負け犬達の挽歌   作:三山畝傍

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負け犬、学校へ行く

 今日もいい天気だ。今日こそタマゴを孵化させるという決意で歩き回りながら、道中でバトルを挑んでくるトレーナーを軽く撫でてやる。ポケモンを育て始めたばかりです、というのを顔に出すのはよしたほうがいいなと、死屍累々の道路を振り返りつつ考える。

 

 道すがら、見覚えのないポケモン、見覚えのあるポケモンを片端から捕まえる。キャタピーなんてげっぷが出るほど見ているし捕まえているはずなのに、新しい図鑑を持って捕まえると何だか気分がいい。リリィタウン手前の草むらでポケモンを追いかけ回しているうちに、見知った町の入り口に出た。時間の指定はされていなかったが、あまり待たせてもまずいだろう。町の手前で、あたしはピタリと足を止めた。妙な二人組が道ばたにいるからだ。コスプレだろうか、昔々の映画で見たことがある服装に似ている。そうだ、『ロボコップ』だ。あれがアローラ地方の伝統的な服装だったりしたら何かに詫びないといけない。声を聞くかぎり男性と少女らしい。盗み聞きは趣味が悪いと自覚しつつも、こっそり近付く。

 よくはわからないが、光が眩しいだのオーラがどうだの言っているのだけは聞き取れた。やっぱりコスプレイヤーなのだろうか?アローラは観光地としても有名だから、個別撮影とかいうやつなのかもしれない。肌が妙に白く見えたが、そういう化粧か何かかもしれないし、今は考えても特に意味はないだろう。とりあえずは深く考えないことにした。博士を探すとしよう。探しようがなくなるので、どこかの家に上がり込んでたりしなければいいのだが。

 

 心配しなくても、博士はすぐに見付かった。村の中央にある大きな土俵のそばだ。ハラさんとハウ君、リーリエもいる。

「ユウケー、こっちこっちー!」

 飛び跳ねながら手を振るハウ君。忙しいな。苦笑いして、小さく手を振る。

「主役の登場だね。それじゃあ、ハラさん」

「そうですな。それでは、これより、守り神に捧げる奉納ポケモンバトルを行う!」

 好々爺という言葉がぴったりだった第一印象と違い、威厳溢れる姿だ。しまキングの威厳ということだろう。素直に感心する。

「対戦者!かたや、カントー地方よりアローラに移住してきたトレーナー、ユウケ!」

 へえ、あたし以外にもカントーから越してきた人がいるんだ。そんな訳がない。聞いてない。キッとククイ博士を睨みつける。にこやかな笑顔。何が問題なのかもわかってない顔だ。先に言って欲しかった。

「かたや、しまキングの孫、ハウ!」

 少々驚いたが、ポケモンバトルが嫌いな訳がないので、構わないといえば全く構わないのだ。観客も、町の人が総出なのかというくらいいるが、この間の手酷い負け試合に比べたら全然少ない。緊張する要素は一つもない。

「今度は負けないからねー!」

 先に土俵に上がったハウ君が笑顔で手を振る。どうも毒気が削がれる。手招きでもして挑発しようかという気持ちも萎えてしまった。小さく笑って、あたしも土俵に上がる。

「それでは、奉納バトル、始め!」

 あたしとハウ君は同時にボールを投げた。

 

 昨日から手持ちポケモンが増えていたことと、それをちゃんと使いこなしていたことに若干驚いたものの、試合自体は終始あたしの優勢で、終わってみればニャビー一匹での勝ちだった。トレーナー歴二日の相手に負けたらさすがに山ごもりでもしないといけないところだった。

「ユウケ、やっぱり強いなー!次は負けないからね!」

「どうかな、あたしもうかうかしないようにするよ」

 がっちりと握手を交わす。ポケモンバトルで楽しいと思ったのは、そういえば久し振りだったな、なんて思った。リーグ戦では苦しい戦いだらけで、随分と心をすり減らした気がする。遠くから、カプ・コケコの鳴き声が聞こえ、町の人々が小さく好意的にどよめく。

「カプ・コケコも満足の素晴らしい試合だったということですな!ユウケくん、ハウ」

 そうだった。これは儀式だった。ハラさんに二人で礼をして土俵を降りる。和やかな雰囲気で、危うく忘れそうなところだった。終わってから、一つあたしがルール違反をしている事を思い出したが、誰も何も言わなかったし、あたしも忘れてたので、なかったことにしよう。まあ、大したことじゃない。

