4人目の奉仕部員   作:リアクト

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次回で林間学校編は終わります。

んでもって、次回の流れ次第では、今回の最後をちょっと変えるかもしれません。
このままで整合性が取れるかが微妙なんで……。


第3話の2。

「……やっぱり、話し合うしかないんじゃないかな。みんないい子達だし、話せば分かってくれると思うんだ」

「それだし!やっぱり隼人いいこというよね!」

「無理よ。そうだったでしょう?」

 

 ……どうしてこうなった。

 

 

 

〈1〉

 

 千葉村に着き、荷物を持って降りた俺達を待っていたのは、別ルートで集まってきたボランティアのグループ、つまり葉山グループだった。内申につられて、と葉山は言っていたが、まぁそんなことはどうでもいい。平塚先生を経由した話ではなく、学校の募集欄を見て参加したとのことだった。

 例によって葉山のヒキタニ呼びに反応する沙希、嫌な表情を隠そうともしない雪ノ下、それをなだめる由比ヶ浜、さーちゃんの後ろに隠れ、俺のシャツの裾を離さないけーちゃん、笑顔の中にも少し心配そうな彩加。

 大丈夫なんですかねこれ。不安しかない。

 

 やがて小学生たちと合流、自己紹介の後、キャンプ地に移動という流れになった。俺達はなぜか、小学生が全員出てからスタート→先に着いて準備とかいう強引なプログラムを余儀なくされた。道中、荷物を沙希に預け、足が疲れたというけーちゃんをおんぶする。葉山が俺の荷物を引き受けようとしたが、沙希の

 

「なんで?」

 

 の一言で撃沈。いや、葉山さん、こっちちょっかいかける必要ないですからね。ほっといてくださいね。このリア充が。

 

 俺と沙希との間には暗黙のルールとして「お互い様」というものがある。何かをする代わりに何かをしてもらう。何かを預ける代わりに何かを預かる。これまで友人らしい友人を持ってこなかった二人の線引きである。片方だけが恩恵に預かると、罪悪感というか、遠慮というか、そういうものでいたたまれなくなるのだ。

 あの、友人になった日。スーパーの荷物を俺が持つと、沙希が半分持つと言った。もう持っちゃったし構わねえよと断ると、帰りの自販機でMAXコーヒーをおごってくれた。それ以来、お互い持ちつ持たれつ、してもらったらしてあげる、の関係である。口に出してしまうと照れ臭いことこの上ないが、そこは暗黙の了解というやつだ。義務も権利も発生しないが、仁義と筋は大切にしたい。そっちの人かよ。

 

 キャンプ場に着くと、今度は梨の皮むきだ。頑張って歩いてゴールしたちびっこたちへのご褒美みたいなことだが、だとすればこっちの心情としては先に労いたい存在がある。

 皮むき班と配膳班に分かれ、作業することになった。皮むき班には俺、沙希、雪ノ下、由比ヶ浜と、見事に奉仕部が揃った。いや待ておかしい。

 

「なぁ由比ヶ浜」

「ん、どしたのヒッキー」

「……お前、皮むきできんの?」

「なっ、馬鹿にすんなし!梨くらい剥けるよ!いつもお母さんの見てるもん!」

 

 言うなり由比ヶ浜は梨を一つ手に取り、果物ナイフで削り始めた。

 削り始めた。

 ……お前は果物彫刻家かよ……。

 

 果たして出来たものは、やたらとグラマーな洋梨状の物体である。

 

「お前これラ・フランスみたいになってんぞ……」

「おっかしいなー、ちゃんと見てたんだけどなぁ」

「……見てただけで出来るわけないでしょう。ほら、こっちは出来たから、向こうに持っていって頂戴」

「ごめーん、ゆきのーん」

 

 ゆるゆりゆるゆり。

 まぁ、由比ヶ浜は雪ノ下に任せておくとして。

 このグラマラスな梨をどうするかだ。すると沙希が何やら思案げな顔で、俺に小声で聞いてきた。

 

「ハチ、この梨もう出せないよね。……けーちゃんにあげても大丈夫かな」

「ん、いいんじゃねえか?数なんていちいち数えてねえだろうし。おれも丁度けーちゃんにはなんかしてあげたかったし、こんなぶっさいくなので良ければだが」

「そこは任せてよ。……けーちゃん、梨食べよっか」

「うん!なしだいすきー!なしじるぶしゃー!」

 

 激しいヘッドバンキングを繰り出すけーちゃん。お出かけとお泊りと道中の疲れで、なんかやたらとハイテンションだ。天使か。

 けーちゃんが俺と例の非公認ゆるキャラごっこをしていると、沙希から声が掛かった。

 

