Infinite GrandOrder ~異世界から帰還した魔術使い~(凍結)   作:ursus

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第二十四話~別離~

 

 無限の剣が突き刺さった荒野が崩壊して元のアスファルトで舗装された道に戻った。巨狼は粒子となって消えかけているが消滅には時間がある。

 

一夏「ぐっ…が!」

 

 止めの一撃を決めようとした一夏であったが全身を焼けるような痛みが体の隅から隅にめぐり、思わず地面に膝をついてしまった。

 

シャルロット「だ、大丈夫!?」

 

一夏「なんとか…な」

 

 固有結界の発動は一夏に多大な負荷がかかる。しかし、限界などとうに超えていることを知っている一夏は気にはしていない。

 痛みに耐える際に中を切ったのか口内は鉄の味でいっぱいだ。一夏は干将だけを投影して構える。

 

ランスロット「マスターは休んでください。私が…」

 

 これ以上の無理はさせまいとランスロットが愛剣を携えて巨狼の首をはねようとした。

 しかし、首無しの騎士に遮られてできなかった。

 

ランスロット「どけ!」

 

 再び剣を構えるランスロットであったが首無しの騎士は得物を捨て、腕を大きく広げてランスロット等の行く手を阻む。

 

シャルロット「さっきの攻撃で霊核がもう…」

 

 彼女の言うようにすでに決着がついていたのだ。これ以上巨狼を傷つけさせないために壁になろうとしたのだ。

 

一夏「乗り手の責任を全うしようとしているのか」

 

 物言わぬ騎士であったがそこにはちゃんと意思があったのだ。動けない一夏達を尻目に巨狼の遠吠えと共に消え、首無しの騎士も後を追うように消えた。

 

鈴「す、すごい…」

 

 その一言だけ口にした。

 いや、それだけしか言えなかったのだ。自分が知りうる常識が目の前で崩れ去り、その一端を担っているのが幼馴染ならなおさらだ。

 

簪「織斑一夏…」

 

一夏「どうして俺の名前を知って…あぁ、世界初のISの男性操縦者だったな」

 

 簪が何故自分の名前を知っているのかと疑問に思ったがすぐにその理由に辿り着いた。魔術の訓練や人理修復に力を注いでいたため頭から抜けていた。

 

簪「私は貴方の事が好きじゃない」

 

一夏「初対面で言うセリフじゃないだろ、それ」

 

 聞けば白式のせいで本来作ってもらうはずだった専用機が凍結し、今でも自分で作る羽目になっているのだ。

 これを聞いた一夏は頭が痛くなってきた。自分に原因があるとはいえ、技術者としてそれはないだろう。

 

一夏「それはすまなかった」

 

簪「分かっている、貴方が全部悪いってわけじゃないのは」

 

 彼女自身も彼が悪いわけじゃないのは理解しているし、それが嫉みであることは分かっていた。

 

一夏「で、俺を捕まえるのか?」

 

 鈴も簪も代表候補生に籍を置くため一夏を捕まえるのは必定といえよう。しかし、二人は動かなかった。

 いや、動けなかったという表現が正しい。

 

鈴「そ、それは…」

 

 正直に言うと迷っている。

 今回の事件だけではなく、IS学園の崩壊事件にも関わりがあるのは目の前にいる少年だ。原因であろう情報を持っているかもしれない。しかし、助けてもらった恩もあるため仇で返したくない。

 

???「更識妹、凰。こいつらを拘束しろ」

 

 しかし、第三者の声が二人の思考を遮った。

 

シャルロット「……織斑先生」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 千冬が目を覚ましたのは巨狼との戦いが終わったすぐだ。ボロボロになりながら敵と戦う姿は成長したと思う。

 しかし、それと同じくらいまた自分から離れていく気がして怖くて溜まらなかった。だから、多少強引でも手元に置きたかった。

 

鈴「千冬さ…織斑先生、だって……」

 

千冬「気持ちは分かる。だが、それとこれとでは話が違う。織斑、今回の一連の事件の情報を全部吐いてもらう」

 

 彼女が公私混同する人物ではないのは分かっている。しかし、少しの温情があってもいいと思っている。

 千冬はこの一連の事件は一夏が重要な情報を握っている事を察している。これ以上、犠牲を増やしたくない故に話してほしい。

 しかし、一夏は首を横に振った。

 

一夏「生憎、アンタらに喋る情報はない。あるとしても今のアンタやISの操縦者じゃ絶対に解決できない。だから、この事件から手を引けとしか言わん」

 

