あれから俺は礼拝堂の隠し通路を見つけ、地下の通路を降りていたんだが、突然聞こえた悲痛な叫びが聞こえた瞬間、血の気が一気に退いた
その声は俺が救いに来た女の子の声に他ならなかったんだから
「アーシアあああああああ!!」
腹の底から出た声が、通路に響き、奥にいるであろうアーシアの元へ飛ぶ。そこからはひたすら走った。俺が予想する最悪の結末が頭を過ぎったから
「アーシア!!」
下へ降りた先に一つの扉を見つけた瞬間、何の迷いもなく右手に魔力を込めて扉をぶん殴る。扉は綺麗に吹き飛び、そこに偶々いた全身黒ローブの連中を数人なぎ倒した
「ノックの仕方も知らないのかしら?薄汚いお猿さん?」
そして俺の視界の先に、敵の親玉であるレイナーレがいた。緑色の儚い光を両手で受けながら
「でも遅かったわね、もう彼女…死ぬわよ?」
その隣で十字架に幾何学模様のついたものに磔されていたのは、目に生気を灯していない優しい女の子だった
「てんめええええええーー!!!」
守れなかった…たった一人の女の子すら守れず"また俺は生き残っちまった!!"
「喚いたって無駄、私はこの力でアザゼル様やシュムハザ様に愛を頂くの。悪魔祓い達?その異端なる人間を殺しなさい!」
「「「「はっ!」」」」
行く手を阻み出すローブの連中が、もやしと同じような光の剣を抜いて俺に殺到してきた
「邪魔だゴミ共!!」
「がっ!?」
「ごふ!」
即座に俺は篭手なしで魔力を練り、近い敵を左フックと右アッパーで無力化する
「何が愛だ、何が異端だ!一人の人生すら狂わせるような連中に祈り捧げるような手は持っちゃいねえ!」
「黙れ異端者ああ!」
今度は正面から切っ先を向けてくる奴がいた。まあ関係ねえがな!!
「殺したいならもちっと殺し方を学べ素人!!」
「なっ!?」
そんな点しか狙わない攻撃、走りながら少し姿勢崩すだけで容易に避けられる。この程度で驚く雑魚に用はねえ。魔力なんぞ使わず素手のストレートで意識を狩る
「レイナーレええええええ!!」
「ふん!私の至福を邪魔するな!」
レイナーレの元へようやく着いた俺に、奴は槍を作り投げる姿勢で迎えてくる
「てめえの槍なんぞ見飽きてんだよ!」
「あら、ならこれでどうかしら?」
そう告げた瞬間、レイナーレの雰囲気が急激に変化した。まるであの時…バイザーが見せた変化のよう、いや全く同じ様子なのか!?心臓が大きく高鳴る衝動…間違い無くあの時と同じ状況
「まさか…!」
「ふふ、あなたにコケにされてから力を求め続けていたら…思わぬ力を授かったの。久々にあの憎たらしい神に感謝したわ」
レイナーレはそんな事を言いながら、槍を持った右手をうっとりと見つめていやがる。その手は天使なんて到底言えねえ、漆黒の人の手に変わってやがった。しかもそのまま野郎は槍を手首のみで軽く俺に投げつけてきた。するとどうだ
とんでもねえ衝撃を全身に受けて体が宙を浮いていた。そしていつの間にか地面をバウンドしていた俺はうつ伏せに倒れた
「がっ…ごほっ…」
「あっははははは!所詮人間無勢が出る幕じゃなかったのよ、そうやって這いつくばっている方がお似合いよ?」
「う"るぜ…ぇ"ほっ!…」
何か言おうにも口から血がせり上がって言葉が詰まる…畜生、何も救えずに殺されるのかよ…!力を手に入れたつもりで無力だったとかどんだけ道化なんだよ俺は!
「さあ、煮え湯を飲まされた借りを返させてもらうとしましょうか…上層部を騙して手に入れた力なんだし、口封じも兼ねて…」
俺を見ながら槍を作り出すあいつの目は、どこまでも蔑んでいやがった。まるで俺の生き方全てを下らないと吐き捨てるような、腐った目で
「お別れね、凡人。後その左手に宿ったイッセー君の神器?二度同じ存在を消すことになるなんて、これも数奇な運命ね」
左手…そうだ、俺の力の根源。こいつは倍化のみの力だったけど、俺に力をくれた。定かではないけど、"この中に紛れてる何か"にも感謝しないといけねえ…だけどよ!
「さようなら」
無機質な声と共に、野郎は槍を振り上げた。…悔しい、力が欲しい、あの面を歪める程度の力が欲しい!応えろよ、『龍の手』!!