「ほら、けーちゃん出来たよー。みんな来る前に食べちゃいなー」

「わーい!さーちゃんありがとー……あー!これ!」

「おぉ……これはすげぇ……」

 

 そこにはあのグラマー梨を土台に、皮にくっついた身を削ぎ落とし組み合わせて作った、非公認ゆるキャラがあった。いつの間にか戻っていた雪ノ下と由比ヶ浜も感心しながら覗き込んでいる。

 

「うっわ、サッキーすごい……」

「これはお見事ね……。あの梨がこんなになるなんて」

「あーごめん、勝手に作っちゃったよ。けーty京華にもちょっと食べさせてあげたくてさ」

「もちろんよ。京華さ「けーちゃん!」……けーちゃん、も、頑張ったものね」

「あ、ゆきのんちょっと赤くなってる。もー可愛いんだからぁ」

「ちょ、やめて由比ヶ浜さん、暑いわ」

「あんた達の分も切っといたよ、バレないうちに食べちゃいな」

「ん、こっちは普通の形だ。サッキーこれどうしたの?」

「さっきちょろまかしておいたんだよ。けーちゃんに切ってあげようと思って」

「ちょろまかし……まぁ、いいわ。胃の中に入れてしまえば」

 

 証拠隠滅かよ。雪ノ下も大分染まってきたな。

 

 

 

〈2〉

 

「で、君たちはどうしたいんだ?」

 

 その日の夜。

 総武生達は、夕食後に会議を開こうとしていた。けーちゃんは疲れたのか、沙希に寄りかかって船を漕いでいる。

 

 小学生の中に、いじめられている子がいる。

 

 その子をなんとかしたいと、そう言い出したのは葉山だ。それを受け、平塚先生から出たのがさっきの言葉だ。

 

「知ってしまえば見過ごせません。可能な範囲で何とかしてあげたいと思っています」

「それは君たちの総意かね?」

「そうd「ちょっと待て、俺はそんなこと言っていない」……ヒキタニ」

「あたしもです。って言うか、誰も言ってないんじゃないの?」

「だが、みんなそう思っているはずだ。あの状態がいいわけないだろう?」

「……ふむ。雪ノ下はどうかね?」

「……」

 

 雪ノ下は少し考えてから言った。

 

「それは、奉仕部の活動としてですか?」

「ふむ、そうだな。そういった相談はその子から受けたのかね?」

「いえ。今のところはありません。相談なり依頼があれば、力になりたいとは思いますが」

「ならばいずれにせよ今話した所でどうにもならんだろう。まぁ気が済むまで話し合うといい。私は寝る」

「ちょ、せんせー無責任じゃね?」

「どこがだね?いじめられている子を助けたい、それ自体は分かる話だ。だが君らはその子から直接聞いたのか?『いじめられているから助けて欲しい』と。君たちが何か行動を起こすというならなるほど、私の監督責任にもなるだろう。当然この場にいないといけないのも頷ける。だが、まだ何もないのだろう?だったら逆に私がいる必要はないだろう。何かに気づいて何かをしたいなら、何をしたいか、それが必要なのかを考えて、意見をまとめてから私に報告したまえ」

 

 誰からも声は出なかった。当たり前だ、今こいつらがやろうとしてることはただのおせっかいだ。いじめの程度も理由も分からず、ただ『なんとかしたい』と言っているだけにすぎない。

 

「結論が出たなら報告してくれ。行動を起こすのなら絶対にだ。ではな、今度こそ私は寝るよ」

 

 平塚先生が去り、食堂はしんと静まり返った。

 

「……じゃあ、どうすればいいかを考えようか」

 

 葉山の一声で、この不毛な会議は始まった。俺や沙希はさっさと部屋に戻ろうとしたのだが、雪ノ下に止められた。どうやら思う所があるらしい。由比ヶ浜も何やら考えているようだ。どうしたものかと思った所で彩加が俺と沙希に小声で言った。

 

「八幡と沙希ちゃんの言いたいことはわかるよ。……けど、僕もなんとかしてあげたい気持ちがあるんだ。それに、葉山くん達だけにすると……その……」

「わかったよ。でもけーちゃんがもう寝てるから、もうちょっとだけね」

「沙希、けーちゃん貸せ。もう完全に力抜けてるし、毛布借りてきて寝かせようぜ」

「ん、ありがと」

 

 そんなやりとりをしている間に話は進んでいた。海老名さんと三浦の姿が見えないが、恐らく鼻血案件だろう。

 

