Fate/Grand Order 亜種特異点 神座争奪零界ヴァルハラ 作:ひがつち
プロットもない見切り発車で不定期更新ですが、楽しんでいただければ幸いです。
ーーー英雄の末路。
古今東西それは多岐に渡る。
戦死。
病死。
裏切り。
消失。
謀殺あるいは暗殺。
これはそんな己の末路を疎んだある1人の
人理継続保証機関カルデア。
それは先の憐憫の獣による人類史上の最大の事件、『人理焼却』での人類最後の希望となりし場所、人理を救った人類最後のマスターであった藤丸立香の居る場所。
かつての魔神の残党の引き起こした亜種特異点を二つ修正しつかの間の平穏を味わっていたかったのだろうが、それもそう上手くはいかなかった。今彼女達がいるのはカルデアの管制室、つまり。
「また新しい特異点が見つかったの、ダ・ヴィンチちゃん」
「うん。まぁ有り体に言ってしまえばその通りだ。先のアガルタでの疲れも完全には取れてないのにすまないね、立香ちゃん」
目の前にいるかのモナリザそのままの女性ーーー、ダ・ヴィンチが労いながらその問いに答える。
カルデアに数いる史実の記録から性別が解離しているサーヴァントと違い生前はきちんと男性であったし諸々の事情で自身の作品であるモナリザの体で現界しているのだが、それは割愛しよう。
「それでダ・ヴィンチさん、今回の特異点はどのようなものなのでしょう?」
ダ・ヴィンチに白衣を纏った眼鏡の少女、マシュ・キリエライトが今回の特異点の詳細を問いかける。
「今回特異点が観測されたのは西暦500年代ーーー。今までの亜種特異点と比べればこれまでの特異点と同じように過去に区分出来る時代だ。場所は北欧のノルウェー。ただ、今回もそうだが厳密な発生源が特殊だ。過去にデータを得ていることから判明しているが、今回は前回のアガルタと近いものがある」
「……つまり、今回も地下空間?」
「その通り。ただし、今回の地下空間はアガルタのそれとは別物だ。人為的に造られたものではない。元々そこにあったものだ。これは立香ちゃんもマシュも第七特異点で経験しているものだよ?」
第七特異点、すなわち神代のウルクにて体験したもの、その時の地下空間など、ただ一つ。それはーーー。
「冥界、ということですか?」
第七特異点、古代メソポタミアのウルクにて冥界の女主人、女神エレシュキガルの協力の元、ビーストⅡ=ティアマト打倒の為ウルク市地盤をくりぬき冥界へと落ちたことがある。
「しかし、あれは神代という時代、冥界と地上が物理的に近かったためでは」
「マシュの疑問も最もだとも。けれど
マシュの疑問にもダ・ヴィンチが過去のデータから算出された回答を告げる。神代であったウルクと違い今回の特異点は紀元前ではなく、その観測結果に間違いはないのだから。
「地上には何も異常はないから今回も直接地下空間、冥界にレイシフトしてもらう。
所で、北欧の冥界と言えば何だか分かるかな?」
「ええっと……」
唐突なダ・ヴィンチの質問に立香は口ごもらざるを得ない。これまでも多くの時代、数多のサーヴァント達を巡ってきたが北欧の神話に由来したものは少なく知識を得る、ないし必要な機会が無かったからだ。
「ニヴルヘイムです、先輩。北欧神話の土台となる9の世界の内、下層に存在し悪神ロキの娘ヘルが支配しているとか。この地の魂は疾病や老衰で死んだ者達や悪人の魂だとされています。
ウルクで最初に冥界に堕ちたとき生者であった先輩はガルラ霊に襲われたと聞いています。やはり冥界に直接レイシフトするのは危険ではないかと」
「そういうと思ったよ。もちろん対策は用意しているさ!」
そう言って意気揚々とダ・ヴィンチが取り出したのは一着の防寒具。ご丁寧にDA☆VINCIとロゴまで付いている。
