やる気多めのシンジ君、エヴァに乗る   作:九段下

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事の顛末。ネルフの大人たち。

『昨日の、特別非常警戒宣言について、政府の発表がありました…』

 

『今回の事件について、在日国連軍は…』

 

「発表はB-22? 事実は闇の中ってやつね」

 

ネルフ最初の使徒戦は、第三新東京市に恐ろしい被害を齎した。元々金のかかる要塞として作られた都市を、吹き飛ばしかけた大災害。

 

一国が傾くほどの被害の書類を始末する為、ミサトは寝る間を惜しんでパソコンに向かい続ける。

 

「広報は喜んでたわよ? やっと仕事が出来たって」

 

「ウチもお気楽なものね」

 

隣にいるリツコが、気の無い返事を返す。彼女の瞳は、ノートパソコンから離れることはなかった。

 

「そうかしら。本当はみんな、怖いんじゃない?」

 

リツコは、昨日の戦闘のデータを何度も確認し続ける。人類初のATフィールドの発生データだ。

世界中の研究職員が、同じデータを調べ尽くしている。1番近くで見た人間として、ネルフ本部の技術部長としてのプライドか、鬼気迫る勢いでデータを追っている。

今日初めてエヴァを知った少年が、人類初のATフィールドの展開に成功する。リツコは本当の天才を知った気がした。

 

「……あたりまえでしょ」

 

だからリツコはミサトの表情を見逃した。

憂いを含んだ表情。ミサトはシンジと直接触れ合った為にシンジを恐れることはない。

 

ただ、ネルフ職員の殆どは違う。彼らにとってのシンジは、『あの』司令の息子にしてエヴァを自在に操った麒麟児に見えている。

 

ミサトは初号機ではなく、職員による初号機とシンジへの隔意を怖れていた。

 

リツコのノート端末から着信音が鳴る。

 

「そのシンジ君、起きたみたいよ? 本人に外傷はなし。少し、記憶の混乱が見られるみたいだけど」

 

記憶の混乱と言われると、空恐ろしい単語が頭をよぎる。

 

「精神汚染? 彼、エヴァと話したとも言ってたわよね」

 

「さぁね。でも無理もないと思わない? 脳神経にかかる負担は、相当だもの」

 

ミサトはため息を吐いた。

 

(疑った私も悪いけど、せめて否定してもいいんじゃないかしら)

 

「脳じゃないわ。戦争は心に傷を負うものよ。私達、大人失格ね」

 

リツコがようやくミサトの顔を見て話した。

 

「仕方ないわ。私達にはエヴァしかない。生き残るためよ」

 

ミサトの顔は、少しだけ笑みを取り戻した。子供を前に立たせる罪は、心で背負えばいい。戦闘を預かるものとして、親友にも弱っている姿を見せるわけにはいかなかった。

 

戦闘時にだけ見せる威圧的な笑顔を浮かべてミサトは宣言した。

 

「エヴァとこの街が完全に機能すれば、私達はいけるかもしれない。結局、やることをやるしかないのよね。シンジ君を死なせないように全力で守ることが、世界を救うことになる」

 

 

◆◆◆

 

 

シンジは目を覚ました後、父親の待つ部屋へ案内された。特殊なインテリアに目を奪われるが、今回の目的はそれで無いと目を逸らす。

 

(趣味悪いなー。これ宗教とかだったらどうしよう。久しぶりに会った父親がカルトとか、殴ってでも止めないといけないんじゃないかな)

 

「シンジ君、病み上がりですまないね」

 

「あ、いえ。大丈夫です」

 

父親の隣にいる、初老の男性は冬月コウゾウと名乗った。

 

「さて、今回の使徒殲滅ご苦労だった。だが使徒はこれで終わりではない。そして恥を晒すようだが、我々で用意していたパイロットの怪我が重くてね」

 

そこで冬月は一旦言葉を置いた。

 

「君には、エヴァンゲリオン初号機のパイロットとしてネルフで働いてもらいたい」

 

(命令してこない?)

