Fate/Grand Order 亜種特異点 神座争奪零界ヴァルハラ   作:ひがつち

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お待たせしました。
いやぁ、戦闘シーンは難産だったヨ……。


ニヴルヘイム

―――意識が浮上し、目が覚める。

 

「寒っ……くはないけど、風が痛い!?」

 

レイシフト直後に極寒の大地に投げ出され地面に積もる雪のおかげで怪我は免れたものの、叩きつけるように吹きすさぶ吹雪に悲鳴を上げる。

 

「マスター、こちら物理的痛みを和らげる霊薬です。ご必要であれば、どうぞ」

 

傍らのパラケルススが立香を案じてか自身の道具作成スキルで製作した霊薬を差し出す。

 

「ありがとう、助かるよ」

 

パラケルススの好意を有りがたく思い、飲み始める立香。

それを尻目にジキルが問いを投げる。

 

「パラケルスス。何かあの霊薬には特別な作用があるのかい?学者の端くれとしては気になってね」

 

それに対しパラケルススは頷くと

 

「かつてアガルタにレイシフトした際に持ち帰った霊草を擂り潰し薬としたものです。

体内のエンドルフィンの分泌量を多くし一時的に痛覚の耐性を向上させます。

ただ――――」

 

そこで一度言葉を切るとパラケルススは続きを述べる。

 

「ただ、あまりの分泌量により半年ほど痛覚が麻痺するという副作用が……」

 

振り返りジキルが己がマスターを見ると既に霊薬を一本丸々飲み干した状態だった。

 

「の、飲んじゃった」

 

パラケルススの解説を聞いたのは既に飲み干した後だったのだろう。目を見開いて動揺している。

 

なんても言えない空気が漂う中、パラケルススがふと微笑み言葉を漏らす。

 

「……冗談です」

 

「……え?」

 

冗談。冗談と言ったのかこの男は。

 

「えぇっと、パラケルスス、先の話は君の冗談だって言うのかい?」

 

「ええ。効用の話は事実でしたが、副作用の話は私の冗談です。

レイシフト前にどうやら緊張してなされたようですので、気を解す為に一つ、冗談などをと。

しかし、やり過ぎてしまったようです。

 

……申し訳ありません、マスター」

 

そう謝意を示すパラケルスス。

驚きはしたものの、そうでられては何も言えない。

 

「ううん。ちょっとびっくりしただけだから大丈夫だよ。

心配をかけてごめんね、パラケルスス」

 

気にしてないことを告げるとカルデアから通信が入る。

 

『あー、あー。マイクテス、マイクテス。どうだい立花ちゃん、きちんとそちらに届いているかな?』

 

ダ・ヴィンチのホログラムが映り、その声を届ける。

 

「うん、問題ないよ。ダ・ヴィンチちゃん。ちゃんと聞こえてるし、見えてる」

 

『そうか、それなら何よりだ。無事にレイシフトが出来てひと安心だ。

ニヴルヘイムと言えば女王ヘルだ。まずは彼女に会いに行こう。

 

周辺を探索するから、適当な方向に歩いていってくれ』

 

 

 

 

ダ・ヴィンチの指示に従い、適当な方角を歩いているが、周りは一面雪景色。枯れ木はいくつかあれど、それもほぼほぼ凍りついているという有り様だ。

 

「本当に何もないね」

 

『ニヴルヘイムはあの世の冥界、それも悪人の魂が送られる場所なので物があまりないのは当然と言えば当然ですが、それにしては霊の姿を一人も見ないというのも……』

 

立香とマシュの雑談にダ・ヴィンチもまた疑問の声を上げる。

 

『確かにこれはおかしい。死霊の一人も反応がない。いくらなんでもこれはおかしすぎる……。

いや待て、今反応が……』

 

「あ、あれじゃないかな?」

 

ダ・ヴィンチが何かの反応を見つけた時に立香が丘の向こうに人影のような集団を見つける。

 

「すいませーん!」

 

「マスター!防寒服の誤認機能があるとしても少しは警戒もしないと……!」

 

