やる気多めのシンジ君、エヴァに乗る   作:九段下

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ども。この作品はかなりオリジナル設定が盛り込まれる予定です。
又、各キャラクターも「この作品世界」なりの性格になったりしますので、ご注意下さい。

副題/コテコテ熱血ロボット時空で「精神コマンド」を覚えてしまったチルドレンの人類補完計画

特殊な才能があるとして異世界に呼ばれたシンジは、そこで巨大ロボット、ギガントパンチャーに出会った。

襲い来る宇宙ロボット軍団に対抗するため、ギガントパンチャーと共に戦い続けたシンジ。そして人類を守るために戦い続けた彼は、遂に「心を力にする」技を身につけた。
これは、そんなシンジが元の世界に戻ってエヴァに乗る話。



本編
やる気多めのシンジ君、エヴァに乗る


 

突然だが、碇シンジは世界移動者である。

 

彼が移動したのは2015年の春。

彼が父親に呼ばれて第3新東京市に向かう電車の中のことであった。

 

碇シンジは、移動した先の世界で巨大ロボット・ギガントパンチャーに出会い、彼とともに人類の為に戦う戦士となる。

 

彼の話をする前に、少しだけ説明させて頂こう。

まず、シンジが移動した別の宇宙での地球は、西暦にして約1990年前後。世紀末と呼ばれる時代だった。

そして終末思想に侵され始めた人類は、本当の脅威と出会う事になった。

 

宇宙からの使者、自らをズズーン星人と名乗った異星生命体が、地球の支配権を要求してきたのだ。

不当な要求を跳ね除けた大国を襲ったのは、ズズーン星人が差し向けたズズーンロボット軍団。

 

その1つ1つが50メートルを越す巨体のために、同じ人類を倒す事しか考えられていなかった既存兵器は殆ど効果を発揮せず、人類は生きる場を奪われ続けた。

 

だがしかし、人類もただやられる訳ではなかった。各国で抵抗の結果、破壊した巨大ロボットのパーツを研究・再利用し少数ながら巨大ロボットを作ったのだ。

 

その人類の希望を擁するのは、ファウスト委員会と呼ばれるレジスタンスが持つ基地である。

 

ファウスト委員会は各国が協力する場として作られ、国連の支援を受けながらズズーン星人との戦いを始めた。

 

対するズズーン星人もファウスト委員会を地球攻略の最大の障害と認め、世界各国に散っていたロボット軍団はファウスト委員会攻略の為に集結していった。

地球防衛戦争の幕開けである。

 

シンジが世界を渡ったのは、その地球防衛戦争が開始してから二ヶ月ほどが経過した時期のことである。

 

ズズーン星人の卑劣な罠によってギガントパンチャーのパイロットは超空間に監禁され、地球側は必死に救出作戦を実行した。そして、その時にパイロットと一緒になって現れたのが碇シンジだった。

 

その後の紆余曲折によって、戦闘能力を失ってしまったパイロットの代わりにシンジがギガントパンチャーに搭乗し、その後一年を掛けてズズーン星人との闘いを収めた。

 

しかし、平和は長くは続かなかった。

つかの間の平和の後に地球を襲ったのが、ズズーン星人を超える巨大文明グワーン帝国のエリートロボット軍団80体。

 

グワーン帝国から逃げ出してきた少女、アスカを仲間に加えたシンジは地球の明日のために闘い続け、その最中にギガントパンチャーを一時的に強化出来るようになる。

 

それは、パイロットの心の力を現実に作用させる特殊なサイキック能力だった。

 

激しさを増す帝国の攻撃の前に、自分の新しい可能性を伸ばす訓練を行ったシンジとアスカは、サイキック能力「精神コマンド」を手に入れることに成功する。

 

遂に覚醒した2人の少年少女によって地球の平和は守られ、2人は惜しまれつつもその世界に別れを告げた。

 

2人はその一年間で少しばかりの成長し、強い心を持って元の世界に帰還する。

 

そして現在。戻ってきたと思えば覚えのある電車に手荷物が目の前にあった。驚くべきことに、「こちら」の世界の時間はまるで過ぎていなかったようだ。

 

碇シンジは二度目の世界移動を終えた奇妙さに首を傾げつつ、父の待つ第3新東京市に向かう。

 