 件の鶴見留美とは、俺達も少し会話をした。夕飯のカレーを仕込んでいる時だ。その時彼女はこう言っていた。

 

「……あんなくだらないこと、やらなきゃ良かった」

 

 現在留美は確かにいじめに遭っている。だがそれは、彼女も以前同じことを別の誰かにしていて、それが自分の番に回ってきたということらしい。内容は存在の無視。いわゆる「シカト」「ハブる」というやつだ。やられてみると分かるが、これは地味に心にくる。荒む。だが一度は自分も加害者になったことがある故に、大人に相談することが出来ない。なんなら、したところでまず解決などしない。こういういじめはまさに小学生の頃に蔓延する。そしていつの間にか収束することが多い。ここで下手に動けば、より酷いいじめにエスカレートしかねない。

 留美は、そういったことを委細承知で、既に見限っているのだ。

 

「……で、葉山。結局どうするつもりだ」

「……やっぱり一度みんなで話し合って……」

「なにをさ?いじめは良くないからやめましょうって?そんなの、後で留美が吊るし上げられるのが目に見えてるでしょ」

「そんなことは…」

「あるわね。あなたも『よく知っている』でしょう?」

「しかし、今はあの時とは違う!今ならきちんと説得して……」

「わかってねぇな」

 

 みんななかよく。

 葉山の言いたいことは、理解は出来る。だが納得は出来ない。ふと見ると三浦と海老名さんも戻ってきたようだった。ならちょっと引き合いに出させてもらおう。

 

「……なにがだ、ヒキタニ」

「お前、いじめられたことねえだろ」

「!」

「その経験もないやつに、答えなんか出せるわけがねえよ。今までの中では海老名さんの、外に趣味の仲間を作れってのが一番いい。だが、それは帰ってから時間をかけてすることだ。今この場でどうこう出来ることじゃない」

「……そうだね」

「なら、どうしろというんだ!」

「何もしない」

「……は?」

 

 そう。

 何もしない、正しくは「何も出来ない」だ。絶句する葉山達をよそに、沙希がおれの後を継ぐ。

 

「今あの子がされてるのは、以前あの子自身もやってたことで、言ってみりゃ自業自得なんだよ。もちろんいじめは良いことじゃない。そんなことは言われなくてもみんなわかってる。でもなくならない。そしてこのパターンは、留美の番が終われば、別の誰かが同じ目に遭う」

「そう、だね。僕もなんとかしてあげたいって思う。けど、僕達に何が出来るのかな。そういう時、何をして欲しかったかなって、ずっと考えてるんだけど……」

「独りでいるのが可哀想、ってさっき誰か言ってたな。けど、それはちょっと違う。可哀想なのは独りでいることじゃない。独りにされることだ。さっき、留美はあいつらをバカばっかりだと言った。かつては自分もその中の一人だったとも。あいつはもう、独りでいることを許容しているようにも見えた。だとしたら、周りの出来ることはなんだ。そういう目にあった時、して欲しかったことはなんだ。わかるか、葉山」

「……」

「教えてあげるわ」

 

 それまで黙っていた雪ノ下だが、ここに来て声を上げた。目をしっかりと葉山に向けて。その顔には苛立ちと怒りが滲んでいる。

 

「それ以上被害が広がらないように、何もしないこと。そして、いざという時の為に、その子をしっかり見ていてあげること。その子が伸ばした手をしっかり握ってあげることよ」

「……っ!」

 

 雪ノ下の言葉に葉山の顔が歪む。

 

「あなたにそれが出来るの?葉山隼人くん」

 

 

 

〈3〉

 

「で、結局どうなったのかね」

 

 翌日、肝試しの準備を終えた俺達は、自由時間となった。用意のいいことに水着を持ってきていた連中は川遊びに興じている。けーちゃんは彩加と仲良くなったようで、沙希と合わせて3人でぱちゃぱちゃと水遊びをしている。混ざりたい。

 そんな中、俺と雪ノ下、葉山は、昨日の報告をしに平塚先生の所に赴いていた。

 

「……なるほど。では、直接何かをするわけではないが、いじめがあることを小学校側に報告、しばらくは見守ることを提言。ということでいいのかな」

「はい。すぐにどうこう出来ることでもありませんし、ことがことです。おいそれと手を出していい問題ではないと判断しました」

「……俺は納得出来ません。みんないい子たちなんです。きちんと話せば分かってくれるはずです」

 その時、俺のスマホが震えた。

 