 

シンジは冬月を見た。表情が見えない産みの親よりも、優しい目でこちらを見ている。

 

(いい人なのかな)

 

異世界での戦いで、権力を持つ人間からの高圧的な命令に慣れていたため、シンジは冬月の柔らかな物言いに驚く。

 

冬月の言葉にゲンドウが続いた。

 

「住居は用意してある。葛城君から受け取れ」

 

(サングラス掛けてるんだから、こっち見れば良いのに。僕何かしたっけ?)

 

視線を合わせようとしないゲンドウにシンジは首をかしげた。

ミサトとリツコのお陰で勝てたと思っているシンジは、自分が何をしたかの自覚に乏しかった。世界を救う戦いに慣れてしまった弊害だろうか。

 

「うん。で、父さんに聞きたいことがあるんだけど」

 

「何だ」

 

ゲンドウは、まだこちらを見なかった。

 

「突然僕を呼んだのは分かった。先輩が怪我しちゃったのは突然だから、仕方ないとも思う」

 

(それに、立場もあるみたいだから父さんも言えない事がありそうだし)

 

「でもこれだけは聞かせて欲しい。父さんさ、母さんが泣くようなことしてないよね?」

 

こちらを見ない眼を、しっかりと見据える。

パイロットとしての話が終わったのなら、今度は家族として聞かなければならないことがある。これに関して嘘を許すつもりはなかった。

 

ゲンドウが揺れた。

 

「当然だ。ネルフの目的は人類を守る事のみ。あのユイが反対するはずがない」

 

シンジは心で嘆息する。多分、嘘だ。

何かある事は想像がついたが、それが限界だった。分からないことが多すぎる。

 

(父さんと仲直りするのは、大変そうだな……)

 

最近では頭の出来を気にしたこともないシンジに、腹の探り合いが出来るはずもなかった。

 

「信じるよ」

 

「給料は戦闘班と同額だ。不便があれば葛城君に言え」

 

家族として答えたシンジに、ゲンドウは司令官として答える。話は終わったとばかりに、ゲンドウは押し黙った。

 

 

◆◆◆

 

 

「1人でですか!?」

 

ミサトの声が廊下に響く。連絡役に渡された資料には、中学生の子供に一人暮らしを強いる内容が記されていた。

 

「ええ。この先の第6ブロックに部屋を用意しました。機能面は最高です」

 

(司令の仕事が早いのは知ってたけど、ちょっと動きが早すぎるわよ)

 

いつもは頼もしい自分の司令官の仕事ぶりに苦言を呈したくなる。

自分の息子を真っ先に腫れ物扱いするゲンドウの仕事を見て、ミサトはこれから始めようとしていた根回しを早々に諦める事にした。

 

(シンジ君のメンタルケアに関する作戦部としての対応と、ネルフ職員への協力要請。無駄になっちゃったわね)

 

文字通り寝る間を惜しんで書き上げたものだったのだが、間に合わなかったのならば仕方がない。ミサトは、最善が無理ならと即断した。

 

「シンジ君はそれでいいの?」

 

「大丈夫ですよ、前も似た感じでしたから。パイロットは基地にいなくちゃいけない気がしますし」

 

シンジは納得しているようだった。だが、それがミサトの気に障る。資料では丁寧に養育されていたとあるが、彼のメンタルに関わることは一切の記載がなかった。

まるで体だけ健全なら良いと言わんばかりの報告をミサトは今でも詳細に思い出せる。

 

ここでシンジを1人にしてはならない。ミサトは、自身の勘を信じた。

 

「シンジ君。ウチの子にならない?」

 

にっこりと笑いながらミサトは今日の予定を組み替える。最初に見せなければならないものができたので、夜のスケジュールは遅れさせる必要がありそうだった。

 

 

◆◆◆

 

 

赤木リツコは、第3新東京市の一角で営業している、個人経営のレストランに居た。

 

(ゲンドウさん、ご子息は報告通りの子ではありません。あの子は、本当にゲンドウさんの事を…)

 