「文面はなんでも良いとして、父さんが変わってしまってから初めての手紙なんだ。家族のSOSかも知れない手紙を、無視するわけにはいかないよね」

 

電車に揺られ、シンジの心は子供の頃、母親がまだ生きていた頃の記憶を辿っていた。

 

その当時は両親ともに元気で、精一杯の愛情を受けた事を覚えている。

 

(母さんが死んでからの父さんは別人みたいに変わってしまった。それだけショックだった、って考えるのが普通なんだろうけど、今考えればどうも納得できないんだよね)

 

そのまま思考の海に潜ろうとした時、丁度電車が停車駅に止まった。その場から動くことのなくなった電車のアナウンスを聞きつつ、思考を中断したシンジは軽い足取りで電車から降りていく。

 

「まぁ、今考えても無駄かな。考えすぎるより動いた方がきっと良いことある」

 

熱血・必中・鉄壁・ド根性を心に抱く彼は、これから始まる新生活に臆することなく歩き出していった。

 

 

◆◆◆

 

 

いくら新生活に臆することはなくても、脈絡もなく巨大生物が遠目に見えたらさすがに人は動揺する。

 

「なんだこの怪獣…まさか僕らの地球まで宇宙人に狙われているなんて思わなかったよ!」

 

シンジの叫びはミサイルの爆音に掻き消され、誰の耳に届くこともない。しかしシンジが止まることはない。別世界以上の理不尽な接敵に、とりあえず文句を言いたかった。

 

「ていうか、こんな大怪獣がいるなら何か対抗策はないの⁉︎まさか第2のギガントパンチャーが日本に居るとか?」

 

くそっ、と言い捨てる。いくら慣れていても流石に生身で巨大生物にエンカウントしてして焦らないはずもない。一先ず考えることをやめて、シンジは全力で駆け出すことにした。

 

息をあげながら何駅も先の駅を目指してひたすらに線路近くを走り続ける。ゼエゼエとうるさく言っているはずだが、生憎とミサイルの爆音はそれすらも打ち消した。

 

迎えが来ているのか、迎えも逃げ出したのかは分からないが、経験上同じところで立ち止まっていても事態が好転することはないことをシンジは知っていた。避難場所すら分からないのに戦場で立ち止まるなぞ、自殺行為だとすら思っている。

 

パイロット時代に身の危険があった時は、拠点に向かって走り続ければ何とかなるものだと相場が決まっていた。この場合は一刻も早く待ち合わせの場所に到着するべきだろうと、シンジは必死に足を動かせた。

 

あー、と声を荒げたシンジは、バックから一通の手紙を取り出した。正確には手紙ではなく、同封されていた写真の方に目やり、シンジは唸る。

 

写真には、妙齢の美人が笑いかけている姿が写っていた。その胸元はワザワザ矢印まで引かれて強調されている。

 

端的にいうと、豊かな胸はシンジの好みのど真ん中であり、厄ネタとしか思えない誘いに乗ったのもこの写真の礼を言う為が半分くらいあった。

勿論、冷え切った親子関係に一石を投じるのが最大の理由ではあるのだが。

 

こちらに向かって一直線に走り来る車を見て。この女性が迎えならいいのにな、とシンジはうっすら望み。

 

「すっごい綺麗な人なんだけど、アスカの例が後を引きすぎて喜べないんだよなぁ。致命的にめんどくさい性格の人じゃない事を祈るしかないか」

 

過去の苦すぎる記憶に苦しめられていた。

 

 

◆◆◆

 

 

葛城ミサトのルノーが無人の市街を疾走する。

最低限の自己紹介をした少年、シンジをルノーに乗せたミサトは、写真と彼の姿が違うことに疑問を持っていた。

 

(一回り、しっかりした体になってない?そんなに古い写真じゃ無かったはずなんだどなー)

 

車に乗せる時に見た程度だが、見間違えた訳ではない。写真では線の細い、それこそ髪さえ伸ばせば女性と見間違うほどの少年だったはずだ。

だが先ほど見た彼は、可愛らしい顔の造形こそ変わらないものの、その体は男性らしくなっている。

 

(少し気になるけど、本人であるのは間違いないし。男の子が体を作るのは良いことだわ。若いのにポイント高いわねー)

