やる気多めのシンジ君、エヴァに乗る   作:九段下

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晴天のガールフレンド/友達になりたい

晴天のガールフレンド/友達になろう

 

突然の話だが。

綾波レイから見れば他人は怪物だった。

だから今まで話しかけてきたクラスメイトがなぜ自分を囲んでくるのかも分からないし、大人達が何かにつけて自分に注意を向けてくる事についても、恐怖を感じることしかない。

 

だがそれにも例外はある。一人は碇ゲンドウで、今までの自分に方向を与えてくれた人物だ。

そして、その例外が突然二人増えたことに、レイは戸惑いを感じていた。

 

(碇シンジと惣流・アスカ・ラングレー。碇指令とあの二人が怖くないのは何故?)

 

碇ゲンドウの子供だからシンジが怖くないのは、理屈としては通っているとレイは思う。だが、そこに何故アスカまで入ってくるのかレイには想像がつかなかった。

 

(同じエヴァのパイロットだから?それとも、碇君と似ているから?)

 

理由としてはそんなところだろうかと考えても、どちらも後付けのように感じられる。

その疑問が頭から離れないせいだろうか。アスカが転校してきてから、レイは気がつけばアスカの事を視線で追うようになっていた。

 

「で、なんでアンタはバカシンジの横に座ってるのよ」

「んー、なんでだろ?ねぇ、シンジ君はわかるかな?」

 

視線の先、アスカは同時に転校してきた霧島マナを問い詰めている。だが、マナはヒョイと首をすくめるだけでシンジに流した。

 

「ぼ、僕がわかる訳ないよ!と言うか霧島さん、近いからその…」

 

「シンジは何であんなにモテるんじゃ。ワシらもなんか、ああいうの欲しくないかケンスケ」

 

「トウジにソレ言われるのすげえムカつくんだけど何だろうこれ。メンバーだけ見れば華やかなのに敗北感が凄い」

 

レイの対面に座るシンジは、マナに擦り寄られて真っ赤になり、その横で黒いジャージとメガネの二人組が菓子パンを頬張りながらボソボソと何かを話している。

そして、彷徨っていたレイの視線はシンジにすり寄っていたマナの隣、ムサシと自己紹介した少年に固定された。

 

「おいマナ、碇君に迷惑かけるな。お前の距離感はちょっとおかしいと自覚しろって、何度も言っているだろ」

 

ムサシはマナを引っ張ってシンジから離そうとしているが、レイにはあまり本気ではないように見えた。

 

(霧島さんが碇君にくっつくのは嫌なのに、諦めてるのね)

 

レイにとっても、よく分からないマナがシンジを独占しているのは嫌な気分にさせられる。

赤木博士からもらったお弁当をぱくつきながら、レイはムサシを無言で応援する。

しかしソレは、傍目からは少々きつめの視線となってムサシに突き刺さった。

 

「綾波さん?俺、なんかしたかな?」

「えぇー?ムサシ、もう綾波さんに何かしたの?信じらんないんだけど!」

「何もやってねぇよ!」

 

鋭くレイの視線に気付いたムサシは、なぜか冷や汗を流しながらもレイに対応し、マナが即座に茶化す。

手慣れた感覚で場の空気を和やかにしようとする二人の手腕は、レイから見れば憧れてしまう如才のなさに映った。

 

「別に。ただ、不思議なだけ」

「?」

「あなた達は仲良くなりたいと言うけれど、辛いことを我慢してるみたい。なぜ辛いのに笑えるの?」

 

レイの言葉に、二人の表情が一瞬止まる。レイは、泣き出したくなるような感情を二人から感じるが、それも一瞬で何かに塗り潰される。

 

「それは」

 

動揺を隠しきれないマナが、その場しのぎの言葉を紡ごうとする。

しかし、レイの言葉をアスカが止めた。

 

「ストップ。言いたいことはわかるけど、それ以上はこんな所でする話じゃなくなるわ」

 

