萩原プロデューサーの朝は早い。
「まぁ好きではじめた仕事やからな」
最近は良い仕事が取れないと愚痴をこぼした。まず、アイドルの体調の入念なチェックから始まる。
「やっぱり一番嬉しかったんはお客さんからの感謝の手紙やね、この仕事やっててよかったなー思たわ」
今日は出社日。彼は仕事道具を鞄に詰め、765プロ事務所へと向かった。今日のアイドル達の仕事は決まっているが、最近のお客さんの嗜好に合わせ多種多様な演出を考えなければいけないのが辛いところ、と彼は語る。
「で、言いたいことはそれだけ?」
彼の向かいに座っているのは女性警察官(28)。彼女の仕事はパトロールや道交法違反の検挙、そして大きな頬傷をつけたサングラスの不審者然とした人物に職務質問をすることである。
「ワシは無実や…」
彼は向かいに座る警官に向けて吐き出すように言った。
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話は10分前。萩原プロデューサーが通勤している所から始まる。
「おお、あずさちゃん。こんなトコで何しよんや?危ないで」
「あ、プロデューサーさん。おはようございます」
「はい、おはようさん…で、やっぱ迷子なんか?」
「あ、分かりますか?実はそうなんです~」
彼は通勤路にある工事現場で迷子のあずさと出会った。彼女は朗らかに、かつ困ったように笑う。頭に黄色いヘルメットが乗っかっているのはご愛嬌だ。
なぜこんな場所に彼女が居るのか。それは彼女が事務所に行くだけでも迷うためいつも二時間の余裕をもって行動するような方向音痴マスターだと言えば簡単にわかるだろう。
「あー、さよか。いまからワシ事務所行くんやけど、連れてったろか?」
「すみません。お願いします、プロデューサーさん」
萩原プロデューサーが不意にあずさの手を握った。それにあずさが少しだけ驚いたように声を出す。
「あらあら~?」
「手でもつながんとあずさちゃん迷子になるやろ?ほらはよ行くで」
「じゃあ、事務所までエスコートお願いします」
「任せときや」
あずさが彼の手を握り直す。その時、萩原プロデューサーの腕をつかむ手がひとつ伸びてきて、ガッチリと抑える。
「おねーさんも連れてって欲しいなー?」
「誰やキミ」
「あら~?」
右手にビッグボイン、左手にミニボイン。萩原プロデューサーはこの瞬間両手に爆弾を抱えたのであった。
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「…てな事があったんやな」
ところ変わって765プロ事務所。律子の頑張りによって誘拐の容疑はさっさと晴れ、遅刻した原因となった片桐とかいう警官について「やれ暴力女」だ「やれ冤罪メーカー」だのとアイドル達になにやら吹き込んでいた。
「つまりおっちゃんもとうとう前科者デビューってことだね!」
「全然ちゃうで」
「ええっ!じゃあ既に前科があるってことなの!?きっと罪状はロリコンさんなの!」
「なんでそうなんねや」
萩原プロデューサー、4×歳。彼は犯罪歴なしの勘違いされがち強面おじさんである。