Infinite GrandOrder ~異世界から帰還した魔術使い~(凍結)   作:ursus

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第三十二話~交渉~

 

アルベール「全くもう少し落ち着きを持って欲しいものだ…」

 

シャルロット「もう一発逝きますか?」

 

アルベール「イエ、結構デス」

 

 爽やかな笑みを浮かべて両手の指関節を鳴らしているシャルロットに見本にしたいくらいの頭の下げ方をするアルベールに、一夏はちょっとだけ同情した。

 

一夏「(このままだとシャルはヤコブの手足を習得しそうだな…)大丈夫ですか?整形したと言われても可笑しくないくらい顔が腫れ上がっていますけど」

 

アルベール「あぁ…大丈夫だ。ところで貴様は何者だ?」

 

 一夏は顔の上半分を隠しているせいで不信に思われても仕方がない。だが、一夏にも名乗れない事情がある。

 一夏は少し考えてから口を開いた。

 

一夏「諸事情で本名は言えませんし仮面は外せませんが、俺の事は贋作者(フェイカー)と呼んでください」

 

 この名前は英雄王が事あるごとに自分の元になった錬鉄の英霊を呼んだ名であり、自分の出生を考えるとそれが適していると思う。

 

一夏「俺と彼女は今起こっている異変の調査に来ているんですよ。IS学園が崩壊したときに勝手に引き抜いたのですよ、彼女の実力は我々の利益になりますから」

 

 これはあらかじめIS関係者に正体がバレた時のために用意した設定で多少無理なところはあるが嘘でもないため問題はない。

 そう、彼がある言葉を漏らすまでは。

 

アルベール「それは…魔術の才能の事か?」

 

 アルベールの一言が周囲の空気を凍てつかせた。シャルロットは目を丸くし、一夏は仮面の中で顔が強張っていた。

 

シャルロット「知っていたのですか?」

 

アルベール「あぁ……お前の母親は魔術師だった。あまり語ってくれなかったから思い出すのに苦労はしたがね」

 

 なんでも、シャルロットの母親はルーン魔術を極めた魔術師であったらしくアルベールも口外に出さないように釘を刺された。

 しかし、不可思議な異変が起こっているためもしやと思ったのだ。ロゼンダを見ると何を言っているのか分からなかったらしく目を丸くしていた。

 

一夏「(今の証言で魔術は未だに残っていた事が分かった訳だが…これだけの騒ぎが起こっているのに時計塔は動く様子はない。まさか、時計塔が存在しない(・・・・・・・・・)のか?)」

 

 あくまで自分個人の見解であって答えを出すにはまだ早い。しかし、この数年で科学が急激に進歩したことを鑑みればそういう見方もできる。

 

一夏「(しかし皮肉だよな。科学(IS)のおかげで魔術が魔法として見られるなんて…)」

 

 科学を進歩しすぎたために魔術が同等と見られている。これは喜ばしい事なのか、それとも嘆かわしい事なのか魔術の世界に入って日が浅い一夏には分からない。

 

一夏「(とりあえず、この二人は俺達の存在をなかったことにするべきだろうな)」

 

 魔術回路がなくても知識があるのとないとじゃかなりの違いが出てくるため、この場合は魔術による記憶消去は難しい。

 

一夏「アルベールさん、取引しませんか?俺達は異変を調査し、解決するために行動しますが表立っては活動できない。そのため、俺達の事は内密にしてください。条件として貴方の利益となるような物を渡します」

 

アルベール「拒否した場合は?」

 

一夏「強制かつ物理的に記憶を消します」

 

 一夏の手には「消飛記憶」と書かれた金槌が握られていた。

 当たり所が悪ければ死ぬようなことをするのかと目で訴えたが彼が纏う空気は本気であると理解した。

 

アルベール「わ、分かった。それで我々の利益になる物とは?」

 

 そう言うアルベールに一夏が見せたのは本。

 

一夏「これは既存する兵器の最強と謳われている存在のコアの解析データです」

 

 たったそれだけでアルベールはこれが何なのか瞬時に理解できた。彼が言っていることが本当なら世界がまた大きな衝撃に呑み込まれてしまう。

 

