Infinite GrandOrder ~異世界から帰還した魔術使い~(凍結)   作:ursus

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第十一話~望まない再会~

 

 厄日としか言いようがない。更識簪は物陰に隠れながら亡霊のような生物の様子を伺う。何故このような命がけの鬼ごっこをする羽目になったのか、簪自身分からない。

 しかし、立ち止まっている暇なんてない。

 

簪「このままじゃ終われない」

 

 何故なら、自分にはどうしても生きたなきゃいけない理由があるのだから。

 

 

 その経緯は昨日の夜に遡る。

 

簪『お父さん、……そしてお姉ちゃん。私はこの家を―――――更識家を出ます』

 

 明かりが行燈しかない薄暗い部屋で父であり、先代の楯無(・・・・・)に家を出ると宣言した。その宣言を父の後ろで聞いていた従者二人は目を丸くし、姉は自分が家を出る理由を知っているが故に顔を青している。

 すると、今まで黙っていた父が腕を組んだまま漸く口を開いた。

 

更識父『……この家を出てどうやって生きていくつもりだ?』

 

簪『私は自分が思うように生きたい』

 

更識父『……そうか。お前が悔いが残らないのであれば私は何も言わない』

 

 簪の顔を見た更識父は意外なほどあっさり納得してくれた。しかし、この中でただ一人、納得しきれていない人物がいた。

 

楯無『それはまだ早いわ。だって、貴方はまだ高校生なのよ?今更一人で生きて行くなんて無謀すぎるわ』

 

 そう、簪の姉である現楯無(・・・)である。

 尤もらしい事を言っているが本当は自分を手元に置いておきたい気持ちが顔に出ている。

 

父『刀奈(・・)、口を挟むな。簪はお前が思っている程子供でもはないのだ。姉ならば妹の成長を褒めるべきだ』

 

 子供に家督を譲っているにも係わらず有無を言わせぬ迫力があったため楯無は口を閉じる事しかできなかった。

 

更識父『一つ訊こう。お前は刀奈と離れる事を本当に後悔をしていないのか?』

 

簪『後悔はしていません。当主の席はもう埋まり、今日まで姉や家の者に蔑まれてきた身。この家に留まる理由がもうありません』

 

楯無『そ、それは……』

 

簪『実際にそうでしょ?私がこれまで積み上げてきた努力を貴方は無駄だと言い切った事を忘れたとは言わせない』

 

 覆水盆に返らずとはきっとこの姉妹の関係の事を指すのだろう。本当は励ましの言葉を送りたかったのに肝心な所で履き違えてしまったのだ。

 

簪『お姉ちゃん―――――いや、更識刀奈。私は……貴方が嫌いです』

 

 その一言でとうとう目の光が消えて項垂れてしまった楯無であったが簪にとっては些末な事だった。寧ろ、今まで溜めてきた黒い思いを吐き出して清々している。

 

更識父『………虚に本音よ、すまないが刀奈を連れて部屋から出てはくれぬか?ここから先は二人で話がしたい』

 

虚『わ、分かりました』

 

 糸の切れた人形のように項垂れている楯無を抱えて部屋から出て行き、残ったのは父と簪だけだった。

 

簪『………意外でした、清々すると言われるのを覚悟していましたので』

 

更識父『お前は私が非情な人間だと思っているのか?私だって親の情くらいはある。娘が自分で決めた夢を否定する親なんていないさ』

 

 自分の後継者を決めるために冷たく接していたが娘を持つ親。結果はどうあれ、簪が姉を超えようと必死に努力している事は理解しているし応援もしている。

 

更識父『荷物はどうするんだ?』

 

簪『処分してください。姉の事なら発信器や盗聴器を付けて尾行するかもしれないから』

 

 さも有り得ない話ではない。

 刀奈は簪を溺愛するあまり人として踏み入ってはいけない境界線を越えようとするだろう。

 

