天井と俺の足で挟まれていたレイナーレ強化体は、重力に従って礼拝堂へ落下した。俺は俺で魔力をクッションの形で形成し、ワンバウンドした後に着地する。いやぁ魔力の万能性は凄いなこれ
「『ガッ、馬鹿な!『龍の手』がそんな力を持つ訳がない!至高の存在になったはずの私が何故追い詰められる!?』」
「寝言は寝て言いやがれボケ、所詮は奈落の底にまで落ちた大馬鹿やろうだったって話だろ?」
「『つけあがるな人間!貴様の攻撃は既に殆どがかいふ…く…っ!?』」
何故か戯れ言を途中で止め、レイナーレは一歩後ずさった。何でかはしんねえが、いい加減フラストレーション溜まってたし丁度良かったか
「『何…何よ"その目"は!?本当に人間なのあなた!?』」
「さっきまで散々人間コケしてたクセに何抜かしてやがる。今からてめえをぶん殴るのはただの一般生徒である人間だぜ?」
向こうの方がよっぽど化け物じみてるのに何怯えてんだか。殺される恐怖でも感じたかね?俺が一歩近づく度に一歩下がる。この時点で俺の勝ちは揺るがなくなってきた
「『来るな、来るなあああああああ!!』」
おっと、向こうも黙ってやられる気はねえか。広げた翼の彼方此方から光の玉が浮かび、レイナーレの叫びに合わせて膨れている。よくある予想だとビームだなありゃ
「『私の前から消えろ化け物おおおおお!!』」
「こっちの台詞じゃクソビッチ!!『拡散拳(ラッシュショット)』!」
案の定ビームが俺へ飛んできた。焦点合わせずめちゃめちゃにだったから落ち着いて、自分のとこに来るビームのみをラッシュショットで次々と相殺させる。さっきとは違い、拡散する魔弾の威力が格段に上がっている気が…これもこの篭手のおかげか?力の上昇率が半端ないぞ
「仕舞いだ、レイナーレ…」
「『ひっ!』」
俺、射殺せそうな目であいつを見ながら走ってると思う。あいつに対する怒りが収まった訳じゃ
ねえんだ。自然と厳しくなるのも仕方ねえだろ?
「『嘘よ!こんな、こんなことが!』」
「逃がすかよコラ…てめえの罪はまだ完済出来てねえんだぞ!!」
悪あがきと言った攻撃が俺の周りに飛び交う。けどこれだけ錯乱してる奴がまともに当てられるはずもねえ。こんな半端者が力を持つからこうなるんだ…
"こんな力、あっちゃいけねえんだ!!"
「くたばれやあああ!!」
俺は自然と、篭手がある左手じゃなく、右手を握った。その拳を、今持てる最大の膂力で、かつ最も力の伝導率の良い技術で引き絞り、正真正銘の全力ストレートをレイナーレの顔面に叩き込んだ
「きゃああああああああ!!」
するとどうだ、レイナーレは元の姿に戻りながら壁へ一直線に飛び、盛大な土煙を上げながら壁を突き抜けた。でも何だろうか…さっきの様子だとまるで"右手に触れた時点で"強化が解けていたような…
「はあ!はあ!…って、右手が…!」
そして違和感の正体と呼べそうなものは右手にあった
右手の甲に紫の光、篭手の宝玉らしきものが光ってやがった。しかもそこから紫の魔力らしきものが噴き出し、俺の右腕全体をまるで炎で包むように纏わりついていた。けどそれはすぐに霧散した後、宝玉も何事もなかったように消え、元の右手に戻った
「近衛君!っ!な…」
「っ!木場か…」
また訳の分からない状況の中、どうやら木場と塔城が地下から出てきたみたいだ。目を静かに閉じてしまったアーシアを抱えて…そう、だったな。俺は彼女を救えなかったんだ
「近衛君…その右目」
「紫の、炎?」
「え?」
二人は俺の目を見て驚いているようだった。それを確かめるように、俺は左手の篭手にある宝玉で顔を見た。そこには右目だけが燃えるように、さっかの右手と同じように紫の炎を灯した俺がいた。両目からはとめどなく涙を流して
「何だよ…これ」
余りの光景に絶句しちまった。けどその目は、右手で触れようとした瞬間に炎が消え、同時に元の目に戻った
「…成る程、あいつが化け物扱いしたくなるのも頷けるよ」
「やったのね、タカシ」
「あらあら、派手にやりましたわね」
そこへやってきたのは別行動していたグレモリーと姫島さんだった
「…先輩、俺……女の子一人救えなかった…!挙げ句木場と塔城がいなかったら殺される所だた!何も!何も守れなかった!」
何でだろ…今は自分の事なんかより、死んでいったアーシアに謝ろうとしか思えなかった
「近衛君…」