ダ・ヴィンチの作成した防寒服の誤認機能を信頼しているのだろう、無警戒に近づく立香とそれを危険として諌めようとするジキル。

 

「マスター!」

 

ジキルに腕を引っ張られると同時に立香の目の前に魔方陣が展開され何かが―――、矢が衝突し、弾かれる。

 

「……え?」

 

唖然とする立香。

そう、パラケルススが死霊が弓引いた矢を弾いたのだ。

 

「ミス・ダ・ヴィンチ。マスター(彼女)はニヴルヘイムの死霊からは敵対反応をされない筈では?」

 

『あぁ、その通りだ。立香ちゃんの着ている防寒服は死者同然に誤認させる機能がある。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

起こりえる筈のない問題に動揺する様子を見せるダ・ヴィンチ。さらに事態は悪い流れに向いていく。

 

『おいおい、なんだこの数は。それにこの反応と霊基は……。

 

立花ちゃん、そこから早く離れてくれ。大量の………………が、なんだ、通信が……?』

 

ダ・ヴィンチが何かを言いかけるとホログラムにノイズが走り、カルデアとの通信が途切れてしまう。

それと共に遠方から聞こえる咆哮と大きな物体が移動する物音。

 

三者共に逃亡の姿勢を取ろうとするが――。

 

「ち、ちょっと……!」

 

「これは、不味いね……」

 

「退路を塞がれたようですね」

 

いつの間にか三人の周囲に湧きだした死兵に囲まれ逃げ道を失ってしまう。

 

そして距離が狭まったことで迫るものの正体が明らかになる。

当たり前だ。立香達はこの咆哮を嫌というほど聞いてきたのだから。

始まりは第一特異点のフランス、オルレアンから。近いときであればイシュタルの催した真夏のレースで。

それ即ち、

 

竜種(ワイバーン)……!」

 

誰かがその名を呼ぶ。

 

竜種。

数多の幻想種の頂点に立つ絶対君主。その力はその名に恥じるモノではなく、中には神格にすら食い込む個体も存在するという。

が、今回の竜種はこれまでのものとか異を喫していた。

 

「うっ……」

 

その余りの腐臭に立香は思わず鼻をつまむ。

 

そう。今回の竜種は既に死んでいた。

眼は窪み、肉体は大半が腐り堕ち、中の骨が見えてすらいる。それでもなお動き続け竜種特有の圧は衰えるどころかむしろ不気味さ、おどろおどろしさが増しているように思えた。それも大量に。

そして、とりわけ大きな個体に牽かれた船に騎乗する男が1人。

 

「ははぁ、大将の言った通りだ。きちんと3人いやがる」

 

前開きの深紅のコートと羽根つき帽を着用し、首から十字架を下げたその男はふと顔を引き締め睨め付けるように立香を上から下まで観察する。

 

「……………………」

 

「な、なに……?」

 

値踏みするような視線に狼狽えながらも気丈に返すと男は手にしていたマスケット銃の銃身で肩を叩きながら深くため息をつく。

 

「いや、勿体ねぇと思ってなぁ」

 

「………………」

 

装いからこの男の出自を察し嫌な予感を感じながら次の言葉を待つ立香。

 

「まだまだガキだが一丁前にイイ身体してやがる。基督教の人間でもねぇし、上手いこと捕まえて情婦として売りに出そうとしたんだが、大将からは殺せって出てやがる。

神に幸運を感謝しようとしたが不幸も一緒とは。

世の中上手くはいかねぇなぁ」

 

「ほらやっぱりー!」

 

この男、カルデアにいるドレイクや黒髯と同類の男だ。となれば、やはり。

 

「そこまでだ。それ以上の言葉は不要だよ、海賊のサーヴァント」

 

「んん?」

 

身体を守るように手を回した立香を守るように前に出たジキルに男が疑問の声を上げる。

 

「おいおい、なんだよもやし君。見た所()()()()()()()()()()ようだし、陰気なそこの魔術師(キャスター)の野郎は別として同じ基督教圏(同郷)の人間の誼で見逃してやろうと思ってるんだが?」

 

「それは困るな。僕には彼女を守らなきゃいけない責務がある」

 