 一蹴した言葉と共に喜怒哀楽と言った感情の凡てを無くしたような瞳で千冬達を見ている。その視線が鈴にはたまらなく怖い。

 

千冬「ほぉ…暫く見ない間にえらくなったものだな」

 

 あくまでもこっちに主導権があると威圧的な態度をとる千冬に一夏は眉間に皺をよせる。相変わらずといえば、相変わらずだが、その態度で交渉が通ると信じていると思うと頭が痛くなる。

 尤も、彼の一言ですぐにその態度がとれなくなってしまう。

 

一夏「……そっちこそ今まで散々騙しておいてよく言えたもんだな、偽り(・・)の姉さんよ」

 

 そのセリフで千冬の顔から血の気が引いた。何のことかよく分かっていない鈴と簪は首を傾げる。

 

簪「それってどういう…」

 

一夏「どうもこうも、俺と千冬姉…いや、織斑千冬とは最初から家族じゃなかったんだよ。俺もこの人も人為的に作られたデザインベビーだ」

 

 語られる言葉に鈴は鈍器で頭を殴られた衝撃に襲われた。

 嘘だと信じたい。けど、彼の言葉が本当なら彼の過去の辻褄が合う。

 

千冬「どこで知った?」

 

一夏「デザインベビーだと知ったのは俺を助けてくれた組織の人達から、生まれた目的に関しては束さんから」

 

 隠しておきたかったすべてが知られてしまったことに千冬は青かった顔がさらに血の気がなくなって白くなろうとしていた。

 

一夏「確かに俺はあんたに育ててもらった。それへの感謝しきれない恩も情もある」

 

 一呼吸おいて一夏は千冬を見据える。刃のような鋭さを宿した瞳に千冬は恐怖した。

 

一夏「けど、俺は人としてアンタに失望した。家族ならもう少し信じてほしかった。たとえ、辛い事実でも言ってほしかった。…そんなに()が信じられないのか?」

 

 その一言は千冬の心を砕くには十分すぎた。

 

千冬「違う。違う違う違う違う違う違う違う違う違う!私は本当にお前を愛している!信じている!?」

 

 まるで何一つない虚無の世界に取り残された子供のように、叫び声をあげる千冬を一夏は黙って見ていた。

 ここまで取り乱した姉を見たことあっただろうか。少なくとも、自分の記憶の中では見たことがなかった。

 一夏は誰よりも強かったと思っていた人がこんなにも脆いとは思わなかった。だが、彼女の在り方も想いも否定はしないし、彼女が人としての弱みがあって良かったと思っている。

 自分()を守りたいと言う思いは千冬本人が生まれた感情で(自分)に注いでくれた愛情も本物だ。

 しかし、彼女は両親がいない環境のせいで誰に対しても弱みを見せる事をしなかった。それ故に無意識のうちに他者との壁を作り、孤独になってしまった。

 

シャルロット「一夏…」

 

 ずっと無表情でいる一夏と譫言のように弟の名前を呼び続ける千冬にシャルロットは痛ましく思う。どうしてこんなことになったのだろうか。一夏が人理修復を行ったから?ISが出現したから?様々なもしも(if)が脳裏を埋め尽くしてもこの現実は覆らない。

 考えているシャルロットを他所に一夏は疲労困憊で動けない体に鞭を打って千冬の前に立つ。

 そして笑顔を見せる。

 

一夏「千冬姉。もし、凡て終わったら…また姉弟(きょうだい)になろう」

 

千冬「一夏…」

 

一夏「いろんな言葉を並べても過ごした時間は変わらない。間違えたのなら今度は間違えないようにしようぜ」

 

 血が繋がっていなくても織斑一夏の家族は織斑千冬ただ一人だ。今度こそ意味をはき違えないように、お互いを強み・弱みを言い合えるように。

 

千冬「あぁ…そうだな」

 

 痛みでぎこちなく笑う一夏の姿を焼き付けるようにしっかりと見る。

 自分はこれまでしてきたことは間違いだった。この結果を生涯に渡って後悔するだろう。だが、失敗してもいい。自らの行いを間違いだと認め、後悔しているのなら抱いた想いは間違いではないのだから。

 

シャルロット「(こういう所は本当に変わらないな…)」

 

 魔術を扱う者として合理的に考えることができても根本的な部分は変わらない。

 この状況が少しでもいいから長く続いて欲しいと願うがそうも言ってはいられない。レイシフトが始まって自分たちの姿が消えかかっている。

 

一夏「次会う時まで…さよなら」

 

 そう言って一夏とシャルロット、そして彼らと契約しているサーヴァント達は千冬達の目の前で姿を消した。

 

 

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