そこで一旦言葉を切ったアスカは、今度はマナの方に視線を向けた。

 

「ウチのセンパイはいつもこんな感じなのよ。気にしないことね」

「惣流さんは、私たちの事怪しいとは思わないの?」

「思うわよ。転校早々にそこのパッとしないのに粉かけてる時点で私の中では何かあるのは確定してる。でも、それと敵視するかは別の話なの。碇クンだって何も言ってないじゃない」

 

レイとしても不思議だった部分に話が向く。確かにシンジは明確に人を拒絶する人間ではないが、状況に流される事もない。そのシンジがマナの思うままに流されているのは、レイにとって意外で、なおさらに機嫌を損ねる原因だった。

 

「ま、これからクラスメイトとして長いことやってくんだし、一回くらいなら巻き込まれてあげるわよ。貸しだけどね」

 

アスカは言いたいことを言って満足したのか、手に持った菓子パンを口に放り込む。

なぜか転校生に優しいアスカとシンジを不思議に思いながらレイがリツコ印のネコオムレツに箸を突き刺すと同時、ネルフの通信機が振動した。

 

(緊急事態。戦闘準備開始。使徒の形態は…)

 

「二足歩行の巨大移動物体が芦ノ湖で確認された。トウジとケンスケは校舎の中に戻って。あそこが一番シェルターに近いから。レイ、アスカ、いくよ!」

 

レイが確認し終わる前にシンジが立ちあがり、指示を出していく。

父親譲りなのか、妙に断定的に語りながらネルフに連絡を取る姿は、ゲンドウの後ろ姿によく似ている。そこで一旦言葉を切ったシンジは、マナとムサシに向き直った。

 

「二人も、できれば安全なところに。僕たちの事は追わない方がいいよ」

「ったく、転校早々にずいぶんイベントを積み込んでくれるじゃない。そんなに撃ち抜かれたいのならやってやるわよ!」

 

シンジにしては少し冷たい声を遮るように、アスカの咆哮が快晴の空に響いた。

 

 

◆◆◆

 

 

『で、何にもなかったってどういう事よ!』

「いいじゃんか。使徒じゃないなら、僕らだけで戦わなくても良いんだし」

 

エントリープラグの中、シンジは不機嫌さを隠しもしないアスカの声を聞き流しつつ笑った。

 

『アンタ馬鹿?エヴァが必要な場面で、エヴァが動かなくてどうすんのよ!それでなくてもエヴァは動くだけでお金かかるんだし、なんでも良いから結果出さないと私達が苦しくなるのよ?』

「その、ごめん。でもそんなにネルフって苦しいの?」

(そんなにきつい言い方しなくたって良いじゃないか)

 

恐ろしい剣幕で言い返すアスカに副音声で愚痴を漏らしつつ、シンジはネルフの懐事情に話をすり替えた。

 

『苦しいかと言われると違うけど。でも人類の危機なのにお金の話が関わってくるのはマズいのよ。余裕があるって事でもあるけど、私達の味方じゃない人たちがいるって事だもの』

「霧島さん達のこと?」

『何よ。シンジの割に勘が働いたじゃない』

「いやどっちかって言うとアスカがあんなにわかりやすく警戒するから気になっただけなんだけど」

 

(アスカって怪しい相手でも表面上は仲良くしてから情報抜き取ろうとするから、本気で威嚇するなんて久しぶりに見たし)

 

「なんかあの子は気に入らないのよね。理屈じゃないから気にしないで良いわよ。どーせ、アンタが気にしたって意味ない事だし」

 

シンジの指摘に、アスカはカメラから顔を逸らした。

 

「またそうやって隠してさ、そこまで警戒しなくても良いじゃないか!」

「うるっさいわね!私だってわかんないのよ!でも!」

 

朝からシンジに対して突っかかり続けるアスカに、シンジは声を荒げる。だが、アスカの返答はさらに切羽詰ったものだった。

 