リツコから見てもシンジは母親に似ている。

ユイに顔向けができないと自覚しているゲンドウが、シンジを遠ざけるのも理解できた。

 

リツコのカンは、シンジがただの中学生ではないと告げている。突如選出され、天文学的な数字の向こうでエヴァを動かした少年。

 

しかも彼は、必死だったとはいえリツコの説明に食らいつき、エヴァへの理解を深めてみせた。そして極め付けがATフィールドの展開である。昨日までただの中学生と言われて、信じられるはずがなかった。

 

シンジの出自を疑い始めたリツコの端末に、着信が入った。

表示は『葛城ミサト』

使徒を倒した英雄であり、リツコの疑念のマトの案内をしているはずの友人だった。

 

「どうかした? 今、シンジ君の案内してるんじゃなかったの?」

 

『あ、リツコ? シンジ君ね、あたしの所に引き取ることになったから!』

 

(……は?)

 

一瞬、リツコの思考が停止する。

 

「ちょっと待ちなさいよ! 何を勝手な事をして」

『大丈夫よぉ上の許可は取ったし』

 

(そういう問題じゃないでしょう!)

 

後ろでシンジの声も聞こえてくる。明らかに狼狽した声で抵抗していた。しかし、ミサトは一切取り合わずに言葉を続ける。

 

『心配しないでも、子供に手を出したりしないわよ』

 

「当たり前じゃないの! 何考えてるのよ!」

 

思わず叫んだ。

店内の視線が集中するのを感じて、リツコは自分の顔が赤くなるのを感じる。

 

手でこちらに視線を投げてくる部下を追い払い、リツコは昼間の会話を思い返していた。

 

(お互いにいない生活が当たり前、か。お父さんを気にしてるシンジ君に、あのお節介焼きが付いた。ゲンドウさんが押し切られる所、見てみたい気がするわね)

 

もしそうなった時、自分はどう身を振るんだろうか。電話一本でこちらを振り回す友人に、リツコは少し頭痛を覚えた。

 

その後、ミサトは少し遅れるとだけ伝えて通話を切った。

 

「主役は遅れてくるそうよ。焦らなくて良いから、しっかり準備して」

 

正直、少し作業が遅れていたので後半の連絡は朗報だった。

ミサトが来るまで45分。それだけあれば、全員揃うだろうとリツコは計算していた。

 

 

◆◆◆

 

 

ルノーの車内は、微妙な沈黙が漂っている。

 

まぁ原因は僕なんだけれど、とシンジの冷静な部分は理解していた。

 

しかし、それでも納得できないものはある。

 

(ミサトさんから見れば子供ですけど! 最初から同居はハードル高くない? 僕だって男なんだけど!)

 

シンジはミサトの『子供に手を出さない』の言葉がどうにも引っかかっていた。

 

(手を出さない、って、僕から来られるとか考えないんですか? いや、行かないですけど!)

 

シンジとて男だ。人として信頼されているのは嬉しくても、「手を出さない」扱いは堪えるものがある。

 

シンジに関する第一印象が資料のミサト達は無意識的に先入観を持っていたが、シンジは他人に対する興味を人並みに持っているのだ。

 

無言のシンジを連れて、ミサトのルノーが街を走る。気づけば街を見下ろす場所に作られた公園に到着していた。

 

「……ピクニックには、少し寂しい所ですね」

 

抑えようとしても、言葉に不機嫌さが滲んでしまった。

 

「まぁ、ね。でもちょっと見ててくれない? 面白いものが見れるわよ」

 

だが、ミサトはそれに気付かないフリをしてくれた。シンジも少し反省して、ミサトの人付き合いの上手さに甘える事にした。

 

「面白いもの?」

 

シンジの問いにミサトは答えず、時計の針を読んだ。

 

「時間よ」

 

ミサトの言葉と同時、ビル街が生えてきた。

全体的に平たい街を、多種多様な建造物が埋め尽くしてゆく。

 

「凄い! ビルが生えてくる!」

 

