Infinite GrandOrder ~異世界から帰還した魔術使い~(凍結)   作:ursus

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第二十二話~憎悪の巨狼~

 カルデアの管制室では特異点の解析や一夏達の周囲にいるエネミーサーチでスタッフが世話しなく動いている。そのなかでダ・ヴィンチだけは物言わぬ像のように考え事をしていた。

 

マシュ「ダ・ヴィンチさん、どうかなさいましたか?」

 

ダ・ヴィンチ「一夏君が言っていた人を考えていた」

 

マシュ「先輩のお姉さんですか?」

 

ダ・ヴィンチ「いや、そのお姉さんのお友達」

 

マシュ「確か『篠ノ之束』と言っていました。ISという兵器を作ったとか」

 

 一夏は実姉の私生活を語る事は多かったが束の事はあまり出てこなかったが何を考えているのかわからない人物だと言っていた。しかし、英雄王や発明王といった面々は彼女に対して酷い評価を下していた。

 

ダ・ヴィンチ「彼は私にこんなことを言っていたよ」

 

 

――――――――――――――――

 

 

一夏『昔の俺ならあの人の事を深く見る事をしなかった。でも、今ならなんとなくだけど見えてきたんです。あの人…束さんは人類悪よりも質が悪い人物です』

 

 お人好しの塊と言うべき彼がそこまで断言できる人物とは歪な人物なのか。渋面を作るも聞いてみたい。

 

ダ・ヴィンチ「理由を聞こうじゃないか」

 

一夏『人理焼却を行ったゲーティアやティアマトはそれぞれ理由があった。今まで戦ってきたサーヴァント達もそれぞれ戦うための理由も覚悟もあった。けど、あの人にはそういうものがない』

 

 サーヴァント達に毒されたわけでもなく今まで足跡を辿って答えを導き出した。理由がないというだけでここまで歪むことができるのか、一夏には分からない。しかし、このまま放置しても最悪な結果を引き起こす可能性だってある。

 

一夏『もし、あの人と相対する事があるのなら俺が相手をします』

 

ダ・ヴィンチ「殺すのかい?」

 

一夏『流石に殺しませんけど、殺すつもりで相手しないと何をしでかすか分かりません。なんせあの人は天災ですから』

 

 このときのダ・ヴィンチはロマニがいれば束をどう評価したのだろうかと疑問に思った。一夏と同じ考えに至ったのだろうか、それとも別の視点で考えを言っていたかもしれない。

 そんな「たられば」は現実には意味をなさない。

 

 

――――――――――――

 

 

マシュ「そんな話があったのですか…」

 

ダ・ヴィンチ「いやはや、彼の世界は特異点並みに厄介なものだよ。まぁ、私としては手を出してほしくないね」

 

 少なくともこれは魔術に携わる者達が解決しなければいけない問題だ。これ以上事態を引っ掻き回す存在は出てほしくないと切に願うダ・ヴィンチであった。

 

 

 

***********************

 

 

 

 その頃、一夏達は正体不明の敵と対峙していた。3mは超えているであろう巨体の狼とそれに跨る首のない騎士。

 

一夏「(今まで見たことがないサーヴァントだ。英霊でも反英霊でも、ましてや守護者でもない…こいつは一体何者だ?)」

 

 巨狼から発する殺気に呑まれないように抗いながら油断せず観察する。

 

一夏「(感じとしてはゴルゴーンやジャンヌ・オルタに近いが…こいつの真名が分からん)気を付けろ、こいつは今までの敵で一番厄介な奴だ」

 

 一夏以外にも他のサーヴァント達も敵の異常性に気付いたのか各々武器を構えて対応しようとしている。

 その中でシャルロットは動けなかった。

 

シャルロット「(怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い!)」

 

 誰かを恨んだり、憎んだりすることはシャルロットもするし理解できる。しかし、今までに感じたことのない憎悪に呑まれている。

 まるで憎悪の化身と言うべき敵に戦意が折れかかっているのだ。

 