『二人とも興奮しないの。一旦休憩にしましょ?ちょっと水際で遊んでくると良いわ』

 

ミサトの声が通信に乗り、その後ろで響く作戦部の掛け声をマイクが拾った。

 

_初号機、弐号機電源供給停止_リフト立ち上げ準備。開始まで90秒_武装トラック用意、チルドレンの回収初め_あ、これアスカちゃんとシンジ君に差し入れお願いします。頼まれてたクッキーだって言えば_

 

通信がにわかに騒がしくなり、シンジはアスカに声をかけるタイミングを失う。

言い過ぎたな、と反省してもアスカはもうマイクを落として降機準備に入っており、シンジもそれに従うことにした。

(なんで今日はこんなにペースが乱されるんだろう)

割と直情的になってきたシンジも、自分のコントロールがうまくいってないとは感じていた。なぜか、霧島マナという少女に出会ってからはシンジも、アスカも「らしく」なくなっている。

それを自覚しているために、シンジの意識はまた霧島マナに向かっていった。

 

 

◆◆◆

 

 

「民間製エヴァの完成披露会ですか…?」

 

「そ。海に行く時ははレイにお留守番してもらったし、今度はシンちゃんにお留守番をお願いして、女子会がわりのパーティに行くわよー」

 

「なにそれ。どう考えても私たちが針の(むしろ)になるやつじゃない。

 いーやーよ。なんでそんな罰ゲームみたいなところに行かなきゃならないのよ」

 

少し頭を冷やしてきます、と言い残してシンジが散歩に出かけた後。

エヴァの足元でミサトとアスカ、レイの三人が仮テントの中でクッキーをつまんでいた。

 

「私は構いません。でも、なぜ?」

 

「面白くなりそうだから、じゃダメ?」

 

そこでミサトはレイに対してウィンクを決めるが、すぐに真面目な表情になった。

 

「本当はね、あなたたちを連れて行きたくはないのよ。針のムシロに座るのは大人の仕事だもの。でも、今回は来てくれると助かるの」

 

「何がよ。加持さんからチョット聞いたわ。エヴァとはまるで関係なさそうな無人ロボットなんでしょ?」

 

「良く知ってるじゃない。でもね、だからこそエヴァのパイロットに見て欲しいのよ」

 

だって、とミサトは前置きして続けた。

 

「あなた達二人は、エヴァと共闘し、実際に成果をあげた通常兵器による使徒戦を世界で最も知っている二人だもの」

 

 

◆◆◆

 

 

あちゃあ、という顔をしたアスカ。

それを見たミサトは、こっちはピンときたみたいね、と判断する。

 

「今までネルフは、A Tフィールドに対して通常兵器は効果なし、と判断していたわ。だって位相空間すら操作する相手に、普通の大砲が効くわけない。そんな事は科学素人の私ですら理解できるもの。そりゃあそうなる、ってものよ」

 

しかし、現実は少し違うのではないかと思える材料がある。

 

「でも、戦自と共闘した時も、太平洋艦隊と共闘した時も。なんならシンジ君が二体目に倒した使徒ですら通常兵器に反応を示しているの」

 

日本中のエネルギーを集めた攻撃は再現性に乏しく、そう簡単に用意出来はしない。だが、戦艦の砲撃レベルとなれば用意できないわけではないのだ。

 

「もちろん、その戦闘の全てにおいてエヴァが大きな働きをしていた。どの距離であろうとも、使徒のフィールドに少しでも干渉しないと効果がないのは理解してるのよ。でも、これからどんな敵が来るのか分からない以上、最大限の準備をしなければ人類を守るなんて言えない」

 

熱のこもったミサトの言葉を、諦めたようにアスカが引き継ぐ。

 

「だから新兵器をパイロット自身に確認させる、か。確かに私達が見れば何かしら意味のある意見が出ると思うけど」

そこで半眼となったアスカがミサトに問う。

 

「でもそれって、ネルフからしたらタダで独占情報を漏らすようなものよね。いいの?」

 