木場が俺に近寄ると、近くのベンチにアーシアの亡骸を横たえ、一歩下がってくれた。俺はそっと彼女の側に膝をつき、冷たくなった頬に触れた
「アーシア…ごめんな?守れなくて…ごめんな、お前の望む平穏を…送らせてやれなくて…!」
嗚咽で言葉が紡げなくなっていく。アーシアの安らかな顔を見れば見るほど胸が痛い、何もかもを投げ出したくなる
「…部長、持って来ました」
「子猫…ありがとう」
そんな俺をよそに、塔城は俺がぶっ飛ばしたレイナーレの羽を掴んで引きずりながらグレモリーの元へやってきた
「では早速起きてもらいましょうか…朱乃」
「はい、部長」
姫島さんが指先で水を作り出すと、それをレイナーレの顔面にぶちまけた。するとレイナーレはたまらず意識を戻し、気管に入った水を吐き出すように咳き込んだ
「ご機嫌よう、堕ちた天使さん?」
「けほっ!けほっ!お前は…!ふん、してやったりと思ってるんでしょうが、すぐに増援が」
「来ないわよ?ドーナシーク、カワラーナ、ミッテルト…皆私が消し飛ばしたから」
「嘘よ「この羽、見覚えあるわよね?」…っ!?そんな…」
グレモリーが持っていたのは、微妙に色や形の違う羽…そうか、あいつら死んだのか
「以前兵藤一誠君を殺し、タカシを襲ったあなたやドーナシーク、そして一部の堕天使がこの街でコソコソ企んでることを耳にしたから、あなたのお仲間にちょっとお話をしにいったの」
「ちょっとご挨拶したらすんなりあなたの独断専行だと吐いてくれましたわ。うふふ…」
頼るものが無くなったからか、もう下を向いて何も言わなくなったレイナーレ。当然の報い何だろう、あれが欲で人殺しに走った者の末路だ。それと姫島さんに至っては、挨拶の中身は非常に刺激の強いやつをくれてやったんだろうよ…感電とか感電とか
「そしてあなたの敗因はタカシの神器を見誤ったことね…これは『龍の手』なんかじゃなく、使いようでは神をも殺す13の『神滅具(ロンギヌス)』の一つである『赤龍帝の篭手(ブーステッドギア)』よ。言い伝え通りなら、人間界の時間で10秒毎に持ち主の力を倍化させていく…文字通り神をも屠る力を秘めているわ」
「ブーステッドギア!?神滅具と呼ばれる神器がこんな凡人に宿るだなんて…!?」
何やら俺の左手の篭手を見て驚いてやがる…赤龍帝、その言葉に聞き覚えが大いにある。兵藤一誠の死の直後に響いた、あの声が言っていたもの。そして力を使った際、何者か、恐らく兵藤が言っていた"俺の力"…確信したよ。仮説は真実になった
「さて、ここまで言い終えたところで…消えてもらうわ。あなたは余りにも薄汚れている」
「待てよ」
「っ!?タカシ?」
だが、先ずはさっきから底冷えしたような高圧な顔したこいつを止めなきゃいけねえ…何を美味しいとこ頂く気だこの女は
「誰が勝手に殺していいって言ったよ?散々一般人の俺が巻き込まれてエラい目に遭って来たんだ…決着くらい譲れよ」
『Boost!』
「「「「「!!?」」」」」
神滅具なんて大それた名前のこいつを再度発動させ、力を倍化させた。驚いてるのはこの際どうでもいい…これは俺が本気でカタを付ける意味合いで使ってんだから
「まさか、一度の倍化でここまで力を増大させたというの!?これじゃ下手をすれば朱乃の倍以上はあるじゃない!」
「人の身でここまでの才を秘めているとは…私も驚きましたわ」
「おかしい、今までも彼の倍化を見てきたけど、一度もこれほどの魔力は感じなかったのに!」
「単純に倍化してた魔力を無意識的に抑えてただけじゃねえか?それに最近は本調子で倍化とかしてなかったし、分からなかったのも仕方ないんじゃねえの?」
おぉおぉガンクビ揃えて絶句してやがる。正直自分の潜在魔力なんか周りと比べたことねえし知りもしなかったからな。知ってるのは堕天使、クソロン毛位じゃねえかな
「や、止めて!殺さないで!」
「それをお前が殺したアーシアと"兵藤"の前で言うか?話にならねえな」
「ちょっと待って、兵藤一誠の前でってどういうこと?」
グレモリーが無駄に鋭い質問をしてきた。まあ、いい…この際言ってやらぁ
「俺は夢の中で、兵藤一誠がこの女に殺される所を見た。そしたら突然、赤い龍が俺に自分と今代の赤龍帝に器を貸せとか抜かしてきやがった…それが俺の全ての始まりさ」
『Boost!』
