Infinite GrandOrder ~異世界から帰還した魔術使い~(凍結)   作:ursus

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第四話~シャルロットの選択~

 学園の一角では教師陣が全滅の危機に瀕していた。

 突如現れた飛龍や骸骨の兵団で混乱し、目の前にいる岩のように筋骨隆々の狂戦士によって部隊は壊滅状態に陥っていた。

 手にしている剣の一撃は絶対防御を貫通しそのまま一人の教師を葬った。それだけでも信じられないのに狂戦士の行動に目を疑った。

 狂戦士はISの攻撃をあえて(・・・)受けて止めているのだ。ISの攻撃をまともに受ければ普通の人間なら死ぬ。

 それなのにこの狂戦士は笑顔のままで死なない。常識外れの存在に恐怖を覚える。

 

???「ははははははははははははははははははははははっ!圧制者の走狗達よ、せめて私の腕の中で眠りなさい」

 

 飛んでくる斬撃、銃弾をその肉体で受け止めた狂戦士はISを纏った教師を一人、また一人と鉄塊と肉塊が混ざり合った『何か』に変えていく。

 

千冬「私がやる!他の者達は弾幕を張れ!」

 

 打鉄(うちがね)を纏い、剣を握っていた千冬は常識外れの存在に畏怖を覚えながらも戦おうとしている。

 狂戦士の目に映っているのは自分が最も嫌悪し、最も憎悪し、乗り越えんとする千冬(圧制者)の姿。

 

???「来るが良い、圧制者よ!」

 

 狂戦士は千冬の攻撃を頑強な肉体で受け止める。

 

 

 

*****

 

 

 

 一夏とシャルロットがまず最初に行ったのは気絶しているセシリアとラウラを比較的敵に見つからず、安全な場所に運び込むことだ。気絶した人間をそのまま放置するわけにもいかないので学生寮であった場所に放り込んだ。

 次に腕が折れているシャルロットの治療を施した。一週間以上はかかる怪我も魔術を使えばすぐだ。瞬く間に治っていく傷や怪我にシャルロットはあれやこれやを一夏に訊いた。

 いくらはぐらかそうとしても喰いついてきたので秘匿することを条件に一夏は自分が今まで体験した事を話した。

 因みに仕掛けられた監視カメラを全部潰し、部屋全体に外部からの認識妨害と防音障壁の魔術をかけているので見られり、聞かれたりすることは無い。万が一のためにパールヴァティー(ランサー)を待機させている。

 

シャルロット「魔術にサーヴァント、人理修復……それが一夏が体験した事なんだ…」

 

一夏「できれば話したくなかったんだがな…」

 

パールヴァティー「確かに魔術師である貴方からしたらそうですよね…」

 

 シャルロットは必死に理解しようとしているが非現実的と言うか自分の常識を遥かに超えているため中々呑み込めない。

 そんな彼女に一夏は自分も最初はこんな感じだったなと思いながら苦笑している。

 

一夏「(けど、悠長に構えている場合じゃない)」

 

 治療ついでにシャルロットの体を解析した結果、自分と同じ素質があった事が分かった。

 

一夏「(このままシャルを連れて行くわけにもいかない。俺とシャルの状況が全く違うからな…)」

 

 魔術と縁も所縁もない一般人である所は同じだが一夏とシャルロットでは状況が違う。異世界に飛ばされた一夏は生活していくうえで魔術を覚える必要があったがシャルロットはその必要が無い。

 故に一夏は何があったんだと聞かれた時、魔術に関してはどんなことがあっても絶対喋らないようにしていた。

 

一夏「(本来なら令呪を奪って殺すのがセオリーなんだよな…)」

 

 シャルロットを暗示で洗脳させ、パールヴァティー(ランサー)に鞍替えを認めさせる事を令呪で強要させた後、証拠隠滅のために手にかける。

 しかし、人道に反する事はしたくない気持ちがある。

 

