Infinite GrandOrder ~異世界から帰還した魔術使い~(凍結) 作:ursus
五反田食堂。
そこは一夏の友人である五反田弾の実家であり、今はお昼の時間帯のため常連たちで賑わっている。
弾「いらっしゃいませ!」
エプロンを付けて客を捌いているが時折、二階へと上がる階段に目を向ける。そこには妹の蘭がいるのだ。
弾「(まだ立ち直っていないか)」
この半年に近い間、部屋から出てこない妹が心配で気にかけていたのだ。なんとか学校へは行けるようになったが休日になると部屋から一歩も出てこないのだ。
その理由は分かっている。自分だって信じたくはないのに彼が一体何をしたのだろうか?偶々ISを動かせる力を持っただけの普通の少年だ。それなのに世界は彼の幸福を許しはしなかった。
そんな中、扉が開く音が聞こえて思考が深くなっていく弾の意識を浮上させる。
弾「いらっしゃいませ!」
気持ちを切り替えて弾は今日も接客に勤しむ。
しかし、誰も予想だにしていない事態が起きるとはまだ誰も知らなかった。
――――――――――――
一夏はスカサハと共に町の中を歩いていた。一応スカサハもサーヴァントのため霊体化はできるがつまらないという理由で現界している。
一夏「(女尊男卑の輩に出くわしても教師の買い物に付き合わされた生徒として振舞えば多少は誤魔化せることができるからな)」
自分が今着ている魔術礼装はどこかの学校の制服に似ており、スーツを着こなしているスカサハと並ぶと本当に教師と生徒だ。
余談ではあるがシャルロットも女性用の一夏と同じ礼装を着ており、これを見たアルトリアとエミヤ、メデューサは感慨深い目で見ていた。
一夏「(まぁ、かなりスパルタだけどな…)」
スカサハの特訓は本当に命がけで死にかけた事なんて一度や二度じゃない。そのおかげでそんじょそこらの人間には負けない実力を身に着けた。
それはおいといてと一夏はこっそりと溜息を吐いてスカサハの様子を見る。
スカサハ「話には聞いていたが……ここまで腐っていたとは思わなんだ」
訂正、少々どころかかなりご立腹な様子だった。
スカサハから発している殺気としか表現できない空気によって男性も女性も声をかけようともしない。
一夏「(これじゃぁ情報が集められそうにないな。あぁ……せめて何事もなけりゃいいのに)」
溜息を吐く一夏であったがそうは問屋が卸さなかった。
女性「ちょっとそこのアンタ!」
一夏「自分ですか?」
女性「えぇ、そうよ。これ、私に買ってちょうだい」
派手な格好をした女性が一夏に話しかけてきた。
その女性が女尊男卑主義者であることは一夏とて容易に察することができた。
その証拠にいかにも高そうな宝石を指さしている。
一夏「残念ながら自分ではとてもじゃありませんが購入できる金額ではないので他を当たってください」
女性「へぇ……そんなこと言うんだ」
実際にお金がないのでなるべく不快にならないように丁寧に断ったのだが、男が女に逆らう行為に苛立ちを覚えたのか
しかしできなかった。
スカサハ「……まさかとは痴漢だと喚くつもりではなかろうな」
その理由は冷たい空気を纏ったスカサハが話に割り込んできたからだ。一夏は彼女が怒っている事に気付いている。
女性「な、何よ!この男の肩を持つ気!?」
スカサハ「肩を持つ?違うな、貴様のような輩の愚かな行いを同じ女として止めただけだ」
女性「なっ!?」
スカサハ「ISがあるから女性が偉いと言って何をやっても許されるわけでもなかろう。力を持つ以上はそれ相応の覚悟と責任が伴うのだ。それすら理解できんとは戦士としても、女としても底辺だな、貴様は」
歯に衣着せぬ言い方に女性は顔を真っ赤にしているのに対して一夏は顔を引きつらせつつもスカサハの話に耳を傾ける。
彼女の話は紛れもない事実であった。この数年で女性のモラルが低下しているため政府も対応に困っていると新聞の記事に書かれていた。
女性「あ、アンタだってISのおかげで今の地位があるんでしょ!?」
スカサハ「今の地位は自分の実力で勝ち取ったものだ。それにそんな無価値な物に頼らなくても強く、したたかな女はいるぞ、私のような女は」
面と向かってISが無価値であると言い切ったのがそんなに珍しかったのか周囲の人達は目を丸くしてスカサハを見ていた。
一夏「(ISが何十機あってもこの人なら余裕で勝てるだろうな。戦闘系の女性サーヴァントにも言えるけど)」
スカサハに限らず、アルトリアもジャンヌも単騎でISの数十機は余裕で落とせるだろう。
それに彼女達は英雄だ。今の風潮に乗る女性とは精神構造が全然違う。
スカサハ「そこまで自分が正しいと思うなら証明せよ。できなければ――――――どうしてくれよう?」
それが女性へのとどめとなった。
冷笑を浮かべるスカサハに恐れをなしたのか女性はその場に座り込んで粗相をしてしまい、気絶してしまった。
スカサハ「弱いな」
一夏「いや、アンタと比べたら他の女性なんてそこらへんにいる猫みたいなもんでしょ」
スカサハの戦闘力やカリスマ性はすでに実姉を軽く超えているため一般の女性にそれ以上を求めるのはどうかと一夏は思う。
スカサハ「まぁいい。行くぞ」
興味を失せたのかスカサハはその場から立ち去り、一夏もそれに続く。 スカサハの言動を見た男性は尊敬する視線を送り、女性は悔しそうにスカサハの後姿を見ていた。
―――――――――――――――――――――――――
その頃のセシリアは歩きながらこれまでの異変の傾向を自分なりに推測を立ててみた。
セシリア「(IS学園に国際IS委員会日本支部…どれもISにとって重要な機関が襲われている。これらの事を鑑みれば黒幕はISに対して強い怨恨を抱いているとみていいですわね)」
かつて自分が通っていたIS学園は一人前のIS操縦者や整備士を目指す教育機関で国際IS委員会はISの保守や運営を任されている。
セシリア「(となると次に狙われるのは代表候補生の訓練施設になりますわ)」
あくまでも自分の推測であって確証があるわけでもない。しかし、可能性を一つでも消していくに越したことはない。
地図を見て訓練施設を確認する。幸いにも自分がいる場所から目的地まではそれほど遠くはない。
セシリア「ドレイクさん、私と一緒に訓練施設に向かってください」
ドレイク「構わないよ――――――って言いたいところだが、囲まれちまってね」
囲まれたと言われて不思議そうにドレイクを見ていたが骸骨兵達が二人の命を奪おうとしている。
セシリア「いつの間に……ドレイクさん、応戦しましょう」
ドレイク「あいよ」
セシリアは今まで気づけなかった自分に歯嚙みしているのに対してドレイクは不敵な笑みを浮かべながらスーツから海賊の船長のような臙脂色のコートを着た姿に変える。
ドレイク「さて、久々の戦闘だ。派手に行こうじゃないか!」
手にした拳銃の発砲音が戦闘開始の合図となった。
.
因みに一夏が着ている魔術礼装は「2004年の断片」ですでシャルロットも着ています。