 

◆◆◆

 

 

日本とヨーロッパを結ぶエアライン上、冬月コウゾウは通路を挟んで反対の席に座るゲンドウへと聞こえるように嘆息した。

 

「まさか、披露式典へチルドレン達を行かせるとは。どんな心変わりだ?」

 

今までネルフは、他組織への関係を最低限のものとしていた。

それはエヴァという特殊兵装を秘匿するためでもあるが、何よりもチルドレン達を守るためという意味合いが強い。

守る上で、その存在を相手に悟らせないことが一番効果的だと、ネルフ上層部の意識は統一されていた。

 

「隠し切ることもそろそろ出来ない時期になってきた。何より、アレは俺たちの計画の助けになる」

「ジェットアローンがか? 約半年間も動く事に努力を認めるが、私には出来損ないの機械人形に見えるぞ」

 

冬月は諜報部の仕入れてきた情報をそらんじる。

実際に、遠隔操作と長期間稼働は見事なものだが、今までのエヴァの働きを見ればそれもどこか見当外れのように感じられた。

 

「まぁ戦闘兵器としては使えないだろう。戦力は適切なタイミングで適切に効果を発揮してこそだ。使徒が1ヶ月も生存しているのならば、人類はとっくに滅びる」

「ならば、なぜあれを欲しがる。死海文書を信じれば、これからはあのような玩具が出張る戦闘ではなくなるぞ」

 

冬月の視線がゲンドウを向いた瞬間。ゲンドウは軽く笑った。

 

「あれは人類が一から作った原初の巨人だ。老人達への皮肉としては十分働く」

「ふん。分からんな」

 

ゲンドウの言葉を、冬月は一蹴した。

しかし、ネルフの副司令として長年ゲンドウの相棒を務めてきた男は続ける。

 

「だが、まぁいいだろう。戦略自衛隊への工作も進んでいる。これなら全て間に合うだろうからな」

 

今回の戦略自衛隊からの少年兵転校騒ぎ。実働の葛城や加持からすれば戦自からのアクションに見えるだろうが、実際は逆だ。

彼らの計画の情報を入手した時点で、ネルフは計画の妨害を諦めた。ジェットアローンとは違い、曲がりなりにも軍が作り上げた戦闘兵器は、現時点での完成度が高すぎたのだ。

だからネルフは、というよりもゲンドウと冬月は手を変えた。

完成しつつあるハードウェアである機体よりも、ソフトウェアに対応するパイロットに対して工作を仕掛けた。

 

「戦自パイロットがお前の息子と年が同じだったのには、唸る事しか出んかったな。客観的に自分たちの所行を見せつけられて、最悪の気分だったよ」

「よりによって、両親揃って子供に背負わせる十字架を用意した我々に言うか」

 

当たり前だ、と冬月は思う。この手のかかる教え子達には、十分に反省してもらう必要がある。

 

「お前にだから言うんだ。人類の存続を憂うのはわかるがな、お前達夫婦は手段を選ばなすぎる」

 

だから、と冬月は言いつけた。

 

「なんとしても生き残れ。そして生き残らせろ。俺たち罪人には、贖罪が必要なのだから」

 

 

◆◆◆

 

 

旧東京と呼ばれる埋立地。もはや人が住むことの無い大都会に巨大な格納施設がある。

ジェットアローン。そう呼ばれる巨人が鎮座する格納庫で、華々しい披露宴が催されていた。

 

「お集まりの皆様。本日は……」

 