「ジャジャーン!ダ・ヴィンチちゃん特製防寒具さ。ウルクの時に渡したマフラーの全身版といったところだね。今までは寒冷地にレイシフトしたことはなかっただろう?ニヴルヘイムは一面が氷の極寒の世界だからね。これに周りからは死者として誤認識されるカモフラージュ機能を付けているのさ。これで死霊から自発的に襲われることは無くなる。
あ、もちろんあくまで誤認識で我々カルデアからの観測ではちゃんと生者として観測されるからその点は安心してくれていいよ」
ニトクリスのお墨付きを貰ってるしね、とぼやくダ・ヴィンチ。
冥界の神であるファラオ、キャスター・ニトクリスが見破れないのであればその性能に嘘は無いのだろうと二人で納得し、次の質問に入る。
「それで、今回同行していただくサーヴァントの方はどなたなのですか?」
「あぁ、それならそろそろーーー」
「失礼します」「ごめんよ」
その時管制室に入ってきたのは二人の男性。
片方は整った顔立ちと翠色の瞳を持つ落ち着いた風貌の青年。
もう一方は白いローブを纏い女性と見紛いかねない長髪の美青年。
「ジキル博士。それにパラケルスス」
ジキル博士。ヘンリー・ジキル。
怪奇小説『ジキル博士とハイド氏』の主人公として描かれた人間、詳しくはそのモデル。
カルデアではアサシンのサーヴァントとして現界した
かつて人の善性と悪性の分離を試みた勇気ある人。
そして自らの悪性と戦い続けている人。
その結果こそ彼の望むモノではなかったもののその行いは、その始まりは尊きものだ。
ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス。
中世ヨーロッパにおける錬金術師。
五大元素を定義した
卓越した魔術の上に加え、無辜なる人々を救わんが為に賢者の石を解放せんとし魔術協会に謀殺された正義の人。
……それを言えば当人は自身を悪逆として自虐するであろうが。
「今回はそのお二人ですか?」
意外な組み合わせだったのだろうか、マシュが疑問の声を上げる。
「ほら、先日イシュタルがレースを開催しただろう?それの後始末に人手が取られてね。今手が空いてるのがその二人しかいないんだ。」
「そういうことですから、えぇ。此度は力不足ではありましょうが、我々が最大限お供いたします」
「僕達が他の神話出身のサーヴァント達と比べれば一段階劣るのは事実だけれどね、けれど決して弱い訳じゃない。
精一杯君のサーヴァントとして努めてみせるよ」
自虐をするようなパラケルススの言葉を受け、それを事実としながらも前向きにフォローをしながらも今回のレイシフトへの意気込みを語るジキル。
立花からからすればそのような気は微塵もなく、むしろついてきてくれるだけで有りがたかった。
立花は最低限の魔術回路を備えていてもただの人間でしかなく、魔術に関する知識は無し。肝心の魔術行使もカルデアの製作した礼装だよりでしか使えない。
「もちろん、頼りにしてるよ」
何もない凡人でしかない立香には信じることしか出来ない。それこそが自分にできる最大限の役割であり、だからこそ7つの特異点、そして2つの亜種特異点を生き延びる活路を拓いてきたのだから。
「では、今回のレイシフトを、レムナント・オーダーを開始しよう。マシュ、サポートを頼むよ」
「はい、任せてください!」
ダ・ヴィンチの言葉を皮切りにコフィンへと入る、その最中。
「ーーーーーー、」
「……え?」
側を通ったパラケルススが何事かを呟く。その真意を問う前にレイシフトが開始する。
『アンサモン・プログラム スタート。
霊子変換を開始 します。
レイシフト開始まで、あと。3、2、1……。
全工程、
アナライズ・ロスト・オーダー。
レムナント・オーダー
“私は千里眼持ちし者ではありませんが、この
“おそらくこの戦いは、私の忌むべき過去。忌むべき悪逆に決着をつける戦いになるのだ、と”
パラケルススの言葉、その意味は一体何だったのだろう――――?