アルベール「信じられん。こ、これを…君が……」

 

一夏「いえ、俺ではなくバックの協力者が解析してくれました」

 

 何せ、発明王やら万能の人等が多く存在するカルデアではISのコアの解析は可能だ。女尊男卑の原因はISが女性しか乗れないからだ。それを解決したらどうなるか、世界は一気に大混乱になる。しかも、それが世界で初めての男性操縦者で一年くらい行方不明の人間ならその混乱は大きくなる。一夏としては面倒なのだ。

 だからこそ、一夏はそれを押し付けられる存在を欲していた。そこにアルベールという人物に出会った。

 この機を逃す程一夏は甘くはなかった。

 

アルベール「しかし…何故紙媒体なのだ?」

 

一夏「今の時代、アナログの方が管理しやすいでしょう?盗まれようとしたら燃やせばいいのですから」

 

 どこかの天災兎がクラッキングしてちょっかいかけたとしても大元の情報が無事ならまた作り直せるのだ。

 幾ら天災でも子供の悪戯に騙されるとは思っていないが、デジタルが主流の時代にアナログな方法で保管しようとは誰も思っていないだろう。

 

一夏「俺らにとってISは無用の長物とは言いませんが、移動するための手段としか捉えていません」

 

 ISが複数機いたとしても、ワイバーン一匹に手を焼くアキレウスやカルナみたいな神話の英雄達には勝ち目はないし無駄死に以外の何物でもない。

 そのため、一夏とシャルロットはISは空を移動するための道具として捉え、戦闘は魔術やサーヴァントに任せている。

 

一夏「ですが、あなた方は違う。たった一機の違いで国の力が左右される。コアを自国でしかも、大量に作れたのなら国にとって大きな利益だ」

 

 アルベールが喉を鳴らしている様子を見ると何が何でも欲しいと手に取るように分かる。

 これを交渉の材料にして良かったと一夏は心の底でそう思った。

 

一夏「さて、どうしますか?俺に記憶を消されるか、心の奥に閉まっておくか」

 

 これがこちらの利益のために行動していると理解しているし一夏自身もあまり使いたくもない手だ。

 しかし、事態が急を要するのでなりふり構う余裕はない。使える物は騎士でも王様でも神様でも使う。それが今の一夏のスタンスなのだ。

 

アルベール「一つだけこちらの条件を聞いてくれ」

 

一夏「何でしょう?」

 

アルベール「シャルロット()を守ってくれ。どのような形であれ、私の子であることに間違いはないのだから」

 

 演技とはいえ冷たくあしらっていたとはいえ、子への愛情は失われていなかった。

 一夏は上がりそうな口角を必死に抑える。

 

一夏「完璧に守れる事はできませんがこちらも全力で彼女をお守りいたしましょう」

 

 この世の中に完璧と言う物は存在しない。

 だが、

 

アルベール「ありがとう…」

 

 感謝の言葉を述べ、アルベールは頭を下げる。自分の人生の半分くらいしか生きていない少年に、裏を返せばそれだけ自分の子供が大事なのだと理解できた。一夏もそれに快く応じた。

 だが、アルベールに不幸が訪れた。

 

 

ジャック「おかあさん、お話は終わった?」

 

 今までの話をつまらなそうに聞いていたジャックがシャルロットと一夏に話しかけてきた。

 抱き着いてくるジャックにシャルロットは不快な顔をせずに抱き返す。

 

シャルロット「うん。終わったよ」

 

一夏「まぁ、子供には難しいし興味のない話だからな飽きるのも無理ないか」

 

 見た目相応の精神であるジャックには交渉と言った話は理解できない部分が多いため飽きられるのも無理はなかった。

 カルデアの事情を知らないアルベールは口を金魚のように開閉していた。

 

アルベール「ま、まさかお前達…結婚―――――」

 

シャルロット「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 アルベールのセリフを遮るようにシャルロットの強烈のボディブローがアルベールに突き刺さり、意識を刈り取った。

 

一夏「(シャルロットの目の前で迂闊な発言はしないようにしておこう。………ヤコブ神拳の餌食になる)」

 

 気絶しているアルベールを見て一夏はそう心に誓うのであった。

 

 

 

 

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