壇上で挨拶をする開発主任の声を聞き流し、ドレスに身を包んだアスカは目の前の料理に手を伸ばす。

平均して10人前後で集まっている周りの卓に比べ、たった四人で1卓を囲むネルフのテーブル。

その上の料理は、量的には少し寂しいものの、女性4人と考えれば十分な量の料理とドリンクが用意されていた。

他の卓と比べれば異例ともいえる女性100%のテーブルには男性の好むような脂と塩が使われた料理は少なく、女性に配慮したメニューが並んでいる。

それもこれも、直前になってパイロットたる子供達の参加の連絡が来たためだ。

政治的な思惑を持っている大人たちとは違い、パイロットたる子供たちには迂遠な意思表示は通じない。

むしろ背後関係を知らない分、ストレートに嫌われてしまう恐れがある。

科学共同体としてもそれは避けたい事態だった。

ケーキをはじめとした洋菓子からノンアルコールのドリンクの種類も豊富に用意されている。

そのうちの一つであるチョコレートケーキにフォークを突き刺しながらアスカは思う。

 

「挨拶が長いのは、どこの国も一緒ね」

「ま、付き合いがあるのは仕方ないわねぇ。でも、そろそろ始まるわよ」

 

硬い表情でソーセージを摘むミサトの視線の先、開発責任者である時田シロウがジェットアローンの解説を終える。

 

「では、説明は以上とさせていただきます。何かご質問の方、ございませんか」

 

最初に時田の声に反応したのは、リツコだった。

 

「では質問よろしいですか」

「おぉ、赤木博士。どうぞ」

 

アスカは、リツコが一拍を置いた呼気を聞いた。

 

「無人操縦とのことですが、戦闘での活動は可能なのでしょうか」

「なるほど。ご質問ありがとうございます。現状、人力に近い速度での稼働に成功しております。現状開発中の装備を使用すれば、十分な活動ができると信じております」

 

「動力機関としてリアクターを内蔵とありますが、戦闘による破損の危険性はないのでしょうか」

「最大限の防御手段と強制停止手段を用意しております。5分も動かない決戦兵器よりは、安定性があると考えます」

 

「なるほど。ありがとうございました」

 

聞くべきことだけを聞き、あっさりと頷いたリツコを見たアスカは、少しだけリツコの表情が変わったと気づいた。

 

「では、ジェットアローンは日本を守れますか?」

 

(嫌な聞き方するわねー)

 

ジェットアローンは頑健な装甲と長期間運用できる内燃機関を持ち、しかもその制御は無人型。

つまりオペレーターを引き継いでいけば人的疲労すら無視できるために、制限時間としてはほぼ無限に動ける。

ケーブルを抜かれれば数分しか動けないエヴァの対抗としては、非常に魅力的な機体だ。

ただ、現実的に使えるかと言うと問題もある。

 

「現在、ネルフは総力を上げて人類守護のために戦っておりますが、その全ては数日以内の短期決戦となっております。これは、我々の特殊兵器が時間的制限に縛られていることも原因の一つですが」

 

実際に戦場に参加した研究者として、リツコは断言した。

 

「敵味方の破壊力が大きすぎる事が最たる要因です。短期決戦を仕掛け、即時殲滅を目標としなければ、日本が先に倒れるでしょう」

 

一ヶ月も戦って、ジェットアローンが生き残ったとしても。

毎日を暮らす人達はそんなに長い緊急事態に耐えられないのだ。

それは、守れると言えるのだろうか。

 

 

◆◆◆

 

 

「それは…」

 

答えに窮した時田を真っ直ぐに見た後、リツコはアスカへと視線を送った。

(ネルフの技術屋としては仕事を果たしたわ。だから、ここからは戦闘班によるサービスタイムね)

元々、リツコとしてはジェットアローンに敵意はなく、持っている感情はその逆ですらある。

敬意だ。

 

(エヴァに対抗するために資金援助を受けたとはいえ、基礎研究や基幹技術、建造に至るまでを全て国産企業での成果物。しかも危険であろう戦場に向かわせることを考えて遠隔操作システムまで実用段階に仕上げてきた。どれだけの才能と努力があったのか、考えるだけで頭が下がるわ)

 