一夏「(甘いって言われそうだな…)」

 

 他の魔術師なら迷わず殺すことに躊躇はしないだろう。しかし、魔術師の感性を持ちあわせていない一夏はどうしてもできない。

 

一夏「(けど、どんな行動するにしてもランサーの力は必要だからな…)」

 

パールヴァティー「(魔術師として合理的に考えているかもしれませんが…徹しきれていませんね)」

 

 パールヴァティーは一夏の葛藤を察している。彼が合理性を取るか情を取るかで悩んでいる。

 

エミヤ「帰ったぞ」

 

パールヴァティー「お疲れ様です、先輩」

 

エミヤ「ランサー、私をそのように呼ぶのは止めてほしいのだが…」

 

 斥候に行ってきたがエミヤ(アーチャー)が戻ってきた。『弓兵(アーチャー)』クラスには『単独行動』と言う固有スキルのおかげでマスターが不在でも活動できる。『気配遮断』のスキルを持つアサシンと同様、斥候向きのサーヴァントと言えよう。

 

一夏「どうだった?」

 

エミヤ「どこもかしこも似たような状態だ。一夏が睨んでいた通り…ISだったか?それを纏っていた女性が及び腰で右往左往していた。正直言って見ていられなかったさ」

 

一夏「何となく予想はしていたけど俺がいた時より酷くなってないか?」

 

 ISが登場しため、今までの近代兵器は一気に不要となった。動かせるのは女性だけなので巨大な力を操れる自分達は偉いと言う勘違いが広まって女尊男卑の風潮になった。しかし、かなり度が過ぎていないだろうか。

 

シャルロット「一夏が行方不明となると女性利権団体の権力がさらに大きくなったんだ。今では何の罪もない男性が終身刑になっちゃって…」

 

一夏「止めてくれ。助ける気が段々失せてくる」

 

 頭が痛くなる話を聞いて一夏は溜息を吐いた。

 

一夏「(昔も大概だけど、スパルタクスが狂った笑みを浮かべて殺しにかかる世界になっているな…)」

 

 『圧制者を打倒する』事しか思考できない狂戦士なら高慢ちきに振る舞う女性に叛逆を企てて殺すだろう。実際に実姉の振る舞いはスパルタクスの攻撃対象である圧制者のそれだ。尤も、スパルタクスじゃなくてもこの世界の女性に激怒して攻撃する英霊がたくさんいる。

 

一夏「(あれ?そう考えたらこの世界に未来なくね?)」

 

 魔神柱が手を下さなくてもサーヴァントだけで世界が滅びそうな気がしてならない。

 特にウルクの英雄王やエジプトの太陽王、フン族の戦闘王辺りはヤバい。ブリュンヒルデの異名を持つ実姉でもサーヴァントには勝てない。なんせ彼らは人理史に名を残した一騎当千、万夫不倒の英雄たちだ。幾ら姉が全盛期かつISを纏って挑んでも赤子の手を捻るように殺されるのが目に見えている。

 

シャルロット「一夏?」

 

一夏「いや…考えていたのより深刻な事になりそうだなと思っただけだ」

 

 サーヴァントの存在を知らない女性から見れば、路傍の石にしか見えないだろう。しかし、彼らの実力を知っている一夏から見れば滑稽な道化か呆れるような馬鹿としか言いようがない。ISがあるから勝てると息巻いて呆気なく死ぬ姿が目に浮かんだ。

 それを考慮すれば、一度もサーヴァントとの戦闘を行わず、味方につけたシャルロットは幸運だろう。おまけにパールヴァティー(ランサー)との関係も良好のため裏切る可能性はかなり低い。

 

シャルロット「それにしても…気分が軽いな」

 

一夏「気分って俺がやったのは傷の手当だぞ?」

 

 ストレッチを行っているシャルロットに一夏は首を傾げている。確かに彼女に治療を施したがそれは傷であって体調ではない。

 

