プロデューサー(おじさん)   作:アサルトゲーマー

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5.笑顔の男と呆れ顔の女、そしてその間で湿布を持ったままオロオロするドジっ子の写真の利用価値

 某日早朝、雨。765プロ事務所。

 所属アイドルが誰一人来ていないそこでは萩原プロデューサーと小鳥がそれぞれの雑務を片付けていた。

 ざあざあと雨が降り始めた為に湿気が一層強くなり、そろそろ夏本番かといった気温であるため、萩原プロデューサーと小鳥は上着を脱いで椅子に掛けている。

 

「あーもう、じめじめして嫌になっちゃいますよぅ」

 

 小鳥は愚痴りながらもパソコンのモニターからは目を外さず、着々と仕事を片付けている。話を振られた萩原プロデューサーも「せやね」と返しながら冷たいお茶を口に含んだ。

 彼女はグラスにぶつかる氷の音に気が付いて彼の方を見る。そこには当然、氷を浮かべたグラスを持った萩原プロデューサーが居た。それを見た小鳥の喉がごくり。

 

「…もう一個作ろか?」

「…ぜひ」

 

 年長の方にお茶を入れてもらうのもなんだかなぁと思いながら、彼の淹れるお茶は美味しいので小鳥はそのまま頷いた。

 返事を聞いた萩原プロデューサーはよっこいせと年寄りくさい掛け声を漏らしてから給湯室に向かう。

 そんな折に事務所の扉を開くものが居た。

 

「おっはようございまーす!」

 

 それは真。髪と服が濡れていて息が上がっているのは雨の中を走って来たからだろうか、頬が上気して妙に艶っぽい印象を萩原プロデューサーに与えた。

 

「おはよーさん。タオル使うか?」

 

 が、そこは既に高校生の姪が居る年齢の萩原プロデューサー。興奮のコの字も感じさせない態度で真にタオルを差し出した。

 

「あ、ありがとうございます。いきなり振ってきましたねー」

「コンビニで傘買ってこればええのに」

「いやその、今あんまりお金なくって…」

 

 顔を赤くしてもじもじする真。萩原プロデューサーはうんうんと頷きながら真の髪を拭いてあげた。

 その間、真はじっと彼の胸を凝視していた。彼は今、上着を脱いでいるのでワイシャツとネクタイが見えるだけのはずだ。

 

「まこくん、そんなじっと見てどないしたん?」

「いえ…プロデューサーってけっこう筋肉質だなぁって思いまして…」

 

 そう言うなり真は萩原プロデューサーの体をペタペタ触り始めた。後ろに控えていた小鳥は興奮しながら写真を撮っている。

 

「実はな、ワシ空手と柔道やっててん」

「え、ほんとですか!」

「マジの大マジやで」

 

 萩原プロデューサーの答えに真は目を輝かせた。小鳥は椅子から乗り出して撮影に没頭している。

 

「じゃあ今度一緒に組手しましょうよ!」

「かまんよ」

「やーりぃ!」

 

 飛び跳ねんばかりに喜ぶ真。萩原プロデューサーは優しく笑いながらその様を眺めた。なお、優しく微笑んでいるように見えるのは雪歩と若干名だけである。幸いなことに真には微笑んでいるように見えたようだ。

 

「実はボク、友達にあんまり空手の練習できる人が居なくって寂しいなって思ってたんです」

「へぇー、そんな事もあるんや。ワシの周りは武闘派ばっかりやったきんなぁ」

「それはプロデューサーの周りが特殊なだけですよ」

 

 萩原プロデューサーと真は武闘派談義に華を咲かせ、真を拭い終わった彼は今日の夕方に道場へ行くと約束を取り付けて自分の椅子に戻った。

 

「空手デート。斬新ね…」

 

 小鳥は先ほどの一部始終を収めたデジカメをパソコンに繋ぎながらニンマリと満足げに笑う。

 途中、真と萩原プロデューサーの武闘トークで妄想を膨らませながら仕事をする小鳥。忘れ物に気が付いたのはお昼ごろになって萩原プロデューサーの机の上にある空のグラスを見つけた時である。

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 翌日、朝。765プロ事務所。

 萩原プロデューサーは腰を押さえながら出社していた。

 