だが、ネルフの権益を守るためには未だ研究段階の、いわば実験機でいてもらわなければ困る。

これで完成だと自信をつけられて、まかり間違って出しゃばられては迷惑なのだ。

だから釘を刺す意味で、まずは牽制をさせてもらった。だが、これで重化学工業共同体との関係悪化は、今後の使徒戦への課題になりかねない。

そこで、アスカには少し真面目に褒めてもらう事になっていた。

 

(エヴァ弐号機は遠距離での射撃戦の経験値が多いわ。それは、実戦採用型のエヴァとして事前に各種兵装への適性を練られたことも原因だけど。

 パイロットのアスカ自身が銃器オタクなのもウェイトとしては大きいのよね)

 

本人が自覚しているのかいないのかは微妙なところだが、ネルフの技術関係者の中では割と有名な話だ。

大体何の銃器であろうととりあえずは撃ってみる実践主義者にして、あの技術課渾身の浪漫兵器にすらシミュレーション上での射撃訓練映像と、詳細なレポートを送りつける無類の銃オタ。それが装備開発班が持っている彼女のイメージだった。

 

だから、ジェットアローンが戦闘に出た時、どんな結果になるのかを一番正確にイメージできる彼女が今回必要になる。

リツコの視線の先、ただ可愛らしいだけの少女を演じながら、アスカは問いかけた。

 

「JAが使徒との戦闘を行う場合、役割は何でしょうか?」

 

 

◆◆◆

 

 

「役割とは?」

 

アスカの抽象的な問いに、時田は何を聞かれているのかと問い返す。

時田の自信が一つの見落としを作っている証左だ。

 

(食いついたわね)

 

可憐な少女を演じつつ、アスカは腹の中で笑った。

機体を作る側には分からない、戦闘班が有する発想がジェットアローンには足りない。ネルフからのサポートとしては、そのあたりを出しておけば十分だろうと計算をしつつ、アスカは続けた。

 

 

「実際に使徒と戦闘を行った身として言わせていただきます。私達エヴァの役割とは、前衛です。エヴァ同士での連携の上で、後衛を務める事もあったようですが、それでも私達は人類の一番前で叩かれるのが仕事だと考えています」

 

「なるほど。あなたのような少女にそのような仕事を任せる事に、大人として申し訳なく思います」

 

「お気遣いありがとうございます。ですが、必要な事です」

 

時田の言葉は、大人の総意なのだろうな、とアスカは知っている。

保護者を買ってくれている加持はもちろん、母国ドイツのネルフの職員も、本部の職員達も、そこをずっと気にしていた。

 

「正直に言ってしまいますと、使徒の恐ろしさは巨体と火力です。我々ネルフと、他組織の方の違いはその使徒に対抗できる防御力を持っているかどうかです」

 

ATフィールドの有無も、結局は防御力勝負の一要素でしかない。ポジトロン・スナイパーライフルの存在がそれを証明している。山一つ分の質量があれば使徒の攻撃は防げるし、日本の総力があれば攻撃力も足りる。問題は、その両方を持って動く事が現実的ではないという所だ。

だが、そのどちらも最低限しか持っていないジェットアローンは戦えるとアスカは判断した。

 

「その点、ジェットアローンのスペックならば使徒と交戦できるラインにいると思います。なので、これは戦友となる可能性のあるエヴァ側からの期待です。

ジェットアローンの搭載兵器、もしくは携行火器が遠距離戦を中心とするならば私達は前に出ます。格闘戦を視野に入れているのならば援護するためのフォーメーションを組めばいい。だから、ジェットアローンの得意なことを教えてください」

 

(さぁ、こんだけ言ったら気付くんじゃない?ジェットアローンはエヴァの代わりに単体で使徒を倒す兵器なんかじゃないって事に)

 

エヴァへの対抗心が見せていた強烈なイメージのせいで、時田達は一つ思い違いをしていた。

初号機の初戦闘の折、シンジは恐ろしいまでの根性で使徒と戦った。

まだネルフを知らないシンジが決死の覚悟で使徒と戦った姿はネルフで映像として保存されており、その映像はある程度の関係組織にも出回っている。

もちろんパイロットとの通信内容やエヴァのステータスは編集され、隠された上での報告となったわけだが、ここで一つネルフの誤算があった。

 

