-追記-
後半の内容がどうしても納得出来なかったので書き直しました。
戸塚の依頼を達成した次の日は土曜日、授業という呪縛から解き放たれた学生達が個々の趣味に没頭する。
物凄く帰りたい。
帰りたいと思ったのは俺が、入隊したとき以来だろうか。
そう思うと俺も立派な社畜に成り下がったのだろう。
早く帰って小町が作るご飯を食べたい。いや、今日は小町が友達の家に泊まるって言っていたな。解せぬ。
俺が何故現実逃避をしているというと、今、調理室でエプロンに着替えている二人の女の子が原因だ。
「比叡、今回は何を作る」
「前は和食を作りましたから、今度はカレーとかどうでしょう」
そう、比叡と磯風である。
この二人の作る料理はもはや料理とは呼べない。
「帰りたい」
俺は元々腐っていた目を更に腐らせ、帰りたいと呟くもあの二人の耳には届かない。
もはやこの調理室は処刑場に変貌してしまった。
「準備ができた、では作るぞ」
「気合、入れて!行きます!」
ああ、とうとう始まってしまったのか。あと比叡、別に気合を入れなくても良いんだぞ?
磯風はまず手始めに米を水をいれた容器の中に入れ、研ぎ始める。
まずここまでは問題無く、磯風は思いも寄らないことを始める。
「米には雑菌が多いと聞く、ならば洗剤で洗うのが正解であろう」
正解ではないです、むしろ間違ってます。
ああ!そんなに洗剤を入れないで!
俺の願いも虚しく、磯風は洗剤を米が入った容器にドバドバと投入する。
比叡はというと、冷蔵庫からカレーの具を取り出していたがその具の内容が可笑しかった。
内容はジャガイモ、豚肉、人参、玉葱まずここまでは良かったが問題はこれからだ。
ゴーヤ、鮭、いつのか分からない冷凍しじみetc…。
何故冷凍しじみなんだ、さっきチラッと見えたが消費期限が去年のやつだぞ。
「変な臭いがするけど問題ないですよね?」
大丈夫ではい、むしろ問題大有りだ比叡。
あ、磯風がジャガイモを洗剤で洗い始めた…。
誰かこの状況をなんとかしてくれ。
その後、二人は着々と調理を進めとうとうカレーが出来上がってしまった。
カレーは本来の色に若干ゴーヤの色が混じり、異臭を放つしじみがカレーにあった。
因みにしじみはカレーが出来上がる直前に、磯風が思い出したかの様にしじみをカレーの中に投入した。
磯風、せめて火を通して欲しいのだが…。
「さあできたぞ司令、食べてくれ」
「提督!私達が作った料理の中で最高傑作のカレーが出来上がりました!」
「お、おう」
眼前に出されたカレーをどう食べるか迷う、むしろ食べても大丈夫なのだろうか?
「司令、食べないのか?」
「あ、ああ。い、いただきます…」
逃げても捕まるので、俺はスプーンでカレーを口に運び食べる。
味はゴーヤを相当煮込んだのか、カレーの辛さとゴーヤの苦味が混じり合い、辛さがなんとか勝っていた。
俺は吐き出しそうになりながらも、それをなんとか我慢して食べる。
「ご、ごちそうさま」
「提督、味はどうでしたか!?」
比叡が目の前まで一気に顔を近付けさせ、感想を聞いてくる。
これはカレーではない、むしろ一種の科学兵器の域まで達していた。それも由比ヶ浜が作るクッキーの方が断然旨いと声高らかに言えるだろう。
だが俺は彼女らに対し不味いと言えない。俺の為に作ったのかは分からないが、彼女達を傷付ける訳にはいかない。
「う、旨い……ぞ?」
「やはりそうか司令、今度浦風や谷風、浜風に食べさせようか」
「感想ありがとうございます提督!金剛お姉様にも食べさせてあげます」
磯風と比叡は喜び、俺は次の犠牲者に対し凄い罪悪感を感じた。
☆
今日の執務作業を終わらせ、俺はホテル・ロイヤルオークラの屋上に位置する『エンジェル・ラダー天使の階』に向かっている。
何故そこに向かっているかと言うと、俺が磯風と比叡と別れた後に同期であり友人でもある佐藤からLINEが来たからだ。
佐藤は沖縄の那覇鎮守府の提督であり、基本的に南方海域を担当している。
「比企谷、こっちだ」
エンジェル・ラダーの店内に入るとカウンター席に佐藤が俺に手を振っていた。
「久し振りだな比企谷」
「あぁ、一年振りだな」
俺は佐藤の隣に座り、再生の言葉を交わす。
「久し振りにあった事だし比企谷、何か飲むか?奢るぞ?」
佐藤はクイっと飲む仕草をする。
「んじゃ、マッカンで」
俺は即答でマッカンに決め、佐藤は呆れた顔をする。
「お前本当にマッカンが好きだな。マスター、ウイスキーひとつとマッカンひとつ」
佐藤は店員に注文し、俺はその店員に何故か違和感を覚えた。
あのポニーテールの店員、どっかで見たような…。
「お、比企谷。なんであの店員を見てるんだ?」
「いや、どっかで見たような気がしてな。気のせいだわ」
俺が気のせいとはぐらかすと佐藤は、ニヤついた顔をする。
「比企谷は翔鶴という美人さんがいるのに浮気ですか。フ~ン」
「何言っているんだよ佐藤。…って、その指輪どうした?」
佐藤の左手の薬指に銀色に輝く指輪を嵌めていた。
佐藤は指輪を右手で擦り、若干ニヤつく。
「あぁ、これか。最近やっと大井にこれを渡してな、晴れて恋人同士になってよ」
とうとう佐藤もリア充になってしまったのか…。
「ケッ、リア充が」
俺が佐藤に対し毒づくと、佐藤は呆れた顔をして俺に言う。
「お前には翔鶴がいるだろ」
「それ小町にも似たような事言われたのだが…」
本当、なんで皆して俺には翔鶴がいるって言うのかね?
翔鶴が俺の事好きになるわけが無いのにな、そう考えると悲しいな。
佐藤は店員から渡されたウイスキーをチビチビと飲み始め、真剣な表情をする。
「比企谷、深海棲艦との戦争はいつからやっていたんだろうな」
佐藤は飲んでいたウイスキーを入れたコップをカタンと、カウンターに置く。
「そりゃぁ、6年前だろ?」
俺が当然とばかりに言うと、佐藤は頭をかきむしり『やはりそうだよなぁ』と呟く。
「あんまりここだと言えない事だが…、これだけは言えるな」
佐藤は残りのウイスキーを一気に飲み干し、小声で俺が思いも寄らないことを言った。
「少なくとも………。少なくとも第二次大戦はまだ終わっていねえ」
「!?」
「ま、それが普通の反応だわな。俺もそうだった、後の事は元帥閣下に聞け」
佐藤はそう言うと立ち上がり、帰って言った。