しばらくこちらの更新をお休みします。
某サイトの小説祭りに参加するためです。
次回更新は恐らく夏……以降になりそうな。申し訳ありません。
〈1〉
「鶴見留美の件で報告と相談に来ました」
留美と「友達の証」として記念撮影をした俺達は、今日このあとの計画を練った。そして事前に言われた通り、平塚先生に報告をしに来ている。……まあ、他にも理由はあるんだけどな。報告者は俺、雪ノ下、海老名さんだ。
「では聞こうか。……それにしても珍しい取り合わせだな」
「川崎さんと京華さん、戸塚くんは留美さんと一緒にいます。一応、保護という形です。他由比ヶ浜さんはじめ葉山くん達は、他の小学生の相手をしています。詳細は後ほど」
「……今朝、俺達は留美から話を聞きました。現状が嫌だ、しかしどうしようもない。そう言っていました」
「……ふむ。で、君達はどうするつもりかね?わかっているとは思うが、いじめは簡単にどうこう出来る問題ではないぞ」
「はい、なので、解決は考えていません。あくまでも今の状況の解消を目指します」
そこまで話した俺は、海老名さんを見た。海老名さんは小さく頷くと、平塚先生に向き直った。
「今、葉山くん達には小学生達の相手をしてもらいつつ、ある人物を探してもらっています。具体的には葉山くん、戸部くん、優美子……三浦さんの三人で相手をし、由比ヶ浜さんにピックアップして貰う形です」
「ほう。その人物というのは?」
「留美ちゃんの前にいじめの対象になっていた子です」
一瞬、平塚先生の眼が鋭く光った気がした。
「……その子を探してどうするのかね。古傷を抉ることになるんじゃないのか?」
「ある程度は仕方がないと考えています。直接何をするわけでもありませんが、立場としては加害者側にいるわけですから。で、その子をピックアップしたら、留美ちゃんのところに連れて行きます」
「……続けたまえ」
「連れて行く目的は2つ。1つは仲直りさせること。元々留美さんとその子は仲が良く、お互いの家に遊びに行ったりしていたそうです。その関係を修復、とはいかないまでも、そちらの方向に向けるのが理想です」
「……2つ目は?」
「これは留美が自分から言い出したことなんですが」
海老名さんから雪ノ下、そして俺に発言のバトンが回る。
「留美が、その子に謝りたいと」
「……ほう」
「仲直り出来なくても、許してくれなくてもいい、だけど謝るのだけはしたい。それで無視されてもしょうがない。自分がやったことだから、だそうです」
「小学生にしては随分と肝が座っているな」
「……一応、説得はしました。ただ、本人も考えてはいたようで。きっかけが掴めないとのことだったので、今回の計画を組みました」
「なるほどな。……で、私に相談というのは?」
「片棒、担いでくれませんかね」
「何?」
ここで俺は一呼吸置いた。ここからが本番、今回の要になる。
留美と、以前仲の良かった子の仲裁に関しては、実はあまり心配していない。
被害者が過去の過ちを認め、謝罪したいと言っている。仮にもそれまで仲の良かった子、しかも現在の状況に罪悪感を感じているのであれば、きっかけさえあれば仲直りするのはそれほど難しいことではない。
問題はここからだ。
現在は夏休み。これから二学期まではまだ1ヶ月ある。その時間は小学生には持て余す時間になる。心境の変化などいくらでも起きる。つまり、今は留美に向いている矛先が、別の子に向く可能性も決して低くはないのだ。
そうなったとき、留美はどうするのか。
恐らく、以前の様な愚を犯すことはないだろう。だがそれは同時に、いじめの対象が増えることを意味する。それでは被害が拡がるばかりで、逆に今やっていることが無駄になる。
ならば、どうするか。
どうにかするべき人間を、叩き起こす。
「留美の方は俺達でなんとかしたいと思ってます。ですが、それだけじゃ駄目なんです。その場しのぎにはなっても、二学期になってまた同じことが起きるとも限らない。その対象が留美じゃないとしても。根本的には同じことですから」
「……続けたまえ」
「……今、留美は俺達以外、誰にも居場所を知られていない状態で保護しています。……その根本をひっくり返します」
「どういうことだ?」
「大人ですよ」
「大人?……まさか」
「留美と元お友達には、このまま夕方の肝試しまで一緒にいてもらいます。そして点呼が始まった段階で、留美とその子がいないことを報告します。……その報告を先生にやってもらいたんです」
「……」
「……続けます。今この場に2人がいないこと。偶然留美を見かけた俺達が保護していること。今朝みんなに置いていかれて、衝動的に死にたくなって、川の流れの急な場所を探していたこと」