 

「ええと、葛城さん?」

 

ポイント高い子から指名がかかった。

 

「ミサトでいいわよ。碇シンジくん」

 

サングラスを外す時間がなかったので、せめて朗らかに答えてみせる。サングラスをかけた女の車に乗るなんて、彼も気になるだろうが安全の確保が先だ。少し我慢してもらうしかない。

 

「じゃあミサトさんと。迎えに来てもらってありがとうございます。新しい街じゃ避難先も分からなくて、助かりました。ミサトさんも避難したかったでしょうに、僕のために遅れてしまってすみません」

 

(あー、そういう反応になるかー)

 

まさか自分が使徒との戦いの為に訓練して来た人間で、自分がアレと戦う組織に向かっているとは思っていないのだろう。この車も、何処かの避難所に向かっていると考えるはずだ。

 

「いいのよ。コッチこそごめんね、遅くなって。電車が止まってから急いで来たんだけど、あなたの方からも来てくれて助かったわ。

ずいぶん走り慣れてるみたいだけど、部活で走ってたの?」

 

「その、部活とかじゃないんですけど。運動できないのが嫌で少し走ってみたんです。こんなふうに役に立つなんて思いませんでした」

 

(本当にいい子なのね)

 

高速域で車体を走らせている為に、横目でシンジを見ることのなかったミサトは容易く騙された。

少しでもシンジの顔を見れたのなら、慣れない嘘をつく為に凄い顔になった彼が観察できただろう。

 

「それに、あんな怪獣が出てくるなんて誰も思いませんよ」

 

「あいつはね、使徒って言うの。映画であるでしょ。人類の敵ってやつね」

 

「人類の敵、シトか。確かにあれじゃあ仲良くできないかな。

 

…って名前までついてるんですね。あいつを知ってるんですか?」

 

言葉の端から、ミサトが使徒を知っていることまで理解してみせたシンジに驚嘆する。

 

そして、今は説明できない為になんとか誤魔化さないとと思考を走らせる。

しかし、ミサトの考えは、上手い言い訳を思いつく前に携帯電話の着信音に中断させられた。

 

「ちょっとゴメンねシンジくん…

リツコ?えぇ、無事合流できたわ。そう時間はかかんないから受け入れ準備お願いね。

…本当に戦自はやるつもりなのね。えぇ任せて。時間までにはしっかり逃げ切ってやるわ」

 

電話は同僚の赤木リツコからのもので、シンジの安否の心配と、戦自によるN2の使用を予告するものだった。

ミサトは素早くルートと現在地を脳内で確認し、さらにアクセルを踏み込んだ。

 

「少し急ぐことになったの!しっかり掴まっててね!」

 

ルノーのエンジンが震える。そして、それは気分良く走るための振動ではなく、負担を考えることなく速度を絞り出すための雄叫びとしてマフラーを鳴らした。

 

シンジもミサトの纏う空気が変わったことに気付き、しっかりと椅子に座りなおした。

 

「大丈夫です、ミサトさん。どうぞ!」

 

「さぁ、行くわよ!」

 

戦自によるN2投下まで30分を切っている。

時間的余裕が全くないわけではないが、道を1つ間違えてトロトロしていれば間に合わなくなる。

1人のドライバーとして、ルノーのオーナーとして負けられない勝負を前に、ミサトの集中力は久しぶりに高まっていた。

 

 

◆◆◆

 

 

「お疲れ様です。ナイスドライブでした」

 

「ありがとー。さて、やっと説明できるわね。あ、その前にシンジ君、お父さんからIDカード預かってないかしら。

 

決死のドライブを越えてリラックスしたミサトの横顔に、一瞬シンジは見惚れていた。

カートレインに乗ったミサトは、キツく食いしばっていた口角を持ち上げ、サングラスを取り外してリラックスする。

 

そこにはこちらに向かって優しく笑いかける、写真の笑顔よりも美しい顔の女性がいた。

 

(まさか綺麗で本当に良い人がいるとは思わなかったな。いやでも待つんだ。正に理想の女性、って感じの人でも好きな人にだけ滅茶苦茶厳しかったりするし、理想を上げるな碇シンジ。

 