「それでは、新たにアローラに来た成人であるユウケくんと、今年十一歳の成人を迎えるハウに、島巡りの証を授けます」

 島巡り、って何だ。朝、全然関係無い雑談だけで終わらせたククイ博士を再度睨む。博士、OKサインじゃない。何がOKなのか一切わからない。

「それと、昨日預かった石を、Zリングにしたのでお返ししますな」

「ありがとうございます。島巡りとZリングって何ですか?」

 説明してなかったんかい、という表情が一瞬ハラさんの顔を過ぎったのをあたしは見逃さなかった。Zリングは現物が今出てきたからまあ良いとしても、そう思うよね、と妙な連帯感を覚える。

「島巡りとは、アローラ地方で伝統的に行われている儀式ですな。四つの島を巡り、キャプテンとしまキングの試練をこなすことで、成人として認められるというものですな」

 どこかの地域で行われているらしい、槍でカエンジシを倒す儀式みたいなものか。なるほど。トレーナーとして人並にはやってきたつもりだが、生身だとバットででかいラッタを追い払ったのが多分最大の実績のあたしは途端に不安になってきた。アローラのカエンジシは槍で倒せるのだろうか。そんな疑問を一切無視してハラさんは続ける。

「Zリングというのは、トレーナーの気力と体力をポケモンに与えて、ポケモンの覚えている技を、特別なZ技というものに変えて打つ技ですな」

「このリングがあれば使えるんですか?」

「これとは別に、技のタイプに一致したZクリスタルというものが必要ですぞ」

「なるほど、別売り……」

「売っているわけでは無く、試練をこなすことで手に入れるんですがな」

 豪快に笑うハラさん。今すぐ使えないというのは残念だが、島巡りをこなすことで同時にZクリスタルが集まっていって、出来る事が増えるというしくみか。そういえば、Z技という名前自体はリーグ戦のルール協議会の議事録で読んだ気がする。地域ローカルのものだから見送られたとかで、あたしも実物を見たことはない。

「さて、こんなところですかな?」

「はい、ありがとうございました。早速ですが、試練に挑戦したいんですけど、キャプテンというのはどこにいるんですか?」

「ハウオリシティだよ!ユウケがもう行くなら、俺も行こうかなー!」

「それじゃ、わたしも着いていっていいですか。ハウオリシティでお買い物もしたいですし」

 引っ越し初日に、車で通ったな。あの街か。あんな大きな街で人を探せるのだろうか。ジム的なものがあるのだろうか。行ってみればわかるか。

「じゃ、そうしよう。歩いて行ってもすぐだし、試練の内容だけ聞いて時間がかかりそうなら日を改めてもいいわけだしね」

 ジムからジムへ渡り歩くのではない旅というのは新鮮だ。新しいことをするのは、何かをやり直すことに繋がるかもしれない。何を、何が、かまではわからないけれども。

「ちょっと待った、ユウケ。実は僕から渡したいものがあるんだ。準備が終わってないから明日うちに来てほしい。ハウオリ行きはその後にしてほしいんだ」

 ククイ博士、微妙にタイミングが悪い人なのかもしれない。意外なところで水を差されてしまった。

「はあ。まあ、いいですけど」

「旅立ちの前に、ママさんやニャースと食卓を囲むのも悪くないだろう?」

 旅が日常になっている感覚から見ると、実家にいる時間というのはむしろ特殊なもので、わざわざ区切りを付けるという考えがなかった。それも悪くはないか。

「じゃあ、ハウ君、リーリエ。悪いけどそういうことらしいから」

「そっかー。じゃあマラサダは明日だね!」

「わかりました。それでは、ユウケさん、ハウさん、また明日」

「明日、ハウもうちに来てくれたらいいからね。面白いものを見せるよ!」

「じゃあ、ユウケの家に行ってからにしようかなー。家行ったこと無いし」

「別に何もないけど、それでいいなら歓迎するよ。母さんもきっと喜ぶしね」

 マラサダとは何だろう。試練に関係があるのだろうか。アローラの古語か俗語で槍とか銃とか弓とかそういうものなのだろうか。試練に対する好奇心と不安を抱えながら、あたし達はそれぞれ家路についた。

 