更識父『家の手配や生活費は私が工面しよう。お前は必要な道具を買いに行きなさい。頑張るのだぞ』

 

 

 父からの援助を受けて簪は宣言通りに更識家を出た。家も決まり、後は必要な家具や雑貨を購入するだけと思った時、空が一瞬だけ白くなったと思ったらIS学園で見たのと同じ敵に遭遇してしまった。

 

 肩の荷が降りた矢先に奇怪な事件に巻き込まれるとは思ってもみなかった。こう思っているのは多分自分だけではないはずだ。

 

簪「(でも…諦めたりはしない)」

 

 家の柵から抜け出してやっと自分の足で立って生きるために死ぬつもりは毛頭ない。音をたてないように走っているとツインテールの少女に出くわした。

 その少女も自分の存在に気付いたのか目を丸くした。お互い初対面だが名前を知らないわけではない。

 

鈴「アンタは……確か日本の代表候補生の更識簪よね?」

 

簪「うん。貴方は中国の代表候補生の凰鈴音(ファン・リンイン)さん」

 

鈴「さんはいらないし。鈴で良いわ」

 

 国は違えど同じ代表候補生であるため名前と顔くらいはちゃんと把握している。

 

簪「どうして貴方が此処に?」

 

鈴「私は国に帰らずにずっと千冬さんのお世話をしていたの。あの人は今日が退院日だから退院祝いの御馳走の買い出しから帰ろうとしたらさっきのような奴らに襲われた」

 

簪「それは私も同じ」

 

 二人揃って同じ危険に見舞われるとは何の因果だろうか。

 しかし、一人では難しいが二人でならなんとかなるかもしれない。

 

簪「一緒に」

 

鈴「そうね。その方がずっと堅実的だわ」

 

 鈴は親しい人のために、簪は自分の未来のために。二人はお互いを支え合う様にこの場から脱するために逃げながら考えていた。

 

 

 

******

 

 

 

 時を同じくしてシャルロットはジャンヌ・ダルクの服装を買いに何とか怪しまれずに近くの店に入ることができた。

 ジャンヌが試着室で着替えている間、一夏に宝石を渡されたシャルロットはその時の笑顔を思い浮かべていた。

 

シャルロット「(それにしても……がめつくなったと言うか……強かになったと言うか…)」

 

 渡された宝石を質屋に売った結果、何百万と値が付いた。カルデアに飛ばされていたのによくこんな高価な金目の物を用意できたのかシャルロットには見当もつかなかった。本人も黒い笑みを浮かべて内緒と言っていた。

 彼が契約したサーヴァントであるランスロット(セイバー)に話を聞くとウルクの賢王と言うサーヴァントから宝石をほんの少し頂いたそうだ。

 

シャルロット「(黒くなったよね、一夏は)」

 

 これをプラスにとっていいのか、マイナスにとっていいのか微妙なラインではある。しかし、特異点を巡ってきた一夏にとってこの特異点の性質上、必要になるかもしれないと直感的に見抜いていた。

 

ジャンヌ「どうでしょうか?」

 

 色々と考えていると試着室から学校の制服によく似たデザインの服装をしたジャンヌが出てきた。

 

シャルロット「似合っていますよ」

 

 カルデアでは普段から鎧を着てる彼女だが現代の服を着ると違った印象を受ける。何も知らない人から見れば女子同士の買い物に見えるだろうが片方は人ではなくサーヴァントだ。

 

シャルロット「(僕ってすごい事をしているかも……)」

 

 サーヴァントとはいえ歴史の偉人と一緒に買い物をしているのだ。一般人の感覚が抜けきっていないシャルロットは内心で呆けていた。因みに一夏はレイシフトと言うタイムトラベルを行ったため羨ましがる人が多いだろうが、本人は命がいくらあっても足りないと力説していた。

 買う物も買ったし自分達も情報収集を行おうと思った瞬間、背筋に不快感が駆け抜けた。

 

