて、どう書こう。