シャルロット「ISを纏っていた時はまるで力が抜けるような感覚があったんだ。でも、一夏に助けられて以降気分が良いんだ」

 

パールヴァティー「魔術師には効果は無いのですが、どうやら島全体に充満している魔力のせいで徐々に衰弱していたようです」

 

一夏「衰弱って…戦っても死ぬし何もしないでも死ぬ。最悪じゃねぇか」

 

 IS学園には打破する策はほとんど無く、蹂躙されるのを待つだけの状態になっている。

 それも時間の問題だろう。

 

シャルロット「でも、どうして平気なの?」

 

一夏「専門家じゃないから上手くは言えないけど、眠っていた魔術回路が開いた結果、蔓延している魔力に対する抗体ができたんだと思う」

 

シャルロット「魔術回路?」

 

一夏「魔術師が必要な物。大まかに言えば魔術に必要な魔力を生み出す炉心と思っておけばいい」

 

シャルロット「ってことは僕は一夏みたいになるの?」

 

エミヤ「一口に魔術と言っても色々ある。それにイチカの魔術は少々特殊で君にはできないだろう」

 

 何せ、一夏の駆使するのは魔術の中でも異質(・・)なため誰でも使えるわけではない。

 

シャルロット「でも、それが使える一夏はすごいよ」

 

一夏「凄くは無いよ。俺の実力はどう頑張ったって精々二流が良い所の半端者だ」

 

 一般的な魔術師より多少優れてはいるが一流の魔術師達には及ばない。半端者と言われても仕方がない。

 

エミヤ「これからどうする?彼女は魔術回路はあれど一般人に等しいぞ」

 

エミヤ(アーチャー)の言う通り、シャルロットは魔術に関してはかつての自分と同じド素人である。

 

一夏「正直に言うとランサーをこっちに渡してこの戦いから引いてほしい」

 

 つまり、一夏はシャルロットにパールヴァティー(ランサー)との契約を破棄しろと言っているのだ。

 

一夏「だが、シャルが戦いたいと言うなら俺達と行動を共にしてもらう」

 

エミヤ「良いのか?」

 

 エミヤに怪訝な視線を送られるのも仕方がない。自分でもこの案は正直馬鹿らしいと思っているが自分が勝手に決めて良い物でもないとも思っている。

 

一夏「俺だって甘いなって思うよ。でも、この状況でランサーと言う戦力を失うのは最も悪手だ」

 

エミヤ「確かにそこは否定はしない」

 

 敵の素性や考えが分からない以上味方は一人でも多い方が良い。

 

一夏「だからランサーのマスターであるシャルに決めさせる。俺はシャルがどっちを選んでも責めはしない。けど、仮に戦う事を選んで死んだとしてもそれだけの覚悟があるものと判断して一切責任をとらない」

 

 パールヴァティーとの契約を破棄してこの場から身を引くか、彼と共に命の保証などない戦いに臨むか、全てはシャルロットの選択にかかっている。

 シャルロットは暫く逡巡し、やがて答えを出した。

 

シャルロット「僕は一夏と一緒に戦う」

 

一夏「その先が地獄でもか?」

 

 眼光を鋭く光らせて確認を取るがそれでもシャルロットの答えは変わらなかった。

 

シャルロット「僕だって怖いよ。でも、また失うのは嫌なんだ」

 

 母親が死に失ってしまった温もりを、学園でできた友を、そして愛すべき人を失うのは耐えられない。この想いだけは誰が何と言おうとも譲れない。

 シャルロットの想いを知った一夏は天を仰いでゆっくり息を吐いた。

 

一夏「分かった。けど、自己責任だから助けてくれるなんて思うなよ」

 

エミヤ「(念を押すように言っているようだが彼女が危なくなったら真っ先に助けるだろうに…)」

 

本当につくづく甘いマスターだと思うが彼の美徳であることには変わりはない。そんな一夏に心の中で苦笑いしてしまうエミヤとパールヴァティーだった。

 

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