ジャンヌ「気付きましたか、マスター?」

 

シャルロット「うん。これって学園の時と同じ……」

 

 彼女の脳裏には破壊されたIS学園が浮かんだ。また人の死を目にしなければいけないと思うと体が震えだす。それに加えてシャルロットは始めて魔術師として戦場に立つのだから恐怖を抱かないわけがなかった。

 

ジャンヌ「大丈夫ですよ」

 

シャルロット「ルーラー?」

 

 過呼吸になりそうなシャルロットの手を握ったのはジャンヌ(ルーラー)だった。その笑みはまさしく聖女だった。

 

ジャンヌ「恐怖は誰にだってあります。ですが、貴方一人で戦っているわけではありません。私も一緒に戦います」

 

 彼女の言葉にほんの少しの勇気を貰った気がした。100年戦争で戦った兵士も特異点で彼女のマスターとして立った一夏も同じ気持ちだったのかもしれない。

 

ジャンヌ「行きましょう」

 

シャルロット「はい!」

 

 正直に言ってまだ怖い。

 けど、自分をマスターと仰ぐ彼女と一緒ならできそうな気がしてきた。

 

 

 

******

 

 

 

 別の場所でも一夏とランスロット(セイバー)がシャルロットが感じた気配を察知していた。

 

ランスロット[マスター、貴方もお気付きかと思いますが…]

 

一夏「そうだな。どう考えても可笑しいの一言に尽きる。ここら一帯の時間軸(・・・)が可笑しい。そろそろ月が出ても良い時間帯なのに空がずっと夕日のままだ」

 

 昼と夜が移り変わる夕方。日本では妖怪や幽霊等怪しい存在が出そうな時間として逢魔が刻と呼ばれている。

 昼に戻らず、夜にもなれない薄暗い色に固定された空に警戒の色がさらに強くなった。

 

ランスロット[もう少し調べてみますか?]

 

一夏「いや、この辺が潮時だ。拠点も決まって欲しい情報も手に入った。今は合流する事が先だ。ルーラーが傍にいるから大丈夫だとは思うが心配だ」

 

 このまま引き続き調査を続けるかと思ったがその欲目を捨てた。準備ができていない状態で乗り込むのは危険だと第六感が告げている。特異点先でも一夏の直感はよく当たるのだ。

 それにシャルロットの事も一応護身としてルーン魔術を使えるし、ジャンヌ・ダルク(ルーラー)もいるので大抵の敵なら問題は無い。

 しかし、この世では万が一の事が起き得るのだ。

 

一夏「(しかし、この異様な殺気は何だ?)」

 

 例えるなら仇敵が目の前に現れたような抑圧された殺しへの欲望が爆発した瞬間に似た気配に首を傾げるが心の隅に置いた。

 

一夏「徒歩(かち)で戻るのは些か遠いな」

 

 色々と調べるつもりで歩き回ったが合流地点から遠くまで来てしまったようだ。どうしたものかと考えていると不法投棄された一台の六人乗りのバンが視界に入った。触れて解析してみるとエンジンもバッテリーも健在だ。大方、持ち主が気に入らなかったから勝手に棄てたのだろう。

 勿体ないと思った瞬間、一夏はある事を閃いた。

 

ランスロット[ま、マスター?]

 

一夏「俺の記憶違いじゃなければセイバークラスには騎乗スキル(・・・・・)が備わっていたよな?」

 

 彼が言わんとしていることが分かったのか顔が引き攣るが一夏(マスター)の目は本気だった。

 どう言い含めようかと考えていたがその思考はすぐに打ち切られる事となった。

 

???「…………一夏?」

 

 不意に聞こえた覚えのある声に振り返ってみるとバンダナをした赤に近い茶髪少年が立っていた。

 

一夏「――――――――――弾」

 

 その人物は一夏の大の親友である五反田弾だった。

 

 

 

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