Infinite GrandOrder ~異世界から帰還した魔術使い~(凍結) 作:ursus
午前四時位の時刻エミヤは目を覚ます。
英霊エミヤの朝は早い。その理由は食堂の仕込みや清掃を行うためだ。 サーヴァントであるこの体は睡眠や食事は必要としないが。生前のリズムは崩したくないしマスターやカルデアのスタッフに何度も言っている手前、基本となるように自然とそうなっている。
エミヤ「まさか、一夏が守護者になり始めているとは…」
包丁で食材を切る手を止めてこの間の事を思い出す。
平行世界とはいえ、自分の遺伝子を受け継いでいるからもしやと思っていたが本当に起こってしまうとは思わなかった。
このままいけば一夏は抑止の守護者になるだろう。しかし、英霊エミヤに成り代わるのではなく、別の性質を持った抑止の守護者になる。
このまま守護者になるか、人のまま天命を全うするかはまだ分からない。しかし、魔術に関わっている以上は一般人として生きられるのができなくなった。
エミヤ「さて、そろそろ最初のお客が来る時間だな」
時計を見るといつもより数分早く、とりとめのない思考を本日の作業に切り替えて早々に仕込みを終わらせる。
シャルロット「おはようございます」
最初に来たのは新しくカルデアに入ってきた新人の魔術師であり、マスターでもあるシャルロット・デュノアだった。
エミヤ「おはよう。眠そうだな」
シャルロット「ちょっと寝付けなくて…」
エミヤ「そうか。ひとまず、これを飲むと良い」
眠気覚ましとしてアッサムのミルクティーを渡す。
シャルロット「美味しい…」
アッサムのミルクティーはカルデアに来る前に何度も飲んだことがあるが、エミヤが入れたミルクティーは今まで飲んだ物より美味しかった。
アッサムに含まれるカフェインで眠そうな気分が徐々に霧散していく。完全に目が覚めたシャルロットを尻目にエミヤはもう一人のマスターがいないことに気付く。
エミヤ「ところで、一夏はどうした?君と共に特訓を受けていたはずだが?」
シャルロット「えっと、なんと言って言えばいいのか…ちょっと立て込んでいて」
一夏とシャルロットは魔術や武術をそれぞれの道のサーヴァント達に教えを乞うている。その目的はサーヴァントと戦うというよりも少しでも生き残れるようにするための処置だが、二人とも物覚えがいいのか砂地に水が吸い込むように吸収していく。このまま行けば、大型エネミー相手にも善戦できるとエミヤは見ている。
話はそれたが、いつもならはっきりと言うのに何と答えればいいのか分からないのか言葉を濁すシャルロットに胡乱な目で見るがその答えはすぐに見つかった。
廊下を全速力で駆け抜ける一夏とその後ろを追うようにアルトリアズに天の女主人のイシュタル、更には平安の神秘殺しの源頼光が走る。
アルトリア(青)「マスター…いえ、イチカ!私の事を父と呼びなさい!」
一夏「なんでさ!?ってか、エミヤは男だから父でアルトリアが母だろ!」
アルトリア達の攻撃をよけ、ツッコミながら逃げる一夏。普通の人間なら一瞬で捕まるはずなのだが、なかなかしぶとく捕まらずにいる。
思えば、援護があったとはいえ、ギリシャの大英雄から逃げきれたのだ。身体能力はそこいらの人より高い。
クー・フーリン「おいおい、騒がし―――――ギャァァァァァァァ!!」
一夏「ランサーが死んだ!」
モードレッド「この人でなし!マスターが父上の子供になったら……俺らは義兄弟だな!」
一夏「んな、呑気な事言ってないで助けろよ!?」
視覚から消えて詳細は分からないが、恐らくクー・フーリンが跳ね飛ばされてほぼお決まりを言っているのが分かった。
エミヤ「………とりあえず、原因を聞こうか?」
シャルロット「一夏がエミヤさんの遺伝子を受け継いでいる事をつい口走ってそれで……」
エミヤ「分かった。もういい……」
シャルロットの説明に頭を抱えるエミヤ。
一夏は一般家庭産まれた少年ではなく、デザインベビーだ。染色体XXからXYに変更する際にエミヤの遺伝子が組み込まれた。そのため一夏の魔術回路も起源も才能までもエミヤから受け継いでいるからか大禁呪とも言える固有結界も使えるのだ。エミヤも平行世界かつ、デザインベビーとはいえ、まさか自分に子供ができるとは思ってもみなかった。エミヤはこの先の展開が想像がついてしまって重い溜息を吐く。