「ちょっと待て、それは本当か?」
「実際はそこまでではありませんが、それに近い状況でした。あのままほっておいたらそうなっていてもおかしくない程度には。……保護した後、せめて例の子には謝りたかったと言っていたこと。その辺りまでの説明を、引率の教師にしてください」
「その場には私も同行します」
〈2〉
「そんな……そこまで思いつめて……」
「と、いうことは気づいていたのですね。それでも大したことにはならないと、高をくくって。ですが、残念ながら事実です。……私達は、この事実と実態を、そちらの校長先生並びに教育委員会に提出しようと考えています」
雪ノ下は、つらつらと、淡々と言葉を紡ぐ。対する小学校側の教師陣の反応は様々だ。呆然とする者、汗が止まらない者、紅潮した頬で、今にも飛びかからんばかりの者。
だが、雪ノ下は止まらない。
そう、この役は、彼女以外では務まらない。
「……ですが、その前にやらないといけないことがあります」
「……そ、れは……」
「もちろん」
凍てつく視線で、彼女は教師達を睨んだ。
「いじめの首謀者の糾弾です」
言い放った途端、教師達は弾けるように叫び始めた。
「巫山戯るな!あの子達はまだ小学生なんだぞ!」
「そうよ!それに、いじめって言ってもよくあるシカトじゃない!ほっておけばいつか収まるのに、わざわざそんなことをする理由が…「ふざけてんのはお前らだろうが!!」ひっ……」
駄目だ。
終わるまで黙っているつもりだったが、我慢が出来ない。
「今日!留美がいないことに気づいた教師はいたか!シカトされてる留美の気持ちを考えたやつはいたか!……あれだけの児童を引率する、それが大変なのはわかるし、それについては頭も下がる。けど、その影でこっそり、友人だと思ってたやつらに無視をされ、爪弾きにされる子どもの気持ちはどうなるんすか。ほっておけばいつか収まるって言いましたよね。それは収まるんじゃない。他の子に対象が移るだけだ。いじめがなくならないのは分かってる。だけど、なくならないからほっとくってのはおかしくないですかね」
「比企谷、もういい」
「知り合いが言ってました。いじめられてる子に対して周りが何をしてあげられるか。それ以上被害が広がらないように、何もしないこと。そして、いざという時の為に、その子をしっかり見ていてあげること。その子が伸ばした手をしっかり握ってあげること、だそうです。おれも同じ思いですよ。もちろん、何もしないってのはほっとくってことじゃない。それくらいのことは分かりますよね!」
「比企谷!」
暴走しかけた俺の肩を掴んで止めてくれたのは、平塚先生だった。引き戻した俺の代わりに一歩前に出る。優しく肩を叩き、そっと、撫でるように手を離した。
「うちの生徒が失礼しました。後で良く言っておきますのでご容赦下さい。……ですが、彼らの主張には私も思うところがあります。……いじめは悪いこと。それは我々のみならず、子どもたちも分かっていることだと思います。が、子供の頃、特に小学生などは、感情のコントロールが上手くいかず、ついやってしまうこともあるでしょう。やってしまった子も、いずれやられる側になることもあるかもしれません。そうやって反省し、後悔していくのもまた成長なのかもしれません。ですが、今回の件については、こうして事故にもなりかねない形になってしまいましたし、先生方の手で、終息を計っていただく訳にはまいりませんでしょうか」
「先生……」
平塚先生が深々と頭を下げる。俺達はそれを、呆然と見守るしか出来なかった。
〈3〉
結局小学校の教師からも謝罪を受け、留美の一件は学校ぐるみで対策を練ることとなったらしい。くれぐれも子供達、特に被害を受けている子達のケアをしっかりお願いしますと頼んで、この件は一応の終焉を見せた。
留美は例の子と仲直りを成功させ、手を繋ぎながら帰っていった。ほっとした空気の中、俺の周りの空気だけは、暗く淀んでいた。
「ハチ、おつかれ」
帰りの車の中、疲れ切った皆が寝に入った頃、沙希がけーちゃんの頭を膝に乗せながら、小さな声で話しかけてきた。
「俺は何もしてねえよ。……何も出来なかった、が正しいか。ガキみてぇにキレて、ガキみてぇな理屈で駄々ってただけだ。先生にも迷惑かけちまったしな」
「迷惑などかかってはいないよ、比企谷。……私はな、大変気分がいいんだ。あの比企谷が、あの子達の為に声を上げた。雪ノ下の代わりに大人に対して怒りをぶつけてみせた。比企谷、それはこれまでの、夏休み前までの君にはなかったものだ。私は誇らしいよ」
