Infinite GrandOrder ~異世界から帰還した魔術使い~(凍結)   作:ursus

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第二十五話~事件の後~

 夜のカルデアの廊下を一夏は一人歩いていた。バイタルチェックの後、今回の顛末を聞いたエミヤに捕まって延々と説教され、漸く解放されて部屋に戻る最中なのだ。

 

一夏「(侵食が進んでいるな…)」

 

 怒られた内容を思い出すかのように無意識に自身の左肩を掴む。

 まだ髪の毛は白くなっていないものの、左肩や右の脇腹はすでに浅黒く変色している。後、何回か無茶をすれば抑止の守護者になってしまうかもしれない。

 

一夏「髪の毛は染めれば何とかなるけど、問題は肌の色だな…」

 

 髪は黒に染めれば怪しまれないが、変色してしまった、肌はどうにもならない。

 普段は無茶をしない程度に押しとどめているが必要なら無茶でも何でもする。もしうなった場合、果たして人として生きられるのはどれくらいになるだろうか。

 

一夏「誰かを助けると言う事は誰かを助けないと同義か……」

 

 不意に呟いたのはエミヤが生前に直面した体験談をしてくれた時の言葉だ。

 エミヤを召喚して暫く経った後に誰かを守れる力が欲しいと言った時、かの守護者は苦々しい顔と共にそう言った。

 何かを成し遂げたければ相応の対価が必要になる。最小限に抑えることはできても0にはならない。

 

一夏「ままならないな」

 

 彼自身、戦わなければならないと言われて傷つくことに対して覚悟はしていた。

 しかし、その覚悟が甘いと言わざるを得なかった。どれだけ尽力し、手を伸ばし続けても零れてしまう命。後悔と表すのは語弊がある。けれど、もっといい方法があったのではないか、効率よく立ち回れることはできなかったのかとそれに感情が渦巻いている。

 そして今回のレイシフト。知人に会ったが改めて彼女が歪み切っていることを思い知らされた。

 英霊に反英霊、神霊、そして抑止の守護者と言った者たちはそれぞれに掲げた理想、願い、信念、そして正義があった。だからこそ時には手を取り合い、そして刃を交えた。そんな彼らだったからこそ、善悪二元論では語れなかった。

 しかし久々に会う篠ノ之束(天災)はサーヴァント達や人類悪とも違う。理由を問いただしても期待した答えなんて出やしないだろう。彼女は善く言えば、無邪気、悪く言えば子供。故に善悪の判断する力がとても弱い。理由がなければ信念も理想も正義もなく、ただそうしたいからと振舞う。

 彼女を殺してでもバーサーカーをけしかけたのは一回絶望に叩き落し、矯正させようとした。尤も、この程度で死ぬのなら最初から天災なんて異名はない。

 

一夏「きっかけになればいいが…」

 

???「――――――――無理だろ」

 

 不意に聞こえた底冷えする声に一夏は反射的に干将・莫耶を投影して構えるが、そこには誰もいなかった。

 部屋に戻るとアサシン一体、バーサーカー二体が潜り込んでいた事に先程とは別の意味で頭を抱える羽目になるのは数分後の話である。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 一夏より早く自室に戻ったシャルロットはベッドに体を預けるとすぐに眠ってしまった。初めての特異点、そして魔神柱との戦闘。その凡てが彼女にとって過度な疲労を与えていたためである。

 そして見るのはいつもと同じ夢。ISを纏った女性の屍の山、その頂に一人佇む少年。

 

シャルロット「貴方は一体…誰ですか?」

 

???「俺か?俺は守護者だよ」

 

 満身創痍の体に血まみれの剣。白髪で浅黒く、その顔立ちは自分が恋をしている人物とそっくりというか本人だ。いずれ辿るかもしれない未来の彼。

 

シャルロット「多くの人達の命を奪ったの?」

 

一夏?「あぁ。こうでもしなければ犠牲者が増えるからな」

 

 心まで摩耗しているのかどこか機械的に喋る少年の顔は無表情であった。

 

シャルロット「他に方法はなかったの?君なら思いつきそうだけど」

 

一夏?「分からない。あったかもしれないが俺には思いつかない」

 

 感情がないと思いきや自嘲気味に笑う喜怒哀楽はあるようだ。

 

シャルロット「辛くないの?」

 

一夏?「ないと言えば嘘になる。だが、誰かがありとあらゆる汚穢(おわい)に身を浸さなければいけなかった。その役目が俺になっただけ、別に俺は仲間を守れるのならそれでいいと思って世界と契約した。その結果がこれだ」

 

 他人事のように歩んできた人生を語る姿にシャルロットは泣きそうになる。おそらく彼は仲間を守りたいがために死後を世界に売り渡して守護者になった。

 しかし、守護者は人を救わない。するのはいずれ幸福の席から零れ落ちる人間を排除すると言う掃除のみ。

 

一夏?「お前はあいつをどう見える?」

 

