午後のうららかな陽光の下、あたし達はポニ島、海の民の村に下り立った。乗せてくれたリザードンに礼を言い、リーリエの手を握って、マツリカの家の前まで来た、ところであたし達は硬直する。家の前の桟橋にマツリカが椅子を出して腰掛け絵を描いているまでいいが、その前に客が三人ほどいたからだ。プルメリとスカル団の下っ端が男女一人ずつ。まさかと最悪の想像が頭を過ぎったのだが、様子がおかしい。向かい合うように椅子に座ったプルメリは居心地が酷く悪そうだし、左右に座り込んでいる下っ端もスマフォを眺めているが、気もそぞろという風情だからだ。念のため、リーリエの一歩前に出てから、あたしは遠目に声を掛ける。
「あの、マツリカ?」
「一分」
首を傾げたあたしに、辟易した表情のプルメリが口を開く。
「後一分で終わるから、そのままで待ってくれってさ」
動くなと言うマツリカの素振りに渋面を隠しもせずに従うプルメリから、リーリエに目を向けると、やはり困惑した顔をしているので、二人で苦笑いし合う。脅されて無理矢理描かされているという線は完全にないだろう。リーリエの視線を遮らない位置に戻ってからマツリカの目元に視線を移すと、素描というのだろうか、遠目で見ても素晴らしい速度で美しい絵が仕上がっていく。見惚れている間に描き上がったらしい。
「おまたせ」
「あんたね、モデル協力したアタシらには何か無いわけ?」
「ケーキ食べる?」
「……こいつらの分だけ」
「プルちゃんは、ソクノケーキ好きだったよね。うんと甘いの」
「その呼び方は止めな」
マツリカは答えずにバッグの中をがさごそとやり、個包装されたロールケーキを取り出し、プルメリ達と、あたし達にも手渡す。
「……ありがとうございます」
「ありがとう」
「「あざっス!」」
あたし達の礼と、プルメリの溜息が小さく空気を揺らす。
早速ケーキを開ける下っ端達を余所に、プルメリはあたし達――いや、あたしとマツリカに交互に視線を寄こす。放っておけばこのままかもしれないと思うとうんざりして、あたしは口を開こうとして、機先を制される。
「グズマの礼を言いたくてね。それでここらに張ってたら、こいつに捕まったんだよ」
「お二人はどういうご関係なのですか?」
リーリエの問いに、思案顔のプルメリより早くマツリカが茫洋とした表情のまま答える。
「結婚を誓い合った幼馴染み」
「な……まだ覚えてた?!」
あたし達をそっちのけにして口論――というか、じゃれ合いというか――を苦笑いしながら眺めることしばし。
「あっ、姐さん!そろそろ時間が……」
「婚約者を放っておいてまでする大事な約束?」
「まだ引っ張るのか!しつこいね!あーもうわかったわかった!今度はちゃんと連絡するから!今日の夜!」
「絶対だから」
どことなく勝ち誇ったような顔のマツリカと、バンジの実でも囓ったような顔のプルメリの対比が面白くて、笑いをかみ殺すのが大変だった。
礼は伝えたからな、とあたし達に言い置いてプルメリ達が去り、マツリカが椅子を家に放り込んでからあたし達に向き直る。
「お待たせ。それじゃ、試練始める?一応、花びらの確認をしてからね」
あたしは頷いて、バッグから花びら入りケースを取り出す。まじまじと花びらを見たマツリカは、いつもの何を考えているか判らない仏頂面になる。
「うん、上出来。ま、全員回ったのは聞いてたんだけど。それじゃ、始めよう」
リーリエはマツリカの後ろで待っていてもらうことにする。自分で頼んでおいて何だが、リーリエと繋いでいる手を離すのは何だか寂しい。リーリエはあたしの顔を見て小さく笑って、あたしの手を一度ぎゅっと強く握った後に手を離し、とてとてと走って行く。ずっと眺めていたかったが、マツリカが右手を大きく振り上げたのを視界の隅で捉え、あたしは意識を切り替えボールに手を伸ばす。
マツリカの右手が挙がると同時に、巨大な影が海側からマツリカの背後を通り、彼女の頭上を飛び越えて着地する。ぬしというのはどれもでかいのだな。このアブリボンも何というか、呆然とする大きさだ。
「ぶりぶりぃ~!」
先手必勝、あたしは一撃でキメることにしていた。
「ガオガエン、頼んだ!」
「ゴオオッ!」
かなり恥ずかしいが、ぬし相手にとやかく言っている余裕は全く無い。あたしは全身を振り動かし、炎が燃える動作を再現する。