「ぐあっ!」
「げふっ!?」
「何?」
だけど、俺に応えてくれたのは『龍の手』ではなく
「お待たせ近衛君。遅れてごめんね」
「…一人で突っ走り過ぎです先輩」
「…イケメン、猫娘」
俺が突っぱねた筈の悪魔達だった
「お前ら…交戦は控えるはずじゃ」
「確かにこの状況は世間的には良くないさ。でもこの街を統括する者として好き勝手させるのを部長は望んでいなかったんだよ」
「…あなたがここに向かったことを聞きつけたので、部長と朱乃先輩は別行動の為に私達だけ応援に来たんです」
「…はっ、あんの野郎は…」
何だよ、結局最初からやる気満々だったんじゃねえか
「近衛君!ここは任せて、アーシアさんを!」
「いんや…こほっ!まだだ」
「「っ!?」」
ちょいとふらつくが、まだやれる…殴る為の拳を握れる!
「…近衛先輩の魔力が、上がった?」
「そんな体でこれほどの魔力を…」
「ふっ!…よし、悪いけど二人とも。周りのゴミ掃除頼んでいいか?あの堕天使は俺がケリつける」
溢れた魔力で即座に痛覚を麻痺させて一時的に全身の機能を補佐させる。そして俺は、一歩ずつレイナーレへ歩み寄る。隣に磔されたアーシアを見る度に怒りが沸くが、それだけじゃダメだ
「…近衛君、それならこれだけ覚えておいて。神器は、持ち主の想いに応えてくれる…己が望む力を形にしてくれる存在っていうことを」
「…おう、アドバイスサンキューな」
「それと、僕はイケメンじゃなくて木場だよ?」
「私は塔城です、猫娘ではありません」
どうやら後押ししてくれるようだ。木場と塔城はそう告げると、すれ違うと同時に黒ローブの連中へ駆けて行った
「茶番は終わったかしら?」
「律儀に待ってくれたのかクソビッチ。ちと取り乱したけど、これで本調子で戦える」
剣のぶつかり合いと人をど突いた音をBGMに、俺とレイナーレは相対する
「今更本気になった所で戦う理由は失われたのよ?知ってる?神器を抜かれた者は死ぬの!あなたはアーシア・アルジェントを守りきれず死なせたのよ!」
「そうだよ…守るって言った手前で、中途半端な所で彼女を死なせたのは俺だ。"父さんと母さんの死"を何も出来ずに見たまま生きている俺は何も変わっちゃいないさ!」
つい、こぼれちまう俺の心中。でもそれもいいと思ってる俺がいる
「俺は自分の背丈に合う人生を生きるって決めてたんだよ。身に余る幸せを守ることも、ごく普通の人生も守れない凡人だからこそ、友情なんてのも浅くて、欲も無くした…だけど俺の周りはピーチクパーチク煩くなって手に負えねえ。左手で疼いてるこいつが…いや、兵藤一誠の死が俺に力を与えて全てを変えた!俺の目の前で泣きながら笑う女の子と巡り合わせた!それを守りきれなかった俺を自分自身で恨みまくってるよ!」
吐き出す言葉と共に俺の中で何かが溢れる。俺の中の魔力が、別の何かと混ざり合うようか形で研ぎ澄まされ、俺に強く共鳴する!
「でもな、今は恨みよりもやらなきゃいけない事がある。お前が奪った神器は、決して私利私欲の為に使う代物じゃねえ。それは優しい女の子が宿した、赤の他人へ与える小さな希望だ!お前が使う事で、あの子のやってきたことを否定させる訳には…行かねえんだ!!」
その瞬間、俺と共鳴した何かが、俺の意志をトリガーに左手で爆発した
『Dragon booster!!』
「何!?」
「っ!?この力は!?」
「…近衛先輩の魔力が、また膨れ上がった」
左手から『龍の手』が現れかが、左手の篭手は形を変えた。丸みのある部分は消え、緑の宝玉が一際露出すると、生身の手も篭手へと変化し、まるで本当の龍のような手へと変わった
『Boost!』
「"今の俺の平穏"を、これ以上壊すな!」
「ぐっ!?速い!」
補佐に加え、脚力強化を使ってレイナーレへと躍り掛かる。レイナーレは今までのスピードと違った事で驚いてる。つまり隙だらけだ!
「だらああああ!!」
「がっ!かはっ…!」
ボディーブローが決まり、レイナーレは宙を舞うけど、どうやら先に後ろに飛んで衝撃を和らげたらしく、即座に翼で体勢を整えて浮遊しやがった。チッ、伊達に親玉じゃないってことか!
『Boost!』
「忌々しい!倍化したところで所詮は人間!これで終わらせる!」
するとレイナーレは目を閉じると、力を呼び出す。この感覚は、またあの強化か!