顔とスタイルと人当たりが最高なだけの普通の人じゃないか。そうだ、僕の好みから外れているはずだし冷静に…)

 

「有りますよ。この封筒に入ってました」

 

冷静になれなかった。

IDカードと一緒に父の手紙まで渡してしまった。大怪獣とのファーストエンカウントに続いての命がけのドライブの直後で、判断力というものが寝ているらしい。

 

手渡された手紙の内容に絶句するミサト。

彼女の中の父の像がどうなっているかは不明だが、「どうせこんな所だろうと思った」という反応が返って来なかったことに安心する。まさかこれが素だとは思いたくなかった。

 

「いくらなんでもこれはないと思いませんか?事情があっても、これじゃあ本当に来て欲しいと思っているのかとちょっと疑っちゃいますよね」

 

返事は、少し遅かった。

 

「そうね、これはちょっと…。あ、シンジ君、お父さんのお仕事が何か聞いたことある?」

 

「人類を守る仕事、って聞いてます。正直、あまりにスケールが大きくてよく分かりませんけど」

 

露骨な話題逸らしにシンジは乗る事にした。この手紙の話は、早めに終わらせた方がシンジの心にも優しい。

 

そう考えたシンジの眉根が寄っていることに気づき、ミサトはシンジとゲンドウの関係を推し量った。

 

「お父さんの事、嫌い?」

 

「それも、わかりません。小さい頃の父さんは優しくて、僕にいろんなことを教えてくれました。父さんも僕も母さんが好きで。それが楽しくて。

でも、今まで会ってなかった父さんの事をどう思ってるかなんて、会ってみないと分かりません」

 

資料に目を落としながら、シンジは答える。ミサトの目が此方を向いている事を感じていたが、目を合わせられなかった。

 

「そうよね。そんなに、自分のことなんて分からないわよね…」

 

それきり会話は途絶え、車内は静かになる。

 

車は静かに、ネルフ本部であるピラミッドに降りて行った。

 

 

◆◆◆

 

 

車から降りて移動し始めて10分、少しばかり迷ったミサトを出迎えたのは、金髪で白衣を着た女性だった。

 

「何やってたの葛城一尉。人手も無ければ時間も無いのよ」

 

「ゴメン!!」

 

ミサトを軽く叱責すると、女性はシンジに気がついたように振り返る。

 

「この子が例の子供ね?」

 

「そうよ。マルドゥック機関から報告のあったサードチルドレン!」

 

ミサトの声を聞きながらシンジの目は女性に釘付けとなった。何を考えているのか、女性は白衣の下に、まだ湿気っている水着を着込んでいた。

 

(うわぁこれはちょっと、見ちゃいけないような。え、でも見ていいのかな。ミサトさんの写真もだけど、こんなに綺麗な人達連れて僕に何をさせようっていうんだよ父さんは!)

 

現状を受け止めきれずに混乱するシンジを余所に、女性は至極冷静に語りかける。

 

「初めまして碇シンジ君、E計画開発責任者の赤木リツコです」

 

「初めまして赤木さん、碇シンジです。あの、すみませんけど白衣の前、閉めてもらえませんか…ちょっとその、あの…」

 

赤く染まったシンジの表情を見て、首を傾げるリツコだったが、特に拒否する理由もないので白衣のボタンを閉じる。

 

そこで、何やらピンときたミサトが場をまぜっ返した。

 

「ははーん、シンジ君も気になっちゃうわよね。リツコ、アンタのエロいカッコが目に毒だって言ってくれてんのよシンジ君は」

 

「あぁ、そういう事。ごめんなさいね、作業を切り上げてきたから変な格好になっちゃって」

 

少し顔を赤らめてリツコが謝る。その表情を見て、シンジは更に頭に血が上って行った。

 

(ミサトさんその通りなんですけど、暴露しなくてもいいじゃないですか、っていうか顔を赤くしないで!なんかエロいですよこれー!)