「おー、いきなりホノオZか」
あたしの体力、気力がZリングを通じガオガエンに流れ込む感触。ガオガエンは大きく吠え、炎を纏いアブリボンに突っ込む。アブリボンが大きく吹き飛び、ガオガエンも反動でノックバックする。かなり効いたとは思うが、やってないな。アブリボンが今のを喰らう直前に、何かを口に運んでいたのが見えていた。多分オッカのみだろう。実でダメージを半減しても、かなり効いた事自体は間違いない。アブリボンはふらふらと宙を舞っている。いや、ちょうのまいだな。ぬしのピンチに呼ばれたらしきハピナスが、今度はあたしの頭上を跳ねるように飛び越えてアブリボンの横に立つ。一撃で食えなかったのは辛いが、やることは変わらない。雑魚は無視だ。
「ガオガエン、アブリボンにフレアドライブ!」
元気一杯のガオガエンが足元を蹴飛ばし、火を纏いアブリボンに再び襲いかかる。アブリボンは全身を震わせてむしのさざめきを放つ。ガオガエンの纏う炎が削られていくが、止められ切れずに再び突き刺さった。アブリボンは再び吹き飛び、今度こそ目を回してぽとりと落ちた。それを見届けたかのようにガオガエンはがくりと膝を着く。ハピナスのいやしのはどうがアブリボンの上をすり抜け、僅かにガオガエンを癒やす。駄目なら他の子で後片付けを考えたが、ガオガエンはどう思うかだな。
「ガオガエン、行ける?!」
「ぐぉう!」
行けるならまだやらせてやりたい。倒されてもいいから、満足が行くまで戦うことがこいつは好きらしいからだ。
「DDラリアット!」
ガオガエンの強烈なラリアットに吹き飛ばされたハピナスは宙を舞う。
「「あっ」」
マツリカの繰り出したクレッフィが触手を伸ばし、海面に落ちかけたハピナスを助けた。ハピナスも目を回していて、もう戦う気力はなさそうだ。
「いや、あの状態のアブリボンの攻撃をよく押し切ったね。おめでとう、試練達成」
「わぁ!凄いです!ユウケさん、ガオガエンさん!」
「よくやった、ガオガエン。ありがとう、リーリエ、マツリカ」
「ぐぉぅ……」
あたしのねぎらいの言葉にニヤリと笑みを浮かべたガオガエンは、再びがくりと膝を着いた。あたしはガオガエンの頭を撫でてやってから、ボールに戻す。いつの間にか後ろに出来ていた見物人の人だかり――といっても、十人くらいだが――から拍手が起こり、あたしはたじろぐ。
「でも試練の場所も、ちょっと考えないといけないかな」
「桟橋の上は、危ないかも知れませんね」
起き上がったぬしのアブリボンにさっきのケーキを上げながら、リーリエと呑気に話すマツリカに、野次馬を何とかしてほしいと頼むのも間に合わず、次々と握手を求める人達にてんてこ舞いさせられたのだった。
人垣――といっても、十人ほどだが――をかき分けてやってきたのは、バンバドロに乗ったハプウだった。バンバドロが大きいので、シルエットだけだと世紀末覇者という感じの彼女は、ひらりとバンバドロから下り、小さく微笑んで口を開く。
「試練には間に合わんかったが、ハピナスが吹っ飛んで行くのが見えたから、勝ったのじゃろう。めでたい」
「ありがとう」
「ユウケの都合がいいなら、ポケモンを回復させ次第、大試練というのはどうじゃ?」
「すぐでも構わないよ。きずぐすりで回復させるから」
「ほう、それはありがたい。なに、島クイーンとして大試練をやるのは初めてじゃからな。顔見知りが相手の方が少しは気が楽というものじゃ」
破顔するハプウに釣られて小さく笑う。ガオガエンのボールにすごいきずぐすりを入れ、あたしはリーリエとマツリカの方を見る。
「ハプウの初舞台、気になるかも。立場的にどっちも応援はできないけど、スケッチさせてもらおうかな」
「わたしは……ハプウさん、ごめんなさい。ユウケさんの応援をします!」
「何じゃ、孤立無援か?」
不満げに呟くハプウにあたし達と野次馬が笑い、野次馬の中から「俺達はハプウを応援するからな!島クイーン頑張れ!」と好意的な野次が飛び、ハプウも再び顔を緩ませる。
「では、勝負は桟橋の北側でしよう。ポケモンが海に落ちては敵わんからな」
さっきの派手に宙を舞ったハピナスが頭を過ぎり、あたしは頷いた。
