プロデューサー(おじさん)   作:アサルトゲーマー

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2.真、黄昏と共に沈む

 765プロに新しいプロデューサーがやってきて一週間。強面プロデューサーとアイドル達の関係は…

 

「おっちゃーん!遊んで遊んでー!」

「真美たちめっちゃ退屈だよー!」

「これ済んだら相手したるけん大人しくせんかい。あとおっちゃん言うなや」

「あ、おじさん。ミキにも後で飴ちょーだいなの」

「おじさんもダメや」

「あの、あなた様。今日の飴は何味なのでしょうか」

「ちゃんぽん味やで」

「「「「!?」」」」

 

 とても円満だった。萩原プロデューサーの面倒見の良さもさることながら、その見た目に反して温和な性格が彼女たちに気に入られたのだ。

 現に今も引っ張りだこである。特に人気があるのが亜美、真美、美希、貴音の四人。次点で響や春香。彼女らは765プロでも特に無邪気、または勘が鋭く、萩原プロデューサーの本質をいち早く見抜いたのである。

 

「おじさん、お茶をどうぞ」

「んお?」

 

 お茶を持って現れたのは雪歩。彼女は男が大の苦手ではあるが、例外が二つだけ存在した。それは実の父と、目の前の伯父である。

 

「おお。お嬢はやっぱ優しいのー」

 

 その叔父に頭を撫でられて、雪歩は「えへへ」と笑った。雪歩を知る人物から見れば異様極まりない光景と言える。

 雪歩のはにかむ姿を見て亜美、真美、美希、貴音の四人が顔を見合わせる。そして四人はそのまま給湯室に消えて行った。

 

「ん、なんや?」

「なんでしょう…?」

 

 その答えは一分も経たないうちに給湯室からやってきた。四つの湯飲みと共に。

 

「亜美たちもお茶持ってきたよ!褒めて褒めてー!」

 

 と、亜美。

 

「真美もなでなでしてー!」

 

 と、真美。 

 

「ミキもおじさんのナデナデにキョーミあるの!」

 

 と、美希。

 

「わたくしも、雪歩を虜にするほどの愛撫を味わってみたく存じます」

 

 と、貴音。

 要するに雪歩を虜にした(と思われる)プロデューサーの"なでなで"を一度味わってみたいと考えた四人が何の工夫もなくお茶を持ってきた。そういう事である。

 

「ほー。えらいの四人とも。こっち来ぃや」

「でしょー?あはっ☆」

 

 美希はなんの疑いもなく歩み寄った。萩原プロデューサーの口角がやや上がっているのにも気が付かずに…。

 

 

 

 

 

「ちくしょうなのーー!」

 

 美希は化粧室でサイヤ人のごとく跳ねた髪の毛を貴音に直してもらっていた。萩原プロデューサーは確かに美希の頭を撫でた。ただし力いっぱい。

 貴音は髪の毛が天に向かって伸びている。あえて名を付けるならば"昇天ペガサス面MIX盛り"といた所か。何も使っていないはずなのに形が崩れないのは何故だろうか。

 ちなみに亜美と真美は美希と貴音が撫でられている間に逃げた。伊達に毎日律子と追いかけっこをしているわけではないようだ。

 

「な、なにやってるの?二人とも…」

 

 現れたのは真。美希と貴音の髪型を見て驚いている。貴音はなぜか誇らしげに答えた。

 

「ふふ、どうですか?」

 

 真は思わず貴音を見上げた。貴音の銀髪は天井に着かんとする勢いである。

 

「どうって…凄いよ、色々と」

 

 率直な感想であった。なぜか貴音は嬉しそうだ。

 

「真君!ミキの髪の毛がぐちゃぐちゃなのも貴音が変になったのもプロデューサーの仕業なの!カタキをうってほしいの!」

「ええー…」

 

 真は貴音が変なのは今に始まった事じゃないと内心思う。しかし敵討ちとはおだやかではない。

 

「敵を討てって、何すればいいのさ」

「髪の毛をメチャクチャにしてやればいいと思うの!」

「自分でやればいいんじゃない?」

「もう二回は返り討ちにあったの!ちくしょうなのっ!」

「へぇー、そうなんだ」

 

 真は心底興味なさそうに相槌をうっていた。

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 真が化粧室から出て事務スペースの方を見やると萩原プロデューサーが机に向かって仕事をしていた。

 

「プロデューサー、お仕事は慣れましたか?」

「おお、まこくんか。ちょいちょい分からんトコあるけど何とかなっとるで」

 

 プロデューサーの業務は一週間で何とかなるものなのだろうか。まあ、あの高木社長が連れてきた人物なのだからそれなりに出来る人なのだろうと真は納得することにした。

 ふと美希の事を思い出し、萩原プロデューサーの頭に視線を向ける。そこは中年特有と言うべきか、頭頂部が少しだけ寂しくなっているように感じた。夕日を浴びてほんの少しだけ輝いている。

 

「ちょっと…髪の毛薄いかな?」

 

 美希の言うようにメチャクチャにするには髪の量が足りないだろう。そう思って声を抑えて独り言を言ったつもりだったが、プロデューサーには聞こえてしまっていたようだ。

 

「ま…まこくん。今なんて言うた…?」

 

 萩原プロデューサーの双眸がギラリと輝く。真は一瞬強張ったが、正直に答えた。

 

「その…髪の毛薄いなって…」

「ぐふぁ!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、プロデューサーは机に突っ伏してしまった。そして呻くように言う。

 

「髪の毛薄くなってんのは気ぃ付いてんねん…。でもわざわざ言わんでええやん…?」

「あ…ごめんなさい、プロデューサー」

 

 髪が薄いというのは萩原プロデューサーにとって致命的な一言だったようだ。まあ、何はともあれ、美希の言う敵討ちは達成できただろう。

 プロデューサーに話しかけても何も反応しなくなったので化粧室に戻ると、貴音が進化していた。

 

「え…なに、それ」

「ふふ。真、いかがですか?」

 

 正確には貴音の髪型が進化していた。天を衝くような髪に造花がこれでもかという位に乗り、髪の一部はトルネードと化していた。あえて名を付けるのなら"昇天ペガサス面妖盛りトルネードスペシャル"だろう。

 こんなのを見せて貴音が何をしたかったのかはサッパリ分からなかったが、犯人はすぐに分かった。

 

「えーっと…亜美と真美は一体何してるの?」

「お姫ちんをゴージャスにしてるんだYO!」

「まこちんもやってみるー?」

「ボクは遠慮しておくよ…」

 

 真はそっと化粧室を後にした。電気ネズミみたいな髪型にされた美希と目が合ったような気がしたが、気のせいということした。美希が死んだ目をしていたがそれもきっと気のせいだ。

 ドカッとソファーに腰掛け、天を仰いでため息をひとつ吐いた。こんな事務所で大丈夫かなと思う反面、真は退屈しないだろうなと思う。

 ふと向かいにある机を見てみるとキャンディーが置いてあった。それを何となくつまみあげる。

 

「ま、楽しかったらそれでいいかな?」

 

 そう呟きながら真はキャンディーを口に運んだ。

 

 数分後、雪歩はものすごくテンションの下がった状態でソファーに突っ伏していた真を目撃したという。その傍らには"ちゃんぽん風ドロップス"と書かれた缶が置いてあったそうな。

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