 

2人に付いて行きながら、シンジはひたすらに混乱する。(タマ)のやり取りには慣れても、思春期の少年に年上の女性の扱いに慣れろというのは無理な話である。

 

「で、初号機はどうなの?」

 

「B型装備のまま現在冷却中」

 

「それ、ほんとに動くのぉ~?まだ一度も動いた事無いんでしょう?」

 

「起動確率は0.000000001%。O9システムとはよく言ったものだわ」

 

一方、一度シンジを放置した方が再起動すると判断した2人はもう一度情報の見直しを行っていた。

 

「それって動かないって事?」

 

「あら失礼ね。0ではなくってよ」

 

「数字の上ではね。ま、どのみち動きませんでした。じゃもうすまされないわ」

 

専門用語の羅列にしか聞こえない会話だったが、混乱から帰ったシンジが聞くには少し、聞き覚えのある内容にシンジは事態を予想する。

 

(殆ど動く見込みのない何かがあって、それが必要って事?じゃあ僕が呼ばれたのはそれを動かすために何かある、ってやつかな。

 

ギガントパンチャーは僕の心に応えてくれたけど、さすがに今回もそれとは思いにくいし。

なんか持って来いとか言われてないけど大丈夫だよね僕!いつも身につけてる母さんの形見とかないよ⁉︎)

 

真っ暗な空間をゴムボートが進む。やがて目的地に到着したのか、リツコはゴムボートを止めてシンジを陸地に促した。

 

「ここに、何があるんですか?かなり臭いキツイんですけど、危なくないんですよね?」

 

「少し待ってね。今照明をつけるから」

 

 

シンジの問いに答えず、リツコは壁に向かって何かしらの操作をする。すると突然周囲が明るくなり、シンジは目の前の常識外を見て絶句した。

 

(巨大ロボット!じゃあ僕がギガントパンチャーに呼ばれた因果って、『世界のために戦う』じゃなくて『巨大ロボットの関係者』だったんだ!)

 

まさかまたもや巨大ロボットと出会うことになるとは思いたくなかったが、現実は無情だった。

しかし、シンジの冷静な心は今の状況を悪いものではないと判断していた。

シンジがかつての愛機と共に戦った記憶は、これからどのようにロボットと関わることになってもシンジを助けてくれるはずだ。

 

「人の造り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン。我々人類の最後の切り札よ」

 

驚きで固まったシンジに対してリツコの説明が入る。

 

「これが、父さんの仕事ですか」

 

「そうだ」

 

呻くように出たシンジの質問に答えたのは、遥か上からの声だった。

 

聞き覚えのある声にシンジは顔を上げる。

もう10年も聞いていない、たった1人の家族の声だった。

 

「久しぶりだな。シンジ」

 

「うん、久しぶり。痩せたね、父さん」

 

ガラス越しに親子の視線が交わる。数秒しかない時間だが、シンジは父親の表情から追い詰められた人間の危うさのようなものを感じた。

 

命に代えても目的に向かう大人を、シンジは多く見た。地獄の一年間で、誰もが顔に貼り付けていた表情だった。

 

「出撃」

 

先に視線を外したのはゲンドウだった。短い一言だったがその場にいた人間には通じたらしく、場がにわかに慌ただしくなる。

 

 

「出撃⁉︎零号機は凍結中でしょ。まさか、初号機を使うつもりなの!」

 

「他に方法はないの」

 

「レイはまだ動かせないわ!パイロットがいないのよ⁉︎」

 

「さっき届いたわ」

 

「マジなの?」

 

「碇シンジ君。あなたが乗るのよ」

 

ミサトとリツコの2人が言い争う。いきなりの事態に慌てるミサトの疑問に、リツコが片端から答えていった。

 

シンジは黙って目の前の巨人を見つめる。

周りの喧騒が聞こえないほどに、シンジは集中していた。

 

「待ってください司令、レイでさえエヴァとシンクロするのに7ヶ月もかかったんです、今来たばかりのこの子にはとてもムリです!!」

 

「座っていればいい。それ以上は望まん」

 

「しかし、それでは…ッ!」

 

「葛城一尉!」

 

食い下がるミサトを止めたのは、やはりリツコだった。一際大きく響いた声が残響になるまで間を取り、リツコが言葉を連ねる。

 

「今は使徒の撃退が最優先事項です。その為には誰であれ、EVAとわずかでもシンクロ可能と思われる人間を乗せるしか方法は無い。あなたも、わかっているはずよ」

 