野次馬の顔ぶれはほぼ据え置き、強いて言うならスケッチブックを広げて座り込んだマツリカが人垣に加わったくらいだ。さっきのマツリカ戦と違って、うみのたみの村の住人は新人の島クイーンであるハプウを応援しており、敵意こそ感じないものの、アローラでは初めてといっていいアウェー感に小さく唾を飲む。唯一あたしを応援してくれているリーリエに小さく手を振ってから、首を左右に軽くストレッチし、腰のボールに手を掛けた。
「よし、では始めるか。ユウケ、手加減せんからな」
「あたしも初舞台だからって、譲ったりする気は無いからね」
お互い小さく笑い、ボールを投げた。ハプウの腰のボールは四つ。彼女はバンバドロを見るに、おそらくじめんタイプを専門とするトレーナーだ。そうするとあたしの初手は決まってくる。
「トリトドン、行け!」
「頼むよ、ウツボット!」
「ウッツボオー!」
「ぽわぐちょー!」
ウツボットが大きく葉を広げたのに目に見えて怯みながらも、トリトドンは声を張り上げる。よし、先手はあたしが取った。
「戻れ、トリトドン!フライゴン、任せる!」
トリトドンの火力では、氷技があっても無理をさせたくないだろうし、あたしでも絶対引く局面だ。あたしはマツリカの時と同じように、全身で炎を再現し、Z技をウツボットと共に発動させる。
「Zひでり!」
「キュオオオーン!」
ウツボットの頭上の水蒸気や埃が吹き飛び、強烈な日差しがあたし達を灼く。
「フライゴン、だいちのちから!」
「ウツボット、ギガドレイン!」
指示はほぼ同時だったが、陽光で活性化したウツボットの方が圧倒的に早い。フライゴンが炎技を持っていないのは良い材料だが、フライゴンには草技は等倍だ。相手の地技が等倍なのがこちらも痛い。ウツボットのもう一撃のギガドレインで、フライゴンは沈んだ。「ああー……」というギャラリーの落胆の声にハプウは小さく笑う。
「何の、まだ始まったばかりじゃ」
後三手分、あたしのウツボットはアドバンテージが取れる。ハプウは小さく考え込む。小さくガッツポーズをしたリーリエにあたしはアイコンタクトする。その間に、ハプウは考えを纏めたらしい。
「よし、バンバドロ、頼む」
「ブルルゥン!」
ハプウの横に控えていたバンバドロが三歩前に出る。あいつはてっきり切り札で最後に出すと思っていたので、少し意表を突かれてしまった。
「ウツボット、ギガドレイン!」
ハプウは見慣れない、いや、見慣れた動きだ。初めて見るが、あれはZ技だろう。
「バンバドロ!ライジングランドオーバー!」
「ブオオン!」
バンバドロに痛打を与えたはずだが、一撃では仕留められなかった。地割れに飲み込まれたウツボットが、地割れから吐き出され力尽きる。
「良くやったよ、ウツボット。戻って」
盛り上がる観客とは裏腹に、ハプウの表情はそこまで明るくは無かった。バンバドロとZ技という二つの札を切って一匹処理という結果ではそうかもしれない。まだ陽光は強い。あたしはガオガエンを繰り出す。
「ガオガエン、頼む!」
「バンバドロ、戻れ。トリトドン、頼むぞ!」
「ガォオッ!」
「ぽわ〜おぐちょぐちょ!」
バンバドロが意外なほど機敏な動きで下がり、ボールから出てきたトリトドンと入れ替わる。この対面で普通なら突っ張らないところだが、トリトドンは何としてもここで食っておきたい。トリトドンは個人的に苦手なポケモンだし、今のパーティでは倒す手段があまり無いのだ。
「ガオガエン、DDラリアット!」
「トリトドン、たくわえる、む……いや、たくわえる!」
一瞬戸惑ったハプウの指示に、トリトドンは困惑すること無く従う。よく鍛えられている。だが、ガオガエンのラリアットはたくわえる前に叩き込まれる。トリトドンはタフなポケモンだから倒れない。
「もう一回、DDラリアット!」
「だいちのちから!」
流石に二度は無いか。ガオガエンのラリアットはたくわえたトリトドンの防御力向上を無視してダメージを与え、大きくふらつかせるが、反撃で吹き上がった土に吹き飛ばされ、ガオガエンもノックバックする。陽光が元に戻る。
「ガオガエン、もう一発行けるね?」
「グオオッ!」
「耐えて返せ!」
三度目の正直で、トリトドンは力尽きて崩れ落ち、ボールに戻る。再び落胆するギャラリー。
「何の何の、まだ半分じゃ。行け、ゴルーグ!」
「ゴッ」
