Infinite GrandOrder ~異世界から帰還した魔術使い~(凍結) 作:ursus
閑話~本日のエミヤ食堂①~
人理継続保障機関カルデア。
標高6,000mの雪山と言う辺境の地に建てられた巨大な建物の厨房で一人の英霊が食材を捌いていた。
???「よし、今日も良い出汁が取れた」
この英霊の名前はエミヤシロウ。一夏が契約したサーヴァントの一人である。彼の役目は戦闘と空いた時間にマスターの一夏やカルデアのスタッフ、サーヴァントに食事を提供する事である。
カルデアの食堂には専用のスタッフが大勢いるのだが、レフ・ライノールの姦計によってスタッフがいなくなり、食堂としての機能が停止した。自炊ならマスターである一夏も一部のスタッフもできるが
料理を振る舞ううちにいつの間にか食堂の運営を任された。後に料理の心得を持つサーヴァントが増えたが食堂の主としての立場は変わらず、スタッフや一部サーヴァントから
サーヴァントは基本的に食事を必要としない。だが、微量ながら魔力の補給ができ、士気の維持や向上の効果を持つ。アルトリアを筆頭とした食その物の楽しみを見出しているか生前からのリズムを壊したくないサーヴァントが食堂を利用している。
???「御免下さい」
黙々と野菜や肉を切っているとまだ準備中だと言うのに一人―――否、一騎のサーヴァントが入ってきた。紫色の髪に青い生地を基調としたインドの民族衣装を着たサーヴァント。イレギュラーによってこのカルデアに来たインド神話の女神、パールヴァティーだ。
エミヤ「まだ開店前だぞ」
パールヴァティー「食事に来たのではなくてこれからお世話になるので何かお手伝いをしたくて…」
エミヤ「それは助かる。うちには健啖家が大勢いるのでね、手伝いが一人でもいるとこちらの負担が減る。」
アルトリア達の健啖ぶりは凄まじい。一人で相手をするのは骨が折れるためその申し出は嬉しい。
パールヴァティーと並んで料理していると不意に懐かしい気持ちになる。正確には疑似サーヴァントである彼女が憑代としている少女だ。彼女を見ると生前の記憶が蘇る。そういえば、こんな風に一緒になって料理をしたものだ。
柄にもなく懐かしんでいる自分を嘲笑していると全ての食材の下拵えが済んだ。
エミヤ「これからが本番だ。腹を空かせた彼等は手強いぞ」
パールヴァティー「はい、先輩」
エミヤ「先輩と呼ぶのは止めて欲しいのだが…」
そんな会話をしている最中、最初に食堂の暖簾を潜ったのは候補生の制服が乱れた状態の一夏だった。
一夏「おはよう、エミヤ」
エミヤ「おはよう、マスター。服装が乱れているぞ」
一夏「あっ、忘れていた。ディルムッドと軽く訓練していたからな…」
エミヤ「なるほど…」
サーヴァントのマスターは基本的には後方支援なのだが一夏は魔術の関係で前線に出る事もある。従って少しでも拮抗できるように白兵戦に強いサーヴァントが彼を師事している。
一夏「あれ?ランサー……パールヴァティーは何でエミヤの手伝いをしているんだ?」
エミヤ「彼女が手伝いたいと言ってきたのだ。正直、私一人では彼女達を相手にするのは骨が折れる」
一夏「アルトリア達の食事風景は凄いからね」
見ているだけで満腹になりそうな料理の山を食い尽くす騎士王達の姿に一夏は顔を引き攣らせていた。
エミヤ「何か食べたい物はあるか?」
一夏「今朝は魚と行きたいが…何がある?」
エミヤ「オケアノスで捕れた鯖やフィン・マックールが捕ってきた鮭がある」
一夏「じゃぁ、鮭のホイル焼き一つ。ご飯とみそ汁をセットで」
エミヤ「了解した。少し待ってくれ」
一夏からの注文を受けて早速調理を開始した。
まず、鮭の生臭さを取るために切り身に塩と酒を少々振って5分から10分放置する。その間に玉ねぎ、人参を薄切りにしてしめじはほぐしておく。切り身から水分が出てきたらキッチンペーパーでよく拭き取り、塩胡椒で味付けをする。
此処でアルミホイルを上に玉ねぎ、人参を敷いて細かく砕いたコンソメを振りかける。鮭、しめじを乗せて最後にバターを乗せる。
ホイルの両端を包み、フライパンの中に入れてから蓋をし、弱火で15分から20分蒸す。
蒸し終わったら仕上げにパセリを添えれば完成である。
シャルロット「おはよう」
マシュ「先輩、おはようございます」
一夏「二人ともおはよう」
待っている間にデミサーヴァントのマシュと一夏と同じ世界の住人で一昨日からカルデアに所属することになったシャルロット・デュノアが入ってきた。
一夏「ダ・ヴィンチちゃんから伝言でシャルの部屋が決まったから今日中に移動するようにだって」
シャルロット「分かった。と言っても荷物はそんなに無いけどね」
マシュ「お手伝い致します、シャル先輩」
部屋が決まるまでシャルロットはマシュと同じ部屋に寝ていたのだ。同年代であり同性であるため会話が途切れることは無かった。