先ほどまでの言葉は、もう気にならなくなっていた。巨大都市が目の前で生えてくるという光景に、シンジは凄いと歓声を上げることしかできない。

 

「これが、使徒迎撃専用要塞都市・第3新東京市。私たちの街で、あなたが守った街よ」

 

隣でミサトが語りかけてくる。

シンジは、その中でも守るという言葉に反応した。

 

「僕とエヴァが守った街。その、僕はミサトさん達を守れましたか?」

 

自分が守ったと言われても、シンジには実感がなかった。シンジの記憶は使徒を思い切りぶん殴った所で途切れており、使徒を倒したという実感が無かった。

 

だからか、シンジはついミサトに聞いていた。

自分は守れていたのか、一緒に戦ってくれた仲間の言葉が欲しかった。

 

「もっちろん。あなたのおかげで生き残れたわ。あなたは、この街の命の恩人よ」

 

ミサトは明るい笑顔で答えてくれた。写真で見た笑顔とは違う、優しい笑み。

母が死んでからは異世界でしか見せてもらえず、この世界に戻って来てからは二度と見れないと思っていた笑顔だった。

 

(写真で釣られた過去の僕、ナイス。ミサトさん、写真よりも綺麗だとは思わなかったな)

 

自分がチョロい部類だというのは分かっている。それでも異性の笑顔はシンジには眩しかった。自分には特別な女性がいないから、特にそう感じているのかもしれない。

 

(笑顔っていうと、アスカの笑った顔とか、ほとんど見たことなかったな)

 

シンジの意識が、一瞬だけ過去に飛んだ。異世界で自分と同じく迷子になった女の子。

それなのにしっかりと自分を表現し続け、よく喧嘩し、しかしロボット軍団との戦いでは近寄って殴ることしかできない自分の背中を守り続けてくれた強い女の子だった。

 

(どうせ殴られるだろうけど、もう一回アスカと会いたいな)

 

しかし、シンジの回想は続かない。現実の方からのお呼びがかかった。

 

「ところでね、シンジ君。お腹すいてない? 夕飯、良いところに案内するわ」

 

 

◆◆◆

 

 

(さっきまでとは全然違う。凄いや!)

 

公園からルノーが次の目的地へと走る。シンジは、先ほどとはまるで違う市街の様子を目を輝かせながら見ていた。

 

つい30分前までとはまるで違う町並み。先ほどまでとは違い、人の営みを感じさせる都市をルノーが流れていく。

 

大通りを抜け、少し灯りの減った道にルノーが停車したのは、こじんまりとした洋食店の前だった。

 

「さぁ、ここよシンジ君。入って入って」

 

どんな店か気になって入口のメニューを見ようとしたシンジは、ミサトに肩を掴まれた。

そしてそのまま押されて、半ば無理矢理に入店させられる。

 

そして店のドアをくぐった瞬間、あまり耳慣れない音に包まれる。

 

『————!!!』

 

シンジを迎えたのは、よくある店員の「いらっしゃいませ」の声ではなく、拍手だった。

 

店の客は、残らずにこちらを向いて拍手を送ってくる。10人ほどだろうか。それほど大きくない店内にばらけていた客は、1人残らずシンジに視線を向けている。

 

(え? 何?)

 

意味がわからず、硬直するシンジにミサトが後ろから語りかける。

 

「ここのみんなも、あなたが助けた人よ」

 

ミサトは、そのままシンジを追い越し、客の前に立つ。そしてミサトがシンジに振り向いたタイミングで拍手がやんだ。

 

客の1人が前に出てくる。エヴァの説明をしてくれたリツコだった。

 

「ようこそネルフへ。碇シンジ君、あなたを歓迎します」

 

リツコの言葉を、ミサトが引き継ぐ。

 

「そして使徒撃退、おめでとう。ネルフを代表して感謝します」

 

そこでまた拍手が鳴った。

 

「凄かったぞ!」「お疲れさん!」

「これからよろしくな!」

 

拍手と共に歓声も飛んだ。皆、温かい声だった。

 