青い影と煉瓦で作られたようなポケモン、ゴルーグが姿を現す。あたしは小さく目を見開く。ゴルーグは育てたことはあるが、使ったことが無いし、使っている人を初めて見た。
「DDラリアット!食って、ガオガエン!」
「ゴルーグ、じならし!」
ガオガエンが腕を続けざまにゴルーグの首元に叩き込む。ゴルーグは大きく傾ぐ――が、倒れない。ゴルーグは体勢を立て直し、ガオガエンの足元に強烈な蹴りを叩き込む。弱っていたガオガエンは力尽きて、ボールの回収機構がガオガエンを回収した。
「ガオガエン、いいよ。お疲れ様。次、ミミッキュ!」
「ミミッキュ!」
ハプウの二つ目の星に沸いていたギャラリーが一瞬で静まり返る。ミミッキュが厄介なポケモンであることは、アローラでは常識だからだろう。
「ミミッキュ、シャドークロー!」
「ゴルーグ、シャドークロー!」
指示は同じだったが、決闘じみた影の早撃ちを制したのはミミッキュだった。ゴルーグの巨躯が全く音を立てずに崩れ落ちる。悲鳴めいた小さな溜息が、ギャラリーの間に広がる。
「バンバドロ、頼む」
「ブルゥ!」
さっきウツボットが与えたダメージがどれくらいのものか。あたしは確実な勝ちを取ることにした。ハプウの放り投げたきずぐすりが空中で炸裂し、バンバドロの傷がみるみるうちに治る。
「ミミッキュ、のろい!」
「くっ……!」
ミミッキュの胸におぼろげな灰色の大釘が現れ、自身を貫通する。呪詛がバンバドロに移り、大釘がバンバドロを苛み始める。
「搦め手が好きじゃな、ユウケ」
「ハプウもトリトドンにバンバドロに、耐久型が好きだよね」
「まあな。しかし、最後の一匹にのろいとはな」
ハプウは小さく溜息をつき、両手を挙げた。
「この勝負、わらわの負けじゃ」
観客から「ああ」という低い呻き声が上がる。ざわついた沈痛な雰囲気が漂い始めるが、それをかき消すように小さく、だがはっきりと拍手が聞こえた。拍手をしているのはマツリカだ。リーリエがそれに加わり、観客達もそれに加わる。あたしは俯いたハプウに歩み寄った。
「負けるのは悔しいもんじゃな。だが、勝負自体は悪くなかった」
「あたしも楽しかったよ。またやろう」
あたしとハプウは拍手の中、しっかりと握手した。
虹色わんこさんにユウケを描いて頂きました。諦めないしぶとさと往生際の悪さが目つきの悪さとして表れていて素敵です。
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のへるさんにリーリエとユウケを描いて頂きました。リーリエの笑顔とユウケの無愛想さの対比が素敵です。
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だすぶらさんにリーリエとユウケを描いて頂きました。リーリエの自然な笑顔とユウケの写真撮られるのが下手なところ、ハートマークが上手く作れていないところが素晴らしいです。
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ホウ酸さんにリーリエとユウケを描いて頂きました。物陰でいちゃいちゃする百合ップル最高ですよね…。
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https://twitter.com/housandang
のへるさんにユウケを描いて頂きました。可愛いです。
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のへるさんにユウケとポケモン達を描いて頂きました。ハガネールの圧が凄い。
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穂積窓声さんにリーリエとユウケを描いて頂きました。二人ともすらっと美人に描いて頂きました。
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https://twitter.com/ricebirdmon
りとますさんにユウケを描いて頂きました。可愛いです。こんな可愛い顔もありだ…と思いました。滅多にしなさそうですけど。
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