二回目の倍化を終えた後、俺は思いっきり拳を作る。その時ギリギリと人体で鳴るのか怪しい音が響き、レイナーレに更なる恐怖を与えた
「そして何故か俺はその夢に出てきた赤龍帝の名を冠した神器を呼び出した。けど力を使った時、声が聞こえた…俺の力で堕天使を討てってな」
「それって!」
ここまで来て全員が感づいたらしい
「そう、兵藤一誠の死体が消えたのは全てこの篭手が原因だ。兵藤一誠は生きている、どういう訳か篭手と一緒に俺の左手に肉体ごと憑依してな。差し詰め俺は『仮初めの赤龍帝』って所だ」
「あ、有り得ない!神器が所持者と共に別の宿主に宿るだなんて!」
「言いたくなるだろうが事実だよ堕天使。それを踏まえてお前に言わせてもらう」
『Boost!Explosion!』
三回目の倍化と共に、篭手がもう一度俺に力を与えた。まるで俺の怒りを体現するように
「力がある程度で何でもやれるとでも思ってんのかアホが!!認めて欲しいんなら自分で強くなれってんだ!神器無くても力があんだろ!他人から命ごと奪った力なんかで何も誇れることなんかねえんだよ!!挙げ句はてめえが殺した男のツケを俺が払う羽目になるわ死にかけるわ!いい加減頭きてんだ、だからケリは悪魔連中にも、ましてや兵藤に譲る気もねえ!」
俺が限界まで握っているのは右の拳。篭手のある左ではなく、俺本来の利き手である右手で終わらせる。誰一人文句は言わせねえ
「俺の平穏を土足で踏みにじって、友達になれた女の子を目の前で殺したんだ…てめえには死より重いもんをくれてやる」
「ひっ!」
もうグレモリーらは口出ししないらしい。成り行きを静かに見守っているようだ
「これで終わりだ!レイナーレエエエエエエ!!」
必死に生きたいと懇願した顔が俺の視界に映った。でも俺は迷うことなく、右手を振りかぶり、魔力を限界まで纏わせたストレートを突き出した
直後、突き出した右手の先の空間が爆発したのかと思う程の風と砂埃を発生させ、俺やグレモリー達の視界を覆った。もはやレイナーレの安否も、その砂埃で確認出来ない程に
「無様に"生きろ"!」
「……え?」
けど突き出した右手は、レイナーレの眼前で止めた。纏わせた魔力は、レイナーレを通り越し、後ろの壁をくり抜いたように吹き飛ばしただけだ。視界がようやく回復したグレモリー達は、目の前の状況に驚きまくっていた
「死んで楽になれると思うなよ、てめえは犯した罪を一生背負い続けて償い続けろ!」
「タカシ!?あなた何を言って」
「てめえらは口を挟むな!こればっかりは譲らねえ!この決着は俺がつける!」
「…どうして?」
未だに死を逃れた実感が湧かない彼女は、ヘタレ込んだまま呆然としていた。それがどうにも全てを諦めたような顔に見えて、怒りのまま俺はレイナーレの胸倉を掴み、頭突きの勢いで額を彼女の額にぶつけた
「犯した罪は死で報いろってのはな…俺からしたら生ぬるいんだよ!苦しんだ奴は生きることが辛いと思う目に遭ってんだ!ならその命を奪ったならその何十倍の苦しみを生きて味わえ!それが最も重く残酷な刑だと俺が思うからだ!」
「そんな屁理屈言われようが!あたしは一体どうしろと言うの!?誰からも見捨てられた一生をどう償えって言うのよ!」
「もう一度這い上がれ!!」
「っ!?」
「泥啜って!砂食って!何回でも叩きのめされろ!それでようやくてめえの罪の重さが知れるだろうよ!そんでもってもう一度やり直しやがれ、誰もが認める"お前自身の強さ"を見つけろ!」
レイナーレは目を見開いたまま固まってしまった。よく考えたら顔がほぼくっつきそうなんだが、そんなもん今気にする程俺も冷静じゃない
「…もし、もしだ。お前が自分と向き合って這い上がろうともがいて、誰にも許されなかったとしても…その時は俺が手を伸ばす!お前の命を残した俺がお前を引っ張り出してやる!それまでは自分でどうにかしやがれ!!」
「……ひっ、ぅ…ぁぁぁ…うあああああぁぁ…!」
喉が枯れそうになって、ようやく言うだけ言ってやったら、今度は泣きつかれた。敵のクセに縋ってくんじゃねえって思いはするが、どうも引き剥がせそうにない雰囲気に、思わず舌打ちしたのは悪いことじゃないだろ
「…グレモリ…先輩、この馬鹿の処遇は俺に任せてくれねえか?」
「…本来ならあなたにも罰が下りかねない事だけど、あなたには今回多くの功績があるわ。特別に許可してあげる」