シャルロット「それってどういう意味?」

 

 訝るシャルロットを刃のように鋭い視線で射貫く。

 

一夏?「言葉通りの意味だ。あいつは既に守護者への道を歩もうとしている。このままいけば、あいつは俺になる」

 

 それは遠くない未来、一夏は世界に永遠の殺戮を強要されることになる旨を意味している。

 

一夏?「回避したければあいつを殺すことだ。輪廻の輪から外れた俺は無理でもそっちの世界で俺のような馬鹿な考えを持つ奴はいなくなる」

 

シャルロット「そんなこと…できるわけがない」

 

 彼がどんな人生を辿ったのか分からない。けど、今この世界にいる彼は自分の恩人でもある。殺すことはできない。

 拒否する彼女を見て彼は眉間に皺をよせ――――

 

一夏?「後悔してもしらねぇぞ」

 

 そう言って視界が霧に覆われて真っ白になった。

 

 

 

 目を覚まして時計を見るとまだ深夜だった。体は眠いと訴えているのにどうも眠る気にはなれなかった。

 

シャルロット「一夏が霊長の抑止力に…」

 

 受け入れるか否かは別としてあり得ない話ではない。彼の事だからその状況になったら手を伸ばすかもしれない。

 

シャルロット「どうしよう…」

 

 確実な案もないしそもそも守護者になるという保証もない。シャルロットは睡魔が来るまで一人、思考を巡らすしかなかった。

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 一方で更識楯無。いな、更識刀奈は座敷牢に入れられていた。

 理由は分かっている。彼女は一夏に霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)のコアを破壊された。ISのコアは数が限られているため一つでも多く所持していれば優位に立てるのだ。逆に一つでも失えば劣位に立たされる。だからこそ、コアを破壊された刀奈はロシア代表と更識家当主の座を剝奪されたうえに国、ひいては更識家の恥として座敷牢に閉じ込められている。

 本来、家督は刀奈の妹である簪が継ぐが、彼女は家を出てしまったため次の当主が見つかるまでの間だけ先代の楯無、更識刀奈と簪の父が当主の座に就いた。

 

更識父「刀奈よ。何故そこに入れられているのか分かるか?」

 

刀奈「私が負けた…からですか?」

 

更識父「うつけ者が、たかだか一度や二度負けたくらいでこのような場所に放り込む必要はない」

 

 責任を取る形で投獄されているが父からすれば些末なことなのだ。問題はそれではない。

 

更識父「お前、慢心しすぎた(・・・・・・)のではないか?」

 

 慢心。その言葉が刀奈の心を抉った。

 否定しようにも今の自分がその結果として表れているためできなかった。敵が万全ではない状態で攻め込むのは常であり、戦いとは相手が何をしてくるか分からないため常に準備不足なのだ。

 一度戦って、その対策を練ったから大丈夫と無意識のうちに高を括り、慢心してしまった。

 

刀奈「…では私はどうすればよかったのでしょうか?」

 

更識父「私がその答えを知るはずなかろう。例え、知っていたとしても教えん」

 

刀奈「どうしてですか!?」

 

更識父「お前のためにならんからだ。お前は何においてもそつなくこなしてきた。いや、きてしまったと言った方が正しいな。それゆえにこれまで壁という壁に当たらなかった」

 

 どれだけ才能を有し、努力を怠っていなくても敗北や挫折は誰しも経験する物。そこから這い上がるか腐るかは本人次第ではあるが刀奈は挫折と言う物に今まで直面しなかったためこのような事態になってしまった。

 それが彼女の不幸。

 

更識父「刀奈よ、これを機に己が過ちと向き合うがいい」

 

 そう言って更識父は地下を後にした。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 イギリス。

 貴族が住まう屋敷の執務室では一人の少女――――セシリア・オルコットが一枚の書類を見て溜息をついた。

 

セシリア「どうすればいいのでしょうか…」

 

???「なんだい?そんなに浮かない顔をして」

 

 セシリアのいる執務室にぼさぼさの髪の毛を無造作に一つに束ねた顔に傷がある女性が酒瓶を片手に入ってきた。

 

セシリア「此処では飲酒は厳禁ですよ」

 

女性「それはできない相談だよ」

 

 窘めるが暖簾に腕押しだった。彼女もそれが分かっているのかしつこく注意することはしなかった。

 女性はセシリアの後から書類を流し読みする。それには鷹を模した兜を被ったISの操縦者の写真が記載されていた。

 

女性「上からのお達しかい?」

 

セシリア「はい。この操縦者の捕縛と日本で起きた異変を調査せよとのことです。IS委員会は各国の代表候補生を集結させて事に当たるようです」

 

 戦う敵は自分達の常識が効かないというのに得策ではない作戦を立てるのか理解できなかった。

 

セシリア「もしものときはお願い致します、ドレイク船長(・・・・・・)

 

ドレイク「任せておきな」

 

 

 

 

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