エミヤ「できたぞ、鮭と茸のバターホイル焼きだ」
会話を聞いてる間に注文した料理が完成した。
一夏「おっ、では早速いただきます」
包んでいたアルミホイルを開けるとバターの香りが漂ってくる。その匂いが食欲を刺激して思わずよだれが出てしまうのを我慢しながら箸を入れると簡単に箸で切れる。そして一口大に切って口に運ぶ。
一夏「うん、美味い」
絶妙な塩加減とバターのコクが絡み合って箸が進む。少しの箸休みとして味噌汁を啜る。
一夏「今日の味噌汁はなめこか」
なめこ特有のぬるぬとした感じが何とも言えない。鮭を口に運び、ご飯を搔き込み、味噌汁を啜る。日本人で良かった良かったと思っていると鮭と茸のバターホイル焼きを食べたそうにしておるシャルロットとマシュがいた。
一夏「いや、見てないで注文しろよ」
シャルロット「そ、そうだね。僕は一夏と同じ物をお願いします」
マシュ「私はカニチャーハンとスープをお願いします」
エミヤ「了解した」
一夏のツッコミに慌てて注文すると長い金髪を三つ編みにしたサーヴァントが入ってきた。
???「おはようございます、マスター」
一夏「おはよう」
サーヴァントと一夏はかなり親しげに会話をしていた。嫉妬心はないがサーヴァントの正体がかなり気になる。
シャルロット「一夏、このサーヴァントは誰?」
一夏「そういえば、歓迎会では話してなかったんだっけ?言ってもいいが絶対驚くぞ」
一夏は歓迎会でシャルロットと他のサーヴァントと顔合わせするように計画を練っていたのだが、彼女が目の前にいるサーヴァントと会話していなかった事を思い出した。
一夏「このサーヴァントは世界的にも有名な聖女だよ」
???「聖女だなんて…私はそんな人間ではありませんよ」
一夏「そうは言っているが俺から見れば十分聖女だと思うしシャルからすれば同郷の大先輩みたいなものだ」
今の会話で自分と同じフランス出身のサーヴァントである事は分かったが誰なのか分からない。
???「分かりました。では、自己紹介を。私はサーヴァント・ルーラー、真名を『ジャンヌ・ダルク』と申します」
ジャンヌ・ダルクの名を聞いた瞬間、シャルロットの時間が停止した。一夏は彼女の反応を見て身に覚えがあったのかすぐに耳栓を投影し、耳を塞いだ。エミヤも同じように耳栓で塞いだ。
シャルロット「えええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」
自分をアイドルと称する音痴のサーヴァントの宝具に近い威力の叫び声が食堂内に響き渡る。
一夏「気持ちは分からんでもないな」
一年くらい前に同じリアクションをした者としてはその気持ちは痛い程分かっている。
シャルロット「ははははは、始めましゅて。シャルリョット・デュノアでしゅ」
一夏「カミカミじゃねぇか。落ち着けよ」
ジャンヌ「そう硬くならなくて大丈夫ですよ」
シャルロット「は、はぁ…」
ガチガチに固まっているシャルロットに一夏とジャンヌが漸く落ち着きを取り戻した。
パールヴァティー「大丈夫ですか、マスター?」
シャルロット「うん、大丈夫だよ」
一夏「ジャンヌの他にもフランスで有名なサーヴァントはたくさんいるからな。(アーサー王や皇帝ネロを見たらどんな反応するのやら…)」
なんせ世界の英雄・英傑がこのカルデアにいるので否が応でも顔を合わせることになる。一々驚いていたらこっちの身が持たないので早いとこ慣れて貰わなければならない。一朝一夕で慣れるとは思っていないがそれは果たして何時になるのやら。
エミヤ「三人共、そこに立ってないで座ったらどうだ?マシュのカニチャーハンとスープ、シャルロットの鮭と茸のバターホイル焼きはもうできている」
ジャンヌ「エミヤさん、私はハンバーグ定食を一つ。ご飯を大盛りでお願いします」
エミヤ「分かった。席に着いて待っていてくれ」
シャルロット「け、結構食べるんだ」
一夏「ジャンヌは元々農家の娘だからな」
英雄として華々しい偉業を成し遂げたと言っても普通の人間とは変わらない。シャルロットはクスリと笑うと自分が注文した料理を食べ始めた。
エミヤが作る料理は学園の学食よりも美味しかった。ただ、気掛かりなのが彼が作る料理がこれだけ美味しいと食べ過ぎて体重が増えてしまうと言う所だ。
シャルロット「もしもの時はダイエットしなきゃ…」
マシュ「でも、エミヤ先輩の料理で食事制限のダイエットを行うのは難しいでしょうね。時々サーヴァントの方が羨ましく思います」
サーヴァントはいくら食べても太らないとエルメロイⅡ世から教わった時は少々、いやかなり嫉妬した。
マシュ「これは余談ですが、食堂のパンとジャムはエミヤ先輩の手作りです」
シャルロット「何そのハイスペック!?」