「あなたまだそんなことを……」

「ここで蒸し返すな。……先生、留美本人から依頼があれば、それを受けていいんでしたよね」

「ああ。但し、その内容と対処法は事前に報告したまえ。他所の、しかも小学生が相手だ。色々デリケートな問題もある」

「分かってますよ。……じゃあ、ちょっと行ってきます」

「比企谷くん、どこへ」

「沙希のとこだ。留美と一緒にいるらしい。……葉山、お前はどうする。どうするにしても、話を聞かなきゃわからねえだろ」

「……ああ、行くよ」

「じゃあ先生、とりあえずこれで。また来るかもしれませんが」

「ああ、わかった。……それにしても比企谷」

「なんすか?」

「君は随分と変わったな。本質は変わらないのに、な」

「そうですかね。変わった気はしませんが」

「何、悪いことじゃない。……上手くやれてるようじゃないか」

「……失礼します」

 

 なんか先生の掌で踊らされている気がしてきた。

 

 

 

〈4〉

 

「だからなに!?あーしはちょっと話しかけただけじゃん!」

「上からモノ言ってんじゃないよ!あんたそんなに偉いのかい!」

「ちょっと優美子、サッキーも……」

 

 川に行くと、沙希と三浦が喧嘩していた。今にも胸ぐら掴んで殴り合いになりそうな状態である。それを由比ヶ浜が仲裁しようとし、そのそばでは怯えるけーちゃんと留美をかばうように彩加が背を向けていた。戸部と海老名さんは少し離れた所でちょっと引いている。

 

「やめろ優美子!」

「は、隼人……」

「沙希も落ち着け。けーちゃん達怯えてんぞ」

「はぁっ、はぁ……ごめん」

 

 葉山が三浦を宥め、沙希がけーちゃんに謝っている間、俺と雪ノ下は、彩加と由比ヶ浜から話を聞いた。

 

「川で遊んでたら留美ちゃんを見かけてさ、サッキーが声かけたんだけど、中々話してくれなくて……」

 

 それを見た三浦が留美に『いいから話してみ。相談乗ってやっから。そっちのおねーさんより頼りになると思うし』と挑発するようなことを言ったらしい。それにカチンときたのか、沙希が『あんたは金髪イケメンのお守りでもしてな。どうせ今も先生んとこでゴネてんでしょ』と、挑発し返したと。

 ……なにしてんのお前ら……。

 

 呆れていると、急に嗚咽混じりの怒鳴り声がした。

 

「どーしてなかよくできないの!!…っく、おとなでしょ!!けーちゃん、…っまだこどもだけど、…っく、なかよくできるもん!!いじわるばっかしいうと、もうけーちゃんしらないからぁ!!」

「ご、ごめんけーちゃん、お姉ちゃんが悪かったから、ね?」

「あ、あーしは別に……「優美子」……ごめん、なさい」

「もうけんかしない?」

「うん、もうしない。約束する。お姉ちゃん、けーちゃんに嘘付かないよ?」

「そっちのおねーちゃんも、もうけんかしない?」

「う、うん、ごめんね?」

「……ならゆるす」

 

2人がほっとしたのもつかの間。

 

「じゃあ、なかなおりのあくしゅね!」

「……え?」

「……は?」

 

 面食らう沙希。

 唖然とする三浦。

 目に涙をためながらニコニコ笑うけーちゃん。

 そして、さっきからずっと動画を撮っている彩加。いやなにしてんの。

 

「沙希ちゃんに、けーちゃん撮っててって言われて」さいですか。

 

 あきらめろ、沙希、三浦。

 けーちゃんには勝てねえよ。

 

 気まずいながらも握手する(させられる)2人をニヤニヤしながら見る俺達。

 2人に睨まれる俺。なんで俺だけ。

 

 ……待てよ。

 

「ルミルミ「留美」……留美。お前、独りは嫌か?」

「嫌、だけど……しょうがないよ……」

「ん……葉山、お前手を貸す気あるか?」

「どういうことだい?」

「いいからよ。もしかしたらなんとかなるかもしれねえぞ」

「あら、私達を差し置くとはいい度胸してるわね、ホモ谷くん?」

「おいばかやめろ、向こうが血の海だ。……もちろん雪ノ下たちにも協力してもらう」

「何か思い付いたのか?」

「ああ。……上手くいけば、だけどな」

「そういうことなら協力するよ」

「ま、嫌でも協力してもらうけどな。……なぁ留美」

「……」

「まずはそのカメラで俺達を撮ってくれよ。……友達になろうぜ」




なにげに今回が一番難産でした。いじめの問題は書きづらい。
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