聴きながら、俺はどんな顔をしていたのだろうか。多分すごくみっともない顔をしていたのだと思う。なぜなら、俺の頬は一筋だけ、濡れていたのだから。
〈4〉
学校に着いた俺達は、帰りにみんなでお茶でも飲んで帰ろうという話になっていた。
そういうのも偶には悪くないか、と俺が思ったのが悪かったのだろうか。
見覚えのある、黒塗りのリムジンが、俺達の目の前に静かに停まった。
「姉さん……」
「雪乃ちゃーん、お迎えに来たよー!お母さんが呼んでるから、早くおいでー」
リムジンから降りてきたのは一人の女性。顔立ちは雪ノ下によく似ている。その雪ノ下は、それまでの元気はどこへやら、苦い顔で俯いていた。
「陽乃、久しぶりだな」
「あー静ちゃん、久しぶりー!……あれ、その子は……」
「……うす」
「雪乃ちゃんの彼氏かなー?雪乃ちゃんも隅におけないなぁ、このこの〜」
「姉さんやめて。比企谷くんはそういうのではないわ」
「ん、比企谷くん?……あ、もしかして」
「あーはい、……その比企谷です」
「そっか、知ってるんだね。……誰から?」
「雪ノ下からです」
「……え?」
姉さん、と呼ばれた女性は一瞬驚いた顔を見せた。が、すぐにまた笑顔に戻った。
……これが笑顔と呼べるものならば、だが。
口角はあがり、表情も柔らかい。だが、どこか硬い。あらかじめインプットされたような笑顔。
なるほど。
そういう人か。
「比企谷さん、その節は申し訳ありませんでした」
深く頭を下げ詫びてみせる雪ノ下姉。だが、その姿はどこか嘘くささを感じた。
「頭を上げて下さい。もう終わったことですし、気にしてはいないので」
「あ、そぉ?じゃあそういうことで。……雪乃ちゃん、行くよ」
「あ、その、姉さん」
「なぁに?早くしてね、『お母さんが待ってる』んだから」
「すいません、雪ノ下さんのお姉さん」
「……ん、誰かな?」
「……川崎沙希と言います。雪ノ下さんとは同じ部活仲間です。……申し訳ありませんが、少しだけお時間いただけないでしょうか。今、合宿のようなことから帰ってきて、少しお茶でも飲んで帰ろうか、という話をしていたところなんです」
「ふぅん……。で?」
「……はい?」
「で、それが何か私に関係あるのかな? 私は家の事情があって雪乃ちゃんを呼びに来たの。あなたにそれを邪魔する権利はあるのかな?」
「……ありません。ですが、雪ノ下さんの意思を訊くということはしないんですか? 雪ノ下家では」
「……へぇ」
雪ノ下姉の目が怪しく光った気がした。が、それも一瞬。すぐに元に戻り、雪ノ下に向かって言った。
「じゃあ聞くね。……あなたはどうしたいの? 雪乃ちゃん」
「……」
雪ノ下は俯いたまま、小さく息を吸い、そして言った。
「姉さん、実家には行きます。……だけど、その前に少し時間を頂戴。元々聞いていた話ではないし、約束はこちらと先にしていたの。ここまで来てもらって悪いけれど、私はもう少しだけこの人達と一緒にいたい」
「ゆきのん……!」
今度は一瞬じゃない。驚いた顔のまま、平塚先生に顔を向けた。
「そういうわけだ、陽乃。悪いが今日はこのまま行かせてやってくれ。帰りは私が責任を持ってご実家に送ろう」
「そう、わかったわ。……じゃあね、雪乃ちゃん。あんまり遅くなっちゃ駄目ダゾっ。……あと、あなたとあなた。比企谷くんは雪乃ちゃんのものだから、手を出しちゃだめだぞっ」
「……勝手に人のものにしないでもらえますか。雪ノ下もおれじゃあ迷惑なだけです。あと雪ノ下さん」
なんだろう、最近の俺は変に好戦的だ。
意味もなく、雪ノ下を守ろうと勝手に思ってしまっている。
これもお兄ちゃん気質、てやつなのか?
「なにかな?」
「……疲れませんか、その仮面」
一瞬、冷凍庫に放り込まれたような寒気が走った。発生源はもちろん、目の前の美人である。
「……なんのことかな?」
「……さあ、なんでしょうね」
「君、やっぱり面白いね……いいわ、今日はここまでにしてあげる。静ちゃん、よろしくね」
「あ、ああ、わかった」
「じゃあね、比企谷くん。……あと、川なんとかちゃん」
「川崎です、雪ノ下さん」
「え、比企谷……」
「そっか、ごめんごめん、じゃあねー!」
とりあえず、嵐というか怪獣というか……魔王。そう、魔王の脅威は去った。
その日の駅前のサイゼでは、美少女三人に美女一人、目の濁った残念イケメンの笑顔が見られたという。
次回からは二学期からはじまります。花火編については、まだ未定です。
入れるとして、もしかしたら番外編的な扱いにするかもしれません。