「『ハァァアアアアア!!』」
「っ!うわっ!?」
どうやら野郎、本気みてえだな。今度こそレイナーレは全身を変化させて俺に殺気をぶつけてきたらしい。しかもだ、全身変化の際視界を覆う強い光を放ってるんで、未だ全貌が分からない
「くっ、派手な変身だ、な…」
そして光が止んだ先で見たものは
「あれは一体…!」
「…聖なる力を強く感じます。でもあれは…」
光によって戦闘を中断していたイケメン、猫娘はレイナーレのその姿に息を呑む。だけど猫娘が言いよどむように、今のこいつの姿は
「天使のくせになんつー禍々しい姿してんだよ」
堕天使の特徴と言える黒の羽は白くなり、枚数も六枚に増えていた。確かにそれを見れば神聖とも言えるだろうよ…全身を見なければな
「『あなたの攻撃は神器で完全回復したわよ?さあ、跡形もなく消してあげる!』」
目は白一色で、全身は全て黒に染まっていた。おまけに衣服なんか着てもいない上、天輪も赤く頭の上に浮いていて、羽と全く逆の印象を見る者に与えてる
『Boost!』
「だけど、関係ねえや」
「『何?』」
さあ、あんだけ派手に登場しやがったんだ。効果は保証付きだよな?
「俺の意志に応えやがれ!神の器!!」
『Explosion!』
篭手が初めてブースト以外の言葉を発した瞬間、俺の魔力が爆発的に上昇した
「っ!!近衛君、君は一体!?」
「ぐっ!近寄らなくても…魔力の波動が体を押さえつける程上昇してます…」
「『馬鹿な!その魔力だと並の上級悪魔を凌駕するはず!高が人間が耐えられる訳が』」
「おかしいな、現に俺はピンピンしてんぜ?ま、伊達に毎日鍛えてねえってことだ」
今まで感じたことのない力の高鳴りが俺を満たす。行ける、今の俺ならあいつをぶん殴れる!
(「タカシ!"俺の力"であいつぶん殴ってくれ!」)
「は?」
だけどだ、聞き覚えの無い声が不意に頭に響いてきた。いや、どっかで聞いたことのある声だけど…待てよ
「まさか…兵藤一誠?」
吸い込まれるように俺は左手を見た。すると篭手に埋まっている緑の宝玉が、肯定を示すように二度点滅した…マジかよ、もしこの仮定が事実だとすると、辻褄が全部合う
「『何をごちゃごちゃ言ってるか知らないけど!さっさと死になさい!』」
「っ!おっとやべ!?」
だけど考えるのは後っぽい。レイナーレ強化体が両手に槍を作り出して投擲を開始してきた。しかも爆発の範囲広くねえか!?気が遠くなる位の魔力で強化してるからステップでかわせるけど、周りの被害が尋常じゃねえ!
「おい!レイナーレ!場所変えんぞ!」
「『っ!?こいついつの間に"!?』」
これ以上やると悪魔二人とアーシアが無事じゃすまねえ!爆風で視界が悪い内に壁に張り付いて高速でレイナーレの背後に周りこみ、振り向いてきたとこで首を掴む
「ぶっ飛べクソ天使!!」
「『ギッ!がはああああ!!』」
そんでもって左手の篭手に思いっきり魔力上乗せしたアッパーを顎に叩き込み、天井を貫通させながら礼拝堂の空中までぶっ飛ばしてやった。ザマア!
「木場!塔城!アーシアを頼む!」
「うわっ、!近衛君!」
木場が呼び止めてくるけど、今はこっち優先だ。あれはアーシアの神器持ち、回復されたら一溜まりもねえ!一気にカタを付ける!
「よいしょっと!」
俺は開けた穴の両端に"魔力の手"を繋げて天井に足をつける。さて、パチンコの弾の気分を味わうかね!
俺はそこから魔力強化した足で全力で飛び出すと、ゴムのような伸縮性を持たせた"魔力の手"の反動で一気にレイナーレの後を追う
「『ぐううぅぅ!クソ!私は力を得たはず!何故人間に負ける!』」
「負けられねえ理由があるからじゃボケエエエエエエ!!」
そしてどうやら礼拝堂の空中で姿勢を整えていたらしきレイナーレ強化体へ、強化したまんまの両足を向ける。要は超強力なキックだ
「『ギャアアアアアアアアア!!』」
キックは綺麗に決まり、レイナーレの腹部にめり込む。そのまま俺はレイナーレと共に礼拝堂の天井まで飛んでいき、衝突した
主人公無双ですね、今回は…大分急展開ですんで面白みも無いかと思いますが…
取り敢えずこんなんですが頑張って書いていきます!