突然のことに驚くシンジを、店内のネルフ職員が囲み始める。若い人が多いんだな、という感想が呆とした頭に浮かんだ。

 

「よろしく、シンジ君。俺は日向マコト。作戦課のオペレーターをしてるよ。ジュースでいい?」

 

「ありがとうございます、日向さん。よろしくお願いします」

 

最初に話しかけてきたのは、髪を短く切り、眼鏡をかけた男性だった。日向はオレンジジュースを手渡して挨拶すると下がっていった。

 

「青葉シゲルだ。同じくオペレーターをしてる。シンジ君、これからよろしく。ほら、今日は君が主役なんだ。こっちのテーブルに来てくれ」

 

「あ、はい。碇シンジです。よろしくお願いします」

 

次に来たのは長髪の男性。タレ目気味の彼に勧められるまま、シンジは店の奥の席に座った。

 

「シンジ君は食べられないものある? 私は伊吹マヤ。技術課です。よろしくね」

 

「いえ、大丈夫です。よろしくお願いします」

 

席に座ったシンジに、料理を取り分けた皿を取ってくれたのは小柄な女性だった。今まで出会った中でも年若く見える彼女に、シンジは少しだけ親近感を覚える。

 

その後も見知らぬ大人達が入れ替わり、立ち替わりに挨拶をしていく。

 

「俺とコイツは技術課の整備とか建設とかしてる。シンジ君の初号機はバッチリ直しとくから安心してくれ。そのうちエヴァ用の武器も作るから、欲しいもん言ってくれよな」

 

「僕らは戦術課のメンバーです。日向君と一緒に葛城さんのサポートをしてます。今回は何も手伝えずにいて、ごめんね。でもこれからしっかりサポートさせてもらうよ」

 

「やったな! すげえ戦いぶりだったぜ!」

 

「怪我はないと聞いたけど、気分が悪かったりしたら言ってね。今日は救護課多いから、すぐに対応できるよ」

 

名を名乗らずに、所属だけ伝えていく彼らにシンジは目を回し始める。一瞬にして増えた情報量を処理しきれずに、シンジは機械的に「よろしくお願いします」を繰り返した。

 

一通りの挨拶が済んだ所で、ミサトの号令がかかった。

 

「挨拶は終わったわね!じゃあ後は適当に飲み食いしちゃって。みんなシンジ君に興味津々だろうけど、これ以上はシンジ君が疲れちゃうから後は日を改めてにしましょう」

 

ミサトがグラスを掲げる。

 

「みんな、よく頑張ったわ。私はみんなと共に戦えて、感謝してる。でも今回のMVPは間違いなく彼ね」

 

ミサトがこちらに視線を寄越した。

 

「立派に戦ってくれたシンジ君に感謝を。そして、みんなの奮闘に乾杯!」

 

『乾杯!』

 

祝いの席ではあるが、使徒はまたいつかやって来る。

今回は急遽開催された為に人数もそれほど多くなく、みな明日の仕事もある。

それでも和やかに、少しだけ騒がしく。

シンジ歓迎・祝勝会は慎ましやかに進行していった。

 

 

◆◆◆

 

 

「寝ちゃったわね」

 

騒がしくなった歓迎会も1人、2人と脱落していくうちに静かになり、半分ほどが寝静まった頃。

ミサトはリツコと2人でまだ酒を飲んでいた。

2人の視線の先にいるシンジはこくり、こくりと頭を揺らし、隣にいる日向に傾いていっている。

 

「仕方ないわ。昨日は異常すぎる環境で命のやり取り。そんで今日は久しぶりのお父さんとの再会よ? 疲れるに決まってるわよ」

 

「で、なんでそんな子供の歓迎会を? 彼が元気になってからでも良かったでしょうに」

 

どこからか青葉がブランケットを持って来た。日向と作戦課のメンバーがゆっくりとシンジを横にする。

 

「今日じゃなきゃ、ダメだったのよ。シンジ君ね、大人を見る目、相当あるわよ。

 意外と明るい子で驚いたけれど、報告書も本当ね。最初に大人との距離を測って、次からはこの線を越えないタイプ」

 