IS学園に通っていた頃は気を引かせようとして些細なことで嫉妬してしまったシャルロットであったが、今回は一夏の親、つまり英霊エミヤの伴侶(一部例外が存在するが)を決めると言う事で嫉妬しない。しかし、一夏といい、エミヤといい、投影魔術が使える人って女性を口説き落とす才能があるのかなと訝っていた。
少々不名誉な事を思われている事に気付かずにエミヤは食堂での作業を開始する。
エミヤ「注文は?」
シャルロット「……えっと看板に書かれてあったオススメのオムライスをください」
オススメは一日ごとに代わり、メンチカツやチキン南蛮等が看板に載せられる。エミヤは他にも曜日の感覚を忘れないように金曜日はカレーの日にしたり、29日は肉の日として豚汁が出るなどのサービスを提供している。
エミヤ「ソースはデミグラスとトマトと二種類ある」
シャルロット「トマトでお願いします」
エミヤ「ご注文、承った」
注文が入るとエミヤはさっそく調理に移る。
まず、最初にするのはトマトソース作り。微塵切りにしたにんにくをオリーブオイルで炒める。その次にトマト缶、砕いたコンソメを入れて塩、胡椒、砂糖を入れ、バターを溶かして完成。
次にチキンライス作り。さいの目切りの鶏の腿肉、粗い微塵切りにした玉葱、薄切りにしたマッシュルームを具とし、フライパンで鶏の腿肉を炒めたら先程切った玉葱とマッシュルームを加えて炒める。塩、粗く挽いた胡椒、砕いたコンソメにケチャップを加え、全体に馴染ませながら酸味を飛ばす。白米を加えて焦がさないよう、切るように混ぜてソースを馴染ませる。
最後にオムレツ作り。オリーブオイルとバターを加えたフライパンに、塩を加え、溶いた卵を入れる。箸でかき混ぜながらフライパンを揺らして卵を半熟にする。半熟になったらフライパンの端によせ、形を整えて天地を変える。
卵の閉じ口を上に持ってきたらチキンライスに乗せて完成。
エミヤ「できたぞ」
シャルロット「ふわふわで美味しそう」
最初からチキンライスが包まれた状態ではなく、上の乗ってある半熟のオムレツを切って包むタイプのオムライスだ。
早速オムレツを軽く切ると自身の重さで勝手に開き、チキンライスを包み込む。
シャルロット「いただきます」
スプーンで一口分を作って頬張ると丁寧できめ細かく、そして優しい味が口の中に広がる。
シャルロット「美味しい…」
エミヤ「それは良かった」
目の前にいる守護者が作った料理はどれも美味しいが今日は特別に美味しく感じられた。
シャルロット「(なんか懐かしいな…)」
母が病死して一夏と出会うまでの間、温かな食事と言う物を食べた事がなかった。箒やセシリアと言った学友達と食べるそれとは違い、エミヤの料理は家庭的で愛情が詰まっていた。
シャルロット「なんかお母さんっぽいな…
エミヤ「何か言ったか?」
シャルロット「ううん、こちらの話だから大丈夫です」
シャルロットの小声に反応したエミヤであったが深くは聞かなかった。彼女が食べ終わるのを見計らってある話を切り出した。
エミヤ「シャルロット。君は一夏の現状を知っているか?」
シャルロット「はい…」
抑止の守護者になる。
それは世界のために永遠の殺戮を繰り返す体のいい掃除人なると同義だ。
シャルロット「僕は一夏を守護者になんかさせません。彼は僕が支えます」
彼女の答えにエミヤは納得する。
かつてのマスターに未熟だった頃の自分を支えてほしいと頼んだ記憶が蘇る。
エミヤ「そうか…安心した」
シャルロットがいれば、少なくとも彼は自分が辿った道を歩むことはないだろう。
シャルロット「ところで…」
エミヤ「なんだね?」
シャルロット「オムライスの作り方…教えてくれますか?」
恥ずかしそうに頼むシャルロットに思わず笑みが零れてしまった。彼女には申し訳ないが食堂に漂う重い空気が払拭できた。
エミヤ「いいだろう。しかし、夜まで待ってくれるか?人がいない方が集中できるだろう」
シャルロット「はい!分かりました」
意気揚々と去るシャルロットと入れ替わるように一夏がボロボロで入ってきたのは数秒後の話。
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