「プロデューサーさん?腰なんか押さえてどうしたんですか?」

 

 それに一番に気が付いたのが春香。萩原プロデューサーの様子をみるなり心配した面持ちで近寄ってきた。

 

「おお、春香ちゃんか…実は昨日まこくんに捕まって手合せしたい言うから付き合ってあげたら腰いわしてしもてな」

「あちゃー。私も真の稽古に付き合った次の日は筋肉痛になりましたからねー」

 

 萩原プロデューサーは意外と武闘派である。空手と柔道の段位を持っていると真が知ったのは昨日の事であり、彼女に格闘技に明るい友達が少ない為か四時間近く練習に付き合わされたのだ。

 真いわく良く知っている人と稽古をするのは楽しいとか。

 

「あ、そうだ!」

 

 春香が思い出したように鞄を探る。そこからはメントールの独特の匂いが漂い始めた。

 

「じゃーん!今日湿布持ってきてあるんですよ!」

 

 得意げに取り出したのは湿布だった。さしもの萩原プロデューサーもこれには困惑。

 

「なんでそんなん持っとんねや」

「えーと。実は私、昨日も転んじゃいまして…。それで手首ひねっちゃったんです」

 

 春香は視線をそらしながら気まずそうに答える。対して萩原プロデューサーは困った顔。

 

「湿布くさいアイドルとか需要ないで」

「ですよねー。だからその気持ちのおすそ分けです!」

 

 春香が湿布を構えて萩原プロデューサーの後ろからシャツをめくった。

 そして春香は背中の『とあるモノ』をみてビックリして、シャツから手を離してしまった。

 パサリと音を立ててシャツが元の位置に戻る。

 

「…ええと、見た?」

「…はい、バッチリと」

 

 

 

 

 

 同時刻、給湯室で伊織は鋭い目つきで萩原プロデューサーを覗き見ていた。

 

「やっぱり筋モノだったのね…」

 

 伊織は極道が背中に入れ墨を入れることを知っている。だからこそ先ほどの春香の反応を簡単に理解できたのだ。

 ぎゅっと拳を握って覚悟を決め、二人の前に姿を現す。

 

「ちょっと、プロデューサー!」

「ん?どしたんや伊織ちゃん」

「どうした、じゃないわ!その背中を検めさせてもらうわよ!」

「えっ!おっ!なんでな!?」

「ちょっちょっ!事務所で暴れちゃダメだって!」

 

 どうどうと諌めるも伊織は止まらず、萩原プロデューサーの背中を執拗に狙う。萩原プロデューサーも抵抗するが、腰を痛めているためうまく動くことが出来なかった。

 そしてとうとう伊織の魔の手が萩原プロデューサーのシャツを捉え、一気にめくり上げられる。

 そこにあった物とは。

 

「…ふぇ?」

 

 じんましんの出た筋肉質な中年の背中だった。

 そう、萩原プロデューサーは意外と敏感肌だったのだ。

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

「なるほどなー。伊織ちゃんはワシがヤクザ者ちゃうんかと疑っとったって訳やね」

「う…だってしょうがないじゃない」

 

 どう見たって筋モノなんだもの、と伊織は口ごもった。それを耳聡く聞いてうんうんと頷く春香。

 

「まあ見てもらったとおり、ワシはただの敏感肌な一般人や」

「一般的な見た目じゃない人を一般人とは呼ばないわよ…」

 

 その言葉に春香は内心もっともだと思った。

 良い人だと判っていてもその笑顔をみるとビクリと体を震わせてしまうのだ。この人を一般人と呼ぶならばおかしなスイッチの入った状態の小鳥さんですら一般人の範疇に収まるだろうと失礼な事を考える。

 なお、当の小鳥は「プロデューサーさんの背中には龍とか彫ってるのかと思ってました」とつぶやきながら素知らぬ顔で萩原プロデューサーと伊織と春香のスリーショットを撮っていた。

 

 後日この写真が律子によって発見されるが、その写真というものが『ガンを飛ばすように笑う萩原プロデューサーと呆れたような顔の伊織、そしてその間で湿布を持ったままオロオロする春香』という意味不明な物だったため何のお咎めもなくそっとパソコンから削除された。

 

 

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