闇。
深き深い闇。それはまさしく命ある者を沼のように飲み込まんとするが如しもの。
その中で幾ばくかの声が跋扈する。
「……で、どうするんだよ。あの泥人形、こっちを無視して奴さんの側に付いちまったが。
まぁ、オレとしてはこの場に集った面子の方が驚きだがね。
まさかオレと違って正当なる英霊サマ方が揃いも揃って悪事に手を染めるとはねぇ。なぁ、そう思うだろう?そこでズン黙ってる竜殺しさん?」
軽薄な声が人一倍騒ぎ立てる。それに対し殺気と苛立ちが混じった声が応する。
「……止めてくれないか。
僕は好き好んで英霊なんてモノになった訳じゃない。
もう何度目だい?君は僕のような人間には興味が無いんだろう?」
「あぁ、勿論。
オレはアンタみたいな奴には興味は無い。
だからこそ、遠慮って奴がない。気に障ったなら失礼を?」
「――――――」
馬鹿にするような返答を返され、剣を抜き放つような音が発せられる。
一触即発かという最中。
「……そこまでにしておけ」
場を仲裁する声が響き、空気が霧散する。
「アーチャー。何のためにお前を喚んだと思っている。既に無限の富は報酬として支払っている。雇われ兵らしく己の役目を果たしていろ。
アサシン、お前もだ。貴様と我らは願いを同じくする者同士。アーチャーは違えど最終目的は同じ。目的を果たす前に悪戯に、それも身内のいざこざで戦力を減らし、勝率を減らすものではない。汝の矜持と願いは分かるが、目的の為に耐えるがいい」
不満はあろうが、上司の言うこと、目的の為と割りきったのか渋々ながら剣を収める音がする。
「奴に関しては問題ない。所詮は
「……お父様」
「……帰ったか、ランサー」
新しく鈴の音のような声が加わる。
「シグルドは、倒せませんでした。やはり、あの人は強く」
「知っている。奴はそう生半可で倒れる男ではない」
その時、大いなる声の主がふと空を仰ぐ気配を出す。
「……とうとう来たか」
「……はい?」
軽薄な声が疑問を呈する。
「時が来たと言ったのだ。アーチャー。
天を仰ぎ観る天文台が、天駆け時を駆ける箒星がこの地へと降りたのだ。
アーチャー、然るべき地へ向かうのだ。
アサシン、お前の役割は理解しているな。我らが天願を連れてくるのだ。
ランサー、お前の役割は変わらない。その槍で以て戦陣を切り開くがいい」
満を持して大いなる声は開幕を告げる。
「……さぁ、時は来た。我らが栄光を取り戻すのだ……!」
「……あら」
外を雪吹きすさぶ中、豪奢なる宝財の中で微睡んでいた陰陽なる少女がふと声を上げる。
「とうとう来たのね、彼女が。いつか、いつかと待ちわびていたけど遅すぎてひょっとしたらもう来ないのかと思ってしまったわ」
「……ねぇ、バーサーカー。彼女を迎えに行ってあげてくれないかしら。
早くあの人に会いたいし、迷子になってしまったら大変だもの」
「ヴ……、ウアアア■ァァ■ァァ!」
少女の
純白の少女がの通過跡である大穴の空いた壁を見ながら少女が呟く。
「……大穴が空いてしまったわね」
少女にとって直すことは容易いはおろか造作もないが、それはそれで面白味がない。
さて、どうしたものかと頭を悩ませた後、ポン、と手を叩く。
「そうだわ。せっかくだから模様替えをしましょう。彼女との初めての出会いだもの。緊張させすぎたら申し訳ないわ」
そうと決まれば早速行動を開始する。物の配置はどうすればいいか。天候は、色彩は如何なものか。やること、決めるべきことは沢山ある。
「あの人は喜んでくれるかしら、それとも驚くのかしら。
どちらにせよ、楽しみだわ」
喜びを顕に少女は部屋の色彩を変えていく。
何十、何百とそれだけを夢見て退屈な日々をただ過ごしてきたのだから。