本人達はあまりの必死さ故に気付く事がなかったが、この映像は恐ろしく動画映えするのだ。

夜の街にサーチライトで照らされる巨大な機体。

特撮もかくやという格闘戦。

挙句、敵はビームを撃つ上に自爆まで行い、炎に包まれながらも初号機は仁王立ちして耐え切っている。

男達が夢にまで見た最強のロボットの姿がそこにあった。

故に、時田達は目指してしまったのだ。

人類を守る最高の守護者、鋼の勇者を。

ジャパニメーションを見て育ち、巨大ロボットを建造すらした天才達は止まれなかった。

その情熱は作業を加速させ、当初予定されていたスペックを軽く凌駕するほどにジェットアローンは洗練された。

だが。元々ジェットアローンに期待されていた役割は、単騎による使徒殲滅ではない。戦略自衛隊を始めとする戦闘組織との共闘を考えられていたはずだ。

 

故に、ジェットアローン本体は完成していても、ジェットアローンプロジェクトとしては未完成。リツコが目指していた話の着陸点はそこだった。

 

「ジェットアローンは陸上を歩く兵器ではありますが、頑健さで言えば最新の戦艦と同程度のものを持っています。また、リミッターによって制限されてはおりますが、理論上高速での移動も可能です」

 

「ならば、私達にとっては頼れるバックアップで、他組織の方に取ってはまさに守護神となれる前衛ですね」

 

「そうなれるよう、一層の努力が必要だと思っております。ジェットアローンの戦闘用パッケージの完成をお待ちください」

 

通じた。

ネルフはジェットアローンが未完成であることを指摘し、戦場への参加を防いだ。化学共同体はネルフからの指摘を受け止めて戦闘用パッケージを製作する事で、いくらかネルフとのパイプができる。しかもその提言をしたのがネルフ側のパイロットとなれば、パイロットの所感を伝える為にネルフと共同体の間で情報の融通が利くようになるだろう。

そこまで考えを回してから、アスカは思考を打ち切った。

(とりあえず、私の仕事はお終いかな)

 

そうアスカの意識が一息入れた瞬間。時田の後ろに1人の男が駆け込んできた。

男は血相を変えた表情で時田に説明し、報告を受けた時田がマイクを握り直す。

 

「それでは、この辺りで質問の方を閉じさせて頂きます。皆様、この度は披露宴に足を運んでいただき、ありがとうございました」

 

少し急ぎ気味にアナウンスを行うと、時田は能面のような表情で会場を後にした。

その姿を横目で確認したリツコが、誰に言うわけでも無く呟く。

 

「人類の為に。一体、どれだけの人がその言葉に踊らされて。そして地獄に落ちていくのかしらね」

 

耳ざとくリツコの言葉を聞きつけたミサトが、その意味を問いただそうと口を開く。

だが、ミサトがその声を発する前に館内放送に警告音が乗った。

 

『事故発生。事故発生。皆様、速やかに避難シェルターへ移動するよう、お願いいたします。繰り返します。事故発生、事故発生──』

 

警告音と同時に、館内に揺れが走る。それは規則的、かつ断続的に響くもので、エヴァの足元にいた経験のあるミサトやリツコにとって馴染み深いものだった。

 

ミサトの表情が変わる。ミサトの顔が友人に声をかけようとした女性のものから、巨大兵器を一手に担う指揮官の硬質なものに変化するまで、一瞬のタイムラグも存在しなかった。

 

「行きましょう。人類の危機になるのなら、エヴァはその場にいなきゃいけないわ」

 

ミサトの声にレイとアスカは無言で頷き、全員が同時に駆け出した。

 




ジェットアローンのことを考えてたら長くなった。
次は日曜日あたりに投げます。
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