ジャンヌ「マスター!」

 

 好機と思い、巨狼は動けないシャルロットに狙いを定め、口に銜えている鎌でその命を刈ろうとする。しかし、シャルロットの近くにいたジャンヌに咄嗟に旗槍でその一撃を受け止められて失敗に終わった。

 

シャルロット「る、ルーラー…」

 

 漸く自分の置かれている状況を察し、どうにか立ち直ることができたシャルロットの態勢を整えるために一夏はすぐに矢を放ちそいつを無理矢理引き離した。

 

一夏「俺が牽制するからセイバーとバーサーカーは攻撃してくれ」

 

ランスロット「分かりました」

 

ヘラクレス「■■■■■!」

 

 赤熱した矢を番え、周囲に刀剣を展開して攻撃態勢に入る一夏。ランスロット(セイバー)ヘラクレス(バーサーカー)も頷いて攻撃する。

 しかし、巨狼の動きは素早いため中々攻撃が当たらない。

 

一夏「ちっ、速いな」

 

 予想よりも素早い動きに悪態を吐きながらも巨狼に牽制をしかけて動きを妨害する。

 

一夏「こいつはISのハイパーセンサーがあっても追いつけねぇぞ」

 

 少なくとも代表候補生程度では簡単にやられるだろうと思い、巨狼の動きを観察する。二人一組のサーヴァントはこれまでの特異点で見かけた。敵対している巨狼と首無しの騎士はその部類と視ていいだろう。

 しかし、彼らとの決定的な違いは行動権があくまで巨狼の方であることだ。

 

シャルロット「ルーラー、真名看破であのサーヴァントの真名は分かりますか?」

 

 ルーラーの特権である真名看破でサーヴァントの弱点を探ろうとしたが本人は渋面を作っていた。

 

ジャンヌ「真名は視えましたがどのような英霊なのか分からないのです」

 

 聖杯からの知識でも真名以外は分からないサーヴァントはいる。サーヴァントには召喚された時、神代から現在まで伝わる英雄豪傑達はその各時代、各国の逸話が情報として与えられるため真名さえ明らかにすれば、そのサーヴァントが何者であるかすぐに理解できる。ただし、抑止の守護者(エミヤ)のような例外は存在する。

 このサーヴァントも例外の一つだろう。

 

一夏「(せめてこいつがどこの英霊なのか分かればいいんだけど…)名前は?」

 

ジャンヌ「ヘシアン・ロボです」

 

 確かに聞いたことのない名前に一夏は矢を番えながら作戦を考える。

 アキレウスのようなアキレス腱もなければヘラクレスのような有名な英霊でもない。どうやって打破しようと案が浮かんでは消していく。

 

???「―――――――!?」

 

 巨狼は突然動きを止めるや否や明後日の方向を向いて走り去っていく。

 

シャルロット「どうして急に攻撃を中断したんだろう?」

 

一夏「分からない。少なくとも俺たちは命拾いした」

 

 ジャンヌに真名を看破されたからなのか幾らでも殺せる機会はあったのに途中で辞めたのか分からない。しかし、このままやりあっていたら自分たちは殺されていただろう。そう思うと頭が痛くなりながらも弓を降ろした。

 

一夏「またやり合う前に少しでも情報が欲しいな」

 

シャルロット「そうだね。真名が判明してもどういったサーヴァントなのか分からないままだしね」

 

???『お困りのようだね』

 

 どうしたものかと考え始めると急に通信が繋がった。マシュかと思ったらパイプを咥えた紳士が映し出されていた。

 

 

 

****************************************

 

 

 

 凰鈴音は困惑していた。支部の防衛にあたっていた操縦者の大半は死に残った操縦者も負傷している。

 それだけならまだいい。よくは無いが、尽力した結果でしかない事実に覆すことはできない。今解決しなければならない問題は部隊の最高責任者の千冬に呂布とインフェルノの存在が露見してしまったことだ。