「はぁ……。そりゃ困ったなぁ。気が進まねぇが、殺すしかねぇか。

まぁ、神の身元で安らかに過ごしてくれや。最も、こんな場所じゃ行けるモンも行けなくなるかもしれねぇがな」

 

頑なと見るややれやれと頭をふる男。

その隙にジキルとパラケルススが視線を交わす。

 

(僕はこのまま人間の振りをして奴の隙を伺う。パラケルスス、どうにかして堪えてくれ。

それに、ハイドは守るのには向いていない。彼になった所でマスターの守りが薄くなって押しきられたらそれこそ終わりだ)

 

(畏まりました。せめて、防壁の結界は敷いておきます。どうか、ご武運を)

 

僅かなアイコンタクトを交わし、意思を疎通した所で男が船上から飛び降りてくる。

 

「ま、そういうことだ。悪く思うなよ」

 

マスケット銃とカットラスを構え、戦闘体勢に入った男は決別の手向けとして言葉を投げ掛けた後、銃弾で牽制をしながら距離を詰める―――。

 

放たれた銃弾をで作製した魔法陣でいなし、牽制を目的として高速詠唱で短縮した小規模魔術を発動。

水と風の属性を組み合わせた雹の竜巻だ。

直撃を受ければ、対魔力の無いサーヴァントであればそれだけで決して無視の出来ない手傷を負わせ、回避をすれば爆散した雹が全方位に追撃をかける。

 

「ハッ……、甘ぇんだよ!」

 

それに対し男の取った行動は前進。

男は竜巻と衝突し、そして。竜巻の方が掻き消えた。

 

(対魔力……。精々Dランクと想定していましたが、思ったよりランクは高かったようですね。

 

……であれば)

 

元より牽制。たいした結果は求めていないし、相手の程度が解れば上々。

再び元素魔術を行使するは火の属性。その威力は実に大魔術。

幾匹もの焔の如き大炎が蛇のように身をくねらせ獲物に喰らいつかんと疾駆する。絡み付けば数棟に渡った広範囲を焼き付くす。

 

「おおっとぉ!」

 

これは不味いと思ったのか男は対応を見せる。

右に持つはカットラス。これにて蛇の頸を裂き、すぐさま再生するもその刹那で十二分とばかりにすり抜け置き去りにする。

左に持つはマスケット。放たれる魔弾にて後続の炎蛇を打ち砕く。

 

「ハッハァッ!取ったぞ、キャスター!」

 

迫るカットラス。受けるパラケルススは魔術を紡ぐ様子すら見せず―――。

 

()()()()()()()()()

 

「な―――」

 

関節を決め相手の勢いを利用し、重心を移動、回るように回転させる。それはまさに。

 

(魔術師(キャスター)が投げ技だと……!)

 

「ごは……!?」

 

地面に叩きつけられ息を吐く男。

 

「意外に思われましたか、()()()()。魔術師が近接戦を挑むなどと」

 

「異端を学ぶ魔術師であるからにはなぁ、まさかお得意の魔術は囮か。

これは油断したオレのミスか。

 

……だが致命傷は避けられたさ」

 

すぐさま体勢を立て直し、折られた右腕を庇いながら立ち上がるライダー。

その通り、既にライダー自身投げられる最中にブーツの隠し刃でパラケルススの腕を切り裂き勢いを落とすことでダメージを落としていた。

 

「手持ちの軍勢は使わないのですか」

 

ふと、パラケルススが一つの指摘をする。

その通り、ライダーの引き連れていた軍勢は竜種を含め、包囲はしていても多少の兵をジキルの元に向かわせた程度で、その物量を発揮することはしていない。

 

「ハンッ……、大事な大事な商品でなぁ。あくまでこれは使いのようなもん。出すにも及ばねェよ」

 

「さぁ、続きといこ―――、

 

…………ッ!?」

 

突如交戦していたライダーが距離を取り、弾かれたように顔を上げる。

 

「オイオイ……、流石に早すぎんだろ!?」

 

何事かと思った瞬間、再び事態が変化する。

 

「■■■■■■■■ー!」

 

「ごっ……!?」

 