「誰かさんに似てるわね。だから分かったの?」

 

視線の先、日向を含めた作戦課がするするとシンジのそばを離れていく。ついでに近くでシンジを撫でようとしていたマヤを確保して離れていった。

 

「まぁ、勘だけどね。それにもうちょっとしないとさ、戦いの後って、神経が尖りすぎてまともに寝れないのよ。中学生だからお酒も飲ませられないしねー」

 

はぁ、とため息が聞こえた。リツコが組んだ手の上に形のいい顎を乗せている。

どこかでよく見たポーズだった。

 

「ミサトがシンジ君を引き取るって聞いたとき、本当に心配したのよ。また面倒ごとが始まるんだな、って」

 

リツコは自分のグラスを眺める。気だるげなポーズが、妙にサマになっていた。

 

「でもまぁ、やってみればいいんじゃない? あなた、そういう才能ありそうな気がして来たわ」

 

「正直、自分でもやっちゃったなーとは思ったんだけどね。後には引けないし、女は度胸、ってヤツよ」

 

「じゃあシンジ君の養育計画書、ちゃんと書いときなさい。食事の栄養バランスとか、マヤに手伝うように言っておくから」

 

計画? と、ミサトは頭を捻った。ミサトの考えでは、家事と部屋の分担くらいしか新生活についての計画がなかった。

 

「体のホルモンバランスが崩れて、この頃の子供はけっこうナイーブになるの。だから体調管理をこっちでやる、っていう名目にすればね。予算付くわよ、多分」

 

「ちょっと、お金のためにやるわけじゃないわよ?」

 

リツコの突然の提案に憤る。酒のせいで、ミサトの沸点が下がっていた。

 

「分かってるわよそんな事。でもあった方がいいわ。シンジ君の分、食費も増えるし、色々買うものも増えるわよきっと」

 

「分かったわよ。リツコは口うるさいんだからもー」

 

「うるさいとは何よ。あなた、保護者になるのよ? 学生の頃とは違うって、分かってる?」

 

今度はシンジの周りに救護課が集まって来た。そうっとシンジの顔色をみて、周りにOKのジェスチャーをしている。心配になって、様子を見に来たらしい。

 

「大丈夫。腑抜けたマネはしないわ。見てみなさいよアレ。私がシンジ君に風邪引かせたら救護課が襲って来るんじゃないの?」

 

その救護課は、今度はマヤをひっくり返していた。寝ているマヤの服を緩めようとして、作戦部の女性陣と一緒に男どもを追い払っている。

 

「その時はきっと技術部も一緒ね。あの2人、シンジ君の戦いぶりに感動してたもの。これが男の戦いだ、って。ちょっと泣いてたわよ?」

 

と、話していたところで作戦部が近づいて来た。

 

「葛城さん、そろそろシンジ君をベッドで寝かせてあげませんか? 今、日向が代行呼んでますから。後、酒飲んでないのが1人いるんで、シンジ君の運び込みにウチの女性陣使ってください」

 

「シンジ君、人気者ね?」

 

ミサトは、無理矢理に歓迎会を強行して良かったと感じた。少なくとも、シンジの周りは彼を怖がらない人間で固められそうだった。




書けちゃった。やる気シンジくん早々の休憩回。
感想返しが出来てなくてすみません。感想読ませてもらってるとどうも筆が乗ってしまって。みなさんの感想は全て楽しく読ませていただいています。ありがとうございます。


オマケのギガントパンチャーG(グレート)

脅威!合体エリートロボット!

前回の戦いでシンジが倒したのは馬型ロボットは、なんと合体ロボットの下半身だった!新たにケンタウロス型ロボットとなったエリートロボットがギガントパンチャーを襲う。しかし、窮地のギガントパンチャーを救ったのは、建造途中のギガントガンナーだった!

「この、バカシンジ!アンタ何そんな相手にチンタラしてのよ!根性見せなさい!」

次回、闇夜のギガントガンナー。
お楽しみに。

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