 

千冬「凰、更識。こいつらは一体何者だ?」

 

鈴「それがこいつが敵じゃないこと以外はまったくわかりません」

 

簪「私も同じです」

 

 魔術師でもないのにサーヴァントの説明を求めるのは無理な話だがそんなことはお構いなしに千冬は懐疑の目を向けている。

 

インフェルノ「我々は貴女に敵対する意思はありません」

 

千冬「そう言うがいつ我らが裏切るか分からない以上、信用できん」

 

 助けてもらったのは感謝している。しかし幾ら言葉を並べても信用するか否かは別の問題であるためおいそれと首を縦に振るわけにもいかない。

 

鈴「(どうすりゃいいのよ!!!)」

 

 段々重くなる空気に鈴は内心頭を抱えて簪の方を見るが彼女も鈴と同じで困惑していた。

しかし、質疑応答はここまでだった。どこからともなく狼の遠吠えが聞こえ、その数秒後には首無しの騎士と巨狼がやってきた。

 

千冬「新手か!?」

 

 一応軽傷の操縦者に見張り役を置いていたが巨狼の口から血が滴り落ちているところを察するにもうこの世にはいないだろう。疲弊している時に敵襲に遭うがそれでも千冬達は身構える。

 一触即発の雰囲気に水を差すように空から幾振りの剣と共に降りてきた。赤いコートの背中には見覚えがあった。

 

鈴「う、嘘でしょ…」

 

千冬「一夏…なのか?」

 

 一年近く行方不明だった大切な人をどう間違えるというのだ。一夏の後を追うようにシャルロットや他のサーヴァントも降りてきた。

 

一夏「もう一人サーヴァントと契約した人がいたのか」

 

 驚いている鈴と千冬を無視して一夏は簪がサーヴァントと契約していることに驚いている。

 自分に関心を持っていないことに気付いた鈴は詰め寄ろうとしたがシャルロットに止められた。

 

シャルロット「ごめんね、今はそれどころじゃないんだ」

 

鈴「っ!?後で説明しなさいよ」

 

 渋々といった感じで怒りを収める鈴にシャルロットは内心苦笑する。もし、立場が逆なら同じことをしていただろうと思っていたからだ。

 

ジャンヌ「契約者を守るために手を貸してくれますか、呂布奉先、巴御前(・・・)

 

インフェルノ「……やはり、看破されてしまいましたか」

 

簪「インフェルノさん?」

 

インフェルノ「はい、私の名は()。巴御前…などと、余人に呼ばれることもありましたか。義仲様にこの身を捧げたものではありますが、今は、あなたにお仕えするサーヴァントにございます」

 

 そのセリフだけで簪の目を丸くするには十分だった。巴御前と言う名を聞けば知らない日本人はいないはず。何故鎌倉前期の人物が現代に蘇ったのか、そして目の前にいる巌のような巨人や気品溢れる女性は何者なのか疑問が尽きない。

 

鈴「サーヴァントって何よ?」

 

一夏「簡単に言えば完成された使い魔」

 

 鈴の質問に端的に答える一夏はヘシアン・ロボから目を離していない。

 

千冬「い、一夏…何がどう―――」

 

一夏「ごめんな、千冬姉」

 

 説明を求める千冬に一夏は殴って気絶させた。本当なら姉も幼馴染も他の人達も巻き込みたくはなかった。

 それがエゴであることは重々承知している。

 

一夏「そろそろ休め、復讐者(アヴェンジャー)。お前は十分走り続けただろう」

 

 実姉に対しての後悔、目の前のサーヴァントへの憐憫に似た思いを口にした一夏は僅か数秒で戦う者の空気に変える。呼吸を整えて自分の魔術回路を叩き起こし、魔力を巡らせる。

流れる魔力が熱を持ち始め、それが彼の体を焼く。しかし、一夏はそれを気にすることなくある言葉を口にする。

 

一夏「 I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている。)――――――――」

 

 

 

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