上空から何者かがライダーに向かって強襲をしかけ、寸での所で回避をしたものの、その余波でライダーが吹き飛んでいく。

 

「■■―――」

 

強襲を仕掛けたのもまたサーヴァント。

 

寒国らしい厚着に古めかしく民族的なウールのケープ、細工のように煌めく金の髪に碧い瞳、透き通るような肌の女。

されどその瞳は狂気に曇っており理性を見いだすことは叶わない。

 

しからばその正体(クラス)は明白だった。

 

「チッ……、相変わらず狂戦士(バーサーカー)のくせにえらく頭が回りやがる……!」

 

面識があったのか、舌打ちをしたライダーからその解答が叩き出される。

 

狂戦士(バーサーカー)

狂化と呼ばれるクラススキルをもって特徴つけられるクラス。

パラメーターを大幅に引き上げる代わりにその代償として理性を剥奪する、魔力消費量の桁が違う文字通り死と隣り合わせのサーヴァント。

 

「――――」

 

乱戦の内に乱入した第二のサーヴァント。

敵か味方か、判断のつかぬことを逡巡するうちにその立場は明らかになる。

 

「丁度いい。ドラゴン共、あの泥人形をここで仕留めろ!」

 

ライダーの号令共に竜種と死兵がバーサーカーに対し襲いかかる。

当のバーサーカーは自らにかかる軍勢を意に介さず目にも止まらぬ速度でこちら―――立香達の方向に身体を向け、砲弾のように飛び出した。それを阻むは異形の軍勢。

 

「■■■■■■!」

 

それはまさしく蹂躙であった。

下手な死兵は腕の一振るいの余波で数体纏めて消し飛び、竜種は徒手空拳の一撃で半身が消滅しその骸は機能を停止する。

弾けた腕が泥と化し、鋭い槍となってそのまま数百単位で骸を動かしている霊核を的確に破壊する。

 

その様は間違いなくこの場において最も優れた強者が誰なのかを雄弁に語っていた。

 

「――――――」

 

「何なんだ、あの英霊は……」

 

死霊兵をナイフでいなしながらその圧倒的格差に唖然とするジキル。

まず間違いなく、ハイドとパラケルススが束になった所で追い付かない。いや、パラケルススの援護は十分だ。

足りないのは前衛。この霊基(アサシン)ではハイドになったとして地力が欠けてしまっている。せめて自分がかつての――バーサーカーのクラスであれば話は別であったのだが。

 

そして肝心のバーサーカーは戦いの最中足を大きく曲げ勢いよく―――、地面に向けて叩き下ろした。

 

ぴきり、という何か微かな音が聞こえたと同時に大地が真っ二つの避けた。

 

「なぁっ……!?」

 

「落ちる―――!」

 

崩れる足場は揺りかごのように、立香とジキルは奈落の底へと落ちていく。

 

「マスター!」

 

主の後を追うように戦闘を中断したパラケルススも裂け目へと飛び込む。

事の原因であるバーサーカーもまた。

 

 

 

 

1人残されたライダーはよっこらせとばかりにもたれ掛かっていた船壁から身を起こし立ち上がる。

 

「……で、普通に逃がしちゃいましたが、これでいいんだよな大将?」

 

「ああ、はい?きちんと事は片付けましたよ。報酬もたんまり弾んで貰ったしなァ」

 

へいへいと軽口をぼやきながら船のタラップに登りそのまま船室へと入る。

 

―イタイ。

 

「あぁ、ホント――」

 

―タスケテ。イタイ。クルシイ。

 

ぎしぎしと軋む船床を踏みしめながら船室の奥の一室に入る。

 

―タスケテ。トケル。トケル……。

 

「ホントにこれは()()()()()()()()()()()だァ」

 

其処には釜に浸けられ溶かされる本来この世界の住人であったであろう霊達がいた。

一説によれば地獄の霊の欲望から黄金は生まれるという。

であれば死なぬ霊は尽きる事なき無限の財宝。彼らは永遠に溶かされ男の底無しの欲望を埋める為の資源として浪費されるのだ。

 

―――この地に神の目は届かず、横行するは地獄の如き悪鬼の所業のみ。


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