 夕飯は母さんの料理に加えて宅配のピザだった。ピザはなぜかアローラっぽい気がする。ピザとコーラ、かき氷。母さん曰く「引っ越しの荷物を片付けるのに忙しかったから」らしい。自分の部屋以外の片付けを全然手伝わずに出歩いているあたしがどうこういう資格も意思もないが、朝出かけた時とあんまり変わってない気がする。

「それで、明日からまた旅に出るってこと?」

「島巡りの試練っていうのがどこでやるかにもよるけどね」

「メレメレ島の中なら、帰って来れそうよねえ。帰ってきてご飯食べるなら先に電話入れなさいよ」

「わかった」

 母さんとニャースの顔もしばらく見納めか。ポケモンセンターから電話すればいつでも顔は見られるから、あんまりこうやってしみじみした記憶がない。

 

 奉納試合の翌日、家庭の味の朝ご飯にチャイム。既視感のある光景だ。

「ククイ博士なら勝手に入ってくるんじゃない?ユウケ、出てちょうだい」

 好物のうの花に未練を残しつつも、素直に玄関のドアを開ける。

「あ、ユウケさん。おはようございます。お怪我の具合は大丈夫ですか?」

 リーリエだった。朝日が眩しいのか、彼女が眩しいのか、あたしの目には良く判らない。思わず目をすぼめてしまう。

「ユウケさん?」

「あ、ああ、ごめんごめん。全然大丈夫。元気一杯。めっちゃ元気」

「あらあら、可愛らしいお友達!」

「あ、お母さま、初めまして。リーリエと申します」

 またこうなると長い。あたしはリーリエに小さくごめんねのポーズをしてから食卓に戻る。質問攻めで困るリーリエを眺めながら食べる朝食は美味しい。質問攻めにされてたじたじになっているリーリエを見ながらご飯の後片付けをして、母さんとリーリエ、あたしの分のお茶を淹れて、ニャースの皿に水を足してやっている最中に呼び鈴がまた鳴った。

「おはよー!潮風に誘われて、遊びに来たよー!」

「あらあら、いらっしゃい」

「あっ、ユウケのママさん?ハウです。よろしくお願いします!」

「あらあら、ユウケがお世話になって」

「あっ、カントーのニャース!こばんぴかぴかだー!」

「ンニャーオ!」

 まだかかりそうだ。ハウ君の分のお茶を淹れながらあたしは全員にお茶淹れたよ、と告げて腰掛けた。

 

 お茶を飲み終えてようやく腰を上げ、母さんから解放された二人と海に向かってのんびりと歩いている間、ぼんやりとした思考を捏ねる。ここ数日、人と話す機会は増えたのに、時間はゆったりと流れている気がする。これではいけないと焦燥感もあるが、何がいけないのかわからないという気持ちもある。慌てたところで、これから先に何があるというのだ。

「はい、ここが博士のお家、兼、研究所です」

「何とも……趣のある研究所だね」

 屋根が抜けたり壁が破れた跡を適当に板張りして隠してある。海際の家は傷みやすいとはいえ、限度があるだろう。おまけに、中からは何かを叩き付けるような音が聞こえてくる。

「いいぞ、イワンコ!もっとだ!僕の体はそんなにやわじゃないぜ!」

「ワォン!」

「ククイ博士は、ポケモンの技の研究家なんです。自分で技を試すから……白衣も、すぐ傷むんですよ。わたし、お裁縫するんですけど、得意じゃなくて」

「すごいよねー!」

 あの体格の良さはそういう理由もあったのか。あたしなら骨を何本折るか考えたくもなかった。島巡りというのは、やっぱり生身が必要なのだろうか?暗澹とした思いで立ちすくむあたしを引っ張りながら、二人と引きずられたあたしは当然のように鍵がかかってない研究所の扉をくぐった。

 

 犬ポケモンが博士に執拗に体当たりをしている。あれがイワンコだろう。ククイ博士の体の頑健さに改めて驚く。オニスズメにつつかれたくらいではびくともしないのだろうな、多分。

「やあ、ユウケ、ハウ!来てくれたんだな!リーリエもお帰り」

「はい、戻りました」

「「どうも」!」

 ぐるりと研究所を見回す。屋根と壁以外は意外とまともだ。ラブカスが泳ぐ大水槽、水族館好きとしては心が惹かれる。水槽内のラブカスはもちろん、近くに座っているブルーとニョロゾもまったく動じる気配がない。リーリエの鞄から飛び出してきたほしぐも――ちゃんも気にしてない様子だし、普段から慣れっこなのだろう。助手としてのこの子達がどんな技を博士にかけるかは知らないし、想像したくもないが。アローラ地方の人間は普通より丈夫なのかもしれない、という下らない想像を振り払い、あたしは博士に尋ねた。