リツコも無茶を言っている自覚はある。第3の子供がいるなど、リツコすら寝耳に水だったのだ。実際の戦闘に関わらない技術部よりも、ミサトの方が多くの責任を感じるのも理解している。

だが、人類に余裕がないのは本当なのだ。怪我人であるレイに頼るよりも、たとえ素人でも健康な彼に期待した方が可能性はあると司令が判断した。ならば従うしかない。

 

「……そうね」

 

俯き、数瞬の時間を置いてミサトが答える。

 

「シンジ、お前が乗るんだ」

 

ゲンドウの言葉に、シンジはやっと顔を上げてゲンドウを見つめる。

 

「これが、僕を呼んだ理由。いいよ。やってみる」

 

「シンジ君!そんなに簡単に決めて大丈夫なの⁉︎あなたも見たあいつが相手なの。命がかかってるのよ!」

 

軽く返事を返したシンジに、ミサトが問いかける。

 

「ミサトさん。あの手紙、ひどかったですよね。ただ一言、来いだなんて手紙ですらないですよ。でも、僕はあれが父さんの悲鳴に見えたんです。何か父さんが困ってて、僕の助けが必要だって」

 

シンジの視線はゲンドウから離れなかった。

 

「だから、僕、やるよ。でもどうすればいいかなんて分かりませんから、助けてくださいミサトさん」

 

シンジの目がゲンドウを離れ、ミサトに向く。

 

「お願いします。僕に、父さんを助けさせて下さい」

 

頭を下げたシンジに、1番に返したのはやはりミサトだった。

 

「任せなさい!シンジくん、ありがとう。絶対に私にできる限りのことをする。一緒に頑張りましょう」

 

「時間がないからエヴァの説明を始めさせてもらうわ。少しでも多く、分かりやすくレクチャーします。シンジ君、よろしくね」

 

ミサトの言葉にリツコが続き、他のエヴァに関わるメンバーが動き出す。

 

その時、大きくケージが揺れた。揺れは二度、三度と続き、遂には天井の一部が破損する。

 

「シンジ君!」

 

誰かが叫んだ。運悪く、シンジの頭上の天井が破損したらしい。簡単に人を殺し得る重量がシンジを襲った。

 

だが、超重量の鉄板はシンジの命を取ることはなかった。

シンジは、いつの間にか巨大な手に覆われていた。

 

「動いた」

 

「彼を守ったの?」

 

リツコとミサトが呆然と呟く。パイロットを乗せても動くことのなかった機体が、『彼のために』動いた事実を信じられなかった。

 

「助けてくれたの?ありがとう、エヴァンゲリオン」

 

シンジの手がエヴァに触れる。余りにもサイズが違うが、彼は握手をしたつもりだった。

 

「いける!エヴァが動いてくれるのなら、私たちは戦えるわ!」

 

リツコの快哉が響いた。エヴァが動くかどうか恐れていたが、間違いなくエヴァは動く。1つ肩の荷が降りて明るくなったリツコに、周りの整備班も感化されていく。突然来た正体不明のパイロットが、謎の存在などではなく、家族のために来た少年だと分かったことも大きかった。

 

活気付く眼下を見て、ゲンドウの横にいた冬月が口を開く。

 

「立派なお子さんだな。お前よりも人付き合いが上手そうだ」

 

冬月の揶揄が飛んだ。言葉だけを見れば性格が悪いとしか言えない言葉だったが、その言葉は暖かい。まるでシンジの成長を喜んでいるかのようだった。

 

ゲンドウは答えずにハンガーに背を向け、発令所へと歩いて行く。

 

(ユイと同じ目をしていた。シンジ、お前はなぜそんな強い目をできる)

 

恵まれない思春期を過ごしているはずの息子の眼に、ゲンドウは少し恐れを抱いた。




誤字報告、ありがとうございます。加筆修正しました。
12/10 前半部分を中心に修正しました。

オマケ
闘え!ギガントパンチャー!

遂に正パイロットとなり、慣れない戦いに戸惑うシンジをズズーンロボが襲う。

シンジ「僕は、あの人に頼まれたんだ!一歩だって引いてやるもんか!」
ズズーン「小癪な!瀕死のロボで何ができる!」

次回、死神の刃。
シンジ「僕は負けない。ギガントパーンチ!」
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