「俺からはいっつも文句しか言わねえし敬語も使わないってのに、そっちは頼みなんて聞いてくれるなんてさ、どうにも先輩が悪魔に見えないのは俺だけかな?」
「ふふ、正真正銘悪魔よ私は?…ねえ、聞かせて頂戴。何故そこまで戦うの?しかもそいつはあなたの忌み敵のはずなのに」
「…俺は奪う力なんか鼻から持っちゃいない。これは『守る為の力』だ」
この答えに、偽りは無い。あの時、小四の時に過労死で召された親父を見送ってから誓ったことだ
「俺を産んで死んだ母さん、小四まで必死こいて育てて過労死しちまった親父…俺が産まれたことで俺は二人の人生を"奪ったんだ"。お門違いって怒鳴られたことも腐るほどあるさ…それでも俺はそう思えてならないんだよね…命を踏み台にして残った命、それが俺だ。だから力を持つなら、もう奪う為に使わないって誓ってたんだよ」
ま、それでも一般人程度の才能しか無い俺が力なんてのを持つ訳も無い…だから俺は無責任に誰かを守ることを諦めた。関わる事を恐れたんだろうな
「俺はそれに従っただけだし、何より…殺しを実感したら俺の平穏に帰れない気がして、怖いんだよ」
繋がる事を恐れ続け、人から知られる事なく人から離れるあの平穏…それに居心地を感じているからこそ、今でも戻りたいと思ってる
「…堕天使レイナーレ、アーシア・アルジェントの神器を返しなさい。抵抗するなら即刻ここで消し飛ばしてあげる」
「…はい」
するとグレモリーが強制的にレイナーレから神器を取り返した。…一度死んだ者の神器はどこまでも淡く光っていて、今でも持ち主が生きているのではないかと錯覚してしまう
「タカシ、レイナーレを管理するというのなら、こちらの条件も飲んでほしい。まず、あなたにオカルト研究部に入ってもらうわ、それに見合った環境も提供するし、それなりの待遇もするわ」
「抜け目無いね上級階級の方は…分かったよ、飲むよ」
「そう…なら安心だわ。今からアーシアを、前代未聞だけど悪魔に転生させようと思う」
待て、何といったこいつは?アーシアを転生だと?何かグレモリーが懐からチェスの駒を取り出して、アーシアの神器と共にアーシアへ近付いた
「そう言えば言ってなかったわね。悪魔は三大勢力の戦争で純粋な悪魔の殆どが死んだの、そのせいで只でさえ出生率の低い悪魔は種の危機に瀕していて、それを補う為に、他の種族を悪魔に転生させる特別な駒…『悪魔の駒(イーヴィルピース)』を作ったの」
「それは…死人にも適応されるって訳か」
「彼女の治癒は私達に大いに貢献してくれると思うわ。駒の役割は『僧侶』、補助の意味合いとしては最適ね」
そこまで聞いた俺は、失った希望を取り戻した気分だった。でも同時に
「そっか…ならアーシアを頼む」
「っ!?」
「近衛君、どうして?」
木場が解せないと言わんばかりに理由を聞いてきたが、守りきれなかった彼女に合わせる顔が無いとも思っている俺がいたからだ
「俺は彼女を守れなかった凡人だ。せめて彼女を守ってくれる強い後ろ盾…あんた達にその子を託したいんだ」
「…そこまで卑下する必要は無いと思います」
「塔城、終わり良ければってのはお伽話だけだ。人間そこまで割り切れる人間もいりゃそうでない奴もいる。俺は後者だ……アーシアを助けたのはそこの木場と塔城ってことにしといてくれ。出来るだけ彼女に俺の事を悟らせないでほし「ふざけないで!」っ!」
「あなたはまた自分から逃げるの?また中途半端に責任を逃れるの?もう、自分と向き合ったっていいじゃない!」
おしとやかな姫島さんが珍しく、俺に怒鳴り散らした。周りも驚いてる
「…多分、出来ねえよ。レイナーレに言えたたまじゃねえの失承知の上さ。結局、辛さをずっとひきづってる人間なんだよ…俺は」
彼女の優しさは、よく伝わってる。でも俺は、そんな今更融通のきく男じゃない
「アーシアを頼むよ、後…レイナーレにはアーシアと話させてやってくれ。そこからが、そいつの贖罪が始まるんだから」
最悪な気分だ…早くここから出たい
「…出来れば、他の連中も生かすべきだったよな」
ぽつりと呟いた俺の声を返す奴なんか誰もいなかった
こうして、俺の最近で最も長い1日が終わりを告げた
お久しぶりです、たったワンシーンにかなり長引きました(汗)
取り敢えず書きたいことを一つ書けて良かったと思う次第です
次回で堕天使編は完結です。すんませんまとめる力無くて…