「博士から、何かあたしにあると聞きましたけど」

「おお、そうなんだよ。ポケモン図鑑を貸してくれるかな?」

「はい」

 ポケットから図鑑を取り出して博士に手渡す。何か作業をしながら、博士はあたしにちらりと目をやった。

「すごい大荷物だね。何が入ってるんだい?」

「あ、それ俺も聞きたかった」

「わたしもです」

「何って、普通の旅用の荷物ですけど。ポケモン用の餌と私の食事と水分、テント、寝袋、着替えが三日分に雨具、後は常備薬とか、予備のお金とか……」

「歩いていける範囲でポケモンセンターがあって、泊まるのはもちろん、食事もカフェが併設されてるから大丈夫だよ」

 島巡りが一般的な成人の風習になってるなら、それはそうか。ポケモンがいなければ旅もできないし、そうなるとポケモンセンターも、希望的に考えれば街道もあるはず。道理でハウ君もリーリエも荷物が少ないわけだ。

「ポニ島だけは必要かもしれないけどね。最後に行く島だから、今からそんなに持って行かなくても大丈夫だと思うぜ」

「うーん……まあ、折角ですけど、普段からこれくらいは抱えて歩いてますし、途中で荷物が要らなさそうなら不要な分だけ送り返します」

「体験しないと納得しないタイプなんだな、ユウケは。っと、よし、できた。さあ、みんな注目してくれ!」

 博士の手元の図鑑を全員が注視する。背中に何か部品がついただけのように見える。博士が手を伸ばし、机に置いてあったモンスターボールを博士が開けると、何か光るものが図鑑の中に吸い込まれた。

「……ケテ?」

「今のは?」

 鳴き声には聞き覚えがある。この間までリーグ戦の手持ちに入れていたからだ。

「ロトム?」

「正解だ!これで、この図鑑はロトム図鑑になったわけだな!」

「ケテ!マイクのテスト中だロト」

「「「喋った!」」」

「これからよろしくロト、ユウケ!」

 ひょい、と飛び上がったロトムを手に取る。握手のつもりか、触れている翼が上下するので、あたしも軽く握って振り返す。

「う、うん。よろしくね、ロトム」

 ポケモンが喋るというのは驚天動地の出来事なのだが、他の二人は少ししか驚かなかったらしい。ポケモン図鑑の発声能力を使って翻訳しているだけといえば、そもそも人語を理解するポケモンが喋っても驚くには値しないのかも知れないが。

「まだ部品が届いてないから、先にユウケから渡すことにさせてもらうよ。年齢順ってことでね。ハウ、届いたら送るからね」

「ありがとー博士。楽しみー!」

「年齢順?ユウケさん、島巡りをされるから、同い年だとばかり……」

「あたし、今年で十三になるよ」

「へー、そうなんだ。俺より二コ上なんだー。って、ええっ?!」

 驚くところかな。いや、ククイ博士のことだから、下手すると引越先と名前と顔写真以外一切伝えてなかったんじゃないだろうか。

「えー、じゃあさん付けで呼んだ方がいいのかなー?」

「いいよ、今更だし。さん付けもなし、ため口でいいから。調子が狂いそうだし」

「そう?よかったー」

 年齢が上だから下だから、というのはあんまり好きじゃない。年齢より勝ち負けで敬われたり、その逆の業界でやって来たからだろう。揉めたくはないので、最低限の礼儀には気を付けているつもりだ。人当たりがきついらしいというのは、気にはしている。

「それと、ユウケとハウの二人にもう一つ、プレゼントだ」

 青いヘッドギアみたいな機械。これは見覚えがある。細部は違うが。

「がくしゅうそうちですか。ありがとうございます」

「そう、がくしゅうそうちだ。それがあれば、戦闘に出してないポケモンも育つ!」

 興味津々でいじり回すハウ君。スイッチ以外は触っても意味がないのだが、何となく意味深な形状をしているので、気持ちはわかる。多分、昔はポケモン一匹に被せて使える道具だったとかなのではないだろうか。

「それじゃ、気をつけて、島巡り頑張ってほしい。と、言いたいところだが」

 沈黙して博士の言葉を待つ。

「ユウケとハウは、トレーナーズスクールでまずはポケモン基本を学んでほしいんだ」

「おー!」

「いや、あたしは別にいいですけど」

「じゃあ、ユウケは生徒四人とのトレーナーとバトルでどうだい?バトルならしたいよな?」

「はい」

 バトルが嫌いなトレーナーはあまりいないだろう。ポケモン好きでバトル嫌いなら、大体はトレーナー以外の進路を目指すというのもあるが、トレーナーの目の前にバトルという餌をぶら下げられたら、嫌というはずがない。

「えー、俺もバトルしたいなー」

「ハウはちゃんと講座聞いておかないと、後で困るからね」

「ちぇー」

「それでは、わたしもユウケさんの方の見学に行っていいですか?」

「構わないよ。ニャビー以外のポケモンを見せることになるかは、相手次第だけどね」

 

 学生相手に元プロが本気を出すのは大人げないという人はいるだろうか。いや、あたしは接待バトルはしないし、相手を侮って手を抜いたりはしなかった。四人目の対戦相手、ホープだという――名前は忘れたが――彼は涙目になっていた。四戦とも、アローラ地方のニャースとベトベターを初めて見て驚いた以外は、特に問題のない勝負運びだった。

「積み技を使う時は、タイミングを考えないとね」

「く、まさか成績優秀者の僕が手も足も出ないなんて……」

 もっとポケモンを捕まえておいた方がいいよ、とおざなりなアドバイスを送ってから、あたしは戦利品の技マシンを受け取る。ふるいたてる、か。両刀ポケモンでもあまり使わない技だというか、昔々、ギルガルドとかいう忌々しい奴を安定して仕留めたくて両刀バシャーモを育てた時に検討した以来見る。白状すると使ったことのない技だ。コスモパワーなら耐久型とアシストパワーで使い勝手が良さそうな気もするが、ただでくれるものに余計なことは言わないでおこう。

「ユウケさんもニャビーさんもすごかったです」

「いや、まあ相手も一匹しかポケモン出してこなかったしね」

 たわいないおしゃべりを、アナウンスが遮った。

『ユウケさん、ユウケさん、トレーナーズスクールの二階までお越しください』

「何か、呼び出されることでもしたんですか?」

「いや、反則とかは……多分、してないよ」

 ジト目でリーリエに睨みつけられる。ジト目も絵になるな、この子は。

「ま、何だかわからないけど行ってくる」

 やましいこともないのに、どうもああいう目で見られるとどぎまぎしてしまう。ひらひらと手を振って、あたしは足早に校舎の二階に向かった。

 

 ククイ博士と、ここの教師らしい女性が、あたしに向けて手を振っている。一応後ろを見て、あたし以外の誰かに手を振ってないか確認してから、小さく頭を下げた。

「いや、さすがだね、ユウケ!」

「本当に鮮やかな試合でした。試合も見てましたし、ククイ博士からあなたのもらったポケモンも聞いています。なので、あなたの苦手なタイプのポケモンで勝負させてくださいね」

「わかりました。じゃあ、始めましょう」

 あたしと先生が、同時にボールに手をかけた。

 

 確かにあたしはアローラに来てから、ニャビーでしか戦って来なかった。しかし、ニャビーしか持ってないし育ててないとは誰にも言ってない。

「草タイプのポケモン持ってたなんて……」

「最初に『苦手なタイプを使う』って宣言されたら、そりゃあ違うタイプのポケモンを出しますよ」

 小さく苦笑いしてしまう。炎に有利なポケモンとなれば、水か岩、地面、さもなくば竜だと大体当たりがつく。炎に有利という言葉からそう思わせてもらいび持ちのポケモンも想定したが、それならそれで別のタイプのポケモンを出せばいいまでのことだ。

「しかし、何でマダツボミなんだい?」

「草と毒のタイプが欲しくて。フシギダネはもう四匹は育てましたから、そろそろ違う子が良いかなって。ナゾノクサとどっちがいいかは悩んだんですけどね。それに、こいつは隠し球も仕込んでますし、ね」

「へえ、それは楽しみだ」

 アローラ地方のガイドブックを調べて仕込んでおいた隠し球をいつ見せることになるか、そもそも使うかどうか、自分自身でもわからないが、上手く行けばきっと面白いはずだ。

 

 校庭に戻ると、座学から解放されたらしいハウ君とリーリエが喋っていた。

「大丈夫でしたか?」

「ユウケ、勝った相手にめちゃくちゃ言って怒らせたのかなーって言ってたんだよ」

「あたしってそんな口悪そうかな?」

 全員無言で大きく頷かれた。

「目付きがちょっと怖いです」

「技で例えるならへびにらみってところかな」

「何か怒ってそうだよねー」

 一部冗談なのはわかるし、目付きが悪いのは自覚していたが、そうか。こういう総ツッコミを受けた時にどういう顔をしたらいいかわからないの、という奴だな。今晩からもっと笑顔の練習でもした方がいいのかもしれない。

「ま、それはさておき。これでもう、今度こそ島巡りを始めても大丈夫ですよね?」

「そーそー、授業眠くてさー、起きてるの大変だったんだからねー」

「ああ、もう文句なしさ!今度こそ行っておいで!」

 博士と何やかやで見送りに来てくれたトレーナーズスクールの学生達に手を振り、あたし達の旅は始まったのだった。

 

 始まった途端躓くなんてことはよくあることだ。特にあたしの人生においては。具体的な蹉跌としては、野良だか逃げ出したのだかわからないケンタロスがハウオリシティへの進路を塞いでいたのだ。それなりに角に傷がついているから、若くて弱いポケモンだということは期待できなさそうだ。あたし達のポケモンで何とかなるかわからない。

「こりゃまた何とも、蹉跌の原因としては大きいし元気一杯だね」

「さてつって何ー?」

「つまづくこと、ですね」

 三人の先頭に立つ。格闘タイプのポケモンもいるが、まだ大して経験も積んでない子に、一撃当てられるだろうか?一撃当てれば引っ繰り返せると思いたいが。ケンタロスの目をじっと見つめる。ガンつけ勝負で人間に負けたなんて話を聞いたことのないポケモンだが、こけおどしで何とかならないだろうか。

 不毛で不利なにらみ合いは、後ろから掛かった声で中断された。

「おお、ケンタロス。ここにいたのですな!」

 狭い島だ。ハラさんのポケモンでもあまり驚かないが、この人は何タイプのエキスパートなのだろう。ケンタロス一匹をもって判断するのは危険だが、ノーマルタイプか。ノーマルタイプのジムリーダーは過去に戦ったことがあるが――まるくなるところがるのあのミルタンクを思い出して、少し気分が悪くなった。神様、あのときはよくもあたしのポケモンの技を外してくれたな。

「あれ、ユウケ、顔色悪くない?大丈夫ー?」

「はっは、ケンタロスに驚きましたかな。これは失礼」

 ぼんやりしてるところがあるようなハウ君も、結構人を見る目はあるらしい。これは過去のトラウマで、別にケンタロス自体は何てことはない。飼い主が現れてやや大人しくなったケンタロスと再度目を合わせる。

「ブモォ!」

「おや、ユウケに触ってほしいようですな。触ってやってくれますかな?」

 ケンタロス。こいつにはカントーのサファリパークで苦汁を嘗めさせられた記憶しかない。手持ちに入れたこともなかった。当然、触るのも初めてだ。おずおずとたてがみを撫でてやる。

「ブモオオ!」

「おお、喜んでおるようですな。ユウケくん、ありがとう!」

 いえいえ、と小さく首を横に振って、謎の歌を口ずさみながら去って行くハラさんとケンタロスを見送る。

「ユウケさん、ポケモンには好かれるほうなのでしょうか?」

「どっちかというと怖がられるかな」

 自慢ではないが、人様のポケモンに好かれたことはあまりない。胸を張っても仕方ないところだが。

「アローラのポケモンならなついてくれるかもしれないよー?」

 うん、きっとこれは根拠がないな。段々ハウ君がわかってきた気がする。まだアローラのテンションに馴染むまでは時間がかかるだろうが、多分、この二人とは上手くやっていける気がする。これも、何の根拠もないのだが。




カントー地方の東端からジョウト地方の西端まで徒歩が基本のポケモン世界でどれくらい掛かるのか、Googleマップで銚子から南港までと入力してみたところ、不眠不休で歩いて123時間かかるそうです。
なので、5つの地方を歩き回ってポケモンを育てたりジムやリーグに挑んだりするのも、1年